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異きのこる  作者: 紅天狗
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三十五日目(妖精)

私はここ、ラドラの森に住む、花妖精のイリ。私たちは花から蜜、そして精気を得る事で生きる。今日もいつもと変わらず少し離れた湖の畔の花畑で蜜と精気を得て、家に帰ろうとしていた所だった。木々の間を飛び、家路を急いでいると何かの液体のような物を浴びた。

そこからが地獄の始まり。どうやら液は人間の罠だったらしく、空を飛ぶための羽が使えなくなってしまった。

私たち妖精は総じて高い魔力を持つ。そしてその魔力を羽へと通わせる事で空を飛ぶことが出来る。


でも私は違う。私は花妖精の落ちこぼれ。精気を上手く得る事が出来ず、高い魔力を維持する事が出来ない。結果、里の皆からは妖精の出来損ないと罵られ、里の近くにある花畑で精気を得る事を許されなかった。

どうも私が精気を吸う事に花が耐えられないらしく、枯れてしまう。里の花畑は皆が日々世話をすることで維持している。しかしそんな花畑を私は荒らす。


長い時間、世話した花を枯らす私は害虫そのものだろう。ただ花妖精の一族は個体数が少ない。また同族殺しはご法度とされており、殺すこともできない。これは妖精族に共通する掟だ。


里の長は私に言った。里の花畑を使う事を禁ズ。それは言うなれば死刑宣告だった。食べ物を得る事ができない。妖精の里は仲間が協力し巡回する事で魔物を駆除する。そうして安全を確保しはなを育てる。

強い魔力を持つ妖精が放つ魔法は強力だ。そんな妖精が集まっている所に侵入しようとする魔物は居ない。


しかし欲深い人間は、そんな妖精の監視網を潜り抜け、私たちを捕まえようと虎視眈々と狙っている。そんな所に里の外へと出かける私は恰好の獲物だろう。何度か人間を見かけてはいたが、通り道に罠を張られているとは思わなかった。


人間と私の命をかけた戦いが始まった。


飛べない、そして強い魔力を維持できないとしても、人間を遥かに超える魔力を持つ私に人間が敵う訳もなく。嬉々として近付いてくる人間に魔法を浴びせ、命を刈り取っていく。狩った命は20を超えた。私一人を狩るためにどれほどの人員を割いたのか。気配から察するにまだかなりの人間がうごめいている。


いくら人間を遥かに超える魔力を持つと言っても限界がある。何十回にも及ぶ魔法の行使で私の魔力は枯渇寸前だ。そして人間はそれに気付いた様で、一気に近付いてくる。今の私は飛んで逃げる事が出来ない。魔力もほとんど残っていない。小さい体を必死に動かして逃げる。


もう限界だった。私が何をしたと言うのか。食べないと飢えて死んでしまう。必死になって花畑を探し、一人で世話をして食い扶持を繋ぐ日々。がんばっても、がんばっても小さくなっていく花畑。

そんな綱渡りの生活をあざ笑うかの様に寄って来る欲深い人間。



どうして?

私は生きてはいけないの?

ただ生まれただけなのに。どうしてこんな事に?



人間に捕まったら一生籠にとらわれ、強制的に生かされると言われている。


人間は私たちの特性を知っている。蜜さえあれば生きれる事を。蜜にも精気は含まれるが、それだけでは足りない。精気は強い魔力を維持するために必要なもので、また妖精としての心を保つために必要な物だ。精気が少ないと心が死んでしまう。


人間はそんな事は気にしない。無理やり管を口の中に通し、蜜を注ぎ、そして生かされると聞いた。正に家畜だ。私たちが出す老廃物は高い魔力を持ち、高級な薬の素になる。

老廃物といっても変な匂いがする訳でもなく、強いて言えば甘い蜜の残滓。言うなれば私たちが使えない魔力の残りカスで、私たちには毒にしかならない。


人間は私たちを必死になって捕まえようとする。今もそうだ。痕跡を残さないよう逃げているが奴らの中に魔法を使えるものが居るらしく、私が放つ魔素の残滓を追って、ゆっくりとだが追いついて来ている。


もう逃げれない。


下草をかき分けて進んでいると、少し開けた場所に出た。大きな木。その根元の少し離れたところに、見たことも無いキノコが生えている。そこから漂う甘い香り。今までに嗅いだこと事ない甘さ。その色香に私は思考を狂わせた。

心も体も限界だった私は、ふらふらとキノコへと近づく。


いや近付いてしまった。甘味と思わしき液を舐め取るため、手が届く所に。そしてキノコが動いた。傘を私へと向ける。

目を見開いた。とっさに逃げようと体を動かそうとするが、遅かった。そう、このキノコは魔物だった。思考が止まる。驚きの余り体が固まり動かない。


視界いっぱいに映る傘がゆっくりと開いていく。十字に走る亀裂が開き、中は赤黒いヒダで覆われていた。そして中央から延びる舌のようなもの。亀裂のふちには牙がびっしりと生えてて・・・。


残り少ない魔力を使って魔法を使おうとしたが、舌が私を絡め取る。足元から釣り上げられるように口中へと引き込まれて行く。

纏わり付く肉の感触。ゆっくりと閉じる傘。暗くなる視界。私はその様子を他人ごとの様に見ていた。ヌルヌルして、ほんのりと暖かい肉が全身を包み込む。


動けない。魔法を使おうとしたが、力が霧散していく。このキノコが吸っている・・・?

そして私は諦めた。人間に捕まっても家畜として生かされるだけ。それこそ地獄だろう。この魔物に食われた方が万倍ましだ。


できたら痛くしないで欲しいな。そんな事を考えながら私は目を閉じた。

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