帝国内戦20
拝見の間に雪崩込んだ、タケルヤマト第一皇太子率いる王座奪還部隊は、そこでミツシサキリシア第三皇太子と相見える。
ミツシサキリシア第三皇太子は、護衛も付けずただ一人、一段高くなっている王座に座り、
突入して来たタケルヤマト第一皇太子達を片肘をついて見ていた。
「良くぞまぁ、ここまでは来たものだ。」
「戯言はいい!降伏しろ!もう逃げれんぞ。」
「こうなっては、俺も逃げれないか。しかし、タケル。『覇者の勾玉』を持っているのか?」
「それは、」
「持って無いようだな。ならば、王者の間に行くことは出来ぬぞ。どうする?」
ニヤニヤしながらミツシサキリシア第三皇太子が言った。
「貴様!何をした!」
「なぁに、王者選定者に真の王しか道を開くなと、指示しただけだが?」
「なんだと!」
「あははっ!たとえお前が俺を殺そうが、継承順位一位の者が居る限り、この奥へ進む事は
出来ないんだよ!継承順位二位のお前ではな!」
一瞬何を言っているのかがわからなくて、タケルは
「どう言う事だ?」
と聞き返してしまった。それを見て
「うん?その様子だと、お前も知らなかったようだな。我々は、血族的王位継承者であって、真の王位継承者じゃ無いって事を。」
ミツシサキリシア第三皇太子はニヤニヤしながら、嬉しそうに答えた。
「もしかして、お前がここにいるにも関わらず、皇帝を名乗らないのはそのせいか?」
「そうだとも!真の継承者は、『覇者の勾玉』を所持する者に他ならない!お前を殺そうが、
俺は皇帝を名乗れないんでね。お前も、第二位である限りそこの扉は開かぬ。」
「なんだと!この宝物が有っても関係ないのか!」
と言ってタケルヤマト第一皇太子が、継承の際に必要に迫られるかもと思い持込んできた
『八岐の剣』を取り出すが、
「フン。このような物。何の役に立つものか!」
ミツシサキリシア第三皇太子は、手元に有った『草彅の鏡』をタケルヤマト第一皇太子へ投げつけた。
『草彅の鏡』はタケルヤマト第一皇太子まで届かず、タケルヤマト第一皇太子の足元まで転がって行った。
「何をする!大事な宝物だぞ!」
「儀式的要素しかない物なぞ、価値はない!俺が欲しいのは、この銀河を征する力を持つ『覇者の勾玉』だけじゃ!」
タケルヤマト第一皇太子は、投げつけられた『草彅の鏡』を丁寧に拾い上げ、傷が付いていないか確認し、
「2つ揃えば?」
タケルヤマト第一皇太子は、神器2つを携えて『王者の間』に通ずる扉の前に立った。
だが、扉は開かなかった。
「ほうら見ろ。そんな物は継承者の証にはならんのだ。」
吐き捨てる様にミツシサキリシア第三皇太子が言った。
「じゃ、何のために、この二つは存在するのだ?」
タケル・ヤマト第一皇太子は、二つの宝物を持って、立ち尽くしていた。そこへ、
「何してる?もう、方はついたのか?」
城に突入してすぐ、探し物の反応があるからと言われ、別行動をしていた、アケミが率いる
サナトリア派遣軍所属陸戦部隊が、拝見の間に到着した。
「アケミ元帥。探し物は見つかったのですか?」
タケル・ヤマト第一皇太子が聞くと
「あぁ、物は見つかった。そうだ。ついでだからヤマト。この城は、制圧しておいたぞ。」
まるで、探し物するついでに、部屋の掃除をしていたと言った、軽い口調で返答してきたアケミに対し
「キサマ!城内駐留部隊をそれだけの人数で制圧しただと!」
ミツシサキリシア第三皇太子が叫ぶが、アケミは涼しい顔のまま
「そうだが?それより、探し物方が手こずった。」
と言って、1台の2in1PCを手に持ち見せた。
「それは!」
「アイツのだ。これの近くに居ると思ったんだが、本人が居なくてな。お前、
知っているだろう。話せ。」
アケミは、ミツシサキリシア第三皇太子に向かって睨みつけた。
凄まじい殺気を浴びても、顔色一つ変えることもなくミツシサキリシア第三皇太子は
「タケルの女の事か?いい女だったな。」
と言って、薄っすらと笑った。
「貴様!サヨリさんに何をした!」
タケルヤマト第一皇太子が王座に駆けあがり、ミツシサキリシア第三皇太子の胸ぐらを掴み
今にも殴りかかろうとするが
「ヤマト。焦るな。アイツは生きている。」
「どうして、アケミさんは、わかるのですか?」
タケルヤマト第一皇太子の疑問に答えるように、アケミはサヨリの2in1PCの画面を見せた。
そこには、何の変哲もない画面が表示されていた。
「ホントかどうかはわからないが、アイツは、秘密が知られるのが嫌で、
自分が死ねばこのPCは起動しなくなるプログラムを施しているそうだ。
これが起動している事はアイツは生きている。それ以外は、わからないがな。」
とアケミが話すと、ミツシサキリシア第三皇太子が嗤いながら
「あの女なら、生きている。」
と言った。アケミが
「どこにいる!話せ!」
と睨むのと、タケル・ヤマト第一皇太子が
「そもそも、なぜサヨリさんを拐った?」
ミツシサキリシア第三皇太子の胸ぐらを掴んだ手に力を入れた。
ミツシサキリシア第三皇太子は、タケルヤマト第一皇太子の腕を振り払い、ドカッと玉座に座ると
「あの女をここに連れて来た理由は、『覇者の勾玉』を所持しているのは、あの女以外考えられなかったからだ。」
と話し出した。
「サヨリさん以外に考えられなかっただと?」
「そうだとも!親父に従いていた従者達全てを調べたさ。もちろん、そいつらの家族一族郎党全てをな。
誰一人『覇者の勾玉』を所持していなかった。残ったのはあの女1人。
お前について行った事だけはわかっていたが、最初は、全く手掛かりが無かった。
どうゆう訳だか、顔写真の1枚も見つからなかった。
そうしているうちに、惑星トレーダーに潜伏しているとの情報が入って来た。
諜報員を派遣して真偽を確認させたところ、お前の為に物資を手配していると言うじゃないか。
健気な女じゃないか。その女が集めた物資をお前に渡さないようにするのと、『覇者の勾玉』を確認するのには、
ここに連れて来るのが手っ取り早かったんでな。」
「それでどうした?」
「たかが小娘の1人、この場所でひん剥いてやったわ。あの女が所持していた、髪飾りにピアス、
指輪や時計に至る装飾品はもとより、衣類全てを取り上げて真っ裸にしてやった。」
「なんだと!キサマ!」
タケルヤマト第一皇太子は、激情に駆られミツシサキリシア第三皇太子の顔を殴りつけた。
「身に付けているとは限らないじゃないか!」
ミツシサキリシア第三皇太子は、殴られた頬をさすりながら
「おぉ痛えなぁ。さっきの行動でお前も『覇者の勾玉』を持ってない事は判明したしな。」
「どこかに預けて……」
「それはない!『覇者の勾玉』は知的生物が身に付けていなければ、王位継承不在とされて、
俺が継承する事も出来たんだが、お前はそれも知らないとは。あの女もうかばれないなぁ。」
「何だと!」
もう一発殴ろうとした腕を、アケミが止めた。
「放してください、アケミさん。」
「殴るのは後にしろ。それより、サヨリがどうなったかが知りたい。」
冷静なアケミの言葉に、頭に血が上っていたタケル・ヤマト第一皇太子は、
「クッ!わかりました。サヨリさんをそれからどうした!」
と言って睨みつけるが、ミツシサキリシア第三皇太子は薄っすらと笑い
「お前が、女の事でこうも我を忘れるとは、おもしろい。」
「キサマ!」
ミツシサキリシア第三皇太子は、からかうように戯けながら
「恋する男は、コワイコワイ。話してやるよ。結果から言うと、あの女の持ち物には『覇者の勾玉』は無かった。」
「えっ?持っていない?」
「そうさ。持っていなかったよ。とんだお笑い草さ。あれだけ手間をかけさせられたのによぉ!
だいたい、持っていたら俺がすでに王位を継承しているわ!
仕方がないから、女の身体に聞くことにした。」
「キサマ!何をした!」
「なぁに簡単なことよ。お誂え向きに裸だったしよぉ。ここで押し倒して犯してやったわ。
俺に抱かれてお前に、赦しを乞うていたぞ。
何度も何度もごめんなさいってな。俺に抱かれて何度も逝っていたがな。」
さもおかしそうに言った。
「キ、キサマ!もう許さん!」
激情にかられてタケルヤマト第一皇太子が、ミツシサキリシア第三皇太子に殴りかかろうとしたが、またもやアケミに止められてしまう。
「アケミさん!もう許すことができません!離して下さい!」
しかし、アケミが
「待て!様子がおかしい。」
と静止をかけた。
「何が?」
タケルヤマト第一皇太子が改めてミツシサキリシア第三皇太子を見ると、今までの横柄な態度が鳴りを潜め、顔色悪く蒼白になって震え出している。
アケミが
「お前、サヨリに何された?」
聞くと
「あの女を抱いて満足して、泣き顔を見てやろうとして顔を見たら嗤っていやがった。しかも
『坊や、満足した?』って嗤って言いやがった。
どこから出したかわからないが、紙巻たばこを咥えるとマッチで火を付け、美味そうに
紫煙を吐き出すと、『ヘタ』と言って嘲笑いやがった。
その顔を見て、怒りより恐ろしさが湧き出てナイフで殺そうとして、何度もアイツの身体を刺したんだ。
だがアイツは、体中が真赤に染まっても、ベットの上で両手を広げて嗤いながら、
『いいよ。殺しても。何度でも黄泉帰って来てあげるから。』
と言って嘲笑いやがった。恐ろしくなった俺は、あの女から逃げるように離れると、
アイツはゆっくり立ち上がり
『どうしたの、坊や?あたしを犯したいンでしょ?もっと抱いてよ。』
と言って嗤いながら近づいて来るので、恐怖にかられた俺は、とっさに『虚無の間』に
あの女を落としてやった。
ザマァみろ。生きているんだから、化けて出ることもない。
墓から黄泉帰って来ることもない。もう大丈夫だ。心配する事はない。大丈夫だ。
大丈夫だよな。なぁ大丈夫だって言ってくれよ!なぁ」
と言ってミツシサキリシア第三皇太子は、タケルヤマト第一皇太子に縋り付き懇願して来た。
アケミは、
「サヨリは、こいつに何をしたんだ?。いつもながら、言葉だけで廃人をつくりやがる。
しかし、そのあおりでどこかに幽閉でもされたか?うん?どうした?大丈夫か?お前まで顔色が悪くなっているぞ。」
と、玉座で膝を抱えて、うわ言のように、大丈夫だよなと繰り返すミツシサキリシア第三皇太子から、
タケルヤマト第一皇太子を見ると、あまりの顔色の悪さに思わず声をかけると、タケルヤマト第一皇太子は、
足元に縋り付くミツシサキリシア第三皇太子の髪の毛を掴むと引きずり上げ
「キサマ、なんてことをするんだ。答えろ!『虚無の間』に閉じ込めて今日で何日目だ!」
と怒鳴った。
「10日目だ。もう大丈夫だよな。大丈夫って言ってくれよ、なぁ、大丈夫だよな。」
その言葉を聞き、思わず手を離し放心状態になるタケルヤマト第一皇太子。
その足元で、なにかに怯えるように、自分に言い聞かせるように繰り返し大丈夫だとつぶやくミツシサキリシア第三皇太子。
それを見たアケミが
「おい!誰かこの鬱陶男を、どっかに拘束して閉じ込めておけ。」
「ハッ!」
アケミが連れて来た陸戦隊の2人が、ミツシサキリシア第三皇太子を引きずるようにどこかへ連れ出して行った。
「お前、なに放心している。サヨリはどこにいるかわかったのか?」
ゆっくりアケミの方に向いたタケルヤマト第一皇太子は、
「わかったが、もう以前のサヨリさんではないでしょう。あいつはなんてことをしてくれたんだ。」
と弱々しくつぶやいた。意味が解らなくてアケミは
「以前のサヨリじゃない?どうゆう事だ?説明して欲しいのだが。」
「そうですね。説明しましょう。その前に、ここへ『虚無の間』を出しますね。」
そう言うと、タケルヤマト第一皇太子は、玉座に座り肘掛け部の数個のボタンを押した。
しばらくすると、玉座の正面の床から、透明な液体を満たした球形状装置がせり上がって来た。
液体の中には、裸体の少女が胎仔のようにまるくなって浮かんでいた。
「これは、なんだ?中に居るのは……サヨリか!」
アケミは、中にいる人物を確認して叫んだ。タケル・ヤマトは
「これが『虚無の間』です。そして我が国の最凶の拷問装置です。」
そう言って、円筒形状の装置を指さした
「拷問?」
「はい。この中に入れられた者は、容器に満たしている人工羊水によって全ての感覚、視覚、
聴覚、嗅覚、味覚、触覚が奪われます。
自傷による痛覚も遮断され、傷は人工羊水が速やかに修復します。」
「それじゃ、呼吸や食事とか排便等はどうなる?」
「この中に満たされている人工羊水を介して、身体に必要な、酸素、養分が届けられ、老廃物、排泄物等は分解、排除されます。」
それを聞きアケミが
「のんびり寝れそうだな。」
とこぼすと、タケル・ヤマト第一皇太子は、語気を荒げ
「なにをバカなことを言っているのですか!中にいる限り、薬で意識は絶えず覚醒させられて
眠らす事はさせないのです。その為全ての感覚を失った者は、睡眠や意識を失う事が出来ず
精神の変調から発狂し、人格障害になり、最終的に自我を失ってしまいます。」
それを聞き
「寝れないのか。どのぐらいで、自我を失う?」
「訓練された諜報員でも、3日もあれば植物人間に出来ます。訓練されていない一般人であれば、半日もあれば十分です。」
「やけに早いな。なにか細工でもあるのか?」
「この中では、体感時間が5倍になるように調整されているんだ。」
「と言うことは、半日と言っても中にいる者には、2日半から3日間の体感時間を過ごすわけだ。
その計算だと、サヨリは既に体感的には50日以上閉じ込められているわけだ。」
人工羊水に浮かぶサヨリを見ながら、アケミはつぶやいた。
「こんなに長期間、この中に入れた実例が無い。サヨリさんは、もう目を開ける事はないだろ。」
タケル・ヤマトの悔しそうな姿を見てアケミは
「さすがのサヨリでも耐えられなかったか?とりあえず、ここから出してやらないか?男共が、
目のやり場に困っているからな。肌ぐらい隠してやりたいのだが、今、出せるか?」
タケル・ヤマトに訊ねると
「申し訳ない。確かに意識は無いとは言え、サヨリさんの裸体を人目にさらすのは良くないですよね。
今から排水してシェルを開けます。」
タケルヤマト第一皇太子が操作すると、球体内部に満たしていた人工羊水が無くなってきた。
アケミが配下の兵に
「おい、そこの窓に有るレースのカーテンを持ってこい。ここには都合よくコイツの服なんて
無いからな。それで包んでおこう。」
テキパキとカーテンレールからレースのカーテンを外して、シーツのように折りたたんで持ってきた。
その間に人工羊水は抜けきり、装置の中で丸まったままのサヨリが横たわっていた。
サヨリの身体に付いていた人工羊水は、瞬く間に気化していった。
透明なシェルが格納されて、サヨリが触れる状態になった。タケルヤマト第一皇太子が、
傷一つないサヨリをそっと抱きかかえ、レースのカーテンで出来たシーツに包んだ。
「医療班!サヨリのバイタルチェック!急げ!」
アケミの号令一下、医官と従軍看護士がサヨリの取り付き、各種データを集め健康状態をチェックしていく。
集まったサヨリのバイタルデータを分析した医官が、アケミに結果報告していく。
タケルヤマト第一皇太子がアケミを見ると、報告を聞くたびにアケミの顔が険しくなっていく。
その顔を見て
「サヨリさん。貴女が目覚めなくとも、僕は君のそばから離れないからね。」
愛おしくサヨリを見つめるタケルヤマト第一皇太子だった。