番外編 さより放浪記7
7話目です
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城内の庭園にて、皇帝陛下生誕70歳を祝うパーティーが開催されていてた。
会場には、着飾った貴人淑女が皇帝陛下に祝辞を述べに馳せ参じ、思い思いにパーティーを楽しんでいた。
年頃の娘を持つ親達は特に、気合いを入れて参加していた。
皇帝陛下には、婚姻適齢期の皇太子が三人おり、第二皇太子はすでに正妻として婚約をされている女性が存在していたが、第一皇太子と第三皇太子には決まったお相手が存在していなかった。
このパーティーには、もちろん全ての皇太子達が参加しており、娘を持つ親、親戚筋の姪を叔父叔母達の売り込みが繰り広げられていた。
中には、正妻としてではなく、妾や愛人の座を狙って近づく者もいた。
第三皇太子は、割り切ってそういった女性との浮き名を流していたが、第一皇太子はそういった女性には、挨拶はするものの相手にはせず、絶えず傍らには幼馴染みでもあり国の宰相でもある友と共にしている事が多く、近寄ってくる女性を宰相が捌いていた。
その為に、タケルヤマト第一皇太子には、女性の噂が全く無く、いかにしてお近づきになれるかを、暗躍する者までいた。
クロダ宰相を落とせば、と思って近づく者もいて、クロダ宰相も心の中では、うんざりしながら笑顔で、断り続けていた。
そんな二人が、パーティー会場から少し離れたテーブル席に付き、第一皇太子は不機嫌な顔を隠そうとはせず、パーティー会場を見ていた。友人の宰相が呆れつつ
「タケル、いい加減婚約しろよ。周りが五月蝿くてかなわないんだけどなぁ。」
とぼやくと端正な顔をしかめて
「ふん!どの令嬢も代わり映えしないお世辞ばっかりを述べるだけで、テンプレートが有るのか?って思ってしまうわ。」
うんざりした口調で吐き出すと
「仕方ないだろう?お前との結婚イコール皇后陛下になる訳だから、それにふさわしい立ち振舞いを要求されているんだよ。断りを入れる俺の身に成ってみろ。どれだけ怨まれているか。」
クロダ宰相はため息をつきつつ愚痴を言ったが、タケルヤマト皇太子は庭園を見渡し
「しかし、ここにいる女性達には悪いけど、何ら感情が持てなくてな。」
「贅沢な。どの娘も可愛いくて綺麗じゃないか。何が不満なんだ?」
クロダは、庭園に集まっている女性達を見渡して聞くと
「俺には、着飾った愛玩動物に見えて仕方がない。多少は、毛色の違う子もいるが、所詮親や自分の見栄に、正室と言う物に憧れているだけで、俺を見ている訳じゃない。そういった女性にはもう、うんざりしてしまっていたんだよ。」
タケルヤマト皇太子の、そう言う口調を聞いて
「タケル、何かあったのか?」
「特にはないが?なぜだ?」
「お前が、珍しく過去形で話すからな。」
クロダ宰相がからかうように言うと、タケルヤマト皇太子は視線を外し
「大したことは無い。ただこの前、面白い娘に会ってな。」
テーブルに置かれたワインを一口飲むと
「ここにいる令嬢達に比べたら、野生の子猫のような娘だった。」
思い出すように目を細めた。
「ほう!お前をそんな顔にさせるような娘がいたのか!で、どこの貴族令嬢だ?」
クロダ宰相は、体を乗り出すようにタケルヤマト皇太子に聞くと
「いや、貴族じゃないぞ。」
「じゃ、どこの社長令嬢だ?」
「臨時事務員って言ってたぞ。」
クロダは、目が点になり
「はぁ?お前と一般的な会社員との接点って有ったか?ましてや正社員じゃない?」
と悩むと、思い出したように
「またいつもの、市中査察と称したお忍びでか?」
と呆れた顔をした。まずいっといった顔をして
「まぁ、そうだな。ちょうど酒造の杜氏頭の源之助が城に来てたから、酒蔵に同行したいと申し出たら、凄く嫌な顔をされてな。」
「そりゃそうだろう。あの杜氏頭は頑固者だからな。客だろうが皇族だろうが気に入らなければ、平気で断るからなぁ。嫌な顔をされただけで、断られなかったのが不思議だ。良く同行を許してもらったなぁ。」
「あぁその代わり、友人とその女友達を連れていくから、お前の船で連れて行け。ついでに、彼女たちの泊まる宿も手配して料金も持て、って言われたがな。」
「あのじいさん、平気で皇族を使いやがる。皇帝陛下の赦しがあるから良いものの、そのうち不敬罪で捕まるぞ。」
「まぁな。」
「で、じいさんの友人の友達が、お前の言う面白い娘か。あのじいさんの友人の友達だから、面白そうだが、どこが良かった?」
クロダ宰相は興味津々に聞いてきたが
「お前、勘違いしているな。俺が面白いって思った女性は、じいさんの友人の方だからな。その友人が連れてきた女友達の方は普通だった。」
それを聞きクロダ宰相は、うんざりした顔になり
「お前なぁ、じいさんの女友達が良いって。どんだけ歳上好みなんだよ!」
「いや、恋愛感情は、持ってないぞ。」
「家臣として見たのかよ!そんなに歳上が良いのか?期待した俺がバカだった。俺のドキドキを返せ!お前、もっと年頃の娘を見ろよ!」
「えらい言われようだなぁ。」
「もう、この際、正室なんてその辺の令嬢でいいだろう?ちゃっちゃっと、子供を作っちゃえよ。」
クロダ宰相が呆れかえりそうぼやくと
「ほら、この子だ。」
と言ってタケルヤマト皇太子は、自分の携帯端末画面をクロダ宰相に見せると
「どれどれ、どんな婆さんだ?………おい!この女の子は!」
そこには、キメ顔で横Vサインをして微笑んでいる、かわいい感じの女の子が表示されていた。
「すまんな。婆さんじゃなくて。」
タケルヤマト皇太子は、少し得意気に言うと、携帯端末を懐にしまった。
「その娘がじいさんの友人?その娘、何歳だ?」
「今年25歳だそうだ。」
「嘘だろう!初等学校に通っていると言われても不思議じゃないぞ。」
クロダは、映像の見た目から幼さを感じ、感想を言ったがタケルは、声を潜めて
「それ、彼女に言うなよ。痛い思いをしたくなければな。」
と、忠告した。しかし、
「でも、やっとお前に雪解けが来たかぁ。」
クロダ宰相はしみじみつぶやくと、
「なんだ?雪解けって?」
「春にはまだ遠いが、兆しが見えたって事だよ。」
と、笑顔で返した。
「なんかひでぇなぁ」
「しかし、あのじいさん。何歳だ?」
「長寿種で、今年356歳になるはずだ。」
「じいさん。若いなぁ。その歳に成ってもまだ若い女性と付き合えるんだ。」
「と言うか、彼女がすごいんだよ。話をしていて飽きないし、どんだけ教養があるんだ?って思ったよ。」
「例えば?」
「最近読んだ書籍は、巷で話題になっている【ヘレッドの帝国学】からマンガの【ふわきゃん】と広範囲だし、最新のスイーツから酒に合った料理の話に成って、彼女の得意料理の話題になり、そこから経済の話に成ってもしっかりした考えを持っていて、どうやったら現在の帝国の経済を建て直せるかとか熱く語るんだよ。
それが机上の空論ではなく、具体的な実例をあげて話すんだよ。ほら、帝国第一の商都と言われながら、低迷を続けていたトレーダーが盛り返してきたじゃないか。」
「確かにそうだな。ここ最近のトレーダでの経済活動は目を見張るものがある。新規案件を立ち上げ、全てにおいて成功を収めて、今や、帝国の経済を回しているのはトレーダーと言っても過言ではないな。」
「彼女は、その躍進についてわかりやすく解説してくれて、勉強になったよ。
それにだ、政治にも詳しくて、帝国とサナトリア統一連邦共和国との政策の違いとか、間違えなく言えるって凄くないか?」
「サナトリア統一連邦共和国って、お前。最近辺境を越えた先で見つかった、我が国と同等の勢力を持つと考えられている星雲国家だろう!まだ我が国でも、上層部の一部しか情報公開がされていない国家だぞ。」
「彼女はそこの出身なんだ。」
「どうやって帝国に来た?」
「なんか、すごい冒険談みたいだったよ。ま、意図してきたわけじゃなさそうなんだけど、彼女の口ぶりからして、それは本心じゃなさそうなんだけどね。」
嬉しそうに彼女のことを話すタケルヤマト皇太子を見て、クロダ宰相が真面目な顔で
「お前は、その彼女をどうしたい?」
声のトーンを下げて聞いた。それを聞き少し考えるてから
「お前の言いたいことは解る。だが俺は、しばらくはこの状態を楽しみたい。」
冷静に答えた。クロダは、息をつき
「じゃ、お前が皇太子ってことをバレないようにしろよ。彼女は、お前を一般……」
「彼女、俺の正体を知っているよ。たぶん」
クロダは驚いて
「どういう事だ?」
問いただすと、ワイングラスをテーブルに置き
「会社社長のドラ息子って自己紹介したのに、ニイタカ興産の跡取り息子でしょう?って確認を取られて、同席していた警護課のマクラーレンに向かって、
『この人は、一般人だから、あたしがこの人にする態度で、不敬罪で捕まえないでね。』
って念押ししていたからなぁ。」
クロダはさらに驚いて
「おい!普通ニイタカ興産の跡取り息子って言っても、そんなこと言う奴はいないぞ。」
と言うと、ニヤニヤしながらタケルは
「だろう?彼女は俺の正体をわかってて、護衛の私服警官のマクラーレンに念押ししたとしか思えない。その後もまったく、口調や態度を変えることなく2日間接してくれたからな。」
と、嬉しそうに話した。
「何者だ?その彼女は?そもそも、私服警官を見破るってどうなんだ?」
「それには、その前にマクラーレンの部下が彼女に対してへまをやってさ、任務をその場で外された経緯があって、マクラーレンが警察官だとバレた。」
「何をしたんだ?」
「職務に忠実な女性警官が、俺の警護の為に彼女の個人情報を読み取って、彼女が移民であることで、俺に近づけないようにしようとしたんだが、逆手に取られて、警官として最低な差別主義者として訴えた。たぶん嫌がらせだろうなぁ。」
と言って、少しぬるくなったワインを飲み干した。
「警官相手に?証拠とかはどうしたんだ?」
「監視カメラの映像を、警邏中の制服警官がすぐに取り寄せて、確認したらしい。そこには動かしようのない映像が有ったらしい。マクラーレンを追い詰めていたからねぇ。」
「マクラーレンってかなりやり手だったろう?それがやり込められるって?」
「見てて、可哀想だったよ。大の大人が、小娘に正論で証拠付きで攻められて、何の反論も出来ないってあるんだなぁ。
しかもだよ、精神的被害を受けたということで、賠償責任の慰謝料を請求されて、その場で振り込まさせられていたよ。」
タケルヤマト皇太子は、思い出し笑いをしながら楽しそうに語った。マクラーレンの人なりを知っているクロダは、感心したように
「そりゃ、ここに居る令嬢達には出来ないな。一度会ってみたいもんだ。」
と言ってワイングラスに口を付けた
「そのうち、ここに呼んでみせるよ。お前以外に話の合う人物に会えたのは、初めてだからな。」
「楽しみにしているよ」
そこへ、スーツを着た少し太った男性が近寄り
「タケルヤマト皇太子殿下と、クロダマキシリ宰相様であられされますか?」
と声をかけてきた。
タケルヤマト皇太子は、うんざりした顔でクロダ宰相の方を見て、クロダ宰相が
「貴殿は?」
と聞くと
「わ、わたくしめは、カルロ・エンドウと申します。」
と言って、名刺を2人に渡し、緊張した面持ちで頭を下げて
「こ、この度の。か、皇帝陛下せ、生誕な、な、70歳のお祝いに、お、お、呼びいただいてありがとうございます。」
ところどころ噛みながら、このパーティーに呼ばれたことの感謝(?)の意を述べていた。
名刺を見ると、株式会社針魚 代表 カルロ・遠藤 と書かれていた。
「株式会社 ハリサカナ? 遠藤さん、ゆっくり楽しんでいってください。」
クロダ宰相が、挨拶だけして追い返そうとしたが
「あ、あ、あの、も、も、申し訳ありませんが、す、す、少しあ、会っていた、ただきたい人が居ました。」
カルロ・遠藤は、頭を下げたまま、そう伝えると何を思ったか、急に土下座をして
「お願いします!お願いします!」
と叫んだ。
その言葉を聞き、周りに居た衛兵達が反応して、こちらに近寄ってこようとしたが、煌びやかなドレス姿の小柄な女性が、土下座をしている男性の頭を靴で踏みつけ、
「何騒いでいるんだ!この馬鹿野郎!」
と罵った後、近づいてきた衛兵達に、手を振りながら、何かしらのハンドサインをして
「すいませんでした!取り押さえましたので、持ち場についてください。」
と声をかけて、衛兵達を元の持ち場に帰らすと、土下座をしていた男性に、
「根性なし!隅で酒でも飲んでろ!」
と言って腹に蹴りを入れると、男性はペコペコとお辞儀をしながら、走ってその場を立ち去った。
その後ろ姿を見送った女性が、クロダ宰相の方に振り向くと、クロダ宰相は、タケルヤマト皇太子を庇う位置に立ち、女性と対峙した。すると女性は
「代表が情けない姿をお見せしまして、申し訳ございません。」
と頭を下げ腰を引き、隙無く貴族の淑女がする最上の礼をした。
クロダ宰相は、この女性が、男性を踏みつけられるまで気配が無かったことや、先ほどの衛兵達の動きを見て、どこの陣営が放ったかわからないが、暗殺者としたらかなり手ごわそうだと思って、油断なく女性を観察した。
すると女性が顔を上げ、立ち上がると
「そんな怖い顔をして、どうしたのですか?」
と、クロダ宰相に問いかける女性の顔は、含み笑いを浮かべた可愛らしい顔だった。
「貴女のような女性が、先ほどの男性にした行いを、皇太子にされると困るのでね。出来ればお引き取りたいのですが?」
クロダ宰相は、警戒を解かず女性の目を見て言い放つと、女性が
「イヤダ、って申しましたら、どうなさいますか?」
と言って、目を細めた。
クロダ宰相は、衛兵達が当てにならないことは織り込み済みで、この女性に勝てるか?背中の皇太子を逃がすには?最悪相打ちにでも?と考えていた。すると、女性は両手を頭の後ろで組み、微笑んで
「もう、クロダ宰相さんが考えるようなことはしませんよぉ?」
と言った。
「そう言われましても、名も知らぬ方からの言葉は、信用できませんから。貴女の名前は?」
クロダ宰相は、答えてくれないだろうと思って時間稼ぎの為に聞くと
「ありゃ、すいません。あたし、名乗らなかったですね。改めまして、わたくし、サヨリ・カキモトと申します。よろしくお願いいたします。」
と言われて、いつのまにかクロダはサヨリと言う女性と握手をしていた。
一瞬何が起きたかわからなかったクロダ宰相だが、すぐに手を振り払い
「何者だ!」
と声を荒げたが、件の女性は自分に指をさし
「あたし?皇太子 いや、ニイタカ興産御曹司の友達です。」
とにっこり笑うサヨリがそこにいた。
タケルヤマト皇太子は、女性の姿を見て驚き
「サヨリさん!どうやってこの場所に?クロダ!彼女だよ、さっき話していた。」
「えっ!彼女が?」
「あら、お二人であたしの噂話をしてたのですか?噂をすれば影ってことですか?」
とサヨリがニコニコと笑っていた。
「おい。彼女、大丈夫なのか?」
クロダ宰相がタケルヤマト皇太子に聞くと
「大丈夫だ。大丈夫だろう。たぶん大丈夫だと思う?」
「そこで、疑問系は困るんだが。」
クロダ宰相は困惑顔で、タケルヤマト皇太子に言うが、サヨリが
「あの、席をご一緒では、いけませんか?」
と、同席の願いをしてきたので二人は、顔を見合せて頷き、タケルが
「かまわない。」
と言うと、クロダ宰相は、いつでも皇太子を庇える位置に座り、サヨリはそれを見て、
「ありがとうございます。」
と、クスッと笑って皇太子から見て、1番遠い席に優雅に座った。
飲み物を持ったボーイが、テーブルに赤ワインを人数分置いて立ち去った。
サヨリはワイングラスを持つと、
「乾杯しますか?」
と、聞くとクロダ宰相が
「何に?」
「そうですねぇ。新たな出会いに?」
「では、それで。」
三人はグラス掲げると、ワインを一口飲みテーブルにグラスを置いた。
「で、サヨリさん。どうやってこのパーティーに来たのですか?」
クロダ宰相は、サヨリを見定めるように見つめた。
するとサヨリは
「えっと、自宅から最寄り駅の國鉄片鶴線西大東駅から乗車して、セントラルキャッスル駅下車して、ここまで徒歩です。」
クロダ宰相はイラッとして、タケルヤマト皇太子はニヤニヤしていた。
「そうじゃない!交通経路なぞ聞いておらん!そもそも、そんなドレス姿で通勤列車に乗ったのか?」
サヨリは、来ているドレスを見て
「まさか!ここに来てから着替えましたよ。こんな姿で電車に乗らないですよ。」
「そりゃそうだろ。だいたい皇族主催のパーティーに公共機関で来るやつを始めて見たが。
そうじゃない!ここへ、どうやって入ったんだと聞いている。」
クロダは話がそらされたと思い、改めて強く聞くと、サヨリは、頤に右人差し指を当てて、
「丸ノ内橋門から入りましたけど?」
小首を傾げて答えると、クロダ宰相は顔を真っ赤にして
「そんなこと聞いておらん!招待状はどうしたんだ!っと聞いているんだ!」
と怒鳴った。タケルヤマト皇太子は、声をあげて笑った。
「なんだ、招待状ならそう言ってくれたらいいのに。」
サヨリは、手にしていたポーチから数通の封筒を取り出して、クロダ宰相に手渡した。
「これは!」
受け取ったクロダ宰相が唸った。全て本物の招待状で4通有った。
「文句は、ないでしょう?」
アザとらしく上目遣いで、サヨリが微笑みながら聞いてきた。
「どうやって手に入れたんだ?」
クロダ宰相は、仕事上この手の招待状の発送先を検分する立場だったから解るが、同一人物に4通もの招待状を出す事はない。なのに彼女から4通もの招待状が出てきた。どうゆうことだ?
「あら?クロダ宰相殿。お悩みですか?」
クスクス笑いながらサヨリは、また一口赤ワインを飲むと、挑発するような目付きでクロダ宰相を見つめた。
タケルヤマト皇太子も、いつも冷静な親友の顔が焦っているのに気付き、成り行きを楽しんでいた。
「クロダ、こうゆう女性なんだよ、サヨリさんは。楽しいだろ?」
クロダ宰相は、改めてサヨリを見定めると、小柄な彼女は、見方によっては、清純な中等部の女学生にも見えるし、老練な熟女にも見える。
ふと気付くと、手にしていた4通の招待状が消えていた。
「あっ、招待状は?」
「もういいかなって思いましたので、返していただきましたけど?」
と言うサヨリの手には、先ほどの招待状が握られていた。
「いつの間に?」
クロダ宰相が悩んでいると、いつの間にか三人がいるテーブルを、数十名の令嬢達が囲んでいた。
「お嬢様方、どうかなさいましたか?」