番外編 さより放浪記1
さよりが帝国についたころのお話です。
内戦の話を考えてると、気が付いたらこっちの話を書いてました(^^;
現実逃避とも言いますが、しばらくお付き合いくださいm(__)m
とりあえず、毎日1話、8話連続掲載します。
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「あれ?ここ、どこ?」
さよりが目を覚ますと、見慣れない天井があった。
ベッドに寝かされていたが、迎賓館のゲストルームの豪華なベッドでもなければ、宇宙の涯コロニーの安宿のボロベッドでもなかった。
質素ではあるが清潔な白いシーツが掛けてあり、少し消毒薬の香りが漂う小部屋に寝かされていた。
「あら、気がついたのね。体調はどう?」
ちょうど、部屋に入ってきたらしいストロベリーブロンドのロングヘヤーをサイドで纏めた女性に声をかけられた。
「あの~、ここどこですか?」(美人!)
さよりは、その女性に聞くと
「帝国海軍所属、軽巡洋艦ベルナの医務室よ。私は、医務官のザラ。あなたは、宇宙空間に漂っているところを当艦が保護したの。自分が、誰かわかる?あと、私の指が何本に見える?」
と言って、右手の指を3本立てて、さよりの顔の前に出した。さよりは、ベッドの上で上半身を起こして
「助けて頂き、ありがとうございます。あたしは、カキモト、サヨリと言います。カキモトが姓でサヨリが名です。生まれは地球です。指は3本です」
と言ってさよりは、右手の指を3本立てて答えた。ザラは、手元のタブレット画面を見ながら、
「低酸素障害の脳のダメージはなさそうね。それよりのあなた、姓が有るの?貴族かなにか?」
「いえいえ、よく間違えられるのですが、私の国では、姓が平民にも有りますので。」
「そうなの?どうして貴女のような子が、こんな辺境にいるの?」
「一攫千金を狙って宇宙の涯に来たのですけど、そういえば、あたしの乗船していた採掘船はどうなったのでしょ?」
「ごめんね。この艦の弾が運悪く当たったみたいで。」
ザラは悪びれた事もなく教えてくれた。
「そっか、沈みました?」
「大破して廃艦されたみたい。捜索したけど、誰も乗ってなかったから」
「保護されたのは、あたしだけですか?」
「いいえ。あと3人いたけどね。身体に異常が無かったので、補給ベースで下船したわよ。貴女は、目覚めなかったから、ここに居てもらったけど。」
「そうですか」
「何か落ち着いてるわね。ほんとに貴族とか高貴な関係じゃないでしょうね?それか、スパイかしら?」
さよりは、きょとんとした顔をして、手を振りながら
「そんな、違いますよ。親も普通に会社務めている一般人でしたよ。だいたい、貴族だったら、こんな宇宙の涯まで来て、一攫千金を狙いませんよ。それに、スパイだったとしたら、こんなに寝込んでいるわけないですよね?」
「それもそうよね。」
と言って微笑んだ
「ちょっと教えて頂きたいのですが、この船、どこに向かっているのですか?」
「そう。もう少し早く意識が戻れば、貴女の祖国に帰れたかもしれないんだけど。」
と言い澱んだ。
「この艦が所属している艦隊の任務が終了して、母港のフィレンナル鎮守府に帰途中なの。あなたはそこで審査を受けてから、身の振り方を考えて欲しいの。」
医務官のザラが言うことは、さよりを救助した時すでに意識がなく、帰投した宇宙の壁調査基地には、意識不明者に対して対応出来る高度医療施設に空きが無く、医療施設が一番整っていたのが皮肉にもこの艦の医務室だった。
そのため艦内医務室で経過観察する事にしたのだが、1年間の調査宙域守備任務が終了して、母港に帰途する事が決まっており、さよりの扱いをどうするかで少し揉めたが(コロニー内の医療施設に預けるか?後任の艦隊に預けるか?)、結局漂流者救助扱いのまま、艦隊の母港まで連れて帰ることとなった。
そうして、出航したのがつい昨日なので、あと1日早く気がついていたら、そこから時おり来る、交易船に乗って母国に帰れたのだが、すでに出航して亜空間航路に入っていたため、引き返せないので一旦基地で入国審査を受けてから、帰国もしくは移住を決めることに成ると説明をしてくれた。
「母港に着くまでどのくらいかかるんですか?」
「帝都標準時間で、14日よ。あと、あなたを救出した時に、身元確認のため持ち物検査させてもらったわ。悪く思わないでね。一応軍艦なのでそれなりの手続きが必要だから。無くなったり壊れてないか確認してくれる?」
と言って、棚から煤汚れた中型のワンショルダーバッグを出してきて、さよりの前に置いた。
「こちらのリストによると、バックの中に有った物は、携帯端末機1台、小型端末機1台、女性用アンダーウェア2セット、財布が二つ、ICチップの入ったカードが4枚、硬貨が、中金貨5枚、中銀貨10枚、小銅貨20枚、我が国内では使用出来ないが大白銅貨3枚、小白銅貨7枚、となっているけど、間違いない?」
医務官のザラが、さよりに尋ねると
「お金は、そんなもんでしょ。あとは、この子達が動けば。」
と言って、バックの中からスマートフォンと愛用の2in1PCを出してきて立ち上げた。
「一応断っておくわ。その2台の端末機の中、調べさせてもらいました。」
「あれ?パスワードをどうしたのでしょか?それが解らないと中が見れないはずなのに?」
パスワード入力面を表示している画面を見せながら、さよりは不思議そうに聞くと
「軍にはね、そうゆうことを簡単に解除できる人がいるのよ。」
それを聞いて顔を真っ赤にして、さよりは
「何見てくれてるのですか!乙女の秘密を、」
と言ってPCを抱き締めた。その姿を見てザラは
「だったら、もっと複雑な物にしなさい!せめて5桁位に。担当者が呆れていたわよ。簡単で雑すぎるって」
「だって、めんどくさいじゃない。」
とぶうたれるさよりだったが
「まっ、性能的に仕方がないとも言っていたけどね。受け付ける文字が数字だけで、3桁しか入力できないって、あなたの国の学生ってそのレベルの携帯PCを使っているの?」
と聞かれ、さよりが恥ずかしそうに筐体にキズが付いているPCを撫でて
「いえ、この子達は10年以上前に作られた物なので。新しい子が欲しいんですけど、買えなくて。」
「そう。旧式なのね。でも、あなたお金結構持っていたわね?それで買えないの?」
「あたしは、夢の為にお金を貯めているんです。その為には、貯めておかないと」
「そう。がんばってね。」
「はい。」
と言って、PCの立ち上げにパスワード入力せず生体認証で、起動確認をするさよりだった。
(よし。偽装PC作戦成功。スマホの方もチェック完了。各種電波の確認、異常なし)
さよりが、心の中でつぶやくと小さくガッツポーズ
しばらく、操作をしてシャットダウン
「どう?端末は大丈夫だった?」
心配そうな顔でザラが聞いてきたので、
「はい!問題ありません!」
と満面の笑みで答えるさよりだった
それから14日後軽巡洋艦ベルナは、母港ズルイマがあるフィレンナル鎮守府に着いた。
さよりは、医務官ザラに連れられて鎮守府内の医務室で簡易診断を受けた後、続いて連れられて来たのは、豪華な執務室だった。
執務机で仕事をしている男性が、さよりとザラを見て
「ザラ一等医務官、報告の有った救助者は、その子か?」
(おっ!美形!)
さよりは、地球で言うと東洋系のイケメンを、眺めていた。
「はい。ガキバラ民政官」
「さて、どうしたものか。サヨリ・カキモト。あなたはどうしたい?」
ガキバラ民政官は、さよりを見据えて問いかけてきた。
「どうしたいって言われましても、何が出来るのですか?それと、サヨリでいいですよぉ。」
「ふむ。我々があなたに出来る事は、そう数多くない。」
「例えば?」
「そうだな。我が国に移民してもらうか、留学生として取り扱うか、旅行者とするかの三択だ。」
ガキバラ民政官は、机の上に3枚の書類を並べるとそう言った。
「結構ありますね。それぞれのメリット、デメリットを教えて下さい。」
ガキバラ民政官は、さよりを興味深く見つめ
「面白い事を聞くな。貴女は。」
さよりは、こてんっと首を傾げて
「そうですか?救助して頂いて大変ありがたいのですが、そもそも、あたしが乗っていた民間船に、そちらの軍艦が有無言わせずに砲撃してきて、乗っていた船を大破沈没させられて、命がけで脱出し気を失って、気が付いたらそのまま知らない国に拉致されて来たんですよ?良くて捕虜で、悪けりゃ奴隷とか、慰みものにされるとか思っちゃうじゃないですか。それより条件が上過ぎたら、なんで?ってちょっと疑いません?」
さよりの言葉で、ガキバラ民政官はザラ一等医務官を見て
「今の前半部分、報告書に書かれている内容に矛盾しているのだが、本当か?」
「若干誇張されてはいますが、本官が乗船していた軽巡洋艦ベルナの、威嚇砲撃の弾が運悪く、彼女の乗船していた民間採掘船に当たり、破損したため脱出して漂流していた彼女を救出した事には間違いありません。」
しばらく二人は無言で見つめあい、
「後で艦長と砲長に確認だな。他に要救助者は、居なかったのか?」
「あと3人救助いたしました。軽症の為に調査エリアで治療にあたり、その後は相手国に救助者を保護している旨を伝え、相手国からは後日迎えの船が来ることを確認しました。あと、放棄された艦内に本官も赴きましたが、要救助者も死者も見当たりませんでした。脱出ボートや脱出ポットの類いが有ったらしき場所を発見しましたが、すでに放出された後で何も残っていませんでした。」
ザラは、手にしていた救助時の資料の写真を添えて、ガキバラに説明をした。
「サヨリさん。今の報告に違和感は無かったかだろうか?」
ガキバラ民政官がさよりに尋ねると
「無いと思いました。ただ、」
「ただ?なんだね?」
「救出されてから思ってたんですが、なんで言葉が通じるのかな?と言う事と、あたしの付き添いがザラさんなのか?なぁって」
首を傾げてガキバラ民政官を見つめると
「確かに、そうだな。ザラ一等医務官を貴女に付けたのは、女性の下士官がザラ一等医務官しか居なかったのと、医務官だったからだ。言葉は、我が国の公用語なので、逆に我々からすると、貴女と言葉による意志疎通が出来る事の方が驚きなのだが、それより貴女の言葉は、母国語か?」
「生まれてからこの言葉ですけど?」
「では、文字はどうだ?」
と言って、近くに有った紙片に短い文を書くと、さよりに見せた。
「読めばいいですか?」
ガキバラ民生官が頷くと
「いろはにほへと、ちりぬるを、わかよたれそ、つれならむ、うゐのおくやま、けふこえて、あさきゆめみし、ゑひもせす。」
独特の節回しが有ったが、最後まで詰まらずに読みきった。
「ほぉ。凄いねぇ。」
ガキバラ民政官は、拍手をして絶賛した。ザラ一等医務官は驚きの表情で
「さよりさん!素晴らしいです!」
「えっと、どういうことですか?」
さよりは、訳が解らずおろおろしてしまった。
「すまない。帝国に伝わる短文なのだが、スムーズに読めるのは、皇帝に通ずる血脈が無ければ読めないとされていた。特に【ゐ】と【ゑ】だが、初見で読める者見たのは初めてだ。貴女は本当に貴族では無いのか?」
さよりは、どっかで日本人が建国に絡んでいると確信した。そこで
「違います。確かに旧かなが有りましたが、このぐらいあたしの国じゃたいがいの人が読めますよ。それより帝国は、建国何年になるのでしょうか?」
その言葉にザラが
「誰でも!それに、旧かな?って」
と言って驚いていたが、ガキバラ民政官は
「宇宙に進出して暦が変わってから、753年に成るが、初代皇帝からだと4989年に成る。」
意外と長寿の国家だった。
「初代皇帝様って?」
「群雄割拠で荒れていた、祖国を一つに纏め上げられた、初代皇帝織田信長公です。」
ザラは、少しうっとりとした顔でさよりに教えてくれた。
(えっと、どういうこと?織田信長ってあの織田信長かなぁ?でも、時空を越えた?どうやって?本能寺の時の爆発のエネルギーで?)
「織田信長公は、家臣の源義経と共に15年の歳月をかけて国を統一させたのです。」
(えっと。信長と義経?なんで同じ時代にいるのよ。もうワケわからない!)
混乱するさよりをよそに、しばらくザラが語っていたのだが
「ザラ一等医務官。貴官の信長公愛はわかった。しばらく黙ってくれないか。彼女が困っている。」
ガキバラ民政官がしかめっ面をしてザラ一等医務官に注意した。
「はっ!申し訳ありません。」
顔を赤らめて下を向いた。それをも見てガキバラ民政官はさよりに向き直ると
「さよりさん、先ほどの質問に答えよう。まずは、移民を選択した場合だが、メリットとして、我が国の市民権を得られる。市民権を持っておれば、我が国で生活する上で何ら障害を感じる事は無い。どこで生活しようが、どのような職業に就こうが自由だ。デメリットとして、貴女の個人情報を登録したマイクロチップを、手に移植させてもらう。そのチップがある限り、帝国内では貴女の場所の特定が可能となり、ある意味自由が無くなる。それと貴女は祖国に帰る手段を失うだろう。」
「どうしてですか?」
「マイクロチップについてだが、我が国民には全て移植されており、それ自体が身分証明書となっていて、買い物する時も手をかざすだけで決済できる。ただ、移民の方だけは、行動監視の為しばらくは、行き先とかのチェックされることがあると思ってくれ。我が国と貴女の国とは、現在国交が無い上に、言いにくいが仮想敵国になっており、情報漏洩を防ぐ観点から出国は認められない。」
「そりゃそうですね。市民権を使ってあらゆる情報を集めて敵国に寝返られると、たまったものじゃないですね。 監視と帰国できない理由は、理解出来ました。」
「次に、留学生扱いのメリットは、貴女の国に帰国できるし、我が国で長期に生活する事が出来る。就職は出来ないがアルバイト等非正規雇用を受けることが出来る。デメリットとして、今も言ったが正社員としての就職が出来ないのと、一部行動と情報の閲覧制限をかけさせてもらう。」
「それって、学校と宿舎以外何処にも行くなってこと?」
「さすがにそこまで厳しくはないが、そんな感じだ。最後に旅行者としてのメリットは、帰国できるのと、行動の制限はない。もちろん、我が国の法を侵さない限りだが。デメリットとして、就職はおろかアルバイトも認められない。公共情報以外の情報は開示されない。あと我が国の一部の公共施設の利用も出来ない。」
「一部の公共施設の利用って?」
「各種学校と図書館が主な施設だが。」
「図書館が利用できないのですか!それは辛いかなぁ?あと、手持ちのお金がなくなったら、どうなるんですか?働けないとなると。」
「さぁ?我が国の国民ではないので、救済センターに入れる訳も出来ないからね。国交が無いので強制送還も出来ない。」
「それは、結構つらそうな未来しかないですねぇ。」
さよりは、しばらく考えて出した選択は
「じゃあ、移民扱いでお願いします。」
と言ってにっこり笑った。
「それで良いのかね?帰国出来なくなるが?親とか心配しないのか?」
と、心配そうにガキバラ民政官がさよりに聞くが、さよりは手をパタパタ振って
「そんな事は、かまわないです。大したことじゃないですし、親も今の時代居ませんし。それより、移民手続きを終えたら、住む場所と職を斡旋してもらえるんでしょうか?」
ガキバラ民政官は、
「貴女の場合、我が国の語学勉強をしなくても良いようなので、後程、一般常識の試験を受けていただきます。その後、移民収容センターで約半年生活していただき、我が国に慣れて頂きます。こちらからも斡旋しますが、就職先を探していただき、就職が決まり次第収容センターを退去していただき、民間住宅へ移り住んで頂きます。」
「移民収容センターでの生活費は?」
「国が負担します。就職先が決まりましたら、就職祝い金として20万圓と3ヶ月分の家賃補助を付けますので、安心して下さい。20万圓の価値ですが、貴女の所持していた中金貨2枚ほどです。」
「わかりました。よろしくお願いいたします。」
と言ってさよりは、微笑んだ。