サヨリを探せ 2
ミユキとかめちゃんは、サヨリのベッドに隠されていた梯子を使い、下へと降りてきた。
「ミユキさん、暗いですね。それに、なんか肌寒くないですか?とにかく、明かりをつけましょうか?」
「そうね。その辺にスイッチない?」
「これですかね。」
かめちゃんが、スイッチを触ると部屋に明かりがついた。
「これこそ、サヨリの本拠地って感じね。」
ミユキが呆れたように呟いた。
そこには、足のふみ場が無いぐらいに散らかった部屋が有った。
「窓には目張りまでして、外から部屋の中を見せないようにしてあるし、こっちの部屋なんかサーバールーム?うわ〜エアコンの温度設定見て、12℃よ。」
隣のドアが閉まっていた部屋を覗き見たミユキが、呆れた声でかめちゃんを呼んだ。
「このサーバー、稼働中ですね。それで、冷却目的で部屋の温度を下げているのですね。」
かめちゃんも四畳半の部屋に組まれたラック棚で、フル稼働するサーバー群を確認していった。
「全て、現時点での最新のサーバーマシンで組まれています。ストレージ容量もえげつない量を追加してます。
何に使っているのか解りませんが、ほぼフル稼働中です。」
「やっぱり上の部屋は、ダミーね。生活臭があったから、使っていたと思うけど、あの娘の部屋にしては綺麗過ぎたからね。」
と言って、ミユキは足元の脱ぎ捨てられていた衣類等を片付け出した。
「ミユキさん、片付けてかまわないのですか?来たことがバレますよ。」
それを見たかめちゃんが、言うが
「いいのよ。どうせあの娘が帰ってきたら、ここに誰かが来たことがバレる事だし、捜し物をするには、どうせ片付けするのだから。」
「確かに、そうですけど。」
2人して30分程で、床に散らかっていた衣類や書籍等が、元に有っただろう位置へと収納された。
衣類の一部は汚れがひどく、上の部屋に有った洗濯乾燥機にほりこまれていた。
「さてと、家探ししますか!」
ミユキは腕まくりをして、動かせる物は全て動かし掃除をしながら、各部を確認していった。
「ミユキさん。どこにも怪しいところはないですよ。」
かめちゃんが、ゴミでいっぱいになった袋の口を縛りながら、床の拭き掃除をしているミユキに話しかけると
「そうね。部屋には仕掛けてないようね。じゃ、メインの場所を開けましょうか。」
と言って、6畳の部屋に有る押し入れ収納のスライドドアを開けた。
中には、透明の収納ボックスが整然と並んでいて、部屋に散らかり方からして、
まったく正反対の整頓されていた。
中に収納されているものは、ほぼかわいい下着類。ミユキは、
「これかな?」
と言って収納ボックスの1つを引っ張り出した。
「ミユキさん、このボックスの中に?」
「ううん、違うわよ。押し入れの中に仕掛けてあるはずなんだけどなぁ。」
と言って、ミユキが押し入れの中に入って行く。
「やっぱりあった。」
ミユキは、押し入れの床の板を簡単にはがして見せた。そこには四角に開いた穴が有った。
「かめちゃん、ここから下に行くわよ。」
と言って足から飛び込んだ。
「ミユキさん!危ないですよ。」
慌てかめちゃんが声をかけるが、
「大丈夫よ。そんなに深い穴がじゃないし、下に布団が置いて有るから。」
2人は、押し入れにあった穴から更に下の階、聖女様が暮らしていると、ここの住民が言っていた部屋に。
「また、違った雰囲気の部屋になってますね。」
かめちゃんが、押し入れから出てからの一声だった。
「清貧って言葉が、ぴったりの部屋ね。」
部屋の造りは上の部屋とまったく同じレイアウトなのに、ぐっと落ち着いた雰囲気の部屋だった。
押し入れのある6畳の部屋には、手入れされた古いドレッサーと整理箪笥のみ。
四畳半の部屋には、座卓と数組の座布団、少し古いモニターに録画機器、ポータブルステレオが置かれ、音楽メディアが整理されて置かれていた。
キッチンには、小さな食器棚、中型冷蔵庫、鍋類一式が整理されて置かれていた。
冷蔵庫を開けると作り置きのおかずのタッパーがあり、この部屋の住民はしっかり自炊している事を現していた。
何よりどの部屋も掃除が行き届いており、ここの住人の性格が現れている部屋だった。
置かれていた食品も上のサヨリの部屋に有った高級ブランド冷凍食品ではなく、保存食品的にどこでも売っている缶詰に数点の袋入りラーメン。
食器棚の食器も上の部屋に有った高級ブランド品ではなく、使い古された量産品の物が置かれていた。
部屋の掃除も行き届いており、穏やかな暮らしが垣間見れる部屋だった。
「えっと、ミユキさん。見てきた3つの部屋は、同じサヨリさんの部屋ですよね。」
かめちゃんは困惑したように、ミユキに確認をとると
「かめちゃんが、何を言いたいのかわかるわよ。でも、これがサヨリなのよねぇ。」
と、言った後しばらく部屋をながめていたミユキだが、
「ここには、ヒントは無さそうね。戻りましょう。」
と、来た押し入れに戻り上の部屋へ、更に梯子をのぼり最初に入った部屋へ戻った。
「ミユキさん。これからどうします?」
かめちゃんは、2人分のカップに紅茶をそそぎながら、今後の行動について話しかけてきた。
「そうね。とりあえず、このチラシと紙に書かれたお店に行って聞き込みかなぁ。」
ミユキが、テーブルの上に数枚の紙を置いて、紅茶を口にふくんだ。その紙に書かれたお店をかめちゃんが見て
「どうして、これらのお店なのですか?」
「うん?それはね、ここ2週間で話題になったお店と、新規オープンのお店だからね。あの娘の部屋にあったって事は、興味があったからだと思うの。」
「興味があったから、お店に行っている可能性が高いって事ですか?」
「そうね。それでまだ現れていないお店が有ったら。張り込めば現れると思うのよ。」
「確かに。」
「それと、あの娘の職場も行って聞き込みかなぁ。」
「歴史資料館でしたっけ?」
「それもあるけど、もう一つ、あの娘がオーナーになっている会社があるのよ。」
「何でもしてますねぇ。それは、どこですか?」
「株式会社針魚って会社。」
その名前を聞いてかめちゃんは、
「ゲッ!やっぱりサヨリさんが絡んでましたか。」
すごく、困った顔をした
「どうしたの?何か知っているの?」
ミユキが聞くと
「ほら、サナトリア連邦共和国と帝国までの、通話がタイムラグ無くなったじゃないですか、」
「確かに、画期的な技術的革新だと思うけど、それが、サヨリのせいなの?」
かめちゃんが小さく頷く、ミユキは、1回天井を見上げてから
「あの娘何したの?」
「株式会社針魚って会社が開発していた、仮想接続サーバーをウィルスのように各所に接続しまくったんです。この仮想接続サーバーって内部が量子化されていて、空間的距離が関係なくなるので、通信に使うとどんなに離れていても、リアルタイム通信出来るんですよ。」
「そんな会社を立ち上げたって事!」
それを聞いて、驚くミユキだが
「それはちょっと違います。だいぶん前に倒産した電子システムの会社があって、サヨリさんはそこの社長兼開発者を捕まえて、社名を変更して会社を再起させたんです。」
かめちゃんが訂正を入れてきた。
「どういうこと?」
「サヨリさんが前の開発部のスタッフをそのまま集め直して、サヨリさんがスポンサーになって再出発させた会社ですね。前の時は、見向きもされなかった技術なのですが、サヨリさんのコネで、各業界に売りつけて、業績を伸ばしていったみたいです。」
「大丈夫なの?そんな事して。」
「さぁ。法を侵しているわけではありませんからねぇ。まぁ、黒に近いグレーですけど。
それにこの会社のメインは、アイディアグッズや便利グッズの企画、プロデュース、販売ですから。」
「あれ?システム販売じゃないの?」
「そうですね。売り上げの80%以上は、グッズ販売ですね。ロゴマークがかわいい天使なんですよ。
同等品に比べ値段が安く、マークがかわいいって評判みたいです。確かに、かわいいですよね。」
かめちゃんは、持っていたタブレット端末で、検索した情報を表示させて、ミユキに見せた。
そのロゴマークの天使は、かわいく驚いている表情をしていて頭の上に閃きを表すのか[P]の文字と[.]が描かれていた
「あの娘らしいね。これらの原価めっちゃ安いから、純利益が高いんでしょうねえ。
かめちゃん、そのロゴマークからなにか感じない?」
そのロゴマークを見てミユキがかめちゃんに聞くと
「ミユキさん、このロゴマークになにか意味があるのですか?」
不思議そうにかめちゃんが聞き返してきた。
かめちゃんが検索した商品のロゴマークを見てミユキは
「ペテン師よ。わからない?」
「えっ!」
「これって薄利多売じゃないわよ。高利多売だと思うけど原価がわかるわけ無いか。
で、これらの商品ってこの帝国中に売られているんでしょう?そりゃ、会社の純利益の80%以上になるわけよ。
システム関連は、どうせ大手企業にしか売る気はないんでしょうねえ。そのおかげでアイディアグッズの影に隠れて影響が高いのに表に現れていない。かめちゃんは、これをどう思う?」
「ちょっと待って下さい、調べて見ます。」
しばらくしてかめちゃんが、
「ミユキさんの言う通りです。販売原価は売価の平均は6%以下に抑えています。
最高は8%です。よくこれで商品が造れますね。」
「普通は作れない?」
「はい。販売原価は、製造原価と輸送費、販売人件費込みです。個人商店が製造販売しているのではなく、工場のラインを使い大量生産して、尚且全土へ販売網を拡げているわけでしょう?
どこで誤魔化しているのか?」
「簡単よ。原料調達から製造ラインに至るまで、徹底した管理下においてコスト削減しているはずだから。」
「原料調達からですか!」
「そっ。あの娘の事だから、タダ同然の値段で原材料を取引していると思うの。」
「まさか?調べてみましょうか?」
しばらくかめちゃんが検索してみると、驚いた顔つきになり
「こんな手を使っているのですか!」
「どうだった?」
「在庫過剰の商品、生産過剰の商品はまだわかりますが、廃棄商品、廃棄物に至るまで。
廃棄商品等に至っては、処理費用まで貰っています。つまり、それらを原料として製品製造しているって、」
「でしょうね。それらを使って売れ筋の新品商品を製造、究極のリサイクル商品なのよねぇ。」
「でも、普通はリサイクル素材を使えば高価になるのに、なぜ安価になるのですか?」
「処理費用で、相殺しているとしたら?」
かめちゃんが更に調べていくと
「わぁー!何なんですか!この会社群。工場に運送業、各自治体の清掃事業、下水道事業にまでも
参入しているじゃないですか!あっ!政府の新規エネルギー開発事業にまで!ちょっと待ってください。
これがこうなって、ここからこっちへ出来た物を移動すると、これが出来てそれを元に………………」
ブツブツとかめちゃんが、サヨリ配下の中小企業と零細企業中心の企業群と各所の成果物の流れを追って行くと、
「ミユキさん!何なんですか!この完結したリサイクルの流れは!」
と叫んだ
「ゲッ、購入費用より処理費用で入ってくる金額の方が高額。しかも、これ税金が投入されてますよ。」
「そういう事。そうなると、材料費はマイナスになって、原価になるのは光熱費、人件費なんだけど、どうせ無人工場での生産だから、人件費も抑えているよね。ムダがないでしょう?」
「恐るべきサヨリさんマジック。」
「あの娘は、いつもこうやって潤沢な資金調達をしているのよ。かめちゃん、サヨリの二つ名を忘れた?」
「いいえ、まさしく『錬金術師』ですね。」
「ここで作ったお金を元手に、さらなる投資をして、資金を増やしたり傘下企業を増やしたりしているのよ。」
「サナトリア連邦共和国で噂のS資金って、やっぱりサヨリさん絡みですか?」
「当たり前じゃない。あくまで合法、と言ってもスレスレ。それと、非合法でも見つからなければ、Okって考えだからねぇ。サファイアちゃんは、そのお金のおかげで政策が破綻しないから助かっているけど、あれぽっちの資金はサヨリにとって大した事ないんでしょうねぇ。」
「あれぽっちって、一国の5年間に匹敵する国家予算を超える資金ですよ!」
「じゃ聞くけど、あれだけでサヨリの隠し資金が全て無くなったって、かめちゃんは思うの?」
「それは、サヨリさんの事だから、どこかにまだ隠し持っていたとしても、不思議じゃないですが。」
「現にここ帝国でも、しっかり資金を持っていたからねぇ。とりあえず、会社訪問しに行きますか。」
と言って、部屋をあとにした。
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