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異きのこる  作者: 紅天狗
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百八十日目

イリ達には近隣の街の冒険者たちがここを攻めようとしている事を伝えた。イリの表情は厳しい。ミールは俺の舌に抱き付いている。


『マーラ、勝算はあるの?』


撃退するつもりはない。大丈夫。やつらは俺たちの場所にたどり着く事は出来ない。と明言した。


『そう、あなたを信じるわ。でも、ダメだったら私も命を懸けてあなたと共に戦う。』


『わ・・・私もです。マーラ様に助けられた命、あなた様のために使えるなら本望です!』


ま、その場合は無理にでも退避してもらうがね。


『そんな事させるもんですか!私は闘うわよ!』


『ですです!』


うーむ、芋蜜もあるし二人でも生き抜く事が出来るし、死んで欲しくは無いんだが。まあ十中八九ここまで到達できまい。とは言ってもまだまだ準備に時間がかかるだろう。とりあえず城壁都市の方を先に片付けよう。まずはイリ達に移動をしてもらう。昼前には駐留ポイントへ着く事だろう。


『わかったわ。じゃあ今から向かうわね?』


『はい、仲間をお願い致します、マーラ様。』


イリ達が到着し次第、作戦決行だ。


数時間の後、駐留場所へと到着した旨の連絡があった。今は簡易キノコ内で休んでもらっている。俺は城壁都市の冒険者ギルドにて作戦を決行する。


作戦は至極簡単だ。ギルド施設ごと地下へと沈める。花妖精が囚われて居る層全てを一段地下へと沈めてしまう。あとはゆっくりと妖精たちを救出すればいい。


まず支えている地盤を全て菌糸で置き換えた。支える力を緩め、時折揺らしながら地面へと沈めて行く。ギルド内部は突然の揺れでパニックに陥っており、我先にと施設外へと走り去っていく。地価の部屋に待機していた冒険者たちも出口がゆっくりと接地面がせり上がり、閉まって行く様を見たとたん、我先に出口へと殺到する。


なんとか出口へと躍り出た冒険者たちはそのまま外へとひた走る。


地面を一層分下げ切ると、そこには用意していた脱出路が用意されており、すぐさま退路管がニュルニュルと這い出す。ゆっくりと時間をかけて檻を溶かし切ると、慣れたように妖精たちを丸のみして行き、そして拘束している鎖や管を溶かし切った。


この間、ものの10分。


5名の花妖精救出作戦は無事に成功。イリ達が待機していたポイント近くに用意された脱出口より順次妖精が吐き出される。イリ達は喜ぶ間も惜しむように、彼女たちを抱き上げて空へと舞い上がった。


奴隷商館の方は、どうも檻に魔法により檻から逃げれないみたいだ。こっそりと近付き、檻に対して魔素吸収を発動。すると魔法が稼働できなくなり停止した。

もはや生きる気力もないと言った水妖精たちだったが、捕縛魔法が消えたと分かったとたん、水を操り辺りを水浸しに。その水の中を通って脱出した模様。


どうやってあんな妖精を捕まえたんだ?

何か方法があるんだろうか。


ひとまず妖精は奪取した。イリ達が戻るまで数時間かかるだろう。ここでの作業は終了だ。

城壁都市から延びる複数の街道に沿って菌糸を伸ばす作業を再開した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


イリ達が花妖精5名を連れて戻って来る。口を開き、俺は彼女たちを受け入れた。


『マーラ!あなた最高よ!』


『マーラ様、素晴らしいです。あんなに早く5名もの同族を助けるなど、正に神の御業です!』


喜んでもらえて何より。さて、彼女たちをどうするかだが・・・。


『私たち妖精の間では同族を害する事は禁忌とされているわ。それをしてしまうと精霊が相手をしてくれなくなるの。当たり前よね。同族を殺すような相手を信用できるわけがない。精霊の力を失った私たちは飛ぶことが出来なくなる。』


なるほど、精霊に力を借りて飛行しているのか。初耳だ。


『はい。精霊の助力を得られなくなった妖精は非力です。地を這う羽の生えた虫と成り下がります。なので囚われて居た彼女たちを私たちが命を絶つ事はできません。』


『そこでお願いがあるの。この子たちを苦しみから解放してあげてくれないかしら。こんな事をあなたにお願いするのは筋違い。いえ、本来は私たちが行わなければいけない事だけど・・・私たちには出来ない。怖い。』


わかった。この子たちは俺が預かろう。ただし、命は絶たない。ずっと、面倒を見る。


『!・・・マーラ・・・。』


『マーラ様・・・』


回復の見込みがないとの話だが、本当にそうかは分からない。もしかしたら、俺の持つ技能を動員すればなんとかなるかもしれない。大丈夫。痛い事はしない。まああれだ、人間達と同じ事をするだけだよ。


『マーラ!何をする気なの!?あなた、人間が行った同じ苦しみをこの子たちに!』


する訳がない。出来るだけ美味しい蜜を食べて貰って、出来るだけ品質のいい精蜜を飲んでもらって、治療液でたっぷりとマッサージして回復を促すだけ。生きていれば魔力の素を頂けるはず。彼女たちは俺に魔力を提供する。俺は彼女たちを出来る限り治療する。ギブアンドテイク。持ちつ持たれつと言う事。


言うなれば今ここに居る、イリとミールとさほど変わらない。


『・・・確かに私たちは、マーラ様に供物を捧げ、そしてその見返りとして庇護下に置いて頂いています。彼女たちも同じように扱って下さる・・・そう言う事ですね?』


簡単に言えば。何事もやってみないと分からないもんさ。ちなみに花妖精はどれくらい生きるのだろうか?


『私たちの寿命は約300周期です。上位種または強い個体は更に寿命が延びます。彼女たちはどれくらい生きたかは・・・詳しくは判りません。かなり消耗していますし、もう少し回復すれば判るかもしれません。』


なるほど。とりあえずこのままにしてても彼女たちにも良く無い。早速治療を開始するとしよう。

俺は舌管の根元付近の触手を利用し、彼女たちを包み込む。口もとに触手を繋ぎ、蜜と精蜜を混ぜたものをじわりと滲ませた。気管へ流れ込まないよう、顔は俯き気味を維持。あの街で長時間、蜜攻めに曝されていたため、腹は広がり切っているのが痛々しい。


治療液と触手によるマッサージ。そして適当なストレッチなどを順次開始する。何らかの反応があるといいんだが。


『・・・・マーラ、どう思う?あの子たちはどうなるのかな?』


俺は治ると思っている。ま、希望でしかないが。色々な刺激を加えて見るつもりなので安心して欲しい。


『うん。お願い。じゃあ後はココに向かってくる人間達ね。ほんっとに面倒な奴らよ。アイツらは。』


その人間達だが、準備が全然進んでいない様子。キノコナエールを受けたヒョロヒゲが早々に問題を起こし、再び別のギルドマスターの派遣を待っている状態だ。どうもビアダルと兄弟だった様子。兄も弟も碌なヤツじゃなかった訳だな。

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