帝国内戦11
まだいける
サナトリア統一連邦共和国の最大である鉱物資源採掘現場が有る、宇宙の涯と呼ばれた壁が存在する。
有人極深宇宙探査船の最大ジャンプ距離は300万光年、無人極深宇宙探査機の最大ジャンプ距離は、500万光年をもって挑んでも、縦にも横にも計り知れない程広がり、厚みに至っては、調べる為に数百機探査機を送り込んでも、全て行方不明になってしてしまっていた。
理由として考えられたのは、500万光年以上にわたり濃密な星間物資が厚い岩盤状と成っており、
ジャンプアウトした探査機が亜空間から実空間に転移する時に、濃密な星間物資と融合による対消滅してしまい、探査機自体が消滅してしまった、と考えられた。
よってそれを超えた先に何が有るか?誰も想像が出来なかった。
その為、不可能な挑戦の事を、宇宙の壁を越えるような物、と言われていた。
ただ、この壁を形成している星間物質は優良な鉱物資源の宝庫だったので、採掘業者が居るだけの宙域だったのだが、
サナトリア統一連邦共和国が突然、壁の中、及び壁の向う側の開発を提言。
それは、すぐさま実行され莫大な資本が投入された。
それは、おりしも帝国という星雲国家との邂逅後だっただけに、国力を高めるために国家予算を回すべきで、ほぼ全て国民は、無駄な公共事業で壮大な無駄遣いだ!と批判的だった。
壁と言えど、実際は濃密な星間物資の空間で、山にトンネルを振るようなことではなく
濃密な星間物資を取り除くことにより、ジャンプアウトできるだけの空間を広げる工事だった。
その為、トンネル工事では普通は岩を砕きながらあけて進むところを、まずは200万光年先に
使用期限の切れた熱核反応弾と核融合弾を送り込んだ。
それにより、ジャンプアウトする時に起こる空間震である程度隙間が空くが、どうしても干渉してしまう場所が存在する。
その為、干渉したところが、対消滅して大爆発を起こし周りの岩盤を砕き消滅させる事で空間を広げる。
破壊兵器と対消滅を併用した、前代未聞の削岩システムを作り上げた。
それを繰り返し一定の空間が出来ると、次は時空震弾でさらに空間拡張とスペースデブリ消滅させると、
観測衛星を送り込み、空間の大きさを測量し、作業用スペースコロニーが送り込める空間が有ると判断すると、コロニーが送り込まれ次に作業員が送り込まれる。
それを繰り返すことにより、工事を開始してわずか2ヶ月半と言う期間で、全長約2500万光年の壁を越えるとそこには未知の宇宙空間が広がっていた。
新宇宙探査団が編成され、出来た宙間トンネルを開拓者トンネルと名付け、
近い星系の探査を始めた。すると、トンネル出口から8光年と近い場所に、まだ若い恒星で、
12個の惑星を持ち、その中で4つの惑星はテラフォーミングしなくても移住可能な惑星があり、
特に適しているのは、第5軌道上に有る双子惑星だった。
各惑星の地表スキャンしたところ、知的生命体の痕跡は発見されず、惑星開発に関して先住民との争いを起こす要素が無かった。
この世紀の発見はすぐさま、サナトリア統一連邦共和国へ連絡された。
すると、サファイア大統領自ら見てみたいと調査団へ打診があり、調査団は危険性は少ないものの、
安全上の配慮から衛艦隊を随伴させるならば、現場まで視察に来られても大丈夫と返答した。
サファイア大統領は、急遽視察艦隊を整え、現場へと急行した。
その陣営は、サファイア大統領が乗船する旗艦戦艦ナガトを筆頭に、サナトリア統一連邦共和国軍第一連合艦隊所属 第八旅団艦隊の戦艦4隻重巡洋艦8隻空母2隻駆逐艦10隻が随伴し、アケミ元帥が指揮を取った。
「まさかなぁ。また来るとは思わなかったよ。」
コウイチが、旗艦ナガトの艦橋から発見された惑星を眺めていた。
調査団長が
「サファイア大統領。この宇宙の開発の拠点をこの星系に据えて、開発団を常駐させはどうでしょう。」
そう進言するとサファイア大統領は
「調査団長さん。これらの惑星には既に命名したのですか?」
「いえ。単に識別する為に記号番号を振りましたが、命名はしておりません。」
「そうですか。じゃ、誠に図々しいお願いなのですが、発見者であるあなた方を差し置いて、私くしめに、この双子惑星の命名権を譲って頂けますでしょうか?」
「この星系全てではなく、この双子惑星だけですか?」
「はい。この星系にはこの発見をした調査団の名前を命名いたしましょう。」
「有り難いお言葉。では、サファイア大統領。この双子惑星の名前は?」
サファイア大統領は、そう聞かれ双子惑星を見ながら
「片方の惑星は、私しの留学先である地球を思い出される惑星ですね。丁度、地球に似た海洋惑星で、陸と海の比率が3対7と地球に似ています。そこで、地球の別の言語での名前で呼びたいと思います。あの惑星をテラと名付けます。その双子惑星である片方は、陸と海の比率が7対3と逆なので、ラテと名付けます。いかがでしょうか?」
その言葉を聞き、コウイチとアケミは引き攣っていたが、調査団長は感銘を受けた様子で
「テラとラテですか。言葉の響きが素晴らしい。他の惑星も、似つかしい名前を付けなければいけませんな。」
「ありがとう。コウイチさんは、この名前はいかがですか…」
そう言って笑顔で振り返ったサファイア大統領が、夫であるコウイチとアケミが頭を抱えたようにしているのを見て
「どうしたのですか?」
コウイチとアケミは
「なんでもない。」
「そう。なんでもないから、気にするな。」
サファイア大統領はいぶしげに
「でも、何か困った顔ですから。」
「後で、説明するから。」
「コウイチ。任した。」
こうしてこの双子惑星の名前が決まったのであった。
そこへ周辺警備をしていた駆逐艦隊から『他国の調査団らしき船団を発見確保したという』内容の入電があった。
抵抗せずこちらの指示に従ってくれているので、対応についての問い合わせだった。
どこから来たのか調べたいので、本隊へ招待するように指示。到着するまでの間に、惑星開発について試案を出し合うことに。
半日ほど時間が経った頃、件の調査団が到着したと連絡が入った。
戦艦ナガトの貴賓室で待っていると、5人の男性が入室して来た。こちらの出席者は、サファイア、コウイチ、アケミの3人。
「はじめまして、サナトリア統一連邦共和国大統領、サファイアと申します。」
「はじめまして、サナトリア統一連邦共和国外部大臣のコウイチです。」
「はじめまして、サナトリア統一連邦共和国軍最高司令官のアケミと申します」
まずは、サナトリア統一連邦共和国側から自己紹介をした。すると、相手の調査団員達に動揺が走ったように見えた。
調査団で年長者の男性が
「帝国より参りました。トマークステンと申します。この新世界調査団の団長をつとめております。」
それぞれ自己紹介が終わり、本題に。まずはサナトリア側コウイチから
「帝国から来られたようですが、どのように?」
とたずねると
「宇宙の壁と我々が言ってる、高密度星間物質帯に通れるように穴を開けて参りました。その、そちらもですか?」
と返答してきたので
「そうですね。我々も宇宙の涯と呼んでおります、高密度星間物質帯にトンネルを開けて参りました。」
少し悔しそうな顔をして
「タッチ差で、あなた方の方が早くここに来られたわけですね。」
「そうなりますね。」
トマークステンとサファイアは、お互いを見つめた。
しばし沈黙が支配する会議室
先に折れたのはトマークステンだった。頭を掻きながら
「これで、私は賭けに負けましたな。」
意外な一言にサファイアは
「賭けですか?」
「はい。我々の方が早く着くと言ってここに来たのですが、あなた方が先に来ていた。これは、サヨリ様のひとり勝ちですね。」
「今、サヨリと言いました?」
「はい。そうです。あの方の指導の下、このプロジェクトを推進してきました。もう一つのルートの方も、もうすぐここに到着するでしょうけど。」
少し残念な顔をして話すトマークステンだったが、アケミは
「もう一つのルート?なんですか?そのルートは?」
と質問すると
「帝国帝都への、ルートの事です。」
「えっ!帝国側から二本のトンネルを造ったのですか?」
まさかの直接、帝国の中枢に行けるルートの存在にサナトリア側は驚きを隠せなかった
「そうです。そちらは、違うのですか?」
余りの驚き方に、トマークステンは逆に驚いてしまっていた。サファイヤが
「我が国は、涯に近いのは1ヶ所しかないので。帝国では、何箇所も壁に近いところが有るのですか?」
素朴な質問をすると
「我が国も、そう何箇所もあるわけではありませんが、帝国星系が壁に一番近く、次にトレーダー星系が近いですね。それ以外は、かなり離れています。」
と答えてくれたが、コウイチは事の重大さに
「アイツ!何やってんだが。」
この場所にいないサヨリを思い、天井を睨みつけた。トマークステンは
「サファイア大統領殿。先だって我が国との通商条約を交わしましたが、まだ有効でありましょうか?」
と真剣な顔でたずねてきた。サファイヤは
「我が国は、破棄をしてはおりません。」
と答えた。その言葉にトマークステンは、顔をほころばせ
「ありがたい。内戦状態になり、条約が無効になりはしないかと心配しておりました。
この場を借りてはなんですが、こちらにある鉱物資源のリストに有るものを、至急に輸入したいのですが。」
と言って立派な表紙で出来た1冊の冊子を差出した。
コウイチが手に取り中を確認すると、
「これは、通商条約に乗っ取たフォーマットですね。これらの物資を購入したい、と言うことですか?」
と言ってリストをサファイアに手渡した。
「はい。現状、最大規模の鉱物産出量を誇る帝国星系からの供給が止まった状態でありまして、
各星系都市の備蓄量がそろそろ底につく状態でありまして、なんとしても帝国星系以外からの、
安定供給出来るルートの開発が、我々調査団に架せられた任務であります。
現在、掘ったルートの資源調査も行っておりますが、商用レベルまで乗せるには時間がかかると思われます。
そこで、サナトリア統一連邦共和国側から輸入する事が叶うならば、物資不足の解消になります。なにとぞ、お願い申し上げます。」
そう言うと、調査団全員が頭を下げた。サファイアは、
「調べて見ないと即答は出来ませんが、これだけの物資を、帝国側に売ることには問題はないでしょう。」
その言葉で、嬉しそうに顔を上げる調査団にサファイアが冷たい口調続けた
「ただし、こちらからも条件が有ります。」
の言葉に怯えたように
「何でしょうか?」
「そちらのここまでのルートの、座標値の公開を約束していただかないと、条約の締結には応じられません。
それを公開していただけるのならば、この場で条約の締結しても構いません。」
その言葉を聞き、トマークステンは安堵の顔を見せた。
「それでしたら、こちらに2つのルートの座標値が入ったチップがございます。」
と言って、鞄から厳重に封印された箱を取り出してきた。
「内容のご確認をお願いいたします。」
トマークステンは、自ら封印を解き中から1つのメモリーチップを取り出した。
それを受け取ったアケミは部下に、データー解析を行うように命じた。
「私が言うのも何なんですが、本当に良いのですか?これは、国家機密に筆頭する物ではないのですか?」
サファイアはまさか、即答で了承されすぐさま提供されるとは思わなかったので、戸惑いを隠せなかった。トマークステンは、落ち着いた口調で
「これも、サヨリ様からの言付けで、持参いたしました。」
「サヨリさんの言付け?」
「はい。国家予算を使い、他国に知られないように造った物ならは、隠し通せ。でも、これは、
金持ちの道楽と節税対策で行ったものなので、欲しいと言われれば、それなりの代価で差し上げろ。
と言われてましたので、物資取引確約と引き換えに差し上げます。」
と言って、微笑んだ。
「サファイア、サヨリにやられたな。」
アケミは、そう言って、サファイアの肩を叩いた。コウイチが
「金持ちの道楽と節税対策か、アイツどれだけ儲けているんだ?」
と言って天井を見た。
そこへ新たな未確認艦を見つけ、拿捕したのでどうすればよいか?とパトロール艦から連絡が入った。
「帝国星系から来た船だろうなァ。連れて来てもらうか。」
コウイチがそう指示して、しばらくするとパトロール艦に挟まれて1隻の船が到着した。
戦艦ナガトの乗組員によって案内されてきたのは、軍服を着た恰幅の良い将校だった。
連れられてきたその将校は、テーブルについているトマークステンを見ると
「そちらの方が早かったのか。」
と声をかけた。
「ヒラカ・ドニ中将。このレース私どもの勝ちですな。」
トマークステンがそう答えると
「ふん!サナトリア国家の方が早かったので、この勝負はドローだ。」
と返答してから、サファイヤ達の方に向き直り
「自己紹介が遅れました。私、帝国軍旧首都防衛第2守護艦隊隊長 ヒラカ・ドニと申します。」
と言って敬礼をした。アケミが立ち上がり
「はじめまして、サナトリア統一連邦共和国軍最高司令官のアケミと申します」
とアケミが答礼をすると
「あなたが、アケミ元帥ですか!お目にかかれて、うれしく思います。」
とヒラカ・ドニは嬉しそうに顔をほころばせた。
「私をご存じで?」
「はい。第一連合艦隊の中に私の悪友が居りまして、その者から伝え聞いております。素晴らしい軍人だと。」
「すまない、ヒラカ・ドニ中将殿。座って話を聞かせてもらえるかな?」
思わぬ言葉にアケミが珍しく照れていた。
全員が座り直したところで、コウイチが
「ヒラカ・ドニ中将殿。先ほどの紹介で、旧首都防衛第2守護艦隊と言っておられたが、首都防衛第2守護艦隊は、すでに帝都近海から撤退したのではないのかな?」
と、質問を投げかけると
「はい、本隊は惑星デメルザークまで撤退いたしました。ただ、私が乗っている護衛艦ノーライは、
撤退命令が出た時には、回廊とは反対側で作戦行動中でして、反乱軍の警戒が厳重になり撤退が不能になっておりました。
そこで最後までゲリラ戦を仕掛け、後方攪乱して味方を逃がそうとしましたが、
『採掘現場の深部にて待機せよ。』と言う通信が入り指定されたポイントへ行くと、
推進剤や食料を詰めたコンテナが有り、それで補給を済ませ次の連絡を待っていると、
来た連絡がそちらにいるトマークステンからのものでした。
宇宙の壁を抜けると言った荒唐無稽な連絡ではありましたが、送られてきた航路用座標は見たことのない座標で、
壁を抜けた先で落ち合おう言った内容を伝えられ、指定された未知なる座標を頼りにここまで来たわけです。」
ヒラカ・ドニはそう報告して、お茶を一口飲んだ。
「お前さんの方が、足も速く距離も短いので、先に着くかと思っておったが、遅かったようだな。」
トマークステンはそう尋ねると
「飛んだ先々が、ひどく狭く星間物資も多く漂っている荒れた回廊で、それらを排除しつつ行軍してきたので、時間がかかってしまった。」
「うん?途中に中継スティションは無かったのか?」
「そんなもの、ありはしない。どうやってこの空間を知ったんだ?って思えるような空間を繋いだとしか思えない、座標だったぞ。お前の所は中継ステイションがあったのか?」
「有ったぞ。と言うかトンネル工事をして作った回廊だから、要所要所にはそういったものがあって当たり前だろう?」
「いやいや。あれを工事したと言うのならば、手抜き工事そのものだぞ。それか、手掘りで作ったトンネルだ。
指定座標以外でジャンプアウトしたものならば、星間物質に確実に当たってしまっただろう。
どう見ても、急拵えで作りました。って有様だった。」
2人の話しを聞いてサファイアは
「掛けた予算が違うのでは?」
と言って2人を見た。
「予算?」
「そうです。トマークステンさんはトレーダー星系から来られた。それは、サヨリさんの影響を十分行き渡っていて、ある程度物資を動かしても第三皇太子側にバレる事が少ない。
ヒラカ‐ドニさんは、第三皇太子の支配権下の所から来た。ということは、バレず作業するには、最小限の設備でなおかつ、最小限の人員で行わなければ計画が露見してしまう。
その為、工事をほとんど無人で行わなければ、ならなかったのではないでしょうか?そう考えると、腑に落ちませんか?」
しばらく2人は、考えると
「確かにそうですね。そう考えると理屈に合うのだが…」
「しかし、無人であれだけの工事が出来るものだろうか?」
「リアルタイムに状況を把握してないと、あの工事は出来ない。亜空間通信を駆使しても、どうやってのける事が出来たのか」
「サヨリ様には、不可能なことはないのだろう。」
2人はサヨリに対して、改めて畏怖の感情を浮かべていた。
コウイチは、
「量子通信の事は教えない方が良さそうだな。」
と、サファイアの耳元でサファイアにしか聞こえな声で話した。
(まったく!サヨリさんはこちらの新技術を、どこまで帝国に浸透させているのかしら?まだ、こちらでも試験運用が始まったばかりなのに)
サファイアは、サヨリの行為に心の中で毒付いていた。
しかし、サファイアは知らなかった。サヨリが、サナトリア統一連邦共和国内に密かに拡めた仮想サーバーと、サヨリの暴走を後押しする人物がいた事に。
その為サファイアが試験運用と思っていたが、実際はサナトリア統一連邦共和国内では、既に本格的商用運用をしていることに。