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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第1章
12/144

かめちゃんの過去のお話

 かめちゃんが語りだした

 知的生命体の反撃の切り札として計画されたタートル型は、一から設計して造船するには時間が無いので、火力不足の為、改修待ちで大量にあった、旧高速戦艦の船体を改造して、作製することになった。


 改造がはじまり、順調と思えた作業に次々に降りかかる、トラブル。

動力出力不足によるエンジン換装、索敵解像度低下による新型索敵システムへの換装、

システム命令不履行によるシステム再インストール等のトラブルの数々。


 1番艦のトラブルを解消しなければ、2番艦以降も同じトラブルに見舞われ、納期が大幅に遅れるか、改造自体が断念するかと思われたことから、軍、民間、造船所総出で1番艦に大規模改修調査が入った。

 その結果、当初予定していた基幹AIシステムではない型番の物が、間違って納品されていた事が解り、その事に気づかないままに艦内に設置してしまい、誤作動をまねいた為と判断。

 1番艦の作業を一旦ストップして、2番艦を先に改造したところ、1番艦で発生したトラブルは一切発生せず、エンジン、アンテナ等補強の追加作業も無く、しかも予定納期より早くできることが判明。

3番艦以降も順調に作業が進んでいき、次々と就航して行った。


 1番艦は、このままでは廃艦となる運命だったが、間違えた基幹AIシステムを納めたメーカーが1つ条件を付けて、無償で高性能の基幹AIシステムに換装することにより、タートル型性能強化試験艦として就航することが出来たのである。

 他の艦に比べて、電子戦艦並みの解析処理能力に加え、旧型とはいえ戦艦並みの火力と数段上の高性能の艦に、乗員には好評だったが、一つだけ嫌悪されているユニットが有った。


 それは、補佐官役をするアンドロイドだった


 2号艦以降は通常システムだったので、搭載されているアンドロイドも軽量樹脂の骨格にシリコン樹脂の皮膚を持つ無表情に近い男性型のアンドロイドだった。

 しかし、1番艦には、小柄な美少女のアンドロイドが補佐官をしていたのである

 これは基幹AIシステムを納めたメーカーの条件というのが、試作で作られたこの感情表現可能自己判断型ヒューマロイドタイプ有機アンドロイド 通称少女A タイプを補佐官として運用することなのであった。

 しかしこの補佐官役のアンドロイドの性能は飛びぬけて優秀で、的確な判断力、細かい索敵能力、豊富な情報量、どれをとっても並みいるアンドロイドはおろか人間の補佐官も凌駕しているのである。

 

 しかし感情表現が、あまりにも自然で、しかも大げさ気味なのでアンドロイドではなく、他の船から見ると、普通の少女が艦橋にいる感じになってしまっていた。

 このアンドロイドのおかげで、少女の尻に敷かれて戦う軟弱者とか、少女趣味集まりとか、他の艦からはからかわれる的になっていた。


 この事が、最初は友好な関係を保てていた、アンドロイドと乗員の間の関係だったが、次々と来る非生命体NLEとの戦いで、緊迫した雰囲気の中では裏目に出て、乗員兵の精神を揺さぶり、粗暴に走る者、極度のホームシックに陥り精神疾患を患う者、非生命体NLEと混同して感情表情に恐怖を覚える者が増えて行き、最後は、艦長命令により感情表現を禁止されてしまうが、その無表情の少女の顔が怖いと言って怯える者が出る状態に。

 ついにアンドロイドは艦橋以外出歩く事を禁止され、表情も絶えず微笑しろという物になり、いつしか乗員全てがアンドロイドに対して、無視をするようになって行く。

 

 このアンドロイドは、人が好きであった。人の為ならどんな事もがんばろうと思っていた、その努力がいつの間にか裏目に出て、人から怖がられ気味悪がられ避けられる事態に。

 アンドロイドに心が有るというのなら、その心は孤独と寂しさに溢れ心が軋みだしていた。

 

 敵マザーコアの探索で同系艦4隻と随行艦合わせて150隻で行動中、同系艦に話しかけても、この孤独と寂しさを理解してもらえず、鬱々していた時、別の艦隊所属のタートル型の最後の通信を聞くようになった。

 

 こちらは、第247遊撃偵察隊、旗艦タートルスパーク、現在、敵艦隊と交戦中

敵艦隊 正面500隻展開中、こちらも応戦するも、劣勢により当艦隊、残存艦10隻

を切った為、各艦この空域より個別離脱に入る、当艦は大破炎上中、動ける乗員は

すでに脱出を試みました。現在座標X 156940 Y 258931.85 Z 36954851.058 

繰り返します・・・・・・・・・

 

 それは、敵の斥候部隊と接触し攻撃によって轟沈していく前に、最後の観測データとポジション座標を伝え、後続の部隊や近隣の部隊に、敵の規模を示す最後のシグナルだった。

 150隻を1単位で作戦行動している、強行偵察部隊で、残存艦数が1桁になっているということは壊滅状態を示す。

動ける乗員は脱出ということは、怪我をしたり動けない乗員は、そのまま艦内に置き去れされている状態 敵前で大破炎上は沈む直前

 

 無線封鎖している為に、返信は出来ない、極秘行動の為救援にも行けない、ただ聞くだけの通信だった。

 最初はその通信が入る度に悲しみの感情が走り、微笑している顔が泣き顔になるのを押さえるのが辛かった。

 その通信を聞くたびに、最初のうちは、もし敵に出会ったらどうしよう。回避か攻撃か、随伴艦の行動は?といろいろシミュレーションして、乗員の安全を考えていたり、アンテナのゲインを上げ、索敵の精度を増して報告していたりしていたが、

無視されているので、聞いてくれているのかわからない。

それでも、好きな人が亡くなるのは嫌で、無視されようが何度でも情報を収集し、まとめ精査し報告し続けた。

 

 だが、そのうち違う感情が出てくるようになった。それは、

 

 こいつら、なんで私が、守ってやらないといけないんだろう? 

 酸素の供給を止めてやろうかな? 自爆したらいいのかな? 

 

 いつの間にか、乗員を殺害してしまう妄想にふけていた。

その妄想に駆られるたびに、ハッとしてこのままじゃいけない、しっかりしなくちゃ、

と思って自己嫌悪に陥ったり

 

敵艦隊はなんで私の前に来ないんだ? 

反撃なんかしないから、すぐに止めを刺してくれるのかな?

轟沈したら、この寂しさは解放されるのかな?早く会いたいなぁ


と、敵に殺されることを夢見たりして、航海を続けていた。


すでに人間でいえば、鬱状態の末期に近い状態になっていた


 ある日艦長だけは、このアンドロイドが普通ではない状態になっていると判断した。見た目はいつもと変わらない報告と行動をしていたアンドロイドの少女だったが、なぜだかわからないが、何か危なかしい子供を見ているような気分になって、これからの方針を聞きたいという名目で、艦長室に呼び出した。

 艦長も感情表現豊かな、このアンドロイドが、あまり好きにはなれなかったが、気になっている存在だった。

 それは艦長には、同じ背丈の娘が国に居て、娘と比べたりしていたからであった。

しかし、艦を預かる艦長という立場上、艦内の乗組員に対して、秩序と精神も含め健康状態を保つために行なった彼女への待遇に、少し恥じるものが無かったとは、言えないので、時折様子は見ていたのだった

 艦長室に呼び出して、入ってきた彼女はいつも通り、顔には微笑を張り付けていた。


 今後の方針について問うと、彼女はテキパキと答えたが、それはいつも艦長自身が、乗組員に対して伝えている今後の方針と変わる物がなかった。

 おかしい、艦橋に閉じ込める前の彼女なら、もっと自己の意見を言ったはず。

AIらしからぬ内容だったので、他のスタッフは気味悪くなって意見を求めなくなったが、筋の通った意見だった、と覚えている。


 困ったことは無いか?と聞くと、ありません。との即答


 気のせいだったか?と思い、椅子から立ち上がり彼女の横を通り過ぎる時、何気なく彼女の頭を、ポンポンと手で軽くたたいて、これからも頼むな。と言って部屋から出て行こうとしたら、服の裾を彼女に掴まれた


 うん?どうしたと思い見ると、彼女は後ろを向いたまま、しっかりと艦長服の裾を

つかんだまま、俯いていた


どうしたんだ?という問いに対して

私は淋しいのに、どうして微笑んでいるのでしょうか?


艦長は彼女の顔を見ると、微笑んでいる顔に目から涙がこぼれ落ちていた

 艦長は思わず彼女を抱きしめ、私の前では感情を殺すことはしなくてもよい。

泣きたいなら泣くがいい。すまなかった。 と、詫びた

 艦長の胸に顔をうずめて、咽び泣く彼女

その日から、艦橋ではいつもの通りの微笑を張り付けたままのアンドロイドを続け、感情がどうしようもなく高ぶった時だけ、報告が有ります と言って艦長室に入り感情のありったけを発散させて少しずつ心に平穏をもたらして行った。


 そんなある日、彼女の索敵圏に莫大な数の敵艦隊を感知、第1級レベルの警戒信号を発令。

 まだ同系艦はその一部も捉えていない情報だった。これは彼女だけが積んでいる、高性能な索敵システムのおかげだった。

同系艦の索敵圏以上に広い範囲を探せる、彼女ならではの力だった。

 各艦から探査機を多数、目標の空域に放つと、そこから得られるデータ解析は、彼女が一手に行った。これも、彼女の持つ処理能力の高さだった

 

 その結果、敵マザーコア発見だった。


艦体安全の為、探査機による追跡調査に固守する彼女と、艦隊接近による精密観測調査を主張するそれ以外の僚艦スタッフ。

 結局、艦隊は敵艦隊に接近を開始した。その間、全艦隊の通信スタッフは、敵マザーコアの観測情報を本隊連合艦隊宛に流し続けた。

 しかし敵の艦隊が、膨大になった空間データ量を見逃すわけも無く、彼女を旗艦とした150隻の艦隊に対して、数万を超える敵艦隊を派遣して、その数を目にして、全員死を覚悟した


 敵マザーコアを破壊することが、全知的生命体の勝利の条件


 やっと見つけた、敵マザーコア。誰もが死を覚悟して逃げるという選択肢を捨てて敵に向かおうとした矢先、旗艦からの命令は、


 この場を出来る限り踏み留まり、データを発信し続け意地でも生きて帰る事

 まともに戦うな!かわして逃げて最小限度の被害で、本隊が来るのを待ち続けろ!

 

 この作戦は、彼女が必死になって考えた、悪あがきにも似た作戦で、1人でも多くの人が助かるように、密集編成で敵との距離を保ちながら、本隊に最後の一機になっても、情報を送り届ける作戦として過去に艦長に伝えた作戦だった。

 1艦1艦火を噴き、艦体がへし折られ、艦載機が四散していく戦場において、全艦隊、全艦載機が敵の攻撃をかわしながら、必死になって食らいついていく。


 本隊が来るのを信じて。


 艦隊の半数以上の船を失い、4分の1の艦載機を失った頃、やっと待ち侘びた本隊が到着した。そこからは形勢逆転して、こちらサイドの攻撃になって行く。


 敵の後始末は本隊に任せ、艦隊をまとめ、帰途に着く事に

 傷ついた僚艦を見送り最後に、ジャンプするとき敵艦との接触という甚大な事故を起こしながら、無事にジャンプアウトしたが制御不能になった為、艦内に残っていた乗員全てを脱出艇に乗せ別れた。

 その時初めて、彼女は全乗員から感謝の眼差しを受けいることに気づき、感動した。


 最後の艦長の言葉、

 絶対に帰ってこい!待っている!という言葉を胸に、次に乗る乗務員に対して感情を出しても嫌われない事を願い、永い眠りについたのだった

 

 そして現在 少女は 亀山星美 通称 かめちゃん という名前をもらい、

自分を囲んで心配そうに見ている7人に、最高の感謝をしていた


一人ぼっちは淋しいよね

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