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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第3章
126/144

帝国内戦 21

アケミは、医官の示すサヨリのバイタルデータの説明を受けて、違和感を半端なく感じていた。

医官からの説明を受ければ受けるほど、違和感が増大していく。

「その情報は、間違いないのだな?」

「はい。このように各種測定器からのデータを、分析した結果であります。」

各種データーをまとめられて表示している端末画面を見せながら答える医官。

「私も、貴君らの説明を疑っているわけではない。データも物語っている事だしな。ただあいつにどう説明したら良いものか、頭が痛い。」

アケミは、目を覚まさないサヨリを、愛おしく見つめるタケルヤマト第一皇太子を見て、

ため息をついた。

「御心中お察しいたします。」

医官も神妙な顔でアケミに同情するように返事を返した。

「一応、人工羊水をはじめ、どう言う薬品類を使用していたかを、尋ねた方が良いと思うか?」

「後学の為に知っておれば、同じような事例に対して対応する事も可能となると思います。」

「確かにな。気が重いが尋ねる事としよう。」

アケミは医官達との話を切り上げ、気がすすまないがタケル・ヤマト第一皇太子のもとへ近づいて行った。

「タケル、ちょっといいかな?」

「アケミさん。サヨリさんの状態はやはり。」

タケルヤマト第一皇太子は、暗い表情を見せる。

「ま、まぁそう結論を急ぐのは良くないと思うぞ。」

アケミは、歯切れ悪く答えた。

「しかし、それで構わないです。この『虚無の間』に入れられた者は、全て苦悶の表情で

死を迎えるのですか、サヨリさんはまるで楽しく夢を見ているがのごとく、表情は穏やかです。

辛い思いを感じていないのが、私として嬉しいかぎりです。」

そう言って愛しむようにサヨリを見つめる。それを見てアケミは、心の奥が痛むが

「申し訳ないのだが、後の事を考えて、人工羊水とそれに含まれていた成分配合を教えてほしいのだが、良いだろうか?」

そう聞くと

「それで、サヨリさんが目を覚ます事ができるのですか!」

タケルヤマト第一皇太子が、迫ってくるので思わずアケミは

「それは……」

語尾を濁してしまった。

「かまいません!可能性が少ないのはわかっています。成分配合は公開しましょう。

それで、研究していただいて、サヨリさんの笑顔を楽しみに私は待ちましょう。何年でも。」

そう言って、玉座にある操作卓を触ると、2枚のプリントアウトされた物が吐き出されてきた。

「これが、全ての成分配合表になります。」

そう言ってプリントアウトされた物をアケミに手渡した。それを受け取るとアケミは、一瞥し

「協力してくれて、ありがとう。」

「このぐらい、かまわないですよ。」

アケミは、手にした成分表を医官達に見せに戻った。

タケルヤマト第一皇太子は、少し離れたところでアケミと医官達の会話を見ていた。

良くは聞こえないが、アケミも医官達も深刻な顔つきになっていくのだけはわかった。

「やはり、難しいのだろうな。僕の眠り姫を起こすのは」


 拝見の間で決着がついた頃、帝都の各地でも地上戦は終息していた。

もっとも、第三皇太子が率いる陸戦隊の装備品が、補給不足によって十分な量が行き渡っていなかったのもあるが

帝都へ降下してきた敵とのあまりにも物量の差を前に、抵抗らしきものを見せず投降したのが大きかった。

帝都守備隊が思ったことは

「あんな物と、まともに戦える訳無いだろ」

アケミがクロダ宰相部隊の護衛に付けたのは、アケミの秘蔵っ子の高機動機甲兵団である第一狼猟騎兵50機だった。

第一狼猟騎兵に装備されている主兵器は、民間機の高機動汎用建築重機を装甲強化した、全高20mのいわゆるモビルスーツだった。

全機に120mmライフル銃を装備した上で、大気圏からの降下作戦を実施、クロダ宰相が率いる近衛陸戦隊を地表まで護衛した後

帝都守備隊に対して先制攻撃、瞬く間にそれを制圧、クロダ宰相が率いる近衛陸戦隊は、

掩護を受け主要官庁を制圧、そこで陣取っていた政治将校を拘束、クロダ宰相が信頼している部下に省庁の再編を任して、行政の立て直しをしていく

「ほんの半年ぐらいで、ここまで酷くなるものか?」

呆れ顔で、各種データを調べていく職員達。

端末処理するだけで、不可解な金の流れが簡単に現れる。

「こりゃ、私腹を肥やした奴等から返してもらわないと、国の財政がもたないですね。」

「とりあえず、近衛師団と憲兵隊で規律を引き締め、横領や汚職に加担した者は全員検挙だ。」

次々に国の主要機関を把握していき、内乱で疲弊した国の立て直しを始めていく。

「何人かを取り逃しましたが、どういたしましょう?」

「港から逃げ出すかもしれません。早急に手配をいたしませんと!」

クロダ宰相は、その報告を聞いて

「それなら手間が省ける。」

と言って笑った。

「大丈夫なのですか?高官特権や階級に物を言わして、脱出するかもしれません。」

「それは通用しないから。安心してもいい。そんなクズ野郎は捨てておき、我々は国の立て直しに尽力を尽くそう!」

「わかりました。では、何から始めましょうか?」

「まず初めに、間もなく到着する、救援物資の受け入れと、財政の立て直しだな。」


スタッフが代わった省庁は、本来の姿を取り戻し帝国の行政機関として復活していった。



帝都星系近郊に、次々にジャンプアウトして来る超大型輸送船団。その数ざっと1万余隻。

全て帝国への救援物資を満載していた。全てがジャンプアウトし終わると、一糸乱れず艦隊運動にて帝国の港を目指して動き出す。

それを受けて、帝国星系内の港湾ギルドは、久しぶりに活気に満ちていた。

「主幹!全艦大型以上の輸送艦隊って、久しぶりですね!しかもこの数!」

若い管制官が興奮気味に、隣りにいる年配の上司に話しかける。

「興奮するのは良いが、誘導を間違えるなよ。」

「わかっていますって!帝国星系港湾ギルドの腕の見せ所じゃないですか!ヘマなんか、踏みませんよ!任してください!」

「その心意気だ。全職員に告ぐ。恥ずかしい事をするんじゃ無いぞ。全力で事にかかれ!」

そこへ、女性職員が駆け寄って来た。

「どうした?そんなに急いで、何かあったか?」

息を切らしながら走って来た女性職員は、

「マスター、第一波止場にて、政府高官等が停泊中の船に乗せろって騒いでいます。いかがいたしましょうか?」

それを聞き、うんざりした顔に成った港湾ギルドマスターは、

「あのバカどもか?」

「はい。」

「何騒いでいるのやら。どうせ悪事がバレるのを恐れて、逃げ出したいだけだろう?」

「そうですね。」

「放っておけ。何なら第一波止場のゲートを開けてやれ。」

「よろしいのですか?あの波止場には。」

「かまわない。その方が早く決着出来る。」

「わかりました。ゲートを開放します。」

「船の方には、俺から連絡しておく。」

「ありがとうございます。あの人達の顔が見れないのは残念ですけど、船の方には迷惑かけますね。」

「全くだな。」

女性職員は部屋から出ていった。

「あのバカ共、驚くぞ。」

ギルドマスターは、密かに笑うのだった。



 第一波止場は、帝国領土内においても数少ない与圧システム内にある波止場で、宇宙服に着替えたり、連絡艇に乗換えたりせず船に乗込めるため便利なのであるが、利用料金が高額で、この波止場を利用するのは一部の高級旅客船、もしくは艦隊の旗艦位しか利用されない波止場であった。

そこに佇む大型戦闘艦の姿が有った。


 第一波止場乗船ゲートでは、多数の政府高官に上級将校達が、家族を連れて詰めかけていた。

「何をしておる。このゲートを開放しろ。私を誰だと思っておる!ライゴール将軍だぞ!

すぐさまゲートを開放し、停泊中のあの軍艦へ誘うのがお前等下っ端の役目だろうが!」

でっぷりと肥った腹を揺らしながら、港湾職員に怒鳴り散らす男に対して、困った顔で対応する港湾職員

「ですから、ここは、民間港であり軍管轄の埠頭ではないので、上官命令と申されましても、

立ち入り許可が無い方はお通しする事ができません。」

港湾職員は、職務に忠実に遂行していた。

「何を言っておる!敵が侵攻してきたのたぞ!我々のような優秀な人材を、守らないでどうするか!この人的損害は計り知れない物だぞ!」

押し問答を繰り返している所に、一人の女性職員が駆け込んできた。

「シバタさん。ゲートを開けて差し上げて。マスターからの許可をもらったから。」

その言葉に驚いて

「いいんですか?グレオさん」

聞き直したが

「かまわないって。マスターが、向こうには連絡してくれたから」

「わかりました。」

2人のやり取りを聞いていた男は

「フン!最初から素直に開ければよかったのだ。手間を取らせやがって。」

「ゲートを開けます。ただ、送迎は出来ませんから各自で向かってください。」

そう言うと、ゲートを開けた。

ゲート前に集まっていた群衆は、各自ココまで来たトランスポーターで停泊中の軍艦へ向かっていった。

それを見送りながら

「いいのかなぁ?そもそも、わかってるのかな?」

「わかって無いに決まっているわよ。でなきゃ、あの軍艦でここを脱出出来るって思わないでしょ?」

「確かに」


軍艦の搭乗口まで来た群衆を待ち受けていたのは、見慣れない制服をきちんと着こなした将校に誘導員達。

将校の説明を受け、誘導員達に誘導されて、押しかけた群衆は次々に艦内へと移動していく。

案内されたのは、広い一室。テーブル席が用意されていて、壁際には各種料理が並べられたコーナーに、アルコールを含むドリンクサービスコーナーまで有った。

この部屋へと案内してくれた将校が

「只今本艦は、出港の準備を行っております。準備が整い次第出港いたしますので、それまでは、こちらでお寛ぎください。」

と笑顔で部屋へと導いた。それを聞き、目の前に出されている料理や酒類を見て

「これは、すまないな。ここで待たせてもらうことにしよう」

嬉しそうに、笑みを見せる。

「もし良ければ、他に気にかけておられる方がいらっしゃいましたら、お呼びかけしてはいかがでしょうか?当艦は、あと2時間ほどで準備が整うと思われますので。」

と言う提案に、

「そうか、あやつらも呼んでやるか。」

そうして、汚職に横領等の罪で手配される前に逃げ出そうとした、政府高官や上級将校達が次々に乗船してくるのであった。


 お気づきとは思うが、帝都星系に攻め込んできたのは、サナトリア統一連邦共和国からの部隊だった。

 実はこの時点ではまだ、第一皇太子側の第一連合艦隊及び第七辺境艦隊は、

第三皇太子側の第三艦隊といつ火蓋が切られるのかわからない状態でにらみ合いをしており、

帝都本星まで辿り着いていなかった。


 第一波止場に停泊中の戦闘艦は、アケミがタケルヤマト第一皇太子を連れて乗り込んできた、

戦艦ミカサ型壱號艦ネームドシップ ミカサだった。



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