帝国内戦13
久しぶりの、連続アップ(^^)
あと一回いけるかな?
トレーダー星系から離れた、小型船舶の造船で有名なイーストグロートヘリング星系では、
大型注文が舞い込み活気に湧いていた。
大型建築重機搬送船と言う、造船している船がよくわからない用途の船で、総数100隻を2ヶ月以内に引き渡しというハードスケジュールながら、作りやすい図面と大手メーカーから優先的に供給された動力炉とあいまって
造船期間は当初予定から大幅に短縮されて、星系全体では週に15隻のペースでローアウトしていた。
最後の1隻を無事引き渡しが完了した、イーストグロートヘリング星系の主星タイレーンの造船ギルドの1室で、
トレーダーから来た営業マンが、造船ギルドマスターに
「いやぁ〜ありがとうございます。納期をこれほどまで短縮していただいて。先方様も、喜んでおられましたよ。」
満面の笑みを浮かべて、感謝の言葉を述べていた。ギルドマスターは、少し照れながら
「いやいや、造船スタッフに感謝ですよ。私も少し納期が危ないかな?とは思いましたが、スタッフの頑張りで成し遂げれましたから。それと、あの図面と大手から動力炉の供給があってこそですが、よくぞまぁ、このご時世に船舶用の動力炉を100基、手配出来ましたな。」
「私共も驚きました。船殻ができても、肝心な動力炉がなけれは意味ありませんからね。
しかも、軍が増強の為に重工業メーカーに半動員命令を出して全て軍優先にさせる中、こちらへの動力炉は内戦直後に注文されてたようです。そのおかげで契約条項をたてに、こちらに滞りなく納品出来ましたからね。」
「ありがたい事です。それはそうと、あの船に積み込む建築重機ってどのようなものなのですか?
秘守義務がおありでしょうけど、少し話題になっておりまして、話せる範囲で良いので、教えていだだくことはできませんか?。」
ギルドマスターがそう営業マンに尋ねると
「いや、秘密にするようなものはないのですが、私もよくわかってないのですよ。」
困った顔で返答してきた。
「私共に発生依頼してきたのは、帝都に本社を置く採掘会社のトレーダー支店なのですが、
注文を受けた時の説明も、通常の2倍の特急料金を上乗せするので、2ヶ月以内に100隻用意して欲しい、
ということと従来型ではない新型の多機能汎用型重機を現場まで運搬して、艦内で長期間すごせて、
重機の整備が出来る船、って言う説明しか受けていないもので。」
「そうですか。仕方ありませんね。」
「気になりますよね。実は、私も気になるんですよ。」
「おや?あなたもですか?」
「はい、艦首部がフルオープンして、6時方向の床に電磁カタパルトがありますしね。」
「そうですよね。現場での話題も、重機をカタパルト射出することってあるだろうか?って。
と言っても戦闘機機体を収納するには、船倉の横幅が狭過ぎるし、無理矢理積んだとしても1機しか積めませんしね。
高さは、それなりにあるのですが、戦闘機を縦置きしてカタパルト射出はないだろうし。
軍からの依頼にしては、特注品の部品は一つもありませんからね。民生用のありふれた汎用部品が多く使われて、
そのおかげで作りやすかったのですけど、そのくせ、側面装甲は重巡洋艦並の厚みがありますからね。」
「ですよね。これに似た船が無いか調べたのですけどね、無かったですね。」
「うちの、若いヤツが言ってましたが、地表で使用する船で似たものが有ったと言って見せられたのは、強襲揚陸艦って奴でして。」
と言ってギルドマスターは、手元の端末に写真を表示させた。砂浜に船体を乗上げて中から兵士たちを砂浜に上陸させているシーンの写真だった。
「似てますね。」
「でしょう。」
「しかし、兵隊を搬送するだけなら、強襲降下艇でいいですよね。 しかも、人を運ぶには、大きすぎる。身長20mの巨人でもいたら別でしょうけど。」
「確かに。そんなものは存在しませんからね。」
2人は声を出して笑った。
「まっ、大型可変長マニュピレーターを搭載した建機じゃないですかね?」
「でしょうね」
サナトリア統一連邦共和国 ハザウィ岩礁宙域高機動軍演習場 会議室
「本日の訓練をもって、全ての訓練を終了とす、脱落者も出ず良く頑張った。食堂からの料理で悪いが、
ささやかながら打ち上げの用意をせてある。今日は、おおいに飲んで食べてくれ。
それと明日は休暇とする。以上解散!」
それを聞き、整列していた兵士たちからは歓声があがった。各部隊から選抜された300名。
新型兵器の操縦訓練を約1ヶ月休み無しに続け、本日ようやく全員が、合格点が取れて訓練から解放されたのであった。
兵士たちはそれぞれグラスを持ち、めいめい仲のいい者と、今後の戦い方やお互いの技量について語らっていた。
その楽しげな様子を見ていたアケミに
「アケミ元帥殿。ご指導ありがとうございました。」
帝国第一連合艦隊所属で、新部隊を預かる大隊長に任命されているイナバ・カイラ中将が、アケミに対して最敬礼にて感謝を示した。
「なに堅苦しい挨拶しているんだ?そもそも、お前に感謝されるいわれはないんだが。」
アケミはめんどくさそうに返事をすると
「いえいえ。おおありです! 居残り訓練にまでお付き合いくださって、ありがとうございます。
おかげで、我が部隊の練度が数段上がりました。」
「何を言っている?私にしたら、辛うじて合格点なんだぞ。まぁ、実戦ですぐに死なれては、私の目覚めに悪いからな。最低限の指導をしただけだ。後は、死なないように精進しろ!」
「わかりました!いずれは、アケミ元帥殿と轡を並べて戦える日を…」
「フッ。いいよる。それがしたければ、私の狼龍騎兵に勝てよ。それが出来なければ、無理だからな。」
「そっ、それは…」
「まぁ、今日は訓練を忘れて楽しめ。」
「はい。」
イナバは、アケミから離れて部下のもとへ、そこへ
「アケミ元帥殿。お邪魔してもよろしいかな?」
初老の将校が、グラスとウィスキーボトルを持ってアケミの座る席へと近付いてきた。
「これは、司令官殿。こちらで良ければかまいません。」
そう言ってアケミは席を勧めた。アケミの前に座ったのは、帝国第一連合艦隊総司令官だった。
「これで、良いかね?」
総司令官は、一本のウィスキーボトルをアケミに見せると
「いただきます。」
と言ってグラスを差出した。総司令官は、そのグラスの半分程ウィスキーを注ぐと、自分のグラスにも同じく注いだ。
どちらかともなくグラスを掲げると、クイッと飲み干した。今度はアケミが、ボトルを手にして総司令官のグラスに注ぎ、そのまま自分のグラスに注ぐ。
「アケミ元帥殿。あの新型兵器を我々に供与していただき、ありがとう。これで、第三艦隊に一泡吹かせる事が出来そうですわい。」
と言って笑った。
「確かに、そちらにはない装備ですからね。初見殺しで一気に行けば勝算は高いでしょう。」
「そうですな。慣れるまでに叩いて置かないと。なに、対抗策を取られるまでに終わりにしますよ。」
そう言って、窓の外に待機体勢で、整列している大型人型ロボットスーツに目をやった。
サナトリア統一連邦共和国から帝国第一連合艦隊へ供与した兵器は、サナトリア統一連邦共和国軍正規採用RX-87 無頼 強襲タイプだった
艶消しグレーカラーのボディカラーで統一された、全高20mの人型ロボットスーツ
元々は地球において、スペースコロニー建築のために開発された建設用重機で、地球では、正式名称『特殊多足車両汎用建築重機 RS-7』 通称 『源さん』 基本カラーリングは黄色と黒色のストライプ。
その後、地上でも稼働できるように、核融合炉から高出力バッテリHBTに換装した『特殊多足車両汎用建築重機 RB-7』は
関西国際空港を、宇宙港としての改修に使用された機体だった。
『特殊多足車両汎用建築重機 』と言う呼称は、開発した日本国内において運用に関して、
現行の道路交通法の解釈を流用したため、あくまでロボットではなく特殊車両であり、
その為日本国内において特殊大型のナンバープレートが交付される。
ちなみに、標準装備品にシャベルがある。無い場合は、整備不良車両として罰金刑に処される。
それを日本国防隊が災害時、通常部隊が活動困難な場所への救援活動のためと購入し、
有事の場合緊急防衛行動がとれるように、専用武器を所持出来るように改装した『特殊多足車両汎用重機 RB-7』へと発展
さらに武装ではなく、ツルハシ、ハンマー、ドリル等土木工事特化させた、スペースコロニーに本部を置く国際赤十字強襲隊仕様の『極限地域救援重機 SD-9』がある。
この2機種は、後に紛争地域に過大な影響を与えるのだが、ここでは割愛する。
それをベースに、サナトリア統一連邦共和国にて出力アップすることで、戦闘特化させたのがRX-87 無頼 だった。
その中でも、大気圏外から地表降下装備が標準仕様の強襲タイプを、帝国第一連合艦隊へ供与したのであった。
慣性駆動制御を組込んだ小型高出力炉の出力を余すことなく使うこの機体は、大気圏突入も離脱もやってのける性能を誇り
内蔵火器は無いが、宇宙空間では150mmレーザーライフル銃、惑星上では120mmライフル銃又は700mm無反動砲が装備出来る。
ちなみにサナトリア統一連邦共和国では、新型のRX−89無双がすでに実戦装備されており、
帝国第一連合艦隊に供与した機体300機が、攻め込もうとしても瞬時に鎮圧出来る兵力が有った。
「初めてのあの機体を見せられたときは、度胆を抜かれましたぞ。」
「そうですか?」
「あのような兵器が有効であるとは、帝国人でなくとも、誰も思いつきませぬ。最初は、冗談かと思いましたからな。」
「で、今は?」
「大いに気に入っとります。確かに、戦闘機には高速性能で劣りますし、戦闘艦とは火力に劣ります。
逆に考えると、戦闘艦よりも起動性能、高速性能優れ、戦闘機よりも火力が強力であるということですからな。
後は、この部隊を迅速に移動させる船があれば良いのですが。サナトリア統一連邦共和国ではどのようになされているのですか?」
「我が軍では、大型空母に専用スペースを用意させて運用していますが、そちらの空母にはそのスペースが問題なのでしたね。」
「その通りでして、輸送船を改装する案が出てきています。」
しばし2人は、屋外に整列している大型人型ロボットスーツに目をやった。
「仕方がないなぁ。アイツの思うままに動いているのは、癪にさわるが、アイツの筋書き通りなんだろうねぇ。」
アケミは、そう呟いてグラスを空にすると、総司令官に向き直り
「船を用意させてます。というか、間もなく専用船がこちらに届く算段に成っております。」
そう告げると、総司令官は驚き、
「そこまで、していただかなくとも…」
「いえ。船は、そちらの第一皇太子様からの手配ですから、お気になさらず。」
総司令官は、一瞬考える仕草をすると
「ありがとうございます。あの方の采配ですね。何から何まで、我々の為にしていただき…」
と、感謝の言葉をさえぎりアケミは、
「それは、違うから気にしなくても良い。アイツは、己の得することにしか関心がない。」
ぶっきらぼうに応えた。理解出来ない顔をして、
「そうは言われますが、あの方にとって、これらの支援は何が得なのですか?我々から見れば、資金に物資を無償で提供しているとしか思えないのですが。」
アケミは、しばし視線を窓の外に向けてから
「言いにくいのだが、多分あなた方が帝国内に居られると、やり辛かったのではないかな?」
訳がわからない顔をして
「どう言う意味でしょうか?我々が帝国内に居ると、困るってことですか?」
頷くアケミ。
「あくまでも推測なのですが、あなた方が動くことによる経費を抑えたかったのではないかな?」
「経費?」
「アイツは、金に細かい。あなた方の第一連合艦隊と相手の第三艦隊が、戦ってかかる費用と、戦わないでかかる費用。どちらが多くかかりますか?計算するまでもなく、戦わない方が安上がりなのですよ。」
「しかし、それでは勝てません。」
「総司令官殿。何をもって勝利なのですか?」
「えっ?それは、…」
「サヨリが加担した時点でこの内戦は、初めから武力行使による戦い方ではないのです。
それが解っていなければ、損害が膨れ上がって行くばかりで、気がつく頃には、国に金が無くなっているのですよ。」
「アケミ元帥殿!それは、どう言う意味でしょうか!」
「現在、帝国星系は、全ての経済活動から切り離されました。第三皇太子の支配宙域は
言うなれば絶壁の孤島状態で、物資はおろか情報も入らないように孤立させられています。
このことがどう言う意味かおわかりでしょう。」
それを聞き、顔を青ざめて
「そんな無茶な!情報統制は兎も角、物資の輸送船を止めれるはずはない…」
「と思うでしょう。サヨリは、それをやってのける力が有るとしたら?」
アケミは、そう言って顔を見つめると
「まさか…ギルドになにかしたのですか!そもそも、そんな方法が有るのですか!」
「方法は知りません。しかし、煽動して誘導するだけなら私でも出来ます。アイツの怖いのは、
煽動しないで誘導する所です。どうやったのか、まったくわからないのですが、
現在主な航路は、全て帝国星系に行きません。」
「しかし、帝国星系からの鉱物資源が無ければ、立ち行かない産業も存在するのです。それは、どうやっ…」
「我が国の鉱物資源を、帝国領土へ輸出しております。」
「えっ。しかし、距離が遠くてコスト的に合わないのでは?」
「それも解決済み、としたらどうですか?」
「解決済み?もしやサナトリア統一連邦共和国が僻地で行っている、大量破壊兵器の処分方法になにか秘密があるのですか?」
アケミは微笑をたたえた顔で
「我々も最近知ったのですよ。宇宙の壁にトンネルを掘れば大幅に航路が短縮する事にね。」
「えっ?宇宙の壁の向う側に行けるのですか?」
「行けたのです。距離にして2500万光年のトンネルを掘ればね。4億光年以上の距離が6000万光年にまで短縮出来るって。
しかし、トンネルを短期間で掘るには、通常通りのやり方では時間がかかるので、強力な兵器をダイナマイト代わりに使って、工期の短縮。トンネル拡張すれば、良質な鉱脈が露わになって取り放題。それを工事費用に回してさらに強力な兵器でトンネルを掘る。の繰り返しで想像以上の速さで貫通しましたよ」
「しかし、サナトリア統一連邦共和国からのトンネルを掘ったとしても、帝国には。」
総司令官が言いかけたが、アケミの顔を見て
「まさか、我が国からもトンネルを掘ったのですか!」
アケミは頷いて
「我が国の宇宙の涯ステーションから貴国のトレーダー星系までの距離が、今までであれば、
20日間以上かかったものが、5日間程で到着出来ます。それ程短く成っております。
しかも、全ての工事にはサヨリの息が掛かった企業団が、主体的に行っているのです。
だから、アイツが損をしているわけではないのです。癪にさわるが、しっかり稼いでいるんですよ。
こちらに供与した装備品なんぞ端金に思えるほどに。」
「それでは、この内戦は、サヨリ殿の掌の上ですか!」
「多分、第三皇太子がサヨリの奴を怒らした結果ですけどね。」
「サヨリ殿を第三皇太子が怒らした?」
「どんな理由か、内容かはわかりませんけどね。我々はサヨリが怒り、第三皇太子に報復措置をしていると考えています。そうでなければ、アイツがここまでやる理由がわからないので。」
アケミはそう言って、グラスに口を付けた。