終戦処理5
アケミ達は、一旦休憩をとることにした。
城内のラウンジにて、各自好きなドリンクを手に今後の事を考えていた。
ふと、思い出したようにタケル・ヤマト第一皇太子が
「ミユキさん。サヨリさんについて、外に出ているという状況証拠が有るっておっしゃって
いませんでしたか?」
と聞くとアケミも
「そうだ。何か掴んだのか?」
聞いてきた。
「う〜ん。大聖堂の前にあるカフェでお茶しながら、アケミからの連絡を待っていた時にね。
サヨリの写真を見ていたら、何人かの信者さんなのかな?声を掛けられたの。
『聖女様に逢いにきたの?』って。違います、って言って写真を見せたら、すぐに、
『ごめんなさい、人違いだったわ。』ていうの。
あまりにも声を掛けられるから、聞いてみたの、そんなに似てますか?って。
で返って来る返答はほとんど、『少し似ているけど、雰囲気が違うしもう少し年齢が上ですよ。聖女様は、』というものなの。
で、もう少し踏み込んで聞いてみたの、最近お逢いしました?って
ほとんどの人は内乱前に、どこそこの孤児院で炊き出しをしてたとか、辻説法の話が
良かったとか言ってくれたんだけど、その内2人だけは2週間程前に、大聖堂の前を歩いて
いたって言ってくれたんだけどね。すぐに居なくなったらしいの。」
「居なくなった?」
「そう。声を掛けようと思って、探したけど見つからなかったって。」
「どういうこと?」
「私に聞かれてもわからないわよ。」
「それが、サヨリだったかもしれないって事か?」
「そっ。しかし、このサヨリに似た聖女様?聞けば聞くほど、聖女してるよね。サヨリと
真逆のような人だね。」
「まったく。そんな人が居るなんてな。どんな皮肉だ?」
と、ミユキ達が話していると
「私には天使だが。」
と、ボソッ言った声がした。そちらを見てみると、顔を朱に染めたタケル・ヤマト第一皇太子がいた。それを見てタクヤが
「確かに、皇太子殿下には天使でしょう。あれほど照れるサヨリを見たことがなかったですから。」
と言うと
「でも、私達からしたら、サヨリは『ペ』が付く天使なんですよ。」
アケミとマサシがタケル・ヤマト第一皇太子に向かって声をかけた。
「『ペ』の付く天使?」
困惑したような顔をするタケル・ヤマト第一皇太子。
「そっ。ペテン師。アイツのもう一つの顔になるのかな?」
「しかし、そう馬鹿な事を言っている場合じゃない。アイツの救出を考えないと。」
コウイチがそう言ったが、タクヤが
「でも、手詰まりなのは間違いない。なんか、打開策を考えないと。」
「そう言ってもなぁ」
と、考え込むメンバー。すると、かめちゃんがキョロキョロ見渡し何かを確認すると、
自分の鞄から小さな箱を人数分取り出した。
「あの〜。みなさん全員が集まっていますので、こちらを受け取ってください。」
と言って、全員に小箱を渡していった。
「私にもですか?」
タケル・ヤマト第一皇太子にも小箱が手渡され、貰っても良いのかかめちゃんに聞くと
「はい。渡してくれって頼まれてましたから。」
その言葉にコウイチが
「かめちゃん。誰に渡すよう頼まれたの?」
問うた。かめちゃんは、何気なく
「サヨリさんですよ。全員が集まった時に、渡してくれって頼まれました。サファイアさん
には、後で手渡しますので。」
確かに、サファイア以外のメンバーが揃っていた。アケミが
「いつ頼まれたの!」
と聞くとかめちゃんは
「3週間以上前ですよ。図面と材料が書かれた添付書類と一緒来たメールで頼まれました。」
と答え、タクヤが
「かめちゃん、それって正確な日がわかる?」
と聞くと
「わかりますよ。サヨリさんが転移トンネルに入った日ですよ。」
その言葉で、周りの空気が変わった。アケミがかめちゃんの肩を掴んで
「かめちゃん、ちょっと、詳しく聞かせてもらえるかな?」
「アケミさん?顔が怖いんですが?それに、肩に力が入りすぎてませんか?」
アケミの指が、かめちゃんの肩に食い込み、ミシミシ言っている。今にも鎖骨が折られそうな気がする。
手渡された小箱を開けたミユキが
「これって、指輪よね。」
と言って、小箱から指輪を取り出した。
その指輪は、シンプルながら3種類の金属を細い糸状にして、複雑に編み込んだデザインをしていた。
タケル・ヤマト第一皇太子も指輪を手に取り、検分するように見ると
「これは、細工商のコンノヤが得意とする業物に似ているな。」
「へぇ~っ。これを造れる職人さんがいるのですか!凄いです!私でも1個造るのに丸一日かかるんですよ!」
と、かめちゃんが感心していた。
「かめちゃんでも、そんなにかかるんだ。そんなに難しいの?。」
やっとアケミから開放されたかめちゃんに、ミユキが聞くと
「細かすぎるんですよ。まず、長さ5センチ、直径0.01ミリにしたオリハルコンとヒヒイロカネ、ミスティルの金属を各240本用意して
オリハルコンとヒヒイロカネ、オリハルコンとミスティル、ミスティルとヒヒイロカネの3種類の組み合わせで、
一定のピッチにて撚り合わせて撚り糸を作って、さらにできた糸で撚り合わせて撚り糸を作ってを繰り返して一つにして、
出来た紐状の物の両端を指定された金属同士溶着させて造る指輪なんですよ。凄い手間暇が掛かってしまいました。」
手間が大変だったとかめちゃんが苦労話を語っていた。
「しかし、サヨリのやつ、なんでこんな指輪を造らせたんだ?」
タダシが首を傾げて考えると、マサシが
「そうだよね。しかも人数分。かめちゃん、材料はどうしたの?こんな、神話級の金属を3種類もよく手配できたね。」
とかめちゃんに聞くと
「まぁ、少しですけど在庫が有ったのでなんとかなりました。在庫がなくなったので、
近いうちに材料を採取に、壁へ行かないと駄目ですけど。」
「壁って、『宇宙の涯』の?」
「そうです。ただ鉱脈や鉱床なんかは無いので、一応スキャンして反応が有る岩石を精製するだけなんですけどねぇ。」
「オリハルコンって存在するんだ。」
タクヤが感心していると
「諸君らの世界には無かったのか?」
とタケル・ヤマト第一皇太子が、少し驚いた声をあげた。
「ご存じだったのですか?」
コウイチが聞くと、タケル・ヤマト第一皇太子は、飾ってあった『草薙の鏡』と『八幡の剣』を持って来て
「『八幡の剣』が、オリハルコンで作られて、『草薙の鏡』の右半分がミスティルで左半分がヒヒイロカネで出来ている。」
と言ってコウイチに手渡した。
「こんなところで、神話級の金属に出会えるなんて、少し感動するなぁ」
それを見てかめちゃんが
「コウイチさん。ヒヒイロカネは別ですけど、ミスティルとオリハルコンは良く見ているはずですよ?」
かめちゃんにそう言われて
「えっ?」
驚くコウイチだが、
「なんで驚くんですか?サヨリさんもですが、サファイアさんがしている腕時計のベルト部分は、
こんな編込みではないですけど、ミスティルとオリハルコンで出来ていますよ。」
と、かめちゃんが説明すると、思い出したようにアケミが
「そう言えばあの時、サヨリがサファイアちゃんとのペアウォッチって言ってたな。
それを聞いて私にはダイバーズウォッチを同じ材料で作ってって言ったんだった。
かめちゃん、私のダイバーズウォッチはどうなったの?」
かめちゃんに迫ると
「すいません。アケミさんの時計を作るには、在庫が足りなくて保留していました。」
「で、この指輪を造ったってことは?」
アケミがかめちゃんの肩に手を置いた。
「はい。現在、在庫がありません。採掘でき次第、制作に掛かりますので、その、手を離してくれませんか?」
焦ったようにかめちゃんが、制作の約束をしていた。アケミが
「まぁいいわ。でどのくらいの量がいるの?」
「そうですねぇ。オリハルコンがその剣の刃先半分、ミスティルはその鏡のは8分の1です。・・・・・うん?」
かめちゃんが、コウイチの手にある『草薙の鏡』を見て
「コウイチさん。少しその鏡を見せてもらえませんか?」
と願った。
「これ?タケル・ヤマト第一皇太子殿下、かめちゃんに見せても良いかな?」
「かまわないですよ。」
「だって。かめちゃん、はい。」
「ありがとうございます。」
かめちゃんは、受け取ると鏡の裏面の模様をしばらく見て、
「これはもしかして?すいません。剣の方も見せてもらえませんか?」
とお願いしてきた。
「何か、わかったのか?」
タケル・ヤマト第一皇太子は、剣をかめちゃんに渡しながら聞くと
剣の刀身を見て一言
「これ、この指輪の制作方法が、書かれています。
と報告した。
「えっ!」
「どういうこと?」
全員が一斉にかめちゃんへ、質問した。
「鏡の模様と思っていたのは、指輪の制作図面です。事細かく書かれてます。サヨリさんが
送ってきた図面とほぼ同じと思っていいですね。でも、ここには材料が書かれていません。
材料は、刀身の所に書かれていました。たぶんですが、紛失した場合に複製品を造る為に、
残していたのではないでしょうか?図面と材料を分けて書いてあるのは、何かあった場合に
簡単に複製品を造られないようにする為じゃないでしょうか。材料も、剣と鏡を使えば作れますし。」
かめちゃんが、鏡の模様と剣の言葉を解説すると
「じゃ、なんのために指輪を造る図面と材料を残しているんだ?」
アケミが不思議そうに言ったが、ミユキが
「間違ってたらごめんなんだけど、これってみなさんが探していた、『覇者の勾玉』じゃないでしょうか?」
「えっ?!」
「ミユキさんは、どうしてそう思ったのですか?」
タケル・ヤマト第一皇太子が質問すると、
「簡単ですよ。女神とのアクセス手段が血縁的後継者か、真の後継者なんでしょ?
で、真の後継者は『覇者の勾玉』を持っているのが条件。普通は血縁的後継者と真の後継者が
同一人物なんでしょうけど、反乱や御家断絶した場合、今回のように『覇者勾玉』が
行方不明になる事を想定したら、代わりの勾玉を造らないといけなく無いかな?
その時のための図面と材料を用意してあったとしても不思議じゃないでしょう?」
ミユキの推理を聞いたメンバーは、サヨリが託した指輪を見て
「確かあの扉は、第三皇太子が、真の後継者しか開かないように設定されていましたよね。」
「これを使って助けに来い!ってことか?」
「まったく世話をかける奴だ。」
「真の後継者の人数制限は、無いのですね。」
「と言うか、数撃ちゃ当たるで人数分用意したのかも?」
「それかもな。」
コウイチは、タケル・ヤマト第一皇太子を見つめると、一言
「タケル・ヤマト第一皇太子殿下、行きますか?」
と問うた。
「行こう!」
タケル・ヤマト第一皇太子は決意を込めた声で答えると
全員、指輪を嵌めて、玉座の間に向かった。
玉座の間の奥にある試練の間へ続く扉の前に、まずはタケル・ヤマト第一皇太子が立つ。
扉が、音もなく開いた。タケル・ヤマト第一皇太子は、逸る心を落ち着かせ扉の前からどいた。
扉が閉まった。
次にコウイチが立つ。同じように扉が開いた。試した結果、指輪を持っているメンバー全員、
扉が開いた。
「やはりこれは、『覇者の勾玉』でしたね。」
コウイチが指輪を見ながら言うと
「伝承されていなかった事実だな。わかっておればここまで時間がかかる事もなかった。」
タケル・ヤマト第一皇太子が静かに呟く。かめちゃんが、あたふたして
「わ、私も知らなかったんですよ。こんな重要な事になるなんて。」
苦笑しながら横目でかめちゃんを見ていたコウイチが、
「じゃ、行きましょうか。」
それに頷いたタケル・ヤマト第一皇太子は、指輪を握り締め扉の前に立った。