表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第1章
19/144

サナトリア事変7

 艦内の食堂のテーブルに、全員が揃い各自食べたい料理を、注文していく

一番初めに到着したはずのさよりは、まだメニューを見て悩んでいた。

 美由紀と共に入ってきた、ローレン連邦国の四人もテーブルに案内されて、メニューの表示したタブレットを渡されたが、日本語表示の為どんな料理か解らず悩んでいた。

それに気づいたかめちゃんが、

「すいません。言葉を切り替えますね。」

と言った瞬間、タブレットの表示はローレン連邦国の公用語に切り替わった。

ローレン連邦国の四人は、驚きを隠せない表情でタブレットのメニューを食い入るように見つめた。

 ビュフェ司令官は、この短時間で言葉だけではなく、文字に文法まで理解されている事に驚き、諦めに似た感情が沸き上がってくるのを、顔に出さないように努力した。

 メニューの操作をしていた一人が、

「あの、すいませんが、ここに表示されている料理は、すべて注文が可能なのですか?」

と、質問してきた。

「すべて注文は可能ですよ。材料がなくて出来ない料理は、売り切れマークが入っていますよ。でも、補給してから、そんなに日程が経っていないので、売り切れは、まだないはずです。」

「何種類のメニューがあるのですか?」

「う~ん?アレンジメニューを入れたら、だいたい5000ぐらいかなぁ?」

 ローレン連邦国の4人は、声が出なかった。士官以上のメニューと思うが、1軍艦の食堂のメニューではない数。しかも、補給が終わったばかりで、まだ潤沢に材料があるという。補給線がしっかりしているのだろう。単艦で長距離遠征してもそれに見合う補給が出来るとなれば、艦体行動しても十分に補給を行えるということであるから、出来れば戦いたくない相手なのは、間違いない。

「この中から選ぶのは、至難ですね。何か、お薦めなものは、ありますでしょうか?なんせ、初めての異国料理なので、よくわからないもので。」

ビュフェ司令官が努めて明るく、メニュー選びに困っていることを、かめちゃん(カメヤマ)に伝え助言を求めた。

「そうですね。メニューの一番上の右端に、《今の気分》っていうボタンがあるので、それを選んでもらうと、メインディッシュは、肉、魚、野菜のどれかを選んで、次は、スープって感じで選択していけば、さほどハズレはないと思いますよ。」

アドバイスを受けて四人は、料理の注文を無事終えた。


 まだ、さよりは悩んでいた。


 料理が出来るまでの時間、ビュフェ司令官は、幸一に話しかけた。

「幸一艦長殿、地球銀河連合国の艦隊が、我が国と交戦状態になるのを望んでいますでしょうか?」

グラスに入った水を一口飲んで、幸一は、大きく顔を横に振って

「ぜんぜん、望んでいませんよ。出来れば、ほっといて次のところに行きたいぐらいです。」

思いもよらぬ返事が返ってきて

 「では、どうして我が国とサナトリア国の戦いの仲裁を、されようと思われたのですか?なんら、貴国に関係の無い2国間の戦いに身を晒してまで?」

「でしょうねぇ。」幸一は、苦笑しながら一人の少女(美由紀)を見て、

「あのが、人が死ぬのを見たくないって言い出して。そうそう、それで思い出した。お宅等が、サナトリア王国のサファイヤ姫を誘拐して、サナトリア王国の軍艦をバーニニ星系まで誘き寄せたんじゃないの?」

ビュフェ司令官以下全員が、幸一の言葉で顔色を変え

「我が国は、その様な卑劣なことは一切しない!!ゲトリーニッヒの神に誓って、我々は正々堂々と戦いに挑んだだけである!!誰が、その様なことを!」

と、ラッツ艦長が大声で抗議した。

「おかしいなぁ?サナトリア王国の王妃と、その側近が言っていたんだけど?そのせいか、今サナトリア王国で革命が起こりつつある感じなんだけど?何か、知りませんか?」

ローレン連邦国の四人は、顔を見渡して考えこんだ。ビュフェ司令官は

「我々は、サナトリア王国の艦隊が、バーニニ星系方面に武力侵攻を開始するという、確かな情報を入手し先手を打って全艦隊を展開、待ち伏せをしていたのだ。しかし、事前に知らされていた予定の時間が過ぎても、接近してくる艦隊らしき物もなく、これはガセネタに踊らされたと思い、本部に進退の問い合わせをするべきか?審議中に、探査ビットが近づく艦隊をキャッチしたため、予定通りの作戦に移行しただけである。」

話を聞き幸一は、

「その情報がどこからもたされた情報なのか調べないとはっきりしたことは、言えないし、サナトリア王国にも事情を聴かないといけないけど、誰かが裏で仕組んでいるような気配を感じるなぁ。たぶん通過予定時間に遅れた原因って、サナトリアの王国軍と革命軍が交戦状態に入って、王国軍の進行が止まったので、予定時間が遅れたんだと思うから」

政史が

「そう言えば、厳重な警備態勢の中、王女が抜け出せるはずがない所を、誘拐されて、首相が仕組んだワナがどうとか、言ってなかった?」

明美も

「そう言えば無事に、姫様を救出したのかなぁ?連絡してみる?」

その時

「よし!決めた!」

さよりが、言うと立ち上がり厨房の横にある端末機に向かいだした。

「どうしたの?」「何か、閃いた?」「うん?暗躍している黒幕を炙り出すのか?」

と、みんなの注目を浴びる中、さよりは、端末機の横にある棚から何かを取り出した。

「カップ麺を、食べよ!」

と言って、日星食品のカップ麺醤油味を、取り出してポットからお湯を注いて、テーブルまで持って帰って来た。

「どうしたの?みんな。私になんかついている?」

テーブルに戻ったさよりは、疲れた表情のみんなに見つめられていることに、不思議そうな顔をして首をかしげて聞いた。

「はぁ~、急に決めた!って言い出すから、てっきり何かをやると思ったじゃない。まぎらわしい。」

明美が、全員を代表して苦情じみた言葉を吐いた。

「いいじゃない、カップ麺を食べたって。」

頬を膨らましてさよりが、言うと

「そう言うことを言っているんじゃない。サナトリア王国の問題がややこしくなってしまいそうなのに。」

幸一が、ため息混じりに言った。さよりが、カップ麺をテーブルに置いて

「もう、難しい事は、食事の後にしよぉよ。ごはんが美味しくなくなるよ。ね!」

さよりが箸を持って、ニコニコ顔で見つめた。ちょうど料理が出来たらしく、3人のメイド服を着たかめちゃんズが、テーブルに運んで来た。

そのかめちゃんズを見た、ローレン連邦国の四人は、目の前にいるかめちゃん(カメヤマ)と、見比べて

「カメヤマさんは、4つ子ですか?」

「違いますよ。」

「まさか、クローンなのですか?」

「それも違いますね。」

と苦笑しながら応えた。

給事をしていた一人のかめちゃんが、

「私達、アンドロイドなんですよ。」

と言って微笑んだ。

「アンドロイドですって!まさか!地球銀河連合国では、感情をコントロール出来るAIが、存在しているということですか!」

 ローレン連邦国の四人は、驚きを隠せない。アンドロイドやロボットは、プログラム通りの事しか出来ず、ましてや感情を表現出来るはずがないものだったからである。

「せっかくの料理が、冷めてしまっては美味しくないですよ。どうぞ召し上がれ。」

3人のかめちゃんズは、ローレン連邦国の四人に、食事を勧めると厨房の方へ引き返していった。

「まっ、食事しましょう。」

「いただきます!」

「豊穣の神、メガローサーチャー。最果ての地に置いても食物を頂ける事に感謝いたします。」

ローレン連邦国の四人が頼んだ料理は、すべて違っていた。

ビュフェ司令官は、帝都ホテル風 黒毛和牛 100%のハンバーグ デェミグラスソースかけと ロールパン

ラッツ艦長は、季節の温野菜のチーズフォンデュ  バケット添え

サランドラ上級兵曹は、若鳥ももの照り焼きとアサリの味噌汁 白米ご飯

マーシャル准将は、カツカレー特盛 カップサラダ添え

地球組は

さよりは、明星食品 カップ麺カップ野郎 醤油味と、明太子おにぎり

幸一は、本日のミックスフライ 《イカリング ホタテ エビフライ》 シーザーサラダ コーンスープ 白米のごはん

明美は、酢豚 黒酢仕上げ 春雨サラダ シャンタンスープ 五穀米のごはん

正は、牛タンカレーライス

美由紀は、湯豆腐定食 生湯葉添え

拓也は、カツ丼 ダブルカツ ごはん大盛

政史は、カルボナーラとバジルパン

かめちゃんは、とんこつラーメン 背油 もやしマシマシ バラチャーシュー  とチャーハン


 誰一人メニューが被らない、バラバラの夕食。

これが、タートルエクスプレス艦内での極普通の食事風景だった


 ビュフェ司令官は、注文したハンバーグをナイフで切り分け、一口分に切った肉をフォークで口に運ぶ。

そしてかみ締め なんだ!この味は!

かみ締めるたびに、口の中にたっぷりと含まれた肉汁が溢れ、口中に美味さが広がる。

 普段から艦内の士官用食堂で食事して、乗艦している艦は腕のいいコックが在籍しているが、この味が艦内食堂で出ることは無い。これは、首都の一流ホテルで開かれたパーティーに出席した時に出されたハンバーグすら超えた味

美味すぎる。これは、艦内の食堂で出されるレベルの料理ではない。どんなシェフが作っているのか

 ラッツ艦長は、故郷が農業で主計を立てている、農業が盛んな星で、本人も肉よりかは野菜が好きで、選んだメニューは野菜が美味しく頂ける、とコメント欄に有ったので頼んでみたが、初めて見る料理の為食べ方が解らず、給仕かめちゃんズに、食べ方を聞き、串に刺さった一口大の温野菜を、溶けたチーズを絡ませ口に入れると、少し塩気の強いチーズを使っているようで、ラッツ艦長は、口の中で少し濃い目チーズの味わいが具材と絡んで絶妙な味を醸し出す、ハーモニーを楽しんでいた。

美味い!チーズを溶かして野菜につけて食べる、初めての食べ方だが、このような食べ方をすると、野菜がさらに美味くなる。主星に住む家族にも食べさせてやりたいものだ。

 サランドラ上級兵曹は、初めて見る甘辛く味付けしたソースをつけて焼いた鶏肉を、恐る恐る一口大に切って、口に運びその肉を噛みしめると、程よく脂が抜けたねっとりとした皮と、柔らかい肉の感触が同時に口に広がる。噛むたびに甘辛く味付けしたソースと共に、皮からは甘い油が、肉からは肉汁が口の中に広がり、今まで食べた事の無い美味さが口一杯に広がり、さらにそこへ、普段食べ慣れていない白米のごはんをフォークで口に含むと、白米のご飯からの甘みと調和して、得も言われぬ美味さが広がった。

一緒に出されている茶色の色をした二枚貝のスープも、食べた事の無い味をしていたが、プリッとした貝の身に独特の風味があるスープも、ごはんと共に食べると、これはこれで美味い

そこから先は、ただひたすらに食べるという作業のみを繰り返すと、最初に盛られていたごはんが無くなってしまった。まだ、照り焼きチキンは残っているが、と思案していると、

「ご飯のお代わりをお持ちしましょうか?」

とワゴンを押してやってきた給仕かめちゃんズの1人から声をかけられた。

「良いのですか?」

「かまいませんよ、いくらでもお代わりしてください。あさりの味噌汁もお代わりしますか?」

「お、お願いいたします!」

空になった、皿を差し出した。にこっと微笑んでワゴンに積んであったお櫃から、大盛りにごはんをよそい、鍋から、味噌汁を入れて、サランドラ上級兵曹の前におき、

「どうぞ召し上がれ」

「ありがとうございます」

サランドラ上級兵曹は、腹いっぱいになるまで、お代わりをした

 マーシャル准将は、目の前に置かれたカツカレー特盛を見て、これほどの香辛料を使う料理は見たことが無い。なんてぜいたくな料理なんだ。

ローレン連邦国では、香辛料の生産が盛んではなく、主に輸入に頼っている状態で香辛料の使った料理は、高価な料理だった

スプーンで一口すくい、口に入れた瞬間から、なにも言わず食べることに夢中になった

スパイシーな香りに、口の中で広がる辛さと、その中にあるうまみ。それにパン粉を付け油で揚げられた豚肉のうまみが口の中で混ざり合い至福の味となる。ただひたすらに美味いとしか感じられない。


幸一は、ローレン連邦国の4人の食事をする様を見て、美味い物を厳選してメニューを増やして、よかったと思っていた


 食後のお茶を飲んでいる時に、サナトリア王国とローレン連邦国の戦争の始まりを聞きたくて、話を振ってみた

 「我国とサナトリア王国は、最初から犬猿の仲だった訳ではないのです。」

 ビュフェ司令官はそう切り出して、戦争が始まった経緯を話し出した

 数十年前は、お互い同盟国とまでは行かないが、普通に国交のある国同士だった。関係がおかしくなりだしたのは、ローレン連邦国に準同盟国として登録している、バーニニ星系連合国家群に、サナトリア王国が国交を求めて、進出してきた頃から、小さなトラブルが発生するようになり、いつの間にかバーニニ星系をめぐっての国家抗争まで発展してしまったというものだった

 

「なんで、バーニニ星系連合国家群っていうの?星系国家じゃないの?」

明美が連合国家群と言う言い方が気になって、質問をした

「元々、主星が双子星のバーニニ星系は、惑星間の距離が離れている上に、同一惑星軌道上に2つの惑星国家が有り、さらにその軌道を直角に交わる軌道を持つ惑星国家がある、大変珍しい星系で、

惑星には、衛星がどの星にも3つあり全ての、自転周期、公転周期も全て同じと言う、人工的に作られたかのような、シンクロされていて軌道が、直角に交わっているのも関わらず、惑星が衝突する可能性がほぼ無いという公転周期になっています

それぞれの国名は、アクレス、セロデロス、ニカロゴ と言います。

 さらにその国家を取り巻く外軌道には、鉱物資源に恵まれた惑星が全部で5つ、さらに外側に水の豊富な惑星を3つ抱えている、資源豊かな星系なのです

あまりにも星系の面積が広すぎる為、統一国家で統治するよりは、お互いの星を統治して、惑星物資は等価共有して繁栄をしてきた国家なのです。ですから、星系国家ではなく星系連合国家群になります。」

「そうなんだ、だけどそんな国家形態だったら、三国間で戦争とかよく起きなかったね」

「それは、各国が役割分担をしたからと思われています。」

「役割分担?」

「はい、アクレスは豊かな大地に恵まれており、農業が盛んでこの三国の食料生産を一手に引き受けています。セロデロスは工業が発達した国で、ここで生産されたものが三国で使われております。

唯一、垂直な軌道を持つニカロゴは、大きな港湾設備を持っており、そのため商業が発達しており、バーニニ星系の生産物は一旦、ここに集められて、各星系国家に輸出されていきます。」

「お互いに得意な所を伸ばして、不得意な部門は助け合うって感じか」

「そこに、サナトリア王国が来て問題が起きたと。」

「そうなのです。今から6年前になるでしょうか?最初はサナトリア王国がバーニニ星系の資源と市場に興味を持って、バーニニ星系連合国家群との通商条約を締結したので、我国とも国交はありましたが、なにも通商関係の条約等を結んでいなかったので、この機会にサナトリア王国と、正式に通産商業協定を結ぶ会議が行われたのですが、その会議の途中、我国の輸送船団が何者かの襲撃を受け、積み荷を奪われた揚句、撃沈させられてしまう事件が立て続けに発生して、原因究明の為に、我軍の調査船団が現場に向かうと、サナトリア王国籍の軍艦に護衛された輸送船団に毎回遭遇して、あまりにも毎回遭遇するので、ある時臨検請求をしたところ発砲されて、そのままこちらが応戦する形となり、通産商業条約は破談となり、そのまま交戦状態に移行し現在に至る訳です。」

ビュフェ司令官が、話してくれた内容だった。

「もし、その事件が無かったら、戦争ではなくお互いに友好国として手を結んでいたのかもしれないですね。」

美由紀が話を聞いて、なんか寂しそうにつぶやいた

「確かにそうですね。」

「しかし、本当にサナトリア王国が先に発砲したのかな?」

幸一が考えながらつぶやいた。

「でも発砲したから、戦争になったんでしょ?」

美由紀が不思議そうに幸一を見た

「サナトリア王国の方から砲弾が来たとして、それはサナトリア王国の艦艇が発砲したものと言えるかな?って思っただけなんで。」

その発言に、ビュフェ司令官が

「どうゆうことですかな?あの時の発砲は、サナトリア王国でなく、我々だったと言われるのですか?」

不快な声で聞いてきた

「いいえ、第三者が関与していたとは思われませんか?」

「第三者?そんなことをして誰が喜ぶのですか?条約を締結した方がお互い、いいに決まっているではないですか。戦争になってしまえば、お互いに傷つけあって得るものは少ないですぞ」

「そこまで、考えられているビュフェ司令官殿は素晴らしいお方ですね。ただ難しいんですが、それをして喜ぶものが存在するかもしれないんで、サナトリア王国の方と話した方がいいのかもしれませんね。当事者じゃない私が話しても、ただの空想ですから」

さよりが、ロールケーキを食べながら

「サナトリア王国の人を呼ぶ?」

「あぁ、できるだけ早い方がいいかもしれないけど、あっちはお姫様を救出作戦しているだろうから、無理に早く来てもらうのは、どうかなぁ?」


 その頃、サナトリア王国の艦隊はサファイア王女を攫った犯人の船を包囲していた。

「王女の命が惜しくば、道を開けろ!」

「まずは、王女を開放しろ!それから話を聞いてやろう」


 王女と引き換えに、仕事料を貰う予定だった船員達は、船内で怯えていた

そもそも、この船員たちは頼まれて王女をこの宙域まで連れてきただけで、依頼された船に王女と引き換えに仕事の残りの報酬を貰う予定だったが、現れた船団が約束とは違う、サナトリア王国の近衛兵団の艦隊で、仕事料の支払いを求めたら、完全に誘拐犯と思われ、王女は休眠カプセル内で眠りについているので、そのカプセルを近衛兵団の艦隊に送ればよかったのだが、最初のやり取りで、すっかり誘拐犯の一味と思われている為、王女を解放したその瞬間に、砲撃されてもおかしくない状況になってしまい、全方位に軍艦に囲まれ砲身が自分らの乗っている船に向けられていては、逃げるに逃げられなく、何とか生き残るには王女を手放したくはなかった

サナトリア王国の方も、下手に手を出して、王女に何かあってはいけないので、包囲して逃げられなくして投降を呼びかけるしかなかった。

王女さえ無事に返してもらえれば、犯人なぞ、どうでもよかった。

お互いが疑心暗鬼に取り付かれて固まってしまい、動けなくなってしまっている状況なのであった

 そこへ、タートルエクスプレス号からの通信が入った


「ワーク将軍、こちらはタートルエクスプレスの幸一です。サファイア王女は救出できましたか?」

「おう、幸一艦長。無事だったか。ローレン連邦国は撃退できたのか?」

「それについては、後程お話があるのですが。現状はどうなっておりますか?」

の問いに少尉が

「犯人の船を今抑えていますが、犯人側が王女を解放せずに、籠城してしまってこちらも手が打てずに困っているのです。うかつなことをして、王女を傷つけたくはないので、どうしたらいいのか膠着状態になっています」

「今どこにいますか?できれば座標をお知らせくだされば、そちらに行って解決できる方法がこちらにはあると思いますので。」

「なにか、良い方法があるのか?」

「ちょっとした、トリックを使います」

といって、ニヤッと幸一が笑った

「そうか、わかった。  おい、タートルエクスプレス号にこちらの座標を送れ。ノーマカ少尉構わないな」

「姫が助かるのなら。」


「サナトリア艦隊より入電、座標確認。そんなに遠くはないですね。ショートジャンプで行けば、2分ってとこですか」

かめちゃんが、送られてきたデーターを解析して航路設定をする

「ほんじゃ、行きますか」

幸一がそう言うと、

「仕方がない、乗りかかった船だからなぁ」

と言って食堂の席から、立ち上がった。

ローレン連邦の4人は、食堂で行われた通信で、意思決定が済まされるとは思ってもいなくて

「今からって、ほかの乗組員には通達はしないのですか?」

「いくら、参謀クラスが集まって話し合いをしたといっても、部下達から反発を食らうんじゃないですか?」

ビュフェ司令官とラッツ艦長は、食堂で通信をつないで、話し合っただけで行き先を決めてしまった、幸一に、驚いていた

「部下ねぇ~」

政史が、困ったような声を出して、頭をかいた。ラッツ艦長が

「あなた方部下は、このような艦の運営で、不満なく指揮についてくるのですか」

と尋ねたら

「はぁ~い 司令官。少し間違っていますよ」

さよりが手を挙げて指摘した。

「何が間違っているのですか?」

「この船の搭乗員は、この食堂にいるだけですよぉ。部下っていませんし、この8人で決めたらOKなんですよ。」

一瞬の沈黙があり

「うそでしょう!この船の運航が、ここにいる8人で行っているというのですか!」

ビュフェ司令官が、目をむいて驚いた。

幸一が

「かめちゃん、説明してあげて」

「わかりました。ローレン連邦国の皆さん、私こと自立支援型重巡洋艦タートルエクスプレスは、通常戦闘宙域に向かう場合は、乗員は、交代要員等を含めまして4,953名で航海いたします。ただ、今回の航海は戦闘をできるだけ回避し、速やかに主星に帰還する作戦ですので、運航乗員数は、最低限の7名で運行しております。」

「7人ですと!では、我々はあなた方7人に、10数万人の兵が負けたということですか!」

立ち上がって、そう叫んだビュフェ司令官は、崩れるように椅子に座り込んだ。

「あなた方の国では、これが当たり前のことなのですか?」

「安心してください。イレギュラーです」

にこやかに、拓哉が言った。

「そもそも、この船を回送する必要性があるかどうかわからない航海なのですから。まともな者は乗っていませんって」

拓哉はそう言って、全員を見渡した

「先ほどの、幸一艦長がおっしゃった、戦いたくないという言葉は、本心なのですね。確かにこの人数では、普通に艦隊戦を挑むのは、無理でしょうね。」

「わかってくれましたか?ですから、さっさと終わらして、回送任務も終了したいんですよ。」

と言って、幸一は苦笑いをした

「じゃ、かめちゃん。サナトリア国の所に飛んで」

「了解!」


サナトリア王国の艦隊の近くに、時空間転送反応が起こり、そこから姿を現したのは、タートルエクスプレス号だった。

回線がつながると、ワーク将軍が表れて

「幸一殿、あの船に王女が囚われているのだが、近づくと王女の命が危ないので、近づくことができん。其方は何か案があるようなことを言っておったので、何か方法はあるのか?」

「ありますよ。しばらくお待ちください。すぐに向こうから、投降してきますから。」

自信たっぷりに通信を返す幸一

「ちゃっちゃっとやっちゃうよ。」

さよりが、端末の前でカチャカチャしていると、しばらくして、誘拐犯の船から、

「助けてくれ!まだ死にたくない!投降するから、生命維持装置を再稼働してくれ!頼む!!」

といった、通信が飛び込んできた

「だそうなので、まずは王姫の入った休眠カプセルを放出してくれませんか?王姫本人と確認が取れましたら、生命維持装置を再起動します。」

「てめぇら!王姫だけ回収して俺たちを見捨てる気だろう。そうはいくか!」

「強がるのは別にいいけど、こっちらとしては、どっちでもいいんだよね。」

と、ニマぁ~っと笑って幸一が、

「君たちが死んでから回収するのは、手間がかかるから嫌だったんだけど、仕方ないね。」

と言って肩をすくめて

「さより、エアー抜いて」

「いいの?全開放すると中のエアーは、もって30秒だけど」

さよりが、聞き返した

「ちょ、ちょっと待て!!そんなことして、王姫がただで済むと思ってるのか?」

「うん!大丈夫だよ。休眠カプセルはこっちでロックしたから、そこで何をしようが動かないから。そもそもカプセルのある部屋まで、あなた達は誰も行けないよ。」

「なんだと!」

「ほんじゃ、空気抜くね。ぽちっ「ちょっと待ってくれ!」」

「なに?」

「はぁ、はぁ。わかった。王姫を返す。そのかわり、命だけは助けてくれ。頼む」

「あんなこと言ってるけど、どうする?」

「とりあえず、王姫を救出しなきゃ」

「幸一殿、我々の陸戦隊を突入させますので、道を開けてくだされ」

ワーク将軍の声が、艦橋に響くが、

「そぉ~れ!」

と言ってさよりがコマンドを入力すると、誘拐犯の船の一部が開き、中からカプセルが滑り出してきた。

宇宙空間に漂いだしたそのカプセルは、バーニアを吹かして移動を開始した

その行先は、タートルエクスプレス号だった。そのまま、艦載機発着ゲートから、艦内に格納してしまう

「幸一殿、姫をこちらに渡していただけないだろうか?」

慌てて、ワーク将軍が通信してきた

「ちょっと手違いがあったようで、すいません。申し訳ありませんが、王妃とワーク将軍、ノーマカ少尉こちらに来ていただけませんか?迎えの船を出しますから、」

幸一はそういうと、かめちゃんに迎えに行って、と頼んだ

「さぁ~て、誘拐犯さんなんか申し開きない?約束だから、生命維持装置は再稼働しているから、今すぐ窒息で死ぬことはないと思うよ。」

「このまま、見逃してはくれないか?」

「なんで?自爆コマンド打ち込んで欲しいのかしら」

「おいおい、やめてくれよ。」

「だって誘拐犯さんが、面白いこと言うから、ついついコマンド打ちたくなるのよねぇ」

「悪かった、しかし誘拐犯っていうのはよしてくれないか?俺たちは、誘拐はしていないからな」

「でしょうねぇ。グレーティング自由貿易社 代表グレーテルさん。あなたは2日前にシャーリンって名乗る男性から、王姫の入ったカプセルを受けとり、ここまで運ぶ依頼を受け、依頼者のシャーリンにカプセルを渡す予定でしたよね。前金として150万シーレクをもらい、カプセルを渡した後、請負料の残り300万シーレクをもらう予定で、でも、シャーリンは来ず代わりに来たのが、サナトリア王国近護兵団の艦隊で、最初気づかずお金の請求をしたため、サナトリア王国はあなた方を誘拐犯と確定し、交渉というか恐喝?のようなことをしてもあなた方はカプセルの中身が王姫であることを確信して、人質にして逃げる算段するものの、動けない状態で今に至る、ってとこでしょ?なんか間違ってる?」

それを一気に話したさよりは、首をかしげて、スクリーンの向こうにいる、人物を見つめた

「て、てめいら、なにモンだ!!」

誘拐犯は、ただのトランスポータ役だった

「何者って言われて、名乗るほどのものでもないんだけど地球銀河連合国所属、地球連邦国の柿本さよりって言います。よろしくね。」

とさよりが言って、どや顔で見たのは、スクリーン先の相手ではなく、艦橋内にいるメンバーとサナトリア王国に対してだった。

幸一が、少しうつむき小さく横に首を振っていた。明美はあきれ顔。後のメンバーは唖然としか言いようのない顔をしていた

「そこまで調べがついているんじゃ、今更どうこうは言わねいが、俺たちをどうする気だ。犯罪者じゃないことは、わかっただろうが!」


かめちゃんが、

「幸一さん、さよりさんに交渉を任していて大丈夫なんですか?なんか、危なっかぁしいですよ。」

「かめちゃん、大丈夫だよ。理論派の相手なら、俺が出るけど、あの手の相手ならさよりが適任なんだ。見ててご覧、最後は泣いて頼みだすから。」

「そういえば、ローレン連邦の方の交渉もさよりさんでしたね。最後は、向こうから折れたような気がします。」

「さよりの交渉法は、ある意味恐怖なんだよね。しかしさよりは、基本的には怒らない、強制しない、終始ニコニコの笑顔。でも話していると、心からじわじわと、恐怖が忍び寄ってくる。最後はよくわからない恐怖から逃れたくて、さよりの条件を飲むしかなくなる。無邪鬼という名の恐怖だと思っているけどね。」

「それは、高度な心理戦ですね。幸一さん達は大丈夫なんですか?そんなさよりさんが怖くないんですか?」

「あいつの、使い方をマスターしてるからねぇ。俺以外のメンバーも。」


「でさぁ~どんな人だったぁ?」

「なにが、」

急にふられた話の意味が解らす、グレーテルが聞きなおした

「その、シャーリンっていう人。格好よかった?」

「はい?」

なにを言っているんだ?そんな奴の事関係ないだろう

「どんな人か気になるでしょ?厳重な警戒網を潜り抜けて、姫様を外に連れ出し、カプセルに入れて眠らせてあなた達に預けて、とんずらをかます。なんかかっこよくない?」

「いや、そういやそうですね。」

「でしょう。どこでこの仕事を請け負ったの?そんな人だから、直接会うってことはなかったと思うけど。」

「サナトリア王国のそばにある、自由貿易港で頼まれたんですよ。休眠カプセルをローレン連邦国に渡して欲しいって」

「へぇ~会ったんだ。すごいねぇ!」

「そりゃ、はじめての客だし、休眠カプセルっていうものだから、やばい仕事かもしれねぇし、ちゃんと裏を取っておかないと、後でえれぇめにあうからよ。」

「だよねぇ~。今あってるし」

と言って、さよりはニコニコ顔で会話を進めていった

「ちげいねぇ。」

同じように笑顔で答えたものの、心の中では

なんだ、この女ニコニコしているが、だんだん逃げ場がなくなっていくこの感じ、ヤバいかも。何とかしないと

かなり焦りが出てきていた

「ところで、もう俺たちは用がないだろ。そんな重要なカプセルと思わなかったし、誘拐犯じゃなかったことも説明したし、姫さんが寝ているカプセルも返したし、そろそろ開放してくれないかな?」

「えぇ~もっとお話ししましょうよ。その、シャーリンっていう人と会ったのは、第二埠頭の喫茶ハーバーでいいんだよねぇ~」

「げっ!なんでそこまでわかっているんだ!」

「う~ん、ちょこっと調べればわかるよ?なんで驚くのかな?そこで話したことがわかると、何か困るようなことがあるのかなぁ~」

どこからともなく出した、お菓子を口に入れて当たり前のように話すさより

艦橋内でかめちゃんと、ローレン連邦国軍の人達が、さよりの言葉を恐れおののいていた

「亀山さん、どうしてあのさよりという少女は、この短時間であそこまで調べ上げれることができるのですか?これは、地球銀河連合国の諜報システムが優れているからなのですか?」

「私は、申し上げることができません」

「確かにそうですね。申し訳ない。これほどの諜報システムは軍機になりますからな。尋ねたこちらに漏らすわけにはいきませんね。」

と言って、ビュフェ司令官が感心してさよりとの会話を、聞いていた

かめちゃんも、ビュフェ司令官と同じ気持ちだった。私が私の機材をフルに使ったとして、会話から目標を確認、検索して情報を集めることは可能だが、さよりより短時間でできるとは思わない。

なんなの?このさよりって女の子は、私の量子コンピューターを凌駕する速度を持っているとしか思えない、脳の回転の速さ、顔と口調はのんびりしているのに、手と足の動きは恐ろしく速い。

向こうのスクリーンには映ってはいないけど、さよりの周りには空間モニターが5面あって、すべてが違う映像を流していた

手でさばけない物は足で操作して、次々と新しい情報を拾ってきていた

あまりに早い操作で、見ている人には何が何だかわからないぐらいのモニターの映像の切り替え速度だが、かめちゃんだけはしっかり状況を把握していた。

しかし、そんなことをしている雰囲気を少しも出さず、スナック菓子を口に入れながら、のんびりと話しているさより

「そんなに、私とのおしゃべりが嫌なのぉ?」

「そうじゃないんだが、あんたとしゃべっていると、こちらが丸裸にされているようで、落ち着かないんだ。な、もう要件は終わっただろう?頼むから、解放してくれよ。お願いだ。この通り頼む」

スクリーンの中では、手を合わせ必死に謝っている、グレーテル艦長の姿があった

「えぇ~、やめてよぉ。なんか私がイジメているみたいじゃないの。」

さよりは、不服そうにほほを膨らませて、スクリーン先のグレーテル艦長に苦情を言っているが、今までの会話を聞いていたさより以外の全てのメンバーは、いや、イジメていただろ!っと心の中で、大声で突っ込んでいた

声に出していうと矛先がこちらに来そうで、誰も声に出さないけど

「しかたがないなぁ。今回だけは、許してあげる。だからもう二度と悪さしちゃだめだよ。いい?わかった?」

「はい!心に誓ってもう二度とこのような仕事は受けません!」

「よろしい。でも心配だから、何かあったらすぐに私に連絡が来るように、セットしておくね」

と言ってニコッと笑うさより。その笑顔を見て顔を引きつらせる、グレーテル艦長。

「ほんじゃ、動力系、操作系、通信系全てを自由にしたから、どこへでも行っていいよ。」

その言葉を聞き、全力で離れていく船

「もう、せっかちなんだから、もっと別れの言葉を言ってくれたらいいのにね。かめちゃん、どう思う?」

「さよりさん、それは無理です。」

「どうして?」

「私でも、今のやり取りでしたら、速攻でこの宙域から全力で離れます。さよりさんが、敵にいなくてよかった。」

心の底から安堵するかめちゃんであった




ちょっと長くなってしまいました(^^;

次回は、サナトリア王国とローレン連邦国の首脳会談の予定です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ