航海中の会話2
1回目の最長距離ジャンプによる、亜空間航行1日目が穏やかに終わろうとしている時、
突如艦体に強烈な衝撃を受けた
「何があった!」
いち早く自室から艦橋に走り込んだ幸一は、艦橋に居るかめちゃんに向かって叫んだ
「ただいま解析中です!」
かめちゃんが応え、次に艦橋に走り込んできた美由紀が、自席にもぐりこんで、被害状況の確認開始
「艦首下方衝撃痕発見!モニターに出します!」
モニターに写し出されたのは、船体の装甲に、何かがぶつかったような窪み
「なにかに当たったみたいやけど、何に当たった?」
ふら~っと、パジャマ姿のまま艦橋にきたさよりは、眠そうな顔というか半分寝ている状態で、自席に座るとなにかシステムをいじりだした。
「今の衝撃は何!!」
艦内着に着替えた明美と正、拓也が艦橋に走ってきた3人は、損害箇所を映し出しているモニターを見て
「うわ~、けっこう凹んでいるけど、大丈夫か?」
「かめちゃん!航行に障害は!」
「現在、亜空間航行を中止するような状態ではありません。ただいまより、修復作業を行います。」
かめちゃんは、修復ドローンに修理に向かわした。
「でも、何に当たった?」
「かめちゃん。避けられなかったの?」
「私にも、わからないんですよ。レーダーにも反応が無かったので。」
あの衝撃は外部から、何かが激突したとしか思われないが、ぶつかったと思われる物が光学モニターはもちろんレーダーにも映っていなかった。
モニターを見つめて、7人が議論している時、その時
「ふぁ~、政史く~ん。あの辺あたり主砲で、打ってくれませんかぁ~。」
さよりは、あくびをしながら、眠そうな声でモニターに映し出されている艦の後方に指を差した。
「かまわなのかな?」
政史は、かめちゃんをうかがうように見た。
「政史さん、撃ってもかまわないですよ。でも、さよりさん? ただの空間ですけど、なにか気になりましたか?」
かめちゃんは、同じ所をスキャンしたデータをチェックしながら困惑していた。
「やってみれば、わかるよぉ」
「政史さん、撃ってください」
「お許しを頂いたので、軽く撃ってみますか?」
政史は、火器管制システムを立ち上げて、準備
「何もない所を撃つからマニュアル標準で、出力は5%程度でいいから、おねがいね。」
「了解、了解。っと」
政史は、後方主砲のスコープを見ながらマニュアル標準で、さよりに示されたポイント付近に低出力のテラ粒子砲を発射した。
エネルギー弾は、なにも起こらず虚空に吸い込まれていった。
「さより、何も起こらなかったんだけど?」
「なにも無い空間ですからね。起きたらたら、それはそれで大変ですよ」
しかしさよりが、不満たらたらの顔で
「政史君の下手くそ!外したの!私が指示する座標にちゃんと撃ってよ!プンプン」
少し怒った感じで、座標を指示してきた。
「私が、昔から思っていたことの実証ができるはずなんだから!ちゃんと当てて!」
「ヘイヘイ、当てろって言われても、はいはい、この座標でいいんだね。」
「何も起こるはずは、ないはずなんですけどね。」
かめちゃんが空間を、スキャンしながらつぶやいた。
政史は、さよりに言われた座標に、今度は正確に撃ち込んだ。
再度撃ち出されたエネルギー弾は、何もない空間を通過するように見えたが、
なにかに弾かれ、派手に四散した。
「「「えっ!」」」
全員がモニターを凝視して
「なに、なに!今の!!」
かめちゃんが狼狽した声を上げた。
「なにに当たった?何もない所だよね!」
「もう1発撃って見るな。」
先の2発より、エネルギーチャージを多くして、発砲。
やはり、なにかに当たって、エネルギー弾は四散する
驚く7人を横目に
「よし!やっぱりあった」
と独り小さく、ガッツポーズをするさより。
「さより、何を見つけた!」
その様子を見て幸一は、さよりに尋ねた。さよりは、満面の笑顔で得意気に
「見えない小石だよ。 ブイ」
右手でVサインを作り、大きく前につきだした。
「えっ?」
「見えない小石??」
「なに、それ?」
「???」
全員の頭の中は、?マークでいっぱいに
「見えない小石だよ、わかんない?」
さよりは、にこにこして説明をはじめた。
「ほら、私ってよく何もない所でけつまずくでしょう。あれって、私がどんくさい訳じゃなくて、見えない小石にけつまずいただけなんだよ。ただ見えないし、小石だからけつまずく時に蹴っ飛ばしちゃて、どっかへ行っちゃってもとの場所に無いから、探しても見つからないの。けどね、小石はあるの!いつか証明して見ようと思っていたら、運良くかめちゃんが、何もない所でけつまずいたので、かめちゃんがけつまずくぐらい、大きな小石なら絶対見つかると思って、空間スキャンをかけたら、あれが見つかったの!」
と言って、先程から触っていた端末のモニターを見せた。
誰もが、大きな小石ってなんだ?とか、船がけつまずくわけないだろ。っと突っ込み所が多いにもかかわらず、全員モニターに釘付けになった。
「なんですか!これ!」
かめちゃんが食い入るようにモニターを見つめた。
そこには、小石のような3Dグラフィックが写し出されていていた。
ただ、大きさは周囲1kmを超えてはいたが。
しかし、通常の外部を映すモニターには、同じ座標には何も写し出されていない。
レーダーにも反応がない。
空間異常を示す痕跡も無いが、空間屈折フィルターを通した映像だけは、石のような形をした何かが映し出されていた。
かめちゃんが、おもむろに石のようなものが描かれている座標に向けて、30基のレーザーパルス対空機銃を連射。
対空機銃の弾幕による着弾の光の乱反射によって、今まで目では見えない物が、浮かび上がってきた。
その形は、さよりの描いた3Dグラフィックの絵そっくりだった。
「ね!ちゃんとあったでしょ!大きな小石。」
はしゃぐさより
対空機銃を撃つのをやめたかめちゃんは、考え込むように腕を組んで目を閉じた。
再び目を開けると
「そんな事が起きるのか。う~ん。みなさん。これは珍しい現象ですよ。」
6人の顔を見渡し最後に。さよりを見て
「さよりさん。大発見ですよ!あれは、亜空間内で解離した通常空間が消滅せず、空間が凝縮して独自の閉鎖空間を形成したものと思われます。」
興奮気味に語るかめちゃんに対し、
「そんなに、すごいことなの?」
さよりはちょっと引き気味に
「当たり前じゃないですか!!この私達がいるこの空間がどのように出来たかは、未だに謎に満ちていて、科学者たちが日夜研究していますけど、どれも、仮説、推測、想像、妄想の領域から出ることは無かったのですよ!もし、あの閉鎖空間が成長して新たな空間となるなら、宇宙の始まりは亜空間内での空間の分離分割が、宇宙の始まりと考えられるじゃないですか!!」
興奮気味から暴走してかめちゃんが、自ら計算したデータを7人に見せて、熱弁を奮った。
その姿を見て、明美が
「ねぇ幸ちゃん、私、思うんだけど、かめちゃんって本当にコンピューターかな?」
「明美、俺もそう思っている。発想して推測に移るってとこが」
「ぼく達の時代のコンピューターから数えてなん世代目になるかわからないけど、すごい進化したものだよね。」
「マサ、なに三人でこそこそ話しているの?」
4人が、かめちゃんの話をしていると
「美由紀さんとそこのお三方、私の話を聞いていましたか?どれだけすごいことか、解っています?」
「いや~すごいことですねぇ、幸一。」
「だ、だなぁ、政史」
「かめちゃんの思考回路って、すごいねぇ。こんな短時間でそこまで計算できるなんて」
とりあえず、その場を誤魔化すように、かめちゃんを褒めちぎった
「そ、そうですか、明美さん、ありがとうございます。」
テレるかめちゃんを見て
「かめちゃんって、頭イイね。そっか、わたしって小石じゃなくて、空間にけつまずいていたんだ。うん、なっとく。」
うんうんといって、首を縦に振るさより
皆は、それは違うと総突っ込み
「いやいや、さよりさんがいたからですよ。私も、久しぶりに興奮しちゃいました。」
「かめちゃんの演算システムのスペックは凄いって思ってけど、」
「明美さん、私のシステムは、同系艦の兄弟に対して、一世代前の改良版なんで大したことないですよ。」
手を振りながら、造船裏話をはじめた。
「もともと本来搭載予定の、新型のツインパラレル有機量子システムが目標スペックからかなり不足していて、このままだと艦全体の性能低下の要因になる事が、就航直前の最終チェックテスト中に発覚したので、新型の替わりに既存の高性能システムに入れ替えようとしたんですが、既存の高性能システムではサイズが大きくなるので、今あるスペースには格納ができない事がわかって、急遽一世代前の小型ツインパラレル有機量子システムを2台、分解して強引に元のスペースに合わせて、スパイラル結合したものに置き換えしたんですから。おかげでというのも変ですけど、当初の目標スペックの3倍の速さを叩き出してんですよ。」
「かめちゃんって、試作か、実験艦だったの?」
「違いますよ。私はタートル型1番艦のフラッグシップですよ。同型艦は計画では60隻造船予定で、私が眠りにつくまでに48隻造られていました。
でも、数回の手直しをした私は、就航が遅れてしまい、私の修正データを元に造船した2番艦のタートルプリンスの方が先に就航してしまって、どっちが1番艦だか」
かめちゃんは、肩をすくめて苦笑いをした。
「よくあることだよ。」
「造船中に問題点が発覚して、それを改修しているうちに、後続の2番艦以降が設計変更して先に完成することは、地球上でもよくある話だったわね」
「じゃ、かめちゃんと他の兄弟とは、一応は同スペックなんだね。」
「はい!弟達や妹達とは動力システム、演算システム以外同型ですから。」
にこっと笑って返事した
「かめちゃんの手直しをした所って、メインユニットなんだね。」
「そうなんですよ。だから、私だけが試作有機量子クワッドスパイラルシステムで、動力システムも、出力が同系艦の2倍なんですよ。」
「あれ?そうしたら他の同型艦のシステムは?」
「私の改修中に作製された、新型の有機量子ツインシステムに置き換えられて、動力システムは従来型になりました。」
「かめちゃんって、外見以外は他の同型艦より高スペックなんだ。」
「そう言っていただくと、うれしいです。」
にっこり笑いながら答えると、急に表情を消し暗い目付きで
「なのに、私に配属されてきた彼奴らは、大飯喰らいの起伏の荒い、扱いにくい異端艦って言いやがって、今度会ったら……」
「ねぇねぇ、幸ちゃん、あっちの方で、かめちゃんが壁に向かってなんか、呪詛を吐いてるんだけど」
「いろいろ、あったんだろう。明美。今は、そっとしておこう。」
「そうだね、ほんじや、俺は軽くシミュレーションで汗かいてくるわ。」
「私も、付き合ってあげる。」
「手加減しないからな。」
「望むところよ!」
拓也と明美は食堂から訓練ルームに向かった。政史も出て行く二人を見て
「ちょっと待って!僕も行くよ。みゅうはどうする?」
「私は、……」
少し迷った美由紀に、引き返してきた明美が、美由紀の腕を掴んで
「はいはい!一緒に来なさい!」
「えぇ~」
引きずって行った
「俺もシミュレーションで操艦の練習をしてこようかな?」
正がのんびり歩いて食堂を出て行く
「俺も、ちょっと調べたいことがあるから資料室に行くけど、さよりはどうする?」
「う~ん、もう1つケーキを食べてから考える」
「太るなよ」
幸一が笑いながら資料室へ向かう
呪詛を壁に刻んでいたかめちゃんが、気がついたように回りを見て
「さよりさん、みなさんは?」
「うん?もう出て行ったよ。」
さよりは、本日3つ目のケーキをパクつきながら、食堂の出口を指さした。
かめちゃんは、少し首をかしげて
「みなさん、練習熱心ですねぇ。」
「そうよねぇ。」
紅茶を飲みながらうなずく さより。
「さよりさん、私にも紅茶いただけます?」
「いいよ。」
さよりは、かめちゃんが差し出したティーカップに、ティーポットから紅茶を注ぐと、
紅茶の香りが二人の周囲を優しく包み込んだ。
「この香り。ホッとしますね。」
カップを口元に近付けかめちゃんが、香りを楽しみながら紅茶を口に含む。
その様子を見てさよりが、
「かめちゃん、幸せそうだね。」
と微笑む
「そうですか?確かに、インドでこの紅茶に出会った時は、この香りと味に、感動しましたよ。」
と言ってちょっと照れている
「かわいいなぁ、その顔。」
にこにこ顔で、かめちゃんを見つめるさより。見つめられて
「もう、さよりさん、からかわないでください!なんで、そんなに見つめるんですか!」
小首をかしげて
「う~ん、かわいいから?」
「もう!知りません!」
真っ赤になった顔を、さよりからそむけて紅茶を飲むかめちゃん
その姿を見て、さよりがかめちゃんに対して、衝撃的な一言を告げた
「かめちゃん、かわいいなぁ。本当にコンピューターなの?」
「えっ!」
かめちゃんは驚いて、テーブルに両肘をついて、両手で顔を支えるようなポーズで、
にこにこ顔のさよりを見た。
ま、ほのぼのガールズトーク?かな