帝国内戦3
さて、本編を始めます(^-^)/
「幸一さん、おかえりなさい」
カルダニア帝国へ親善大使で派遣していた艦隊が、サナトリア統一連邦共和国第一宙港に帰還してきた。
報道陣に囲まれながら、笑顔のサファイア大統領自らの出迎えは、親善大使を勤めた夫に早くて会いたかったからであった。
幸一は、両手を広げ
「サファイア、ただいま。」
と言って抱きしめようとして近付いたら、報道陣カメラの死角から幸一の鳩尾に、強烈な拳が叩き込まれた。
「グフッ」
幸一はたまらず前屈みに倒れるが、すかさずサファイアが笑顔のまま、幸一の脇の下に腕を入れて抱きしめた。
そこへ、報道陣のカメラのフラッシュ。
報道ニュースの一面は、大統領御夫妻、帰国の熱い抱擁と言った見出しになるだろ。
「サファイア、痛いんだが?」
幸一が少し涙目になりながら訴えると、にっこり笑って
「このぐらい、許されると思っていますよ。」
幸一とサファイアは抱きしめたまま、二人しか聞こえない声で会話すると、離れて二人は笑顔で報道陣に向かって手を振った。
記者会見場に場所を移して、今回の国際親善が成功した報告と通商条約が結ばれ、今後カルダニア帝国国内に貿易の販路が広がり、サナトリア統一連邦共和国の経済規模の発展向上が、見込まれる事を報告した。
それと加えて、カルダニア帝国皇帝陛下が亡くなって間がなく、次期皇帝が決まるまで帝国国内一部に不穏な空気が有るので、今すぐに行くことは自粛を要請した。
記者会見場を後にした一行が休む暇もなく、全ての大臣を召集しての会議を開いた。
質問のほとんどは、現在の帝国の状態に及んだ。
会議室に設けられた大型スクリーンには、質問に関する回答に今後の対応策が映し出され
「私から言えるのは、以上の事だ。」
そう幸一が閉めくった。
「他に質問は?」
「我々は、第一皇太子の方に付くと言うことですが、どうしてでしょうか?なぜ、現在首都にいる第三皇太子の方に、付かないのですか?」
そう質問してきたのは、閣僚の中では最年少の行政改革大臣のグェン・ホンだった。
それに対し幸一は、
「第三皇太子側に付かない理由は、巻き込まれた私が判断するに、帝国の正当な政権は第一皇太子側に有るのと、第一皇太子と我が国の国民との間に婚約関係があるため、長期にわたって見れば、我が国の利益になりえると判断した為だ。」
「その皇太子と婚約されている女性は、我が国の高貴なお方なのでしょうか?」
「いいや。貴族でもなければ、高級官僚の娘でもないが?」
「では、正室ではないのではないのでしょうか?一般人がそのような皇族と婚姻を結べるはずがありません。」
「それに関しては、大丈夫だ。前皇帝より、正式な婚姻許可書を承っている。」
「まさか、」
「どうやって、そのような物を用意出来たかは、詳しくは知らされてはいないが、その場にいた、帝国の宰相と近衛兵団長は、本物と認めていた。」
「皇太子と婚姻される方の、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「柿本さよりと言う。ただし、素性調査を行うなら止めたほうがいい。」
「どうしてでしょうか?」
「理由は、国家のトップシークレットに位置する。私から言える事は、彼女は、サナトリア暦で約6年半前に、事故により帝国の軍艦に救助され、現在、帝国国籍を獲得した女性だ。」
幸一のその言葉を聞き、会議に参加していたドルメン財政大臣が驚き
「まさか!あのグラディウス事件唯一の行方不明者、さより様ですか!」
と、声を絞り出すように聞くと、幸一は
「そうだ。」
と一言
会議室は、静かなどよめきが走った。
「本当に本人に、間違いないのですか?」
念を押すように再度尋ねられると
「私と同行した明美元帥をはじめ、彼女の人なりを知る者四人が確認した。あのバカは生きていたよ。」
と幸一が笑顔で答えると
「よかった。よかった。うぅ……」
ドルメン財政大臣が、感極まったように、目頭を押さえて涙を流した。隣に座る法務大臣が、目を赤くしてその肩を叩き、
「よかったな。」
と言っていた。それを見てグェンホン行政改革大臣は
「あの二人はどうして?」
「お前は、まだ若いからな。知らないだろうけど、あの二人にとって、さよりは師匠にあたるようなものだからな」
グェンホンにとってドルメン財政大臣は、サナトリア統一連邦共和国になる前の、サナトリア王国時代から、国家の為に危機的な経済状況を改善すべく、私情を捨て国に尽くしてきた、生粋の貴族大臣で、憧れの人物で、目指す政治家と思っていた人だった。
その憧れの人が、1人の女性の生存の知らせを、涙を流して喜んでいる姿を見て、しかも隣に座る法務大臣は、冷血感で知られるキースハウザー法務大臣。
その人が、涙をこらえて友人と共に喜ぶ姿に、戸惑いしか生まれなかった。
「どんな人なんですか?さよりって女性は?」
「迂闊に関わってはいけない女性だと、覚えておけば間違いないさ。」
肩をすくめながら、幸一から発せられた言葉は、温かみがあった。
「では、我が国は帝国の第一皇太子側に付く事になります。しかし、サファイア大統領。第一皇太子側と共に、帝国の首都を攻略して行くとなると、問題点が数多くあります。
まずは、宙図を見ると首都に攻め込むには、かなりの戦力が必要となります。それは、どうお考えでしょうか?」
ワーク国防大臣の質問は、帝国首都攻略の問題点を的確についていた。
帝国首都が有る星系は、星系政学的守りやすく攻めがたい場所に存在していた。
なぜなら、帝国首都星系から30光年離れた場所に、サナトリア統一連邦共和国が名付けた、宇宙の涯と呼ぶ、壁のような星間物質高密度帯があった。
それが、すり鉢のような形状で、帝国首都星系を囲ように覆っており、天然の城壁になっていた。
「まさか、あの宇宙の涯があそこまで続いているって、誰も思わないよなぁ。」
「この形状。壁に呑み込まれずに、耐えきった感じだな。」
「本当に、宇宙の涯の壁で出来た要塞ですよね。」
星間物質高密度帯の為に、攻め込むには全方位が取れず、アステロイド地帯もあり、艦隊行動をとるならば、航路に沿って進行せねばならない。
しかもその航路には、要塞衛星基地が3ヶ所もあり、その要塞衛星攻略が問題だった。
「これって、難攻不落でしょう?」
「過去に、帝国が攻め込んだ時は、どうやって攻略したんだ?」
「簡単です。当時は、この3基の要塞衛星基地が無かったんです。帝国が遷都してから、防衛の為に造られた物です。」
「それだったらわかるな。要塞衛星基地がなければ、最悪力任せに押し切れば、なんとかなる。しかし、今回は、そうはいかん。真面にぶつかれば、こちらの被害だけが大きく成るだけだ。せめて、後ろに回れれば、要塞衛星基地からは攻撃を受けずに済むんだが。」
「どうやって、あの宇宙の涯の壁をすり抜けるんだ?」
探査を続けているものの、全貌がまったく掴めない、星間物質が高濃度で立ちふさがる、銀河最大の物理的な壁。通称宇宙の涯。
「とりあえず帝国首都の攻略は、後で再考するので、今は考え無くともいい。当面は、帝国の第一連合艦隊に対する補給物資の供給と、乗組員達のリクレーションの提供だな。その候補地は?」
「宇宙の涯ステーションからも近く、大収容量のナサマハ休暇センターでは、どうでしょ?」
スクリーンにナサマハ休暇センターの映像コンテンツが表示され、概要説明がされた。
「確かに、収容キャパシティについても、問題ありませんな。」
「それに、我が軍の演習宙域にも近い。」
「合同演習でも出来たら、良いな。」
「それで、帝国艦隊は、いつ頃こちらに?」
「彼らの船足から、一週間ぐらい後だろう。」
「了解しました。その頃に合わせ歓迎式典の用意をしておきましょう。問題は、第一皇太子一行ですね。」
タケルヤマト第一皇太子等中心メンバーが、現場が落ち着いたら、サファイア大統領に表敬訪問を願い出ている件で、大臣達が困った顔をするが、幸一は、
「そちらに関しては、皆に迷惑はかけない。こちらで何とかするからさ。」
と言ったが
「いえいえ、国賓対応をさせていただきます。」
「ありがとう。でも、いいんだ。被害者を増やしたくないから。」
「被害者?」
「あぁ、君たち、明美元帥と拓哉大将以上の惚気に耐えられるのなら、止めやしないが?」
と幸一が大臣達の顔を見渡すと、
「わかりました。本件は、大統領夫妻預かりにさせていただきます。」
間髪入れず返事が帰ってきた。
「君たちも、苦労しているねぇ。」
幸一は苦笑してサファイアを見た。サファイアも苦笑するしかなかった。
「サファイア大統領。今回の帝国への介入における経費は、いかがしましょうか?財政出動の要請と補正予算案を…」
ドルメン財政大臣が、財政出動について話しかけると幸一が
「我が国の税金を、この度のカルダニア帝国内乱為に使うことはない。」
と、キッパリ言い切った。
「では、どうするのですか?すでに、経費がかかっているものもあるのですが、それらの支払いはどうするのですか?」
ドルメン財政大臣が問うと、サファイア大統領が
「S資金を開放します。」
と宣言すると、会議室はどよめいた。
「お言葉ですが、本当にその様な資金が、存在するのですか?」
ドルメン財政大臣が問うと、サファイア大統領があっさり
「有ります。」
S資金
いろいろな噂話や、創作物語のネタになっている、国家予算を遥かに超える、幻の巨額な資金源の総称のように使われている言葉
古代遺跡の財宝とか、地下犯罪組織の資金、軍の裏金等言われているが、その実体を知るものは居らず、ほぼフィクションと考えられていた。
それがサファイア大統領自ら、存在すると言った。
ドルメン財政大臣は、
「その様な資金は、国庫のどこに、隠されていたのですか?」
国家の財政に、厳しく目を光らしている彼からすれば、その様な資金がわからないはずがなかった。
サファイア大統領は、ドルメン財政大臣を見て
「S資金とは、国家が管理している資金ではありません。」
「ではどこに有るのですか?その様な巨額の資金が個人資産であれば、税金徴収の対象になっているはずです。その様な報告はありませんが。」
「無いでしょうねぇ。見かけは個人資産でも無いです。もちろん、法人資産でもありません。」
「なんなんですか?遺跡に隠されていた財宝ですか?」
「それに近いです。まさかの旧グラナテック銀行そのものとはね。」
それを聞き
「えっ?あの銀行は、ずいぶん昔に破綻しているはずですが?現在は、社員も居らず、唯一残った本社施設保全の為、管財人が居りますが、建物自体は荒れ放題になっており、なんら価値の無い施設ですが?」
意味が分からないといった顔のドルメン財政大臣。サファイヤ大統領が
「そこの施設ではなく、グラナテック銀行が所有していた金庫内に有るの。私も調べさせて、初めて知ったわ。あの銀行、全盛期に惑星カイメイの衛星を、丸々くり抜いて金庫にしていたのよ。その巨大な金庫の中に、信じられないような量の貴金属類が、収められていました。ざっくり計算したところ、現在の市場価格で処理すれば、帝国との全面戦争を、2回は出来る資金になります。」
会議室が再びどよめいた。
「その様な資金。誰が、どのように?」
ドルメン財政大臣は顔色悪く、サファイア大統領にたずねると、投げやりに
「あなたも、わかっているでしょう?そんな事が出来る人物は、ただ一人だって事が。だって、あの銀行を乗っ取ったも、破綻させたのも、さよりさんだもん。指定した管財人を置いたのも、さよりさん。あそこはさよりさんが、趣味で稼いだ裏金を、貴金属やレアメタルのインゴットに変換して、入れていたんじゃないかしら?」
「さより様!」
ドルメン財政大臣は、絶句してしまった。諦め顔のサファイヤ大統領がため息交じりに
「さよりさん、加減ってものを知らないから。こんな巨額な資金をポンって渡されても、すぐに使えないじゃない。
本来ならば、追徴課税を徴収しないといけないのですが、財産放棄をする事により、全てを国庫に引き渡されました。
まったく、下手にこんな大量の貴金属が市場に流れたら、相場が下落してサナトリア統一連邦共和国内の、国家経済が破綻してしまいます。
ドルメン財政大臣、さよりさんの弟子でもあるあなたに、この資金を全て任せます。いくらあるか精査して、市場が混乱しないように処分して下さい。」
サファイヤはそうドルメン財政大臣に言いつけると、
「サファイア大統領。仰せの通りいたします。」
と、ドルメン財政大臣が頭を下げた。
「お願いします。では、今後この資金が裏付けになりますので、これから行う国家プロジェクトは、資金的になんら問題点はありません。手元の資料、帝国内乱終息プロジェクトの説明に移ります。」
サファイヤは大統領らしく、宣言をし、配布済みの資料の説明に入った。
そこには、荒唐無稽な計画が書かれていた。
しかし、サファイア大統領からの説明と、示された観測データ資料をあわせると、技術的には問題が無く、荒唐無稽な計画が着実に、現実味をおびてきた。
各部署が全力を上げて行う、国家プロジェクトとして相応しい内容だった。
普通この様な大型プロジェクトで、最大の問題となるのは、計画に係る莫大な資金が必要なことだが、それは既に先ほど解決をしてしまっている。
4時間以上の会議を終えたのにも関わらず、会議参加者全員、疲れた様子もないどころか顔を輝かせて、プロジェクトを実行させるため、小走りで各省庁へ戻って行った。
その姿を見て
「さよりさん。帰って来たら、しっかり話をつけますよ。」
とサファイアが興奮を押さえるように、宣言した。
1週間後
帝国最大の第一連合艦隊が、サナトリア統一連邦共和国『宇宙の涯ステーション』に到着した。
出迎えたのは、サナトリア統一連邦共和国最強の第一艦隊だった。
報道管制下において、ステーション内で簡単ながら歓迎レセプションが行われ、帝国側の第一連合艦隊司令長官、カワサキ-ヤブロクと、サナトリア統一連邦共和国総合元帥井上明美との歴史的会合が行われた。
その後両艦隊は、貸し切りにしたナサマハ休暇センターへと移動し、今後の予定の擦り合わせを行った後、2日間におよぶ大宴会へと突入していった。
宴会明けの次の日、帝国、第一連合艦隊司令長官カワサキ-ヤブロクとサナトリア統一連邦共和国、総合元帥井上明美は、朝食を同じテーブルで食べていた。
「遠征の疲れは、取れましたかな?」
食後の珈琲を飲みながら、明美がたずねると
「すっきりしました。」
と、穏やかな顔でカワサキ-ヤブロクがこたえた。
「それは良かった。もし良ければこの後、我が艦隊とお手合わせを願えませんか?」
「喜んで。私からも、お願いしたかった案件でしたので。」
「実戦経験の豊富な、帝国艦隊の胸を借りる事が出来れば、我が艦隊にとって、またとない経験になるでしょう。」
「いえいえ、見せさせていただきましたが、なかなかな猛者が居られるようで。」
「とんでもない。お恥ずかしい事ながら、我が艦隊は訓練ばかりで、実戦経験がまったくありません。少し天狗になっているようなので、この機会に実戦的な訓練を、積ましてやりたくて。」
「そうですか、わかりました。その方針で演習をいたしましょう。」
その後、両陣営からトップが集まり、会合を開き訓練演習のスケジュールが、決められていった。
各陣営の艦艇は、補給に完全整備を終えたのち、サナトリア軍の最大演習宙域に移動を始めた。
その頃、サナトリア統一連邦共和国中から集められた、廃棄予定の熱核弾に核融合弾。反物質弾、対消滅弾と言ったかわいい物から、恒星破壊兵器、時空断裂弾、ブラックホール弾と言った極悪きわまりない兵器が、宇宙の涯ステーション近くに作られた、施設へ運び込まれて来た。
宇宙の涯ステーションで働いている職員や、鉱山会社の関係者は、ついに帝国との戦争が始まるのかと戦々恐々していた。
しかし政府の発表によると、帝国とは友好条約を結んだ友好国なので、戦争など起こさない。
今回集めた大量破壊兵器は、長期間保管されて使用期限が迫っており、処理せねば重大な事故につながりかねないことから、爆破による周りに影響が及ばない、宇宙の壁内での廃棄処分をするための処置だという。
現に集められた大規模破壊兵器は、急遽作られた簡易工作場に続々と搬入され、そこで恒星間ブースターに取り付けられ、宇宙の壁の内側へ、次々に射出されていった。
それを見た、宇宙の涯ステーションで働いている職員や、鉱山会社の関係者は安堵し、報道関係者も政府の大量破壊兵器の破棄作業は、帝国に対しての敵意の無いことを示す物でもあり、今後の政権の安定につながる物として、歓迎ムードの報道をしていた
それと同時に始まった、転送リングの建造
一対のリングで形成する転送リングが有れば、施設使用料金を払えば、行き先は固定されてはいるが、恒星間エンジンを持たない船でも、転送リングが形成する、人工的に造られたワープホールを通ることにより、自由に恒星間移動が出来る
宇宙の涯ステーションには、すでに大型貨物船最大50隻を、サナトリア統一連邦共和国内に転送出来るリングがあるが、建造が始まった転送リングのもう一つは、どこで作られるかは、公開されていなかった。
サナトリア統一連邦共和国、史上最大の国家プロジェクトが、始まろうとしていた。
読んでいただき、ありがとうございます。m(__)m
作者(σ(^_^;ワタシ)が喜びますので、
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