終戦処理4
アケミとタケル・ヤマト第一皇太子、かめちゃんずの4名は、大聖堂の客間まで戻って
しばし休憩をして、調査が終わり次第、かめちゃんずの描いたスケッチブックを教団へ
寄贈することを書面にて、交わすと大聖堂から城へ戻る事に。
「アケミさん、ミユキさんに連絡を入れないと。」
かめちゃんずが、アケミにミユキへの連絡を促すと
「わかった。」
アケミが、小型端末器にて連絡すると、
「正面の門のところで、待っているそうだ。」
一行が大聖堂の車付けの所で待機しているリムジンに乗り込むと、中でミユキが待っていた。
「で、部屋の中は、どうだったの?」
ミユキが聞いてきたので、かめちゃんずが
「内部のスケッチをしてきましたから、見ますか?」
「もちろん!」
リムジンは、静かに城へ向けて走り出した。
スケッチブックを全員が見ていると、ミユキが
「素晴らしい宗教画ですね。教団が女神様を敬っているのがよくわかるわ。」
「ですよねぇ。」
「で、有ったの?」
「無かったです。」
「仕方がないわよねぇ。」
「データはもう送って、模型は完成しています。後は、検証なのですが、あの部屋は女神が
自ら転移してきて、声をかけた部屋だと思います。」
「理由は?」
「私達が待機した床に描かれていた円形の紋様以外には、高温にて焼けた箇所が無数にありました。
あの大司教さんが言っていた、『結界から出ないように』、と言った言葉は理にかなっています。
推測の域を出ませんが、女神が転移するときに発生するプラズマによる、高温にて焼かれた床だと思われます。
城に有る転移トンネルとは違い、女神は安全性を考慮して、結界と言う形であのような
文様を描き、そこには近づき過ぎない距離を保って、転移してきたのではないでしょうか?」
「そうかぁ。」
とかめちゃんずとミユキの会話について行けずに、
「君達は、何を話しているのですか?」
タケル・ヤマト第一皇太子が質問すると、驚いたようにミユキが、
「アケミ、話して無かったの?」
と、アケミに振ると
「伝えてはいるが。」
「どういうことなのですか?」
1人意味が解らないタケル・ヤマト第一皇太子は、困惑するだけだった。
「彼女達は、絵が上手いのは解るが、それ以外に何を?」
アケミが
「タケル・ヤマト第一皇太子殿、お忘れですか?彼女達は、アンドロイドなのですよ。
しかも、超高性能な。今回の調査をするにおいて、機器の持ち込みは出来ない、女性に限る。
といった条件をクリア出来る方法として、彼女達を呼びました。だけど、彼女達だけでは
収拾した莫大なデーターの処理が出来ないので、本体を持ってこないといけなかったのですが、
たまたま、トレーダーにて業務していたので、時間的に丁度良かったのも助かりました。」
と説明すると、かめちゃんずは、ニコッと微笑み
「はい。既にデータは解析されて、タダシさんとマサシさんが悩んでおられます。」
そう言われて、
「確かにそう言われてましたね。しかし、お二人はアンドロイドとは見えません。しかも、
どこに計測機器を持っているのかわかりません。」
「まぁ、内蔵していますから。」
「えっ?」
「今回使用した計測機器は、非接触温度計、X線透過機器、重力波計測機器、電磁波測定器、
分子計測機器、分子分析機器、対ナノマシン計測機器ですよ。それらを私達を中心にx軸y軸z軸
それぞれ±150メートで、測量しました。それを元に3Dプリンターにて200分の1精密模型を作製しました。タダシさんとマサシさんのもとに届け終わっています。」
「いつの間に?」
タケル・ヤマト第一皇太子は、驚くしかなかった。
「私達の本体にリアルタイムで、データーを送信しておりました。」
アケミが、少し落胆したように
「それより、転移装置が無いというのは、予想外だったなぁ」
とつぶやくと、ミユキが
「アケミ、それを言ったって仕方がないじゃない?」
「そうなんだけど、アイツが弱っているところを助けて、恩を押し付ける事が出来ないからなぁ。」
「あんたねぇ」
ミユキは呆れた声を出して
「あの娘が、いつまでも同じところにいると思っているの?」
「えっ!まさかミユキ、アイツはもう外に出ていると言うのか!」
「本当ですか!」
アケミとタケル・ヤマト第一皇太子は、驚いた声を出してミユキを見つめた。
2人の勢いに少したじろいだが、
「確証は、ないわよ。でも、状況証拠ならばわりと簡単に集まったわよ。」
とミユキが言うと、アケミが
「状況証拠?」
「そっ。でもね、時間が経ち過ぎて、あまりにもおかしな話が多くて、確証が得られなかったのよ。
後は、物的証拠があれば確実なんだけど、それは、かめちゃんのデータ解析にかかっているんだけど?」
「ミユキさん。結構気合い入れたデータですよ。でも、サヨリさんの気配は無かったですよ。」
「まぁ、分析はアイツラに任すしかない無いだろう?」
一行を乗せたリムジンは、城へと到着した。
リムジンを降りるとかめちゃんずは
「私達は、買い物をして帰りますので。」
と言って、城内に入らず帰って行った。
「彼女達ともう少し話がしたかったのだが。」
タケル・ヤマト第一皇太子か、残念そうに言うと、ミユキが
「大丈夫ですよ。転移トンネル作業場にもう一人居ますから、データリンクしているでしょうから、話しかけても、話しがズレないですよ。」
「そうなのか?」
半信半疑で転移トンネル調査場へ向かった。
そこには、マサシとタダシが模型の前で数名の研究者と話し合っていた。
アケミ達を見たタダシが
「おかえり。」
というとアケミが
「ただいま。で、どう?」
「う〜ん行き詰まった。ブラックボックスすら無い。」
「模型じゃなくて、映像は無いの?」
「透過フレーム映像ならあるよ。見る?」
「頼む。」
「かめちゃん。部屋の投影お願い。」
「は〜い。」
タケル・ヤマト第一皇太子は、驚いた。返事をしてきた女性は、先ほど別れた大人の方の女性だった。
「なぜ?」
かめちゃんは、ニコッと笑うと
「先ほども言いましたが、私はアンドロイドなので身体は何体も有るので、ここに居ても不思議ではありませんよ。」
というと部屋の空間に、透過フレームの立体映像が映し出された。
「室内の色付けします?」
「お願い。」
「は〜い。」
フレーム映像に色彩が付き、あたかもその部屋にいるかのようだった。
「この部屋の下は?」
「この星の岩盤。調べたがそれ以外は、無い。たぶんだが、女神が降臨した時に自重で崩れないように、直接岩盤にしたんじゃないかな?同じように部屋の壁の裏も岩盤だ。地下室だしな、当たり前といえば当たり前なんだが。」
「床の焦げているのは?。」
「岩が焦げというか、少し溶けている事から、高温にて焼かれた物と思われる。丸く成っていることから、女神降臨の時のエネルギーが、空気を高温のプラズマ化して作った物と思われるね。」
「ということは?」
「結論を言うと、この部屋には、転移システムは無い。って事だ。女神自身が、転移出来る仕様に成っているんだろうなぁ。」
「この焼けた箇所も、古いですよ。」
かめちゃんが言うとアケミが
「そう言えば、800年以上女神が降臨していないって言ってたな。」
それを聞き
「そう?ちょっと調べ欲しいのだけど、1番新しい焼け焦げっていつぐらいに出来た物か、
わかる?」
ミユキがたずねると、かめちゃんが
「そうですねぇ、直近だと…うん?あれ?オゾンが少し残っている?ちょっと待ってください。」
真剣な表情で、1箇所の焼跡を注力し始めた。そこは、何度も降臨した場所らしく無数の焼跡がある場所だった。
かめちゃんが黙る事約2分、やっと口を開いた。
「ミユキさん。測定物が微量で劣化と衰退率が激しくて、精密な時期の特定は出来ませんでしたが、この場所に1週間前から1か月以内に降臨しています。」
この言葉に、周りにいる関係者がどよめいた。
「800年以上ぶりに女神が降臨していたのか?」
「ある意味、歴史が動くぞ。」
「なぜ、教団の司教達は知らないんだ?」
研究者達は、女神降臨について議論をし始めた。
「やはりねぇ。あとは確証なんだけど。」
「ミユキ、何か掴んでいるのか?」
タダシが聞くと、ミユキが
「2週間前に、『神託の部屋』まで賊が侵入したらしいの。それって本当に侵入かな?って思って。
『神託の部屋』から出てきたんじゃないのかな?って考えた方が自然だなぁって思えない?」
その言葉に、全員考え込んだ。その沈黙を破る様に、かめちゃんが
「確かに、ミユキさんの意見には賛同します。この大聖堂の迷宮は人一人では、絶対に
『神託の部屋』まではたどり着けない構造になっているのです。」
と発言した。
「どうして?」
ミユキが聞くと
「模型が有りますので、それで説明しますね。」
かめちゃんが、大聖堂の模型に近づき、上層階のパーツを外すと、1階部分の間取りが解るようになった。
「まず、1階奥にある通路。ここから、『神託の部屋』へと行きます。」
空間に、3D映像を映し出して、周りにいる人達にも見えるようにすると、
模型の通路奥にある扉を開く。
「扉を開いて全員、中に入った後で扉を閉めます。ここが第1関門です。ここで、重量測定が行われています。ここで250Kg以下だと正規の通路に行けません。」
「どう言うことだい?」
タケル・ヤマト第一皇太子が聞くと
「この先に曲がり角が有ります。その先の通路が、250Kg以下だと下がらないのです。」
かめちゃんが、模型の扉を開けて閉めただけだと、模型は何も変化が無かった。
しかし、再度扉を開け閉めして、強く床を押すと曲がり角の先にある通路が下がり、地下1階へと繋がった。
「オウォォォォ」
と少しどよめきが発生した
「かめちゃん、下がらない通路を行くとどうなるの?」
ミユキが聞くと
「次の部屋に出ます。この時点で引き返せば、大丈夫です。迷宮に誘い込まれません。
でも、次のどれか一つ扉を開けて入ってしまうと、抜け出せない迷宮へと入っていきます。」
写し出されたのは、3つの扉がある部屋だった。
「この仕組みは後にして、『神託の部屋』へと行きますよ。地下1階に着くと、そこには正面に
3つ、背後にも3つの扉が有る部屋に出ます。
ちなみに1階からの通路を使って出てきた扉は、背後の真ん中の扉です。この部屋の扉は、
どれか1つでも開いていると、他が開かない仕様になっています。出てきた扉を閉めると、
通路はもとの位置に戻ります。」
模型の扉を閉めと、来た通路が上がっていき、新たな通路が接続された。
「それじゃ、帰れないじゃないか?」
「あとで説明します。『神託の部屋』に行くには、正面の左の扉を開けて進みます。
こちらも同じように、入って扉を閉めると、曲がった先の通路が下がります。通路を抜けると
扉の無い三叉路に出ますので、ここを右の通路に行きます。すると『神託の部屋』へとたどり着けます。」
かめちゃんの説明を受けて、
「帰りはどうなるの?行きの通路が使えないじゃない。」
ミユキが聞くと、アケミが
「そう言えば、帰りは違う扉を開けて帰って来たな。」
「そうなの?」
「確かに。違う扉を開けて行くものだから、おかしいっと思ったのだが、ちゃんと元の場所
に帰れたので、何か仕掛けがあると思ったのだが、こういうことなのか。」
アケミは、合点がいったといった口調で話した。
「そうなのです。帰りは、出てきた真ん中の扉ではなく、右端の扉を開けて入ります。
この通路は、行きに使った通路が上がることにより、上りの通路となるのです。
ですから、行きと帰りが違う扉になるのです。」
「考えられているな。」
「それだけじゃないんですよ。この通路。行きと帰りの重量が大きく違うと、帰れません。」
「どういうこと?」
「もしも、帰りの方が軽かった場合。最初の上り道がさらにうえのかいへと上ります。
で、帰るために通らなければならない部屋を、パスしてしまいます。
逆に重い場合は、通路が上がり切りません。その為に通らなければならない部屋に出ず、
別の部屋へと行かされてしまいます。
迷宮に1度入ると、出口への通路が遮断されて、2度と出ることは出来ません。
この迷宮は行き止まりが無いループ状の迷宮なのです。
通路を抜けると扉が現れますが、出口はありません。同じ通路を何回も歩かされる事になるのです。
その為なのでしょう、迷宮の通路には、かなり古い年代のものですが、40体の白骨死体と、
56体のミイラが有りました。」
話を聞いていた全員が嫌な顔つきになった。
「といことは、もし『神託の部屋』から出てきたとして、正しいルートを行っても、帰れないんじゃ?」
「ミユキさん、いいところに気づきましたね。そうなんですよ。この仕組みだと、
神託の間から出ても、地上に出れないどころか、迷宮に誘われるんです。」
「もし仮に、サヨリが出てきたとしたら?」
と言って、顔色が悪くなるミユキ。
「ミユキさん。大丈夫です。迷宮には白骨とミイラだけで生存者はいませんでした。
サヨリさんは紛れ込んでいません。」
「そう、それならよかった。」
と、落ち着くミユキだが
「じゃ、侵入した賊って、どこに行ったの?」
と、不思議に思った。
「少なくとも、2週間前に『神託の部屋』の前の人感センサーが反応して、1台のカメラが、
逃げる賊と思わしきわずかな後姿と影を撮影しているのよね。でも迷宮にはいない。
脱出先は大聖堂しかないのに現れていない。
これをどう説明するの?」
ミユキがかめちゃんに聞くと
「確かに。賊は通路を通らず逃げた?ってことになりますね。」
かめちゃんは、自分が作った模型と、透過図面を睨みつけて、脱出路を探した
しばらくして
「一つだけ、方法はありますが。これ無理ゲーですか?」
と言った。
「どうするの?」
「『神託の部屋』への通路から出て、最初の三叉路を左に入ってすぐにある、通路遮断用壁の下に
ある隙間に入ると、地下施設全体の換気循環用ダクトに入れますが、人が入るのにギリギリの大きさしかありません。
もちろん照明なんかありませんから、中は真っ暗ですし、分岐も無数にあります。
ここからの脱出は可能と聞かれれば、赤ちゃん程度の大きさなら可能ですけど、成人の大きさならほぼ不可能に近いですね。」
と言って、問題のダクトを原寸大で視覚化した。
「確かにこれじゃ、匍匐前進でもきついなぁ。腕が動かせない。」
アケミが断面映像を見て感想を言った。
通路遮断用壁の隙間をも見たが、かなり狭いうえに、いつ動き出すかわからない壁が与える
プレッシャーに耐えて、潜り込むにはかなりの勇気がいることと思われる。
「当たり前のことですが、ダクト内は何も詰まっていませんでしたよ。」
と、かめちゃんの報告
「女神様が、『神託の部屋』に送ってくれたのだから、また、『神託の部屋』から
他へ連れて行ってくれたのでは?」
ミユキが考えを述べるが、
「それだと、引き返してこないといけないので、賊がカメラに映るんですよね。
それに、あの部屋、出るのにはカギはいらないですけど、入るには面倒なぐらいカギが
必要なんですよ。ですから、『神託の部屋』に戻ることは不可能ですね。」
かめちゃんが否定する。
「あの扉って、ホテルのオートロック機能付きドアみたいなの?」
「そんな感じですね。」
「そっかぁ。じゃ、外で女神様に迎えに来てもらった?」
「それだと、どっかにこれと同じぐらいのプラズマ痕があるはずですが、無いですよ。」
「じゃ、ここに現れた賊ってどこに行ったの?まるで、煙のように消えたとでも言うの?」
そこにいた全員が、黙って、考え込んだ。
ここに居ても、埒が明かないと判断したアケミは、再度新たな観点から、転移トンネルに
ついては考察するとして、集まっていた研究者達を一旦解散した。