表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第3章
110/144

帝国内戦5

 帝国国内において第一皇太子タケルヤマト陣営とミツシサキシリア第三皇太子陣営で内乱状態になり、すでに1ヶ月。

両陣営は膠着状態になっていた。

とは言え帝国国内において、今はまだ市中には戦中のような荒れた雰囲気は無く、国民は普段通りの生活をしていた。

 その理由は、惑星近郊や表面での戦いがまったく無かったからである。そのため、宇宙に上がらない庶民には、あまり関係の無い内乱となっているからであった。

厳しい報道管制もされておらず、普段通りのメディア報道にて、どこかの宙域で両者の艦隊が交戦を行い、双方の被害報告(各陣営発表)が報道される

と言った、情報が入ってくるだけで、あまり生活には大きく変化する事が、無かったからである。

国内経済は、一時的に軍事物資の生産が飛躍的に伸びたが、今は落ち着き内乱前の水準を維持していた。

でも、徐々にではあるが、帝国主星の航路を行き交う貨物船や輸送船の数が減り、そのため物資の搬送量が減り、主星ではインフレが始まっており、物価が上がり出していた。


 しかしこの1ヶ月間、ミツシサキシリア第三皇太子が率いる第三打撃艦隊は、帝都から離れる事が出来ないでいた。それは、タケルヤマト第一皇太子の行動がいまだに掴めないからであった。


 タケルヤマト第一皇太子の領地から発信される、タケルヤマト第一皇太子自らの演説を信じるならば、領地にいると思われるのであるが、タケルヤマト第一皇太子側に付いている首都圏防衛艦隊が、事あるごとに首都圏まで近づきタケルヤマト第一皇太子と、交信をしているからである。 


 発信源の逆探知をするものの、手掛かりを掴めずにいた。

そのため、タケルヤマト第一皇太子は、領地にいると見せかけて、実は帝都に潜伏しているのではないか?

 いやいや、どちらもフェイク情報で、タケルヤマト第一皇太子は、いまだに行方不明の第一連合艦隊と共に行動をしていて、帝都の守りが薄くなるタイミングを狙って、帝都奪回してくる計画だ。

とか、信憑性の高い情報まで付いている噂が、あちらこちらで立ち上ぼり、真偽の確認作業に追われているからであった。

その為、ミツシサキシリア第三皇太子の指揮する第三打撃艦隊は、第一連合艦隊の襲来を恐れ帝都から動けず、他の艦隊から分隊や遊撃部隊を編成して対応している状態であった。

時には、派遣した遊撃部隊がタケルヤマト第一皇太子側の艦隊と遭遇する事もあり、その時は艦隊戦を行う事もあった。

戦いは、毎回熾烈を極め、かろうじてミツシサキシリア第三皇太子側が勝利と呼べる程度だった。

 特に主星からほど近い、バーミューハ岩礁宙域戦では、ミツシサキシリア第三皇太子側の偵察部隊が偶然入手した、タケルヤマト第一皇太子側の補給艦隊が集結する情報に、十全な準備を整えたミツシサキシリア第三皇太子側の艦隊が奇襲攻撃を行った。

 タケルヤマト第一皇太子側の艦隊は、主に足の遅い輸送船がメインで武装艦が少ない事もあって、ミツシサキシリア第三皇太子側の攻撃に対して無力で、自爆する艦艇もいて6割もの艦艇を沈められて敗走した、とミツシサキシリア第三皇太子側が発表したが、

それに対しタケルヤマト第一皇太子側は、ミツシサキシリア第三皇太子側の艦隊に対して、甚大な被害を与えつつ戦略的撤退を行ったが、当方の乗員に()()()()は無かったと発表。

 双方の言い分が食い違っていた。

 しかしミツシサキシリア第三皇太子側の艦隊は、出撃する度に破損して帰港するために、ジリジリと損耗艦が増えてきており、帝都周辺のドックは、修理待ちの順番がでいていた。

それに対しておかしな事に、タケルヤマト第一皇太子側の艦艇がドック入りしている情報が1隻も無かった。

ミツシサキシリア第三皇太子側は、タケルヤマト第一皇太子を匿っている星系都市が有るのではないか?と、調査するがドック入りしていた軍用艦艇は1隻も無かった。

では、どこで補修作業をしているのか?タケルヤマト第一皇太子領地のドックは1基しかなく、今までの戦闘において傷付いた艦艇を補修するには、それだけで賄えるわけはなく、どこかで補修作業をしているはずなのに、ミツシサキシリア第三皇太子側ではまったく解らなかった。

 しかも、連日のようにもたらされる、第一連合艦隊の発見情報に対しての確認作業と、タケルヤマト第一皇太子側からの帝都周辺に対する強襲偵察行為に対応するために、出撃を繰り返して、ミツシサキシリア第三皇太子側の兵士達に、疲労が溜まりつつあった。

 アシヤも連日のように作戦会議に出席しており、1つ1つの作戦の結果については、ほぼ満足のいくものであった。 


 しかし、この日の会議において、アシヤが少なからずとも冷静さを欠ける発言を再三してしまい、苛立たしく思っていた。

それは、艦隊作戦行動予算が尽きると言うことだった。


 定時作戦会議の席に、普段は顔を見せない大蔵財政省からきた事務次官が開口一番、

「今年度の艦隊行動予算が、尽きました。むやみに艦隊を動かさないでいただきたい。」

と発言し、会議に参加していた将校達を驚かせた。

「何を言っている?今がどういう状況か、わかっているのか?」

その役人は、会議に参加の各人の端末へ資料を送信して

「わかっております。今、お配りいたしました資料をご覧ください。今年度の軍用予算枠を、ほぼ使いきっております。現在、修理に必要な艦艇は、かろうじて修理費が支払える見込みですが、これ以上の艦艇の修理をする場合、政府予備費からの出費となりますので、申請用紙に必要項目を記入の上、大蔵財政省に提出して下さい。審査の上認可が降りた物だけが対象となります。」

資料に目を通したアシヤが、

「おい!これはなんだ!消耗品にまで、承認がなければ、補給すら出来ないって!」

資料を一瞥した事務次官は

「そうです。」

と、当たり前のごとく返した。アシヤは語気を強めて

「これは、戦争なんだ!」

と言いよるが、

「では、予算会議にて戦時徴用予算を申請して下さい。さもなければ、皇帝陛下の勅命の朱印状の提出を、お願いします。国税使い道は、軍用の費用ではございません。国内で国民の為に必要な費用です。」

冷ややかにそう告げられ

「敵の損失艦艇の数からすれば、もう一息で勝利が掴める所まできておる。ここで躊躇していたら、また相手が盛り返してしまう。それを防ぐために予算を廻せ!第一連合艦隊や近衛艦隊の予算枠が有るだろう!それらをこちらに廻せ!」

「無理ですな。」

「なぜだ?」

「すでに、廻しております。」

「なに?」

「第一連合艦隊や近衛艦隊、延いては第一皇太子側の艦隊は、1圓たりとも申請してきておりません。よって、今年度の艦隊予算枠一杯まで、第三皇太子側の艦隊が使用しております。」

「なんだと!では、第一皇太子側の艦隊は、どうして消耗品の類いを補給しておる!」

アシヤは事務次官に詰め寄るが、

「さぁ。私は、一介の大蔵財政相の役人でありますから、予算に対してはお答えできますが、物資につきましては感知しておりませんので、その事でしたら、軍政省がお詳しいのではないかと。」

アシヤがその言葉で、思い出したように

「軍政省に、余剰金が有るだろう。あれを使えば」

その言葉に

「大蔵財政省から一言申し上げます。専用用途予算につきましては、別項目に使えませんので、お気をつけください。最悪、横領として扱われます。」

としれっと忠告した。

余剰金の用途として、戦時見舞金支給や兵役年金の割増とされていた。これでは、ミサイルどころかレーションの一欠片も買えない。

「もしも、お使い成りたいのであれば、法改正が必要となります。」

「どうすれば、良い?」

「再来月に開かれる来年度予算会議に提出されれば宜しいかと?」

涼しい顔で答える大蔵財政省の事務次官だった。



 同じころ、ゲッペル情報少将も冷静にいられない状況に追い込まれていた。

彼女の元には、警察、公安、軍諜報部隊からの情報がリアルタイムで流れてくる。

その莫大な情報量を、瞬時に見分けられる能力を彼女は有していた。そのため、情報の矛盾が発生していることに気付き原因究明に部下に調査させた。


 彼女は、アシヤが行き詰まっていた特級侍女サヨリの情報を別角度から、考察していった。

しかし、調査すればするほど混沌してきて、訳がわからなくなっていく。


 例えば式に直すと A=B B=C なのにA≠Cとなる式が成立しているのであった。

ゲッペルが知るに置いて、まったく考えられない事ばかりだった。特に経歴が詐称か?それとも、同姓同名の人物が多数いるのか?とも思えるものばかりだった。


 カキモトサヨリと言う名前が出てくるのが、9年前に帝国軽巡洋艦による、サナトリア統一連邦共和国の民間サルベージ船誤砲撃事故により、帝国側に救助されそのまま移民登録。

この記録が公的な記録として一番古い


 現在は帝国公安当局に()()()として席を置いていて、自己采配による捜査権も取得している。

自己資産で口座に20億圓を越える資金を持ち、有価証券をも含めた総資産額は20兆圓を越えると言われている。

生まれ故郷では貴族(侯爵)当主で、帝国国内の政界、経済界等に知り合いがおり、つい最近まで皇帝陛下付き特級侍女をしていたと言う。

タケルヤマト第一皇太子とは5年前の皇帝生誕パーティーで知り合い、それから友好を深めている。

現在の住まいは、勤め先の最寄り駅から4つ目の駅から歩いて15分ほどにある、2DK家賃18000圓の国営集合住宅の19階に1人暮らし。

集められた情報を見て、カキモトサヨリと言う女性は、どこから突っ込んだら良いのかわからない女性だった。アシヤが調べていた女性と同一人物?と、不安感が押し寄せてくる。


 貯金が20億圓も有るならば、なぜ低所得者用国営集合住宅に住んでいるのか?これも、セフティーハウスの1つなのか?

そもそも貴族ならば、なぜサルベージ船に乗って仕事していた?貴族階級と言うのは嘘か?

移民者なのにどうして、選民主義の権化のような公安当局に正職員として採用されている?

しかも、自己采配による捜査権まで保有していると言うのは、かなりの上位役職者ではないとあり得ない。

そもそもなぜこの時期に、皇帝付きの侍女なんかしてた?公安局の密偵として、今回の我々の計画を調査をしていたのか?

 それにしても特級侍女と言う、年1、2名しか合格出来ない高難度資格の獲得。身辺調査はどうしたのだ?

と思って彼女の保有資格を見ると、高難度の資格を50を越えるぐらい保有していた。

そのため彼女に出来ない職業は存在しない。操縦できない乗り物は存在しない。

 その気になれば、必要書類を自ら用意して、自己資金で自家用星系間クルーザーを即金で購入して、自ら操縦して国に帰る事さえ簡単な事だった。


 なんなんだ?この女性は?ゲッペルは調べれば調べるほど怖くなってきた。

9年と言う期間中で、これ程の資格を取り、確固たる地位を得て金を貯め、各界に顔を売るって事が出来るのか?

 タケルヤマト第一皇太子は、惑星トレーダーには知己の者がいないと言ってが、彼女が居ればまったく問題が無い。それどころか、強力な協力者になり得る。

クスノマサツグ司令官と知り合いかどうかなんてものは、ここまで経済界に顔が利き、資本が潤沢ならば、商都トレーダーにおいては関係が無い。むしろ、武器となる。


 ゲッペルは、ここまで調べ挙げたカキモトサヨリに関する情報をまとめ、アシヤとミツシサキシリア第三皇太子に報告書を作成し、指示を仰ごうと考えた。

しかし、情報を分析する者として、自分自身が作成したとはいえ、違和感を感じられる報告書だった。

あまりにも綺麗に整えられている。言い換えれば1枚の絵画のようなのだ。過不足無く書かれた風景画のように、見る者を納得させる色彩に構図。完成された絵画。

しかし何かが足りない?違和感がつきまとう、だまし絵のような?


 ゲッペルはもう一度報告書を読み直し、思考の海に潜った。

彼女の周りの評判は非常に良く、誰もが彼女を褒める事はしても、貶したり嫌み1つ出てこない。

ボランティア活動も彼女のスケジュールが許す限り参加しており、弱者救済の寄付金もかなりの額を寄付している。

 彼女が、二度受けた試験は無かった。どんな難関な試験であっても全て一発合格していた。


どこの天才聖女ですか!と叫びかけたが、新たに取り寄せた、彼女が受けた各資格試験の解答用紙を見て、違和感が疑念を変わり、1つの確信に達した。

それは、実技試験はほぼ満点の点数を叩き出しているのにも関わらず、学科試験は全て合格点プラス10点で合格していた。

高度な質問に的確に答えているので学科が弱い訳ではない。これは、わざと満点を取らないように調整している?

そんなことができるのか?もし、出来るのであれば、彼女は試験の配点を知っており、合格点になる問題のみ答え、他を捨てていると言うことになる。

もう一度解答用紙を見て見ると、空欄が目立つ試験があった。しかし合格点プラス10点で合格していた。


ゲッペルは、彼女が配点を知り、カンニングをしていたのを確信した。そうでなければ説明がつかない。点の少ない簡単な問題を1問も解かず、高難易度高得点の問題のみ答え、効率良く合格点プラス10点にしている。

しかし証拠は無い。

それにこれでは、実技試験がほぼ満点な説明が出来ない。実技試験はカンニングが行えるような物は、何一つ無かったのだから。



 そこまで考えて気付いた。この戦い、第一皇太子と第三皇太子の覇権争いに見えているが、我々第三皇太子側の相手は、本当に第一皇太子だろうか?もし、彼女だったならば?

 そんなはずはないと思いながら、彼女がスポンサーとなっているならば、第一皇太子側の艦隊が国家予算を使わずに、作戦行動が取れても不思議ではない。

 そのことは今後の作戦展開に、大いに不確定的要素が盛り込まれてくることとなる。

情報収集して彼女の精度を上げないと、大変なことにならないか?


 しかし資格試験において、最小限の努力で最大の成果を勝ち取っているような彼女が、この膠着状態が好ましいとは、思っては無いはず。何を考えている?

彼女は、サナトリア統一連邦共和国の出身、もしかして、我が軍の第一連合艦隊はサナトリア方面に身を隠したか?

サナトリア統一連合共和国に軍を駐在させて、進攻するということは我々の陣営も考えていたことではあるが、実際には時期尚早でまだ機が熟してはいない。と考えられていた

だが、避難場所として設定するならば?

そもそも、サナトリア統一連邦共和国とは、どうゆう国だ?辺境の鉱物資源の豊かな国としか報告を受けてはいないが、それ以外に何がある?

そこまで考えて気付いた。サナトリア統一連邦共和国の情報が乏しい。未知の宙域の星系国家と言うのは簡単だが、余りにも情報が少なすぎる。

発見されてからすでに15年近くたち、最初の頃は何度か小競り合いではあるが、武力衝突も起こしている。

現在はサナトリア統一連邦共和国からの交易船も、数は少ないが我が帝国国内へと販路を伸ばしているようだ。

なのに、情報が少なすぎる。

サナトリア統一連邦共和国の調査が必要だ。何か隠されている気がする。

どこから手を付ければいい?ゲッペル情報大尉は、無意識のうちにキーボードに指を走らさせていた。



読んでいただき、ありがとうございます。m(__)m


お気が向いたらブックマーク、評価、感想などお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ