番外編 さより放浪記4
4話目です
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17時25分
壁にかかった時計を見て
「さて、もうちょっとしたら終業時刻。準備しておこうっと。」
サヨリは、机の上を片付けて更衣室から、サヨリが持つと巨体なスーツケースを持ってきた。
「おっ、サヨリ、どっかに行くのか?」
椅子に座り、新聞を見ていたコンドゥラ室長が、興味深げに声をかけてきた。
「ちょっと、お誘いを受けたので、酒蔵見学に行って来ます。室長にも何かお土産買って来ましょうか?」
「酒蔵か、なんか旨い酒を頼むわ。しかし、大きな荷物だなぁ。何が入ってるんだ?」
大きなスーツケースを見てコンドゥラ室長が言うとサヨリが
「たいした物は入ってないですよ。ほとんど空の酒瓶ですから。」
「空瓶?なんでそんな物を持って行くんだ?」
不思議そうに室長はしたが
「このお酒は、空瓶と引き換えにお酒が買えるんですよ。」
と言って、サヨリはスーツケースから1本の五合瓶を取り出し室長に見せた。酒のラベルを見た室長は
「この酒は!」
思わず叫んでしまった。
「さすが!室長も知っていましたか!このお酒、美味しいですよねぇ」
その酒瓶には『崋蓮 別選特別醸造 磨き六分五厘』の文字が書かれていた。
「これを買いに行くのか?いくらするんだこれ?」
「そうですよぉ。このお酒は買えないお酒として有名みたいですけど、酒瓶があれば、通販でも簡単に買えるんですよ。空瓶を送れば、中身を詰めて着払いで送ってもらえますよ。まっ、今回は、持って行くんですけどねぇ。」
「もしかして、その酒は、空瓶と引き換え出ないと、売ってもらえないのか?」
「そうですよぉ。だから、お酒自体は安いのに、それを知らないからプレミアム価格になるんですねぇ。」
「酒は安い?おいおい、この酒は市場で買うと、5万圓以上はするんだぞ。蔵で直接買えば安いのかもしれんが、そもそも、蔵売りはしてない酒なんだが。こんな高級な酒をお前がなぁ。」
コンドゥラ室長がしみじみ言うと
「じゃ、コンドゥラ室長のお土産。このお酒でいいですか?」
「かまわないが、この空き瓶と引き換えだろう。お前の分がなくなるんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。あたし、この瓶ならあと3本持っているんで、なんなら1升瓶も2本あるんで、全然大丈夫ですよぉ」
ニコニコ顔のサヨリを見て、
「わかった。じゃ、金を払うから、この瓶を譲ってくれ。そして、中身も頼む。」
「えぇ~。お金なんていいですよ。タダでもいいんですよ。お世話になってるし。」
「そうはいかん。部下に高い酒をタダでもらうなんて事は出来ん。」
ニコニコ顔だったサヨリの顔が、すっと商売人の顔つきになり
「じゃ、いくらくれます?あたしの購入金額よりも上だったら、その条件を飲みましょう。」
「急に顔つきが変わったなぁ。」
「そりゃ、商売となると話は別です。どうします?」
しばらくコンドゥラ室長は考えて
「2万5千圓でどうだ。」
サヨリがニヤリと笑って
「契約成立です。お金があたしの口座に振り込まれたのを確認後、商品をお渡ししますね。」
「本当にいいのか?後から値上げしてもダメだからな。」
少し焦ったようコンドゥラ室長は、財布より2万5千圓を出すとサヨリに渡した。
「室長、現金払いですか?いいですけど。領収書いります?」
「かまわん。領収書?もらえるならもらうが、お前の手書きじゃ、公的にどうかな?」
「領収書は、正規の価格の奴を酒蔵でもらってきます。それと一緒にお酒を渡しますね。きっと驚くでしょうけど。あたしへの手数料と思ってください。ぷ、ぷ、ぷ。」
サヨリは笑って、空瓶をスーツケースに仕舞いこみ、
「じゃ、室長。終業時間になりましたので、行ってきます。」
スキップをしそうな雰囲気で、部屋を出て行った。
「なんか上機嫌だったなぁ。あの酒、あいつはいくらで買っているのかが気になる。」
後日、酒の料金が3千圓なのを知り、もっと安く言えばよかった、と悔やむことになった。
待ち合わせの、メガロキャッスル駅中央口、噴水広場前にサヨリが着くと、すでにイレーナが来ていて、サヨリを見かけて、駆け寄ってきた。
「イレーナさん、早いですね。仕事、大丈夫だったの?」
「課長に、酒買ってくるから、早く帰させろって言ったら、定時退社できたの。」
とイレーナはニコニコしていた。
「サヨリさん、ここからどうやって、移動するんですか?蔵田宗山酒造のある惑星フシミナダまで行くには、ここより地下鉄タウメで中央宙港に向かった方が早くて、楽ですよ?」
イレーナはサヨリが指定してきた、ここの場所が気になって仕方が無かった。
ここからは、各種定期便が発着する中央宙港に行くには、かなり不便な駅で待ち合わせをしていたからだある。普通ならば、地下鉄タウメの側にある、泉の公園で待ち合わせするのが一般的だから。
サヨリも困った顔で
「あたしもそう思うんだけど、タダで連れて行ってもらう関係で、ここに指定されたんだ。」
と答えて、人待ち顔で周囲を見渡した。
「えっ?タダ?どういうことですか?」
イレーナは、初めて聞いたことに驚くと、
「あれ?言ってなかったっけ?今回の酒蔵見学は、酒蔵とスポンサーのご厚意が有って、往復の交通費と現地の宿泊費はタダなんだよぉ。しかもチャーター便で直行よ。」
「いやいや、聞いてませんけど。でも、それはいいですね。中央宙港からは、惑星フシミナダまで直行便が無いからどうやって行くのかと思ってました。」
「でしょ。あたしもそうじゃなかったら、いつも通り瓶だけを送っていたよ。」
と言って、サヨリが笑ってると
「サヨリちゃん。久しぶりじゃのぉ。元気にしておったか?」
と初老の男性が声をかけて近づいてきた。
「げんじぃ、お久しぶりです。あたしは元気だったよ。えっと、こっちは今回一緒に行く友達のイレーナさん。イレーナさん、こちらは蔵元宗山酒造の杜氏頭の梁本源治郎さん。」
サヨリは、初対面である2人に紹介した。イレーナは、ノマード課長から聞いた梁本源治郎の人柄を思いだし
「は、初めまして、サヨリさんの友人のイレーナと申します。」
と言って深々と頭を下げるイレーナ。それを見て笑いながら
「は、は、は、そう固くなりなさんな。サヨリちゃんと友達なら、儂とも友達じゃ、仲ようしておくれ。」
と言って、頭を下げた。
「そ、そんなもったいないお言葉。」
そんなイレーナを横目で見ながら、サヨリに
「それでじゃがな、サヨリちゃん。もう3人増えるんじゃが、我慢しておくれ。そいつらが来なけりゃ、もっと楽しめたんじゃがのぉ。」
梁本源治郎は、少し思案顔になった。サヨリが小首を傾げて
「どんな方ですか?」
と聞いたとき
「こちらにいらっしゃいましたか?余り人混みは避けていただきたいと、申したはずですが?」
と、黒のビジネススーツを着た妙齢の女性が現れた。
「ふん、ワシがどこで人と待ち合わせしようが勝手じゃ。」
梁本源治郎が、機嫌悪く発するが
「そちらが、翁の待ち合わせをされた方ですか?」
かけている眼鏡を直しながら、いぶかしそうにサヨリとイレーナを観察するような目付きで、頭から足先まで見る女史。
「何をじろじろと見ているのですか!失礼な人ですね!」
イレーナが睨み付けるが、サヨリは両手を広げ
「別に、怪しい物は持ってないよぉ。心いくまで調べてちょうだい。お嬢ちゃん。」
とニコニコ笑いながら女史に近づいて行った。
「お嬢ちゃんですって!あなたより、歳上だと思いますが?」
サヨリが、眼鏡をかけて女史の周りを一周して
「だって、プロならそんな感情を顔に出しちゃダメだよぉ。だから、お嬢ちゃん。」
と言って、手にした物を見せた。そこには、彼女の警察官としての身分証明書が有った。
「あなた!移民者が何をスリ取ってるのですか!犯罪ですよ!」
と引ったくるように取り返して、いきり立つ女史だが、
「えぇ~。落ちてたのを拾っただけなのに、犯罪者呼ばわりされた。」
サヨリの目に涙が溢れて、つうっと頬を伝って行った。周りの通行人達は何事と足を止め、成り行きを見だした。
「このオバサン!ヒドイ!拾ってあげた物を、あたしが取ったって言って犯罪者呼ばわりにするんです。!皆さん、どう思いますか!あたし、何もやましいことしてないのに!」
と、サヨリが泣きながら大声をあげて座り込んだ。女史は、周りの騒ぎを静めようとして
「私は、警官です!彼女は移民者です。立ち止まらないで。解散してください。」
と、警察官の身分証明書を掲げながら、叫んだが
「えぇ。あたしが移民者だから、強制逮捕するのですか!何にもしてないのに。このオバサン、ヒドイ!」
さらに大声で泣きじゃくってうずくまるサヨリ。
すると、人混みをかき分けて制服警官が二人現れ
「どうしたのですか?」
「実は、」
女史が話そうとしたら、サヨリが先に
「お巡りさん、このオバサン、本当に警官なんですか?拾ってあげたその証明書、あたしがスリ取ったって言って、犯罪者呼ばわりするんですよ!」
泣きながら訴えた。それを聞き警官の一人が
「申し訳ありませんが、その証明書の確認をさせて頂きます。」
「移民者を信じて、私を疑うのですか?」
「いえいえ、確認するだけです。それとも、やましいことがあるのですか?」
しぶしぶ警官に渡して確認をしてもらう。そこに、人混みをかき分けて黒いビジネススーツの男性が現れた。
「カルシア!何している。早く戻って来い。」
「すいません。少しトラブルに巻き込まれまして、」
「何言っているの!この騒ぎはもともと、あなたがサヨリさんを犯罪者呼ばわりしたからじゃない」
イレーナが、泣きじゃくるサヨリを抱きしめながらカルシアを非難すると
男性は、警官に証明書を見せながら
「中央署警護課のマクラーレンと言う。何があったか知りたい。」
「その女性は、あなたの部下か?」
「そうだ。」
「同じ警察関係者だから言いたくはないが、彼女には移民差別主義者の疑いがある。矯正治療した方がいいだろう。」
「彼女が何か?」
「そこの泣いている彼女を、移民者と言うだけで犯罪者に仕立てようとした疑いがある。彼女が拾ってあげた警察官証明書を、事もあろうかスリ取ったと主張していた。今、監視カメラの画像チェックしたところ、間違いなく彼女は、後ろに落ちていた証明書を拾っている事が確認出来た。」
「本当か?」
「なんなら、監視カメラの画像を送るが、見るか?」
「頼む。」
マクラーレンの署で貸与されている、警察専用端末に送られてきた画像には、確かに足元に落ちている画像があり、一瞬監視カメラの前を誰かが通って見えなくなるが、次の画像には映って無いことから、拾われたと思われる画像になっていた。それを見たカルシアとマクラーレンは
「そんな馬鹿な!私は証明書を胸ポケットに入れてあったので、後ろに落とすなんて考えられません。」
と言って、画像は根拠が無いと主張するが
「カルシア。だったら、監視カメラに映ったこの映像はどう説明するんだ?」
「何か細工したに決まっています。」
それを聞いた制服警官が、
「何を言っているんだ?監視カメラの保存映像だぞ?細工する時間があったと思っているのか?」
カルシアもそれは解っている。この短時間で録画された画像を加工する時間は無かった。
「お前が全面的に悪い。しかも、彼女達も今回の警護対象者だろう。お前の今回の行動は、警護対象者の安全のため任務から外す。署に戻れ。追って処分を言い渡す。」
カルシアは、悔しげに顔を歪めて
「わかりました。署に戻ります。」
と言って、立ち去った。マクラーレンは、警官達に
「ご迷惑をお掛けしました。あとはこちらで対処いたしますので。」
「では、よろしく。」
警官が帰って行くと、周りの野次馬も興味が無くなったのか、いつも間にか居なくなっていた。
後に残った、イレーナとサヨリ、梁本源治郎を見てマクラーレンが、
「申し訳ありませんでした。」
と三人に頭を下げた。
「彼女は、今回の重要な警護任務について、過剰気味に対処してしまいました。その為、皆さまに不快な気分にさせてしまい、申し訳ありません。」
頭を上げようとしないマクラーレンに対し、梁本源治郎は不機嫌な顔で
「もう良い。それより、あの方をこんなに待たせても良いのか?」
その言葉でやっと顔をあげて
「お気遣いありがとうございます。こちらに、車を待たせてありますので、着いて来て下さい。」
マクラーレンは、三人を地下駐車場に誘った。
1台の大型高級リムジンが、アイドリングして駐車していた。
マクラーレンがリムジンに駆け寄り、待機していた同僚に耳打ちすると、苦虫をかじったような顔になりどこかに連絡をした。
三人の荷物は、手早くトランクに仕舞われ、マクラーレンが、リムジンのドアを開け
「どうぞ、こちらへ。」
三人が乗り込むと、車内とは思えないゆったりとした、優に10人が寛げる空間が広がっていた。
そこには1人男性の先客がおり、にこやかに三人を出迎えていた。
「翁、遅かったですね。心配しましたよ。そちらは、翁のご友人達ですか?」
「まったく。イラン迷惑をかけられたわ。だから、お主とは行きとうなかったんじゃ。すまんなぁ、サヨリちゃん。」
まだ俯いて顔を上げようとしないサヨリに向かって、謝罪する梁本源治郎を見て
「翁、何かあったのですか?」
「なければ、この子が泣く事はなかったんじゃ!まったく!」
吐き捨てるように言うと、マクラーレンが
「梁本源治郎様、少しお言葉が過ぎるのではないですか?」
「お前の部下じゃろう、原因は!」
マクラーレンが、サヨリに向き
「申し訳ありません。きつく処分いたしますので、サヨリ様、私にできる範囲であれば、謝罪いたしますので。」
と、頭を下げたのを見て梁本源治郎は、
「あっ、その言葉は、」
と言いかけたが、先にサヨリが顔を上げて
「本当?」
「はい。」
梁本源治郎は、リムジンの天井を見上げ
「言っちまいやがった。サヨリちゃん、手加減してやってくれよ」
とこぼしたので、マクラーレンは首を傾げるが、サヨリの言葉で理解する
「では、精神的慰謝料として、499,900圓を請求します。
それと、今回の旅行において、あたしに対し行動の制限を設ける事を禁止してください。
この2件が履行されなかった場合、あたしは移民局に、詳細なレポートを発行いたしますので、ご了解ください。」
と、泣き顔ではなく真顔で要求を伝えてきた。それに対しマクラーレンは
「移民局へのレポートは困るが、そのような大金。急に慰謝料と言われても、すぐに用意ができるわけないだろう。少し時か」
言いかけたが、その言葉を遮りサヨリは
「払えますよね。警護4課マクラーレン警部殿。確か、警護4課の機密捜査費は、警部ならば権限で、50万圓未満ならば経理担当に連絡すれば、即日に送金してくれますよね。領収証の発行も使用理由の報告もしなくても、良かったですよね。」
と、言ってニヤリと笑った。引き攣った顔になるのを押さえられず、マクラーレンが
「なぜ、それを知っている。」
サヨリはウィンクしながら、人差し指を立てて唇に当て微笑みながら
「乙女の秘密です。」
「しかし」
判断に苦慮しているマクラーレンに対し、サヨリは
「しかしも、かかしもありません。げんじぃが手加減してやってくれって言ったから、これだけで勘弁しようと言ったんですけど?なんなら手加減無しに攻めましょうか?
そうですねぇ、一連のやり取りを、担当所轄に言えば、監視カメラの映像をくれるでしょうから、ここに録音したデーターと一緒に、移民局に連絡するとか、人権擁護団体に連絡するとか、泣きながら、出版社に向かうとか?裁判所に駆け込んで、訴訟を起こすとか?何なら公安局に、反社会的行動している警官がいると駆け込みましょうか?」
サヨリは指を折りながら、駆け込む場所を一つ一つあげていった。焦ったマクラーレン警部は
「わかった!払う!だからそう言った事は止めてくれ!」
ニッコリ笑うサヨリと、何も言えないマクラーレン。それを楽しげに眺めていた男性が
「サヨリさんの機嫌が治ったようなので、車を出しても良いかな?」
と運転手に合図すると、車は滑るようになめらかに走り出した。
車は、地下駐車場を出て帝都高速道路に入り、走行も安定したところで
「さて、今さらなんだけど、自己紹介ってどうかな?」
誰しもお互いの顔を見るだけで、言葉を発しようとしなかった。その重い空気に負けたのは
「言い出しっぺから、するとしようか。」
と件男性
「ヤマト、と言う。職業は、まっ、会社役員をしている。と言っても親の会社で、金持ちのボンボンで、親の金で遊び歩いていると言った方がいいかもな。よろしく。」
おちゃらけた感じで、自己紹介をした。それをうけて
「ヤマトさんですか。私は、サヨリさんの友人のイレーナと言います。職業は、官庁内の事務をしています。」
「へぇ、どこの官庁?」
ヤマトが聞くが
「あなたのような方が来られても困るので、言いません。」
「それは、残念。サヨリちゃんだっけ?君はどうかな?」
ヤマトは楽しそうに、サヨリを見つめるが
「見つめても、何も出ませんよ?あたしは、イレーナさんと同じ建物の地下3階の資料室勤務の臨時事務員です。あたしのところに来ても、埃は出しますがお茶は出ませんよ。それより、ヤマトさんって、もしかしてニイタカ興産のご関係の方ですかぁ?」
サヨリが笑顔で返す言葉で、一瞬ヤマトの顔が強張るが、すぐに柔和な笑顔を浮かべ、
「どうかな?なんでそんな事を思ったんだい?翁が何か教えた?」
「ワシは何にも言っとらん。」
梁本源治郎は笑って答え、サヨリが
「だって、帝都内でこんなリムジンを乗り回して、護衛に警官を付けれる人って、そう多くはないので。」
イレーナだけは、話が見えないようだった。
「翁、この子面白い。」
「だろう。」
「だけど、サヨリさん。僕が」
「長男さんですよね。跡取り候補第一位の。」
マクラーレンが横から咎める様に
「サヨリさん、貴女はわかってその口調なのですか?」
と、注意するように言うと、チラッとマクラーレンを感情の無い目で見て、
「あれ?あたしになんら行動の制限を設ける事を禁止ってついさっき、言いましたよね。マクラーレン警部?それを破る気なら、考えがありますけど?」
マクラーレン警部の顔が引き攣っていた。
「あ、貴女は、最初からわかっていたのですか!」
「さて?なんの事でしょう?あたしは、ニイタカ興産の跡取りの痴れ者と話をしているだけですけど?だったら、なんらマナーとか関係ないですよね。同じ民間人なんですから」
とマクラーレンに対してサヨリが言い捨てると
「ワハハハハ!」
ヤマトが、突然大声で笑いだした。
「本当に面白い!翁はどこで、サヨリちゃんと知り合ったんだ?」
「ふん、ワシが教えるとでも?」
得意げに答えると
「それでこそ、翁だな。サヨリちゃん。どうだ?僕の所に来ないか?」
「オイオイ、なんでお前のような青二才の所に、儂のかわいいサヨリちゃんを行かせなならんのか?断る!彼女は蔵に来てほしいのだからな。」
「仕方がないか。翁の方が先だしね。でも、僕はサヨリちゃんが来ることを待ってるからね!」
「行かすわけなかろう!なぁサヨリちゃん。」
「はいはい、あたしは蔵の中にも、堀の奥にもいきませんから。そもそも、勝手に所有権を決めないでくださいね。あたしは自由に歩きますから!」
と言って、リムジンに装備されている冷蔵庫から冷えた発泡ワインの白を取り出し、勝手にコルクを抜いて、人数分のグラスへと注ぎ
「ここで巡り合った記念に、乾杯しましょう!!」
と言って全員に発泡ワインの入ったグラスを配った。
「何に乾杯するんだい?」
ヤマトの問いにサヨリは
「新たな出会いに!」
サヨリの乾杯の合図で、車内全員がグラスの酒を干した。
イレーナは、飲み干したグラスに刻印されている紋章に気づき青ざめながら、同じように顔色の悪いマクラーレンに
「マクラーレン警部、もしかしてとは思いますが、ヤマトさんって?」
「あなたが思った方です。」
「なんで、サヨリさんは平気なの?」
「私が知りたいです。サヨリさんってどういう方なのですか?」
冷えたワインを飲みながらバカ騒ぎしそうな3人と、体調不良で倒れそうな2人を乗せたリムジンは、一路宙港に向かった。