終戦処理6
タケル・ヤマト第一皇太子を先頭に、コウイチ達6人が試練の間へ続く通路を歩いて行く。
「城で実体化しているのは、この辺りまでだな。」
「そうだね。」
タダシとマサシが通路を歩いた距離で転移箇所を特定して、
「この先どう成っているのか。」
「楽しみだな。」
と嬉しそうだった。かめちゃんは、真剣な顔付きで異変を見逃すまいと、各測定機を稼働させていた。
境界線を越えると
「座標が変わりました。人体に与えるエネルギーは、検知出来ません。到着地点は後で地図上に表示します。」
「この星の上には違いないんですね。」
「はい。城から北北東へ距離にして873キロの地点です。」
「えらく飛ばされたな。」
通路をさらに進むと扉が現れた。
「ここから先が、私達が『試練の間』と呼んでいる、女神が鎮座する部屋となります。
皇族以外方が来たことが無いので、どのような事態に成るのかわかりません。ご注意してください。」
タケル・ヤマト第一皇太子の言葉でアケミとタクヤが前に出て来た。しんがりにかめちゃんが控え護りを固めた。
「じゃ、扉を開けるよ。」
アケミが声をかけ、扉を押し開いた。
部屋の中は、薄暗く奥に祭壇が有り、幻想的で厳格的な雰囲気が満ちた部屋だった。
全員が部屋に入ると、扉は勝手に閉まり、部屋の中がゆっくり明るくなっていく。
「我々、帝国の未来を継ぐ者なり!女神殿とお目通りを願う者なり!」
タケル・ヤマト第一皇太子が声を張り上げ、祭壇に向かって口上を述べると、
祭壇が一段と明るく照らされ、1人の女性が現れた。
「我を呼んだか?」
人間離れした美しさを持つ女性が、言葉を発した。
タケル・ヤマト第一皇太子は、それだけで気圧されるが、自分よりも前にいるアケミやタクヤは、
何事も無かったように女神と対峙していた。タケル・ヤマト第一皇太子は、気を引き締めて
「皇帝の称号を貰いに来た。」
「あいわかった。我に『覇者の勾玉』ヲ示せ。」
全員、指にはめた指輪を掲げた。
女神は、一同を見渡すと一度目を閉じ再度開眼すると、
「登録が完了シタ。汝らに我の機能の一部使用を許可する。皇帝を名乗るがよい。」
ホッとする一同
「みなさん。ありがとうございます。これで、皇帝の称号を得られました。この国をより善いものにしていきます。」
タケル・ヤマト第一皇太子が皇帝へとなり、コウイチ達へ頭を下げた。
「タケル・ヤマト第一皇太子、いや、タケル・ヤマト皇帝陛下、頭を上げてください。」
コウイチが笑いながらタケル・ヤマト皇帝に声をかけた。
「我々は、ただ付いてきたに過ぎませんから、この事を伝えるべき相手がいるでしょう。」
「そうだ!サヨリさん!」
と叫んでしまい、顔を赤らめるタケル・ヤマト皇帝。周りから暖かい笑みがこぼれていた。
そこに
「否」
っと声が響く
「何が、否なのですか!」
ミユキが女神に対して、抗議の声をあげた。
「その者だけが、皇帝と名のることを許す訳にはいかぬ。」
感情がこもらない声だが、毅然とした拒否を感じる声で答えた、女神
「えっ?」
全員が困惑した。女神に認められれば皇帝と成る筈であるのに、その女神から拒否されてしまった。
「どうして?」
タケル・ヤマト皇帝が女神を見上げた。
「どうして、私が皇帝をと名のることを、赦されないのですか?」
悲壮感さえ感じられる声に、一同は見上げる、感情を感じられない女神の美しい顔。
「皇帝とは、我が機能の使用を許可した者、全ての称号である。よって、お主ノミガ名のることを許す訳にはいかぬ。」
しばらく無言の間が支配した。最初に言葉を発したのは、アケミ
「う〜ん?タケルだけが皇帝を名のることを許されないということか?」
「了。」
「もしかして、我々全員が皇帝を名乗れということか?」
「了。この場に居る者に、全てに等しく、我の一部機能の使用を許可した。よってそれらの者は等しく皇帝を名のることを命ずる。」
全員がぽか〜ん、と言った表現が適切な場面とは、この事と言うのだろう。
「ちょっと待って。理解が追いつかない。」
と、ミユキがこぼすと
「奇遇だなぁ。俺もだ。」
とマサシ。
「質問しても良いかな?」
コウイチが女神に聞くと
「了」
「では、あなたにとって、皇帝とは何か?」
「我が機能を使用出来る者の称号。」
「ということは、PCを使うときの、管理者と同じ扱い?」
「御」
「じゃ、この指輪を外せばいいんじゃない?この指輪で、識別しているのよね。」
ミユキがそう言うと、女神が
「以前の約款では、指輪から知的生命体反応が失くなって、35時間が経てば皇帝の称号は
クリアされる。」
それを聞いて、指輪を外そうとしたが、
「だが、新しく成った約款では、指輪をしていた知的生命体反応を登録するように成った為、
指輪から知的生命体反応が失くなっても、登録シタ知的生命体反応が有れば、皇帝権限が継続される。」
と続く言葉で、外すのをやめてしまった。
「もう登録したんでしょう?」
「御」
「って事は?死ぬ迄、皇帝権限が継続されるって事でいいのかな?」
「御」
「まっ、これはこれでいいんじゃないかな。独裁者を産まないから、」
とマサトが、苦笑しながら言ったら、怖ず怖ずした声で
「あの〜。私も登録されてしまったのでしょうか?」
「御」
全員の目がかめちゃんに集まる。コウイチが恐る恐る
「かめちゃんって、寿命あった?」
と聞くと
「一応、本体が沈没してしまえば、終わりです。後は部品劣化が進むと、終わりですけど。」
「それって、本体だよね。その身体は?」
「えっと、耐久年数は………………」
なぜか、かめちゃんの目が泳ぎ、額には薄っすら汗が滲んでいた。アケミが
「耐久年数は?」
更に聞くと、
「通常使用において、5000年以上の耐久があります。ど、どうしましょう!
将来、みなさんが旅立たれた後、この国は、古代超文明の女神と人工知能の私が支配する
国になりますよ!それで大丈夫なんですか!」
オロオロするかめちゃん。ポンポンとかめちゃんの肩をコウイチが叩き
「まぁ、落ち着いて。5000年以上先のことは、置いておいて、女神さん、さっき新しく約款が変わったって言ってたな?どうして?」
コウイチが聞くと
「御、約款改定する条件が揃った為、変更を提案したところ、変更された。」
「誰が?」
「カキモト・サヨリ」
と、女神は、一人の名を挙げた。
「あいつか!いらんことしやがって!」
アケミが声を荒げると、女神が
「変更理由。1、数個の指輪がランダムに登録者にはまる事により、誤検知することの防止。
2、紛失した場合再手続が不便な事。
3、外し、つけ忘れにて、時間経過してしまい契約クリアになることの防止。
の3点に、理由不備が無かった為に、約款改定した。」
「なんか、もっともらしい理由だが、要するに、アイツが、常時付けているのがめんどくさいだけだろう!」
アケミが声を荒げる横で、コウイチが
「女神様、では、約款を以前の約款へと、戻して貰えないでしょうか?」
「不可。条件未達。」
「俺達では、出来ないって事かな?」
「御」
「サヨリならば出来る?」
「否。」
「どうして?彼女が設定したのなら、訂正や修正ができるのじゃないかな?」
「彼女自身の修正権は、1回のみ。既に行使済。」
「アイツ!ピンポイントに変更しやがって。」
タクヤが
「女神さんに質問。そのサヨリちゃんは、どこにいる?本人に確認したいんだけど。」
と聞くと
「この場に、居らず。」
「えっ!居ないってどういう事?」
「空腹の為、食事しに戻った。」
「いつ!」
「当惑星時間で、17日前。」
「どこに!」
「不明」
「探せないの?」
「不可」
「生体波動を登録したんでしょう?」
「生体波動、受信可能。発信源特定機能無き為、不可。」
「ということは、生きていることはわかるが、何処にいるかはわからないって事かな?」
「御」
「今までは、それのほうが良かったんだろうなぁ。」
タクヤが納得した感じでつぶやいた。
「タクヤ、どうしてそれのほうが良かったの?」
アケミが納得出来ない口調で聞くとタクヤが
「政権争いが起き、身を隠したときに場所を特定無いので、暗殺者から狙われないだろう?
しかも、生存確認は、出来る。政権を奪取したい者には、これ程厄介なものはない。
正統な後継者がいると、ニセ者が皇帝を名のることを許されない。第三皇太子を見てたら、
女神様の機能を使えないといろいろ不都合が有るようだから。」
と解説した。
「それは、判った。で、サヨリをどうするかだ。」
コウイチが頭を掻きながら、意見を求めると
「根気良く、探すしかないんじゃないの?」
ミユキが疲れたように言った。
「アイツが、本気で隠れたら、見つからないぞ。」
マサシが言ったら、タケル・ヤマト皇帝を除く全員頷いた。
「そんなに、見つからないのですか?」
「まぁ見つからないね。アイツと隠れんぼはやめた方がいい。」
と言って、コウイチがタケル・ヤマト皇帝の肩を叩いた。
「まぁ今回は、探しようがあるわ。」
ミユキが言うとアケミが
「なんか、勝算が有るの?」
「アケミ、今回は地域限定捜索になると思うから。」
「地域限定捜索?どこを調べるの?」
「首都のみ。サヨリは、この星の首都から出ていない。」
「なぜ、言い切れる?」
「聞き込みをして感じた手応えよ。あの子の好きそうなカフェやごはん屋さんを張り込めば、
きっと現れる。」
その言葉を聞いて
「本当ですか!」
タケル・ヤマト皇帝が、声を弾ませる。ミユキが
「確約は出来ないけど、この2週間程前から、ちょこちょこサヨリらしき女性が、目撃されているのよ。」
というと、
「なぜ、私のところに来てくれないのでしょうか?」
タケル・ヤマト皇帝が、肩を落とした。それを見てコウイチが
「たんに、ど忘れしているだけだと思うよ。」
「ど忘れ?」
不思議そうにタケル・ヤマト皇帝が聞き返すと
「アイツ、よくやるからなぁ。約束は守るんだか、そうでないと勝手に行動するからなぁ。」
マサトがそう補足すると
「タケル・ヤマト皇帝、アイツに何か期日指定の約束しました?」
コウイチが聞くと
「いや、していない。」
「婚約式の日程でも決めておけば、その日までには現れたかな?」
タケル・ヤマト皇帝は、片膝をついて額に手を当て蹲ってしまった。
「とりあえず、ここから出ますか?」