番外編 さより放浪記2
2話目
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さよりは、収容センターで受けた一般常識テストが、満点とはいかなかったが、高得点を出したおかげで、収容センター内での学習と職業訓練は、難易度が高く高度な学力が必要な物が用意されていた。
と言っても、さよりにとって片手間で出来る内容だったが、真面目にがんばっているように、見える振りをしていた。
センターでの生活が半年を過ぎたころ、一定の移民カリキュラムが終了したので、就職か就学の打診されるようになった。学校に通いたければ、そこそこの大学入試が、受ける事が出来るということだった。
ただ企業就職は、帝国内での学歴が無いので、主に中堅企業の案内が多く、そのため一流企業と言われている大企業に比べ賃金が少ない物が多く、何より首都から遠い企業ばかり紹介されていた。
首都圏に行きたいさよりは、大学入試を考えるようになっていたが、ある日センターから斡旋してくれる就職案内の中に、さよりの琴線に触れる案内があった。
それは、今まで見た中で最低な賃金だけど、国のとある外郭団体の出先機関の臨時職員募集だった。
仕事内容は、一般事務としか書かれておらず、必要資格もない。採用期間は1年。場合によって契約更新する。となっていた。
さよりがそこを選んだ最大の理由は、事務所のある住所だった。
その事務所のある住所は、首都の皇帝がおられる城の敷地内に立つ、総合官庁館1号棟地下3階となっていた。
運がよけりゃ、皇帝様に会えるかな?と考えて、その応募を受ける為に、センター事務所に行くと、親しくさせてもらっているセンター長のジェンガ女史がいたので
「ジェンガさん、あたし、ここに就職したいんだけど、いいかなぁ。」
と言って、さよりは求人募集の用紙を見せた。ジェンガは、人の良さそうな笑顔で用紙を受け取ると
「あら?サヨリちゃん。良いのがあったの?どれどれ?あぁこれねぇ。あまりお勧めしないわよ。と言うか止めなさい。」
と、顔を曇らせた。
「どうしてですか?」
「ここはね、貴女のような可愛くて優秀な女の子が行くような職場じゃないわ。だいたい、お給料が帝国最低労働賃金じゃない。いつもの事ながら、官公庁の癖に舐めた事をしてくれる役所だこと。やめなさい。貴女なら、もっといいお給料のところに行けるわよ。」
汚らわしい物を見るような目付きで、ジェンガはその求人表を睨み付けた。
「でも、首都のど真ん中の事務所なんで、そこがいいんですけど。」
ジェンガは心配そうな顔で
「貴女は、首都で働きたいの?」
「はい!だってせっかく田舎の星系から、帝国に来たのですから、首都で働いている方が、なんかかっこいいじゃないですか!」
さよりは、キラキラの笑顔でジェンガに訴えた。ジェンガは、ため息を一つ吐くと
「さよりちゃん、よく聞いて、ここは政府の外郭団体でもあまりいい噂のきかない所なの。しかもその出先機関の事務って。貴女のような優秀な子が、行くところじゃないわ。首都で働きたいなら、もっとましな職場を探してあげるから。ね!」
ジェンガは、小さい子を諭すように、さよりを説得しようとしたが、さよりは少し考えて
「ジェンガさん。やっぱりここがいいです。」
「貴女解っているの?ここの事務所の大元は、国家公安局なのよ。貴女のような移民を監視して、何かあれば刑務所に送り込むような、人でなしがいるようなところなのよ?ましてや、その外郭団体の出先事務所なんって、ロクな人間がいると思えないわ。そんなところに行くなんて!絶対にやめた方がいいわ。」
と、ジェンガは強い口調で、さよりを説得しようとした。しかし、さよりは周りを見て
「ジェンガさん。そんなこと言ってもいいんですか?公安局って怖いところなんでしょ?」
と声を潜めてきくと、
「そのぐらい大丈夫よ。今の言葉がたとえ録音されてても、逮捕する事が出来ない契約があるからね。」
「どうゆう事ですか?」
ジェンガが話してくれたことによると、
移民センターで働く職員は、移民希望者の不利になるようなことをしてはいけない、と定められていて、移民希望者が就職を決めるときも、その企業等の情報は包み隠さず、分かる範囲で全ての事を教えることとしている為だった。
よって、国家公安局の事をここで何を言っても、職員が公安局に逮捕されることはないのだと言う。
それに、移民者を一定期間監視するのは、移民管理局ではなく国家公安局で、何かあれば即逮捕して、強制的に自白させて刑務所送りにしていると言われている、移民にとって恐るべき役所だったのである。
だから、移民者にとって最大に煩わしい政府機関として、移民管理局が最初に教える部署は、国家公安局と言うことになっていた。
今回の求人票は、国家公安局が何を思って出したのかが、わからない求人票であって、移民局側としては、出来るだけ行かせたくない職場の筆頭だった。
「だからね、そんな所には行かせたくないのよ。わかった?」
「はい、よくわかりました。」
「じゃ、ここへは行かないわね。」
ジェンガは、ホッとして他のいい求人を探せようとしたが
「いいえ。是非ともそこへ行きたくなりました!。」
と、さよりがいい笑顔で答えた。
「貴女!私の話を聞いてました?」
ジェンガは真っ赤になって、さよりに大声を出したが、当のさよりは首を傾げて
「聞いてましたよ?そんなに他の政府機関の職員さんからも、嫌われている職場のところで働けば、変な男に引っかかることは無いでしょう?違いますぅ?
しかも、冷徹に犯罪者を血祭りにあげる国家公安局ですよ。後ろ暗い物を持っている人が、そんな部署の女性と付き合いたいって思いませんでしょ?
と言うことは、首都での生活していて、変な男に絡まれることが無いっていう、安全策になりませんか?
それでもしつこく迫ってくる男は、敵国のスパイかもしれないでしょう?
公安局関係の外郭団体の臨時とは言え、職員なのですから、もしもの時は、率先して動いてくれるような気がしますし。
移民者を監視しているならば、すぐにでも駆けつけてくれるような気がしますよ?」
と言ってジェンガを見ると、呆れたような顔で
「貴女、都会での身の安全を、公安局に確保させようとしているの?」
「はい。そうです。だって、四六時中見張られるのでしょう?そのぐらい利用しても罰が当たらなと思いませんか?」
ジェンガは、やれやれと言った顔になって、
「貴女の、そのポジティブすぎる考えはどこから来るのかしら?」
と言ってさよりを見つめた。
さよりは、えへへへ、っと笑うだけだった。
2か月後
首都のターミナル駅から歩いて、高層ビルが立ち並ぶ区域を抜けると、自然あふれる広大な公園が現れる。
その公園の遊歩道を歩いて、10分もすると現れる、国の重要歴史文化財でもある、皇帝が住まう城の城壁が現れる。
城の周りは堀が築かれ、城内に行くには3か所ある跳ね橋のどれかを通らねば、中に入ることは出来ない。
跳ね橋の手前には、近衛兵が詰めている検問所が有り、城内への人と物の出入りを、24時間監視していた。
朝、城内の職場へと通勤する職員で、一番混む二の丸橋で最近の話題は、1人の女の子であった。
3日に1回は、近衛兵から職務質問されるという、その女の子カキモト・サヨリだった。
今日も近衛兵の検問所で捕まり、IDカードと体内マイクロチップの認証が行われていた。
「あのねぇ。なんであたしだけが、こうしょっちゅう検問で引っかかるの?おかしいと思わない?」
サヨリは、車椅子に座ってうんざりとした顔で、検問所にいる若い近衛2等兵を睨みつけていた。
「申し訳ありませんが、貴女様の姿と年齢が・・・・・・」
「はぁ?女性に年齢を聞くの?最低!そもそも、何回ここで足止めされたと思っているんですかぁ?」
サヨリは、いい加減頭に来ていた。そもそも、サヨリがここまで検問所に引っかかるのには訳が有った。
それは、サヨリの見た目の姿と、ID登録されている年齢とのギャップだった。
サヨリの見た目年齢は、帝国の基準で見ると、12歳からせいぜい15歳ぐらいに見え、うっかりすると初等学校に通う生徒に見えるのであった。
で、IDに記録されている年齢は、25歳なので、IDをかざしして通るセキュリティー・ランドゲートで、通行を監視している近衛兵によっては、違法IDを使ったと思われ、扉が開かず検問所の方に連れて行かれるのであった。
最悪。スタンガンにて身体の自由を奪われた後、拘束され詰所に入れられてしまうのであった。
今日のサヨリは最悪のパターンだった。
サヨリは車椅子に座り、イライラしていると詰所の奥から、1人の身体のがっしりした男性が調書のファイルを持って現れた。
「また、サヨリちゃんかぁ。」
サヨリの顔を見るなり、やれやれと言った顔になり、横に居た若い近衛2等兵に向かって
「お前、今日配属されたのか?」
聞かれた近衛2等兵は、起立し気を付けの姿勢で
「はい!ルーヘェン近衛少尉殿。本日付けで配属となりました、ルッツ近衛2等兵であります!」
と言って敬礼をした。ルーヘェン近衛少尉めんどくさそうに手を振ると
「わかった、わかった。で、君がこの女性を怪しいと思って、捕まえたんだね。」
「はい!そうであります。ID情報と見た目があまりにも違いすぎるので・・・」
報告するルッツ近衛2等兵の言葉を遮りルーヘェン近衛少尉は
「ルッツ近衛2等兵。ID情報は間違ってない。この女性は、カキモト・サヨリ 25歳で合っているよ。」
と言って近くの椅子に腰かけた。
「サヨリちゃん、毎回ごめんなぁ。またうちの新人がやらかしたようだ。」
と言って、サヨリに頭を下げた。
「ルーヘェンさん!まったくもう!いつになったら、安心してあのゲートをくぐれるんですかぁ?あたしは。」
「善処しているんだが、新人が来るたびにだとなぁ。さすがに怒るわなぁ。」
セキュリティー・ランドゲートが、検問所で強制的に手動で閉められると、アラームが鳴り150万Vの電圧のスタンガンを、身体に当てられるのあった。その為、下半身がマヒの状態になり逃走を防ぐのだが、サヨリが車椅子に座っている理由は、スタンガンを当てられたためだった
「あのスタンガン、めっちゃくっちゃ痛いんですよ!いい加減訴えますよ。しかも、職場への遅刻の理由が、検問所での誤認って毎回書く、あたしの身になって下さいよ。今日もしっかり遅刻だし。」
さすがのサヨリも、怒り心頭モードだった。ルーヘェン近衛少尉は、手を合わせて
「すまん!こちらからもサヨリちゃんの上司の方によく言っておくから。ルッツ近衛2等兵。この方にお詫びをしろ!それから、反省文を書いておけ!」
「サヨリ様。申し訳ありませんでした。」
と言ってルッツ近衛2等兵は。サヨリに頭を下げたのであった。
「あと、いつもの事ですけど、この車椅子借りて行きますから、後で取りに来てくださいね。」
検問所を後に、車椅子で職場に向かうサヨリだった。
「サヨリちゃん。また引っかかったんだって?」
サヨリが職場で書類整理をしていると、昼前になって出勤してきた、上司のコンドゥラ室長が声をかけてきた。
「室長。何とかなりませんかぁ?これで今月3度目ですよ。」
「君が来て、2ヶ月もたたないのに、よくまぁ、それだけも引っかかるのもだねぇ。」
と、笑いながら自分の席に着いた。
サヨリの職場である、国家保安局の外郭団体、『国家歴史研究会』は、この部署の責任者である定年後再雇用のコンドゥラ室長と、臨時職員のサヨリの2人しかいない部署だった。
「笑い事じゃないですよぉ!何とかして下さいよぉ!さもないと、ここでは移民が虐待受けてますって、移民局の方に報告書を上げなきゃいけなくなりますよ?」
サヨリは、ぷんすか、激怒モードだった。
「サヨリちゃん。その報告書だけはやめてくれないか?この通りだ。」
と言ってコンドゥラ室長は手を合わせて頭を下げた。
外郭団体とはいえ、公安局の部署が移民を虐待しているといった内部報告書を上げらた日には、監査局からの指導が公安当局に入って、大騒ぎになってしまう。
「貸しですからね!」
「恩に着るよ。でも、サヨリちゃんの貸しは高くつきそうだから、すぐに返したいから、今晩用事があるかい?」
「特にないですけど?なんですか?」
「夕飯をご馳走してあげようと思ってさ。」
コンドゥラ室長は、笑顔で提案してきた。
「それでチャラですかぁ?」
サヨリは、ジト目でコンドゥラ室長を見つめると
「ダメかな?なんでも好きなものを頼んでいいから、ね。」
と、コンドゥラ室長が手を合わしてきたので、サヨリはしばらく考えて
「焼肉覇王の、特上食べ放題コース。飲み放題もつけて。それで手を打ちましょう。」
と、声高らかに宣言した。しかし
「それでいいの?焼肉なら海雲荘でも構わないよ?」
コンドゥラ室長の言葉に、一瞬目を彷徨わせたサヨリだが、
「そんな高級店、コンドゥラ室長、お金大丈夫なんですか?給料日明日ですよ?」
心配そうに聞くと
「これでも、室長だからね。サヨリちゃんよりはお金をもらってるから、大丈夫だよ。で、海雲荘にする?」
サヨリはしばらく悩んで、
「やっぱり焼肉覇王でいいです。残念ですけど、海雲荘に行くには、あたしの今日の私服は、カジュアルすぎますので。くっそう!こんなことならもうちょっと、いい服着てくればよかったぁ。」
と、悔しそうに行先を確定した
「じゃ、仕事終わりに行こうか。」
「はい、ご馳走になります。それにしても、室長。再雇用にしては、お給金もらいすぎじゃないですか?年収約1500万圓って。」
といって、サヨリは自分のPCの画面を見ながら、羨ましそうに言った。それを聞いてコンドゥラ室長は、
「おいおい、冗談はよしてくれよ。いくらなんでも、そんなにもらってないよ。」
と笑いながら、否定したが
「えぇ~。でも、検索したら出てきましたけど?」
と言って、画面を見せた。そこにはランキング様式の感じで、30名ほどが顔写真入りで、現在の部署名と年収が表示されていた。
「サヨリちゃん。これってどうやって出したんだい?」
画面を見ながら、コンドゥラ室長は真顔で聞いてきた
「コンドゥラ室長のPCでも検索できるはずですよ。やってもらえます?」
「ちょっとやってみよう。どうやるんだい?」
コンドゥラ室長は自分のデスクに座り、PCを立ち上げると、サヨリに検索方法を聞いてきた。
「まずは、公安局のイントラネットのトップ画面から、検索BOXに『職員 年収!』って入れてみてください。出ませんかぁ?」
しばらくコンドゥラ室長が操作すると
「出ないよ。なんか特殊な検索したんじゃないの?」
室長のPCの検索画面には、0件と表示されていた
「室長、ここ間違ってますよ。『?』じゃなくて『!』です。それでもう一度やってみてください」
検索ワードを修正して、再検索をした室長は画面を睨みつけて
「出るね」
とつぶやいた。
「でしょう」
コンドゥラ室長は暫し画面を見つめてから、自分のPCをシャットダウンさせると、慌しく外出の用意をして
「サヨリちゃん。ちょっと出かけてくる。定時までには戻るから。それから、焼肉に行こう。」
と言って、部屋を出て行くその後ろ姿にサヨリは、
「わかりましたぁ。約束ですよ。定時に遅れたら、焼肉覇王じゃなく、海雲荘の最上級コースに代わりますからね。」
と、声をかけた。
「構わんよ。じゃ、留守番を頼んだよ。」
と言って、コンドゥラ室長はドアを閉めて出掛けていった。
「さて、夕飯はおごりで、贅沢に海雲荘の焼き肉が食べれる。」
サヨリは、嬉しそうに仕事をするのだった。
コンドゥラ室長がう向かった先は、国家公安局第一情報処理課
「おい!ノマードは居るか?」
と言って部屋に入ると、奥の机に座っていた男性が
「コンドゥラ先輩。どうしたんですか?そんなに慌てて。何かありましたか?」
「居たか!ちょっとお前の端末で、『職員 年収!』って検索してみろ。」
すぐにその通りにしてみると、険しい顔つきになり
「コンドゥラ先輩。これをどうやって知りました?」
「うちに入った新人の事務員が、偶然見つけたと言っている。本人は、年収しか興味を持たなかったが、後ろに表示しているコードは、不味いだろう。」
サヨリが検索したデータには、年収以外に公安局内部機密情報が、載っていたのであった。
「早急に対応します。その事務員、どこかの諜報員では?」
「可能性は有るが、証拠は無い。サナトリア王国からの移民だからな。」
「あぁ、例の娘ですか。」
「そうだ。監視下に置いて、サナトリア王国の情報を、いろいろ聞かせてもらっている、あの娘なんだが」
「どうしたんです?」
「あんな無防備な娘は、初めて見た。良く言えば天真爛漫。上流階級の教育を受けているようで、礼儀やマナーはしっかりしている。それでいて、庶民クサさがある。はっきり言って、世間知らずな娘だからか、目を離せなくなっている俺がいる。まるで父親の気分にさせる娘だ。」
「まさか!公安局1冷徹と言われた、コンドゥラ先輩を懐柔させるなんて。」
「ノマード、今夜付き合え。あの娘と約束してな、焼き肉を喰いに行くんだが、女性職員を連れてこい。出来れば彼女の家に入って、探りをいれたい。」
「どうしてですか?」
「あの娘と話していると、情報を引き出しているようで、逆に情報を引き出されている感じがする。第三者の目で、確認してくれ。」
「先輩がそう言うぐらいならば、かなりの手練れですね。わかりました。潜入調査が得意な部下を連れて伺います。」
「よろしくな。」
焼き肉 海雲荘
「へぇ。サヨリさんって大学に行っていたんですか!」
「レイーナさん。行ってたって言っても、卒業してないから、大したことはないし、しかも、帝国の学歴に成らないんだから。」
サヨリとノマードが連れてきたレイーナは、焼き肉屋で出会ってすぐに打ち解けあって、知らない者が見たら、久しぶりに会った旧友同志が、仲良く焼き肉を食べながら、グラスを重ねているとしか見えなかった。
もちろんレイーナは公安局職員で、5年のキャリアを持つ公安局第一情報処理課ノマード課長の秘蔵っ子で、潜入捜査官としてトップの実績がある24歳の女性だった。
そこそこ酔いが回った頃合いを見てレイーナが、サヨリにさりげなく質問をしだした。
「サヨリさんが行って大学で、何を学んでたんですかぁ?」
「そんなもの、興味ある?」
「ありますよぉ。私、大学に行って無いので、大学のキャンパスライフに憧れるんです。ノマード課長も、興味あるでしょう?サヨリさん、うちの課長は、こう見えても帝国大学法学部を卒業しているんですよ。」
「凄いですね!」
「いやいや、大したこと無いですよ。サヨリさんは?」
「あたしですかぁ。法学部に比べたら、ゴミのような学部ですよ。物理学系なんで。」
「何を専攻してたのですか?」
「マイナーな、多重積層空間における平行世界の観測って言うモノですから。」
「何なんですか?それ。」
「簡単に言えば、空間を折り畳んで別世界が出来る?って学部だよ。」
と言ってサヨリは、近くに有った紙いっぱいに複雑な公式を書いて、
「こういう計算式が、あと20は、出てくるんだよね。だから、人気無くてねぇ。」
それを見たレイーナは、
「大卒ではない私には、よくわかりません!という事で、サヨリさんなんで、帝国に移民申請したんですか?」
酔ったふりして強引に、話を変えるレイーナだった。サヨリは、笑いながら
「それは、簡単。あたしの乗っていた採掘船に、帝国の軽巡洋艦が砲撃してきて、大破轟沈したので、命からがら脱出する時に意識を失って気が付くと、帝国の攻撃してきた軍艦に救助されてて、そのまま帝国に連れられて、母国に帰れなくなったので、仕方なく移民を選択しただけだから。大したことないでしょ?」
と言って、ビールを飲んだ。
それを聞いた3人は、気まずそうに黙った。レイーナは、酔いが覚めて
「えっと、うちの(帝国)軍艦が、サヨリさんが乗っていた民間船が砲撃して沈めた?って本当ですか!」
「本当だよぅ。移民局から、連絡がなかったの?」
コンドゥラは、
「いいや、そのような事が有ったとは、聞いていなかった。」
「そうなんだぁ。民生官の人も軍に何か調査するような事言ってたからねぇ。」
「軍が、横やりをいれたか」
「どうしたんですかぁ?そんな暗い顔しちゃって。あたしは生きてたんですから、ゼンゼンOKですよぉ?」
と言って、サヨリは焼けた肉を頬張っていた。イレーナが
「じゃ、この職場を選んだのは?」
「ここしかねぇ、首都の職場が紹介されてなかったんだよねぇ。お給料だけならもっといいところ有ったもん。」
だろうねぇっとサヨリを除く3人が、うなずいた。だからこそ、疑っていたのだが。
サヨリが居た移民センターは、首都からもっとも遠くにあるセンターで、働くだけなら首都迄の間に、帝国最大の商都トレーダーに帝国第二の都市キレや、人口はそれほどでもないが帝国の交通の要所、グレセントが存在し、学業に進むにも、首都迄来なくても学園都市とも言われる、アラクサンドリアが有った。
「どうして首都に拘ったんですかぁ?」
「だってレイーナさん。せっかく帝国に来たんだから、首都を見たいじゃない?」
「それだけですか?」
「それだけですよぉ。もしかして、あたしがスパイかなんかと勘違いしてるのぉ?」
と言ってサヨリが、爆笑しだした。
「あはは、うける!あーちゃんが聞いたらどう思うだろう。お、お腹が痛いよぉ!」
と、涙を浮かべるほど腹を抱えて笑い続けた。
「サヨリさん。大丈夫?」
レイーナが声をかけると、
「大丈夫、大丈夫。ちょっとツボに入っちゃって、爆笑しただけだから。そっか、そう思われてたんだぁ。室長。あたしを、そんな風に見てたんだぁ。」
とサヨリは、上目遣いでコンドゥラ室長を見つめた。コンドゥラ室長は、咳払いをしながら目を反らして
「いやいや、つい、昔の悪い癖で、いろいろチェックしてしまうんだ。その、すまん。」
と、謝罪の言葉を言ったが、
「別にかまいませんよぉ。あたしだって、室長の立場なら、いろいろ調べますもん。で、どうですか?スパイ容疑は、晴れましたか?」
サヨリは、ニコニコしながらコンドゥラ室長に聞いた。
「そうだな。今のところはシロかな。」
「ありがとうございます。お姉さん!特上カルビと特上ロース追加、生中一つ!」
「まだ食べるのか!」
と驚く3人をしり目に
「だって、室長の奢りだし、笑ったからお腹空いたし、のど渇いたからねぇ。」
ニコニコ顔で、答えるサヨリ。
「そういえば、さっき『あ~ちゃん』って言ってたが、サヨリさんの友人ですか?」
ノマードが聞くと
「あたしの天敵でもあり、背中を任せれる強敵だよ。元気…だよね。きっとイチャイチャしてるんだろうなぁ。」
サヨリは、ちょっと遠い目をして言ったが、急に怒りの表情になり
「イレーナさん!どう思います?結婚したとたん、見せつけるように人前でいちゃつくって!」
と言って、ウエイトレスが持ってきた中ジョッキの生ビールを、一気に飲み干した。
「思い出したら、なんかムカついてきた!お姉さん!生中おかわり!」
来た肉も、すぐに網の上で焼かれ、焼き上がると同時にサヨリの口の中に消えて行った。
「サヨリさん、落ち着いて。私が話聞きますから、場所変えませんか?」
レイーナが荒れるサヨリに声をかけると、
「レイーナさん。わかった。この後あたしんちで飲み直しましょう!いい?」
「いいですよ。この後女子だけで盛り上がりましょう!」
「いいね!室長!レイーナさんと急用が出来ましたので、先に帰ります。今日は、焼き肉、ありがとうございました。レイーナさん。行くよ!」
「あっ、待ってください。課長、後は、よろしくお願いいたします。」
と言って、サヨリとレイーナの二人は店を出ていった。
残されたノマードとコンドゥラは、苦笑いをして、
「ノマード。どう思う?」
「そうですね。面白い娘ですね。」
「諜報員とは思えないだろ。」
「確かに。でも、シロとはまだ言えません。後は、レイーナがどこまで探れるかですね。」
「だな。しかし、天敵で背中を任せられるって、どんな仲なんだろうねぇ。」
「有る意味、うらやましいですね。」
「しかし」
と言ってコンドゥラは、サヨリが走り書きした先ほどの紙を見て
「ノマード。こんな公式をサラサラ何も見ずに書けるって、彼女頭がいいな。」
「まったくです。とりあえずこの公式は、専門家に見せましょうか?」
「お願いする。」