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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第3章
104/144

番外編 さより放浪記5

5話目です


5/8

「おはようございます」

休み明け、足を引きずるように、入室してきたイレーナ。全身から疲労困憊のオーラ全開で出勤してきた。

「おはよう、ってなんかやつれてないか?大丈夫か?」

ノマード課長は、今にも倒れそうなイレーナに声をかけたら

「そう思うのなら、担当を変えてください。」

半分泣きながら訴えてきた。

「ど、どうした?そう言えばお前さんが出て行った後に、中央署の警護4課と公安4課が訪ねてきたんだが、それと関係あることか?」

それを聞いてイレーナは、その場で床に蹲り

「もうやだ!課長!最近、守秘義務の大安売りが有りまして、私、ひと山買っちゃいましたよ。」

蹲るイレーナに

「この場所でも話せない内容なのか?」

声をひそめてノマード課長は聞くが、イレーナは黙って頷くしかなかった。

「だろうなぁ。どちらも4課だから、ニイタカ絡みか」

その言葉を聞いてガバッと顔をあげたイレーナは

「課長!ニイタカ興産を、知っているのですか!」

とすがるイレーナを見て、気の毒そうな目でノマード課長は

「あぁ。お前さんは、知らなかったのか、その隠語。それは、精神的に辛かっただろう。」

「もう、辛いって言うとかの騒ぎじゃないです!その中でサヨリさんがいつも通りの口調で話すし、げんさんは、気を遣うって事をして欲しいし、ヤマトさん、お前は立場考えて行動しろよ!」

ゼイゼイ息をしながら、思いの丈をぶちまけるイレーナ。

「ヤマトさんって。おい!とんでもない方と会って」

よろよろと立ち上がり、カバンの中から1本の五合瓶を取り出すと

「課長、お土産です。唯一良かったのは、このお酒が酒蔵のご厚意で、格安に買えた事ですね。」

課長に手渡した。

「おっ、ありがとうな。おい!これは、崋蓮!しかも!磨き六分五厘じゃないか!」

「そうです。私の家の冷蔵庫にも入っていますので。」

「いやいや、いくら格安とはいえ、結構しただろう?払うから、いくらだった?」

「課長の気持ちでいいです。」

「持ち合わせがこれしかないけど、いいか?」

と言って弐萬圓をイレーナに渡して、酒瓶を受け取ると、自分の更衣ロッカーに入れた。

イレーナは、少し微笑んでお金を大事に財布へと仕舞った。

「しかし、お前はサヨリさんと酒蔵見学に行ったんだろう?どこでニイタカ興産と関係するんだ?」

イレーナは、自分で入れたお茶を持って、自分のディスクに座り

「あれは、事故ですね。」

遠い目をして事の顛末を語りだした。

「そもそも、警護4課のあのオバハンが、サヨリさんに因縁をつけるから、サヨリさんが激オコになって、事態の収拾に奔走したマクラーレン警部が可哀想でした。」

はぁと息を吐き

「なぜかサヨリさん。目の前に居られるヤマトって方が、ニイタカ興産の跡取り候補第一位の方って知ってて、全てをぶちまけて警護4課に、慰謝料に今後一切口出し禁止の約束をさせてしまい、それからのマクラーレン警部の顔が辛そうでした。私も、かなり胃にダメージを蓄積しましたよ。」

「マクラーレン警部って警護4課のトップだぞ。」

「そうなんですか?」

「あぁ、やり手の警部だ。」

「サヨリさんの猛攻には、耐えきれませんでした。私も、知らなくてもいい情報を知りましたし。」

また、遠い目をするイレーナ。

「例えば?」

「守秘義務項目です。」

「仕方ない。それで?」

「マクラーレン警部さんを、灰にしたあと、サヨリさんの矛先は、ヤマトさんに向いたんですが」

「おい!ヤバいだろ!」

「大丈夫でした。げんさんが取り持ってくれて、船に乗るまでリムジンの中は宴会でした。」

目に光が無くなったイレーナ。

「大丈夫か?宴会は、楽しめたんじゃ」

油の切れたロボットのように、顔をぎこちなく横にふるイレーナ。

「跡取り候補第一位のヤマトさんに、酌されて楽しめますか?課長は。」

そのシーンを想像して

「無理だな。」

「でしょう!3人は、本当に楽しそうにしているんですよ!私とマクラーレン警部さんは、恐縮する以外どうすれば良いのか、教えてください。」

「大変だったな。」

ノマード課長はイレーナを労いの言葉をかけるが

「ここからが、もっと胃が痛くなるんですけど?」

上目遣いで、聞きますか?と無言で訴えかけてくるイレーナ。

「まだ、何かあるのか?」

「チャーター船と言う名の、どこかで見た紋章付きの豪華クルーザーに乗り込み、一路酒蔵のあるフシミナダに向かうんですが、船内に関しては触れないでください。何も語れません。ただ言えるのは、すごく豪華な船内でした。出された食事も豪華でしたけど、味?そんなもん、分かりません。三人は、ここでも宴会。しかも、ヤマトさんが酔った勢いなのか、お家に関する禁句条項を言い出すし、げんさんが、とある酒席での禁則事項の守秘義務項目の暴露するし、どこで仕入れたのか、サヨリさんが禁句条項に守秘義務項目の話をしだすし。それを聞いてヤマトさんが、側近の方に何か指図するし、それで調子に乗ったげんさんが、守秘義務項目の禁則項目を言い出すし、」

「イレーナ。少しだけでも、話せないか?」

イレーナは、ハイライトの消えた瞳で

「明日の朝、目の前のチヌ湾に、二人仲良く浮かびますよ。いいんですか?」

と、ノマード課長を見つめるイレーナ。視線を反らして

「うん。聞かなかったことにしよう。酒、ありがとうな。」

と言って、自分のディスクに戻って行った。

イレーナは、机の上に突っ伏して

「私、これからどうすればいいんだろう。」

マフィアに悪徳政治家、あらゆる組織に捜査の為、潜入して実績はトップのイレーナだったが、今回ばかりは、先が見えなかった。

「そもそも、どうしてサヨリさんは、あんな情報を持っているのかな?そう言えば、教えてくれた、検索条件とパスワード。怖いけど、やってみるかな?」

イレーナは、自分のPCを立ち上げ、ネット検索でサヨリに教えられた検索条件を入力してみた。

すると、検索条件にヒットした項目が1件。

「どうして本当に有るかなぁ。」

イレーナは、PCの画面を見つめて頭を抱えてしまった。

しばらく悩んだ末

「課長!一緒に確認して欲しい案件が有りまして、こちらに来てもらえますか?」

「何だ?」

ノマード課長はイレーナのPC画面を見て

「何を確認するんだ?」

「サヨリさんが、あまりにもニイタカ興産の情報に詳しいので出所を聞いてみたのです。で、教えられた場所が、ここなのですが、私はあまりにも、ニイタカ興産の情報を知りませんでしたので、正しい情報かどうか判断出来ません。ノマード課長。一緒に確認してください。」 

「わかった。その前にその回線はちゃんと迂回しているか?」

「大丈夫です。局内の回線を使わず、公衆回線からダミーアカウントを使って、プロキシサーバーを7台、踏み台PCを5台経由させてから接続してますので。」

「よし。行け。」

イレーナが、1件の項目をクリックするとパスワードの入力を求めるポップアップが出るが、イレーナは、それを無視して、教えられた通りにエンターキーを押し込んだ。

すると、画面には一面テキストの表示に変わった。そこには、皇帝陛下及びその家族、側近に関する情報がびっしりと表示されていた。

「うっ!これは、!」

真偽はともかく、一般人が目にしてはいけない情報だった。それに気づいたノマードが引きつりながら

「イレーナ!切れ!」

「はい!」

イレーナは、瞬時に回線の強制切断、PCを手動で強制的に電源オフさせた。

しばらく二人は、無言だった。ノマード課長は止まらない冷や汗をぬぐいながら、

「イレーナ。トンでもない物を見つけしまったな。おい!これは、マジでヤバいだろ!」

とこぼした。

「ノマード課長。課長がそんなに焦るって事は、本物なのですね。どうしてこんなページが公開されているのでしょう?」

顔色を失ったノマード課長は

「知るか!ちょっと下に行ってくる。お前は、追跡されてないか確認しておけ!」

「了解です。」

 慌ただしくノマード課長は、部屋を出て行った。イレーナは、電源を落としたPCの黒い画面を見て呟いた。

「サヨリさん。貴女は何者なの?」


 地下3階迄、階段で駆け降りたノマードは、歴史資料室のドアを荒々しく開け

「サヨリは居るか!」

と怒鳴った。

朝の日課となっている、新聞を見ていた室長は、

「騒がしいな。どうした?」

サヨリは、自分のマグカップにホットココア入れて飲みながら、

「どうかしましたぁ?」

と、二人仲良く平和な、のんびりした返事が返ってくる。若干のイラつきを感じながらノマードは、

「サヨリさん。貴女がイレーナに教えた事で聞きたい事がある。」

「サヨリちゃん。また、何かしたのか?」

「失礼な。室長、あたしは無罪です。」

「先輩も同罪です。サヨリさん!貴女は何者ですか?」

ノマードがサヨリの前に立ち、問い詰めるが、当のサヨリは、ほへぇっとした顔をして

「あたし?カキモト、サヨリですが?年齢の設定は確か25歳だったかな?オリオン腕太陽系第三惑星、地球のアジア圏、日本生まれの女の子ですけど?」

小首を傾げて答えると

「そうじゃない!」

ノマードは、サヨリのディスクを叩き

「帝国の何を調べている!」

「美味しいお店や楽しい事ですが?」

と、自分のPCの検索画面を見せる。そこには、女の子好きするような飲食店や小物店が表示されていた。

ノマードは、拳を握りしめ

「何しに帝国に来た!」

サヨリは、反対側に小首を傾げて

「何しに?特にないですけど?」

ノマードは、頭をかきむしり

「じゃ、何故帝国に来た!」

「乗っていた船を沈められて、救助と言う拉致監禁?ま、自分の意志で来たわけじゃないですね。」

ノマードは唸りながら天井を見上げた。その肩をポンポンと叩き室長が

「落ち着け。ここに来た理由は何だ?」

虚ろな目で室長を見たノマードは、

「先輩!この娘を早急に、祖国に送り返しましょう!」

「どうやって?国交も無い国に、移民希望で審査も済んだ言わば帝国国民に、どうゆう理由で国外追放するんだ?」

「国家反逆罪でどうですか?」

「あたし、何かしました?」

「してないから、困っているんだ!いくら調べても、疚しい事の一つも出て来ない。善良な国民以外の評価を付けようがない。」

「そうでしょう。」

サヨリが胸を張り得意げな顔をする。

「それなのに、どこから集めてくるのか、貴女の持っている情報は、あまりにも危険過ぎる。即刻情報の放棄、収集の禁止を命じます。」

「えぇ~。嫌です。」

「では、国家情報漏洩罪を適用します。」

「証拠は?」

「そこにあるPCとか家宅捜査をすれば、」

室長が、ため息をつきながら

「ノマード、そりゃ証拠にならない。」

「どうしてですか?」

「毎日、俺がチェックしているからさ。ついでにいえば、彼女の家からの回線も毎日チェックしている。それなのに、今まで不審な事例は1件もなかった。」

「何ですと!」

驚くノマードと

「室長!乙女の秘密を見るなんて!ヒドイ!」

むくれるサヨリ

「じゃ、あれらの情報はどうやって?」

困惑するノマードにサヨリは、

「ノマード課長さん?もしかしたら、あたしがイレーナさんに教えた物を見たのですか?」

「あぁ」

力なく答えると、

「あれ、何でした?あたし、怖くて見なかったんですけど」

と、ワクワクするような話が聞ける、好奇心の塊のような目で見つめてきた。

「見てないだと!」

「は、はい。だって、携帯メールに届いた怪しいURLですよ。怖いじゃないですか!

誰かに開いて貰おうとしたんですよ。そっか、そんなに危ない事が書いて有ったんだ。良かった、開かないで。」

と言って、サヨリは携帯メールの画面を表示した。そこには、【重要情報】と書かれたメールが有った。

送り先のアドレスも無償で作れるメールサーバーからの物だった。

「ね、怪しいでしょう?」

「確かに怪しいメールだな。で、ノマード。ここに書いてあるURLには何が有った。」

「私の一存では、口外できる事ではありません」

「それほど、ヤバい情報なのか?」

黙って頷くノマード。

「サヨリ、そのメールを俺のアドレスに転送してくれ。」

「いいですよ。ポチっとな。」

室長は、自分のPCのメールソフトを立ち上げサヨリからのメールをチェック。問題のURLを解析するが

「トンでもないURLだな!サーバーが特定出来ない。あっ!消えた。」

室長はしばらく解析調査をしていたが、諦めた顔になり

「逃げられた。」

「逃げられたってどうゆう事ですか?」

ノマードが聞くと

「調査用の使い魔で調べたんだが、アクセスしてすぐにサーバーを消しやがった。見事だな。何一つ、データーを手に入れることが出来なかったよ。手練れが絡んでいるな。サヨリに送って来たメールを逆探しても、存在しない住所のサーバーに行きついたよ。もちろんそこのサーバーも消えたがね。」

「室長、すごいですね。そんなこともできるんですか!」

サヨリが感動していると

「昔取った何とかさ。でも、腕が鈍ったのかもしれんな。昔なら全てのデーターを引っこ抜けたのに、手がかりの一つも取れなかった。」

と、カーソルが点滅している画面を見て、歳取ったなぁとつぶやいていた

「そんなことないですよ。その速度で追跡されたら、普通は逃げ切れませんって。でも、そんなにPCが得意なら、なんでここの資料は、まとまってないんでしょうか?それがすごく不思議です。」

と、サヨリが資料室の中を見渡してつぶやいた。







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