三十五日目
ほんのりと香る甘味液による虫の誘引により食糧事情が改善。飢えることなく力を蓄える事に成功いている。ステータスも順調に伸び、当初とは比べものにならない生命力、魔力を得た。
どうやら他の生物、というか魔物だな。これを食べることで自らの力を強化できるらしい。あれだ、経験値奪取によるレベルアップと言うやつだろう。
虫を屠り続ける事で毒薬生成が(零)から(壱)へと進化。より強い薬物を作り出すことが出来るようになった。イノシシモドキを軽く撃退できるほどの効力だ。まあ前世基準で言えばスズメバチの毒、といった程度だろうか。
どうも誘引している虫の多くが毒薬技能を持っていると思われる。その辺の毒草などを食べることで耐性や毒性を獲得しているんだろう。とは言っても虫からはこれ以上の技能進化は得られない。漠然とした感覚だが、そんな気がしている。
なんと言えばいいか、相手の強さと言ったものを感じ取る事ができるようになった。これは魔素吸収が(零)から(壱)へと進化いた事による変化だろう。予想では、この世界の生物は総じて魔力を保持し、その体から魔素を放出しているのだろう。
その魔素の強度というか強さが、その生物の強さの基準なのではないかと思っている。
で、なぜもう技能進化は起こらないかと判断できたかと言うと、周りの生物・・・虫が俺よりも格下に感じ取れるようになったからだ。どうも格下の生物からの経験値奪取はほとんどできない模様。つまり俺のレベルアップもほとんど起こらないようになった。
とは言っても格下だろうと食べれば体を維持できるのでひとまず安心。
これが、格上もしくは同等の生物でしか飢えを凌げなかった場合、悲惨だったろう。俺は動くことが出来ない。運に天を任せ、格上の生物を待ち、そしてそいつを屠るなどムリゲーにもほどがある。
とは言ってもこのままでは精神が持たない。生きる事が出来るだけ。そんな生活に耐えれる訳がない。とりあえず最低限動けるようにならないと話にならないのだが・・・これだけは判る。今はまだ無理だ。またモゲて地面に転がるだけだろう。
何かがある。この状態を改善する方法。手段が。
とりあえず考えられるのが、種としての進化だ。RPGでよくあるヤツだな。経験値を貯める事で上位種族へと進化できるアレだ。
が、そこで問題になるのが経験値奪取の打ち止め状態だ。確かに虫を食べれば微量ながら力を得る事は今でも可能だが、莫大な量を得ないと効果を得る事が出来そうに無い。
これは現実的ではないな。ただ、以前であった熊やらイノシシは今の俺では太刀打ちできない。つまり八方塞がりである。
ううむ、どうしたものか。俺に群がる虫たちを相手、と言っても一方的に甘味を取られているだけなのだが、それらお眺めならがら思考する。
ガサガサ・・・
ふと下草が揺れる。あの揺れの大きさはイノシシ、熊ではない事は確実だ。揺れが小さすぎる。何度かネズミモドキを見たことはある。ただ、奴らは甘味に興味が無い・・・と言うより俺に集る虫の方を食べたいらしい。しかしネズミを見た虫たちは一気に空へと逃げて行く。
また俺の食べ物である虫を横取りしようとする小動物は言うなればライバルだ。おいそれと虫をくれてやる気も無い訳で、消化粘液のブッカケや消化液を噴霧する事で撃退いている。結果、小動物たちは俺へ近付くと酷い目に合う事を学習。ほとんど寄って来る事が無くなった。
俺は虫を守り、虫たちは仲間の一部を提供する事で生きながらえる。一種の共生関係を築きつつあった。
また新たなライバル登場かと注視していると、近付いて来た生物が姿を見せる。
そして俺は驚いた。そこには小さな体で二足歩行する羽を生やした生物。妖精が居たのだ。