十日目
キノコ化してはや十日。先生。俺はとりあえず生きてます。
現状を簡単にまとめたいと思う。どうやら俺は毒キノコ的な物に分類されるものらしく、食べられる事は無かった。イノシシに似た動物が近付いて来た時は血の気が引いたが、俺を数度ほど嗅いだ後、ひと舐めしたとたんビビッて逃げた。
どうも不味い味がするのか、毒みたいなものが出ているのか分からないが、食べられる事は無い様だ。
あと傘口舌食だが、これは俺の傘の部分がどうやら口になっている様で、生き物を捕食する事が出来るらしい。魔法の使えるキノコだと思ったら魔物だったわ俺。
何故気付けたかと言うと、たまたま木の上から芋虫が落ちて来て、それが傘に当たった途端にこう、反射的に虫を・・・ガバっと。
もうね、気分は最悪ですよ。無意識とは言え芋虫食うとか。吐き出そうにもウメェとばかりに傘が咀嚼を・・・今思い出しても気持ち悪い。
と言うのは嘘で、もう慣れた。いやむしろ芋虫が旨い。こう、プチっと潰れたあと傘内に広がる自然な甘み、とろけるクリームの食感。最高だわ。と言うかね、転生してから三日ほどした頃からハンパない飢餓感が襲ってきてね。もう何でもいいから食べたいと言う気持ちでいっぱいだった。
飽食文化に慣れた俺には、三日と言う絶食は耐えられるはずもなく。そこに飛んで火に入るなんとやらで。
あとはナシ崩し的に、もっと食いてぇとなった俺は色々と試した。どうも口の中には舌があるようで、これがある程度伸ばせる事が分かった。体長が分からないので実際の長さは分からない。俺の背丈の約3倍ほどが限界みたいだ。
しばし芋虫を喰い続ける事で技能を手に入れる事が出来た。どうも他の生物を摂取する事で、その生物が持つ特性のような物を得る事が可能らしい。まあこれは簡単に得れる訳では無い様に思う。運なのか、量なのか。まあ予想では両方だな。
で、手に入れた技能は次の通り。
ステータス
─────────────
技能:魔素吸収(零) 傘口舌食 粘液(零) 毒薬生成(零)
と言う事で栄えて毒キノコへとランクアップしましたぁ!
今まで毒キノコじゃなかったのかと。イノシシたちが逃げた原因はなんだ?
毒じゃないとしたらあとは魔素吸収くらいか。よくわからん。まあ更に食べられにくくなったので良しとしよう。
ちなみに毒は傘口から出せる唾液・・・いや消化液と言った方がいいだろうか。これに混ぜる事が出来る。なのでジワリと傘に染み出させて防衛してます。とは言っても相手を倒すような毒は作れない。強いて言えば不味い味を出すくらいだろうか。
この辺りのさじ加減は、なんとなく理解できると言うか、感じると言うか。あれだな、レベルアップでいきなり魔法が使える様になるロールプレイングゲームと酷似する世界なんだろう。
毒と言えば有名なフレーズ。薬にも毒にもなるってやつ。ふと思いついた時点で毒薬生成の使い方のすそのが広がったと言うか、そんな感じがした。予想通り薬も作れるらしい。
このあたりは技能を取得する元となった芋虫が保持していた力なのだろう。たぶん体液で治療も行う事ができたんだろうと予想している。
とは言ってもキノコの体に効くかどうかと言うと、分からない。今の所傷ついた事が無いからな。
こんな感じで芋虫を食べる日々だ。旨いんだが、一週間も同じ味だと飽きてきた。なにか他に旨いモノはないかと食べ物を探すも、舌の届く範囲には何もない。芋虫も食べつくしたしな。とりあえずその辺に生えている雑草でも食ってみるか。
モッシャモッシャ。
うん、不味い。もう一本!
じゃない。ちょっとこのままだとヤバいんじゃないですかね。芋虫も一年中ずっと居る訳じゃないだろう。数か月もすれば蛹になって羽化してオスとメスがにゃんにゃんするはずだ。
くそっ・・・芋虫ですらリア充な生活を謳歌していると言うのに、オレは地面に生えて落ちて来る芋虫を食べるだけ。なんかそう思うと悲しくなって来た。
しかし食べ物はどうにかしないと。冬とかあるなら雪に埋もれて凍死とかありえる。
とりあえず最近は芋虫を食べまくってるおかげか空腹感は無いが、何日持つか分からない。かといって動けない時点でどうにもならな訳で。
これって詰んでね?
松茸になってどうしろってんだよ!
食い物を取る方法・・・何か無いのか。落ち着け。ここは一つ異世界転生チートの代名詞である引継ぎし記憶を使う時だ。整理しよう。まず俺は動けない。舌の届く範囲は、予想では30cmといった所。木の上に芋虫。所によりイノシシ。
もっぱら落ちて来る芋虫を食べるのみ。
無いな。うん。イノシシは倒せない。どう考えても無理だ。体格が違いすぎる。おれの5倍以上の背丈があるし。
俺は待つしかできない。そう待ちガ○ルだ。下に貯めて、上に解放する!
もちろん必殺なサマーソルトキックを出す事などできない。地面から離れたら死ぬ。
んん!?
本当に死ぬのか?
虫を食ってる時点で言うなれば動物。だとしたら動けるんじゃね!?
キタ!これは来た!これで勝てる!
体を縮め、そして一気に解放。勢いよく体が延び、傘の重みに釣られ地面から飛び上がる事が出来た。
俺の胴体、正確に言うと「いしづき」の所がメリメリと言う音を響かせる。
モゲた。
地面に根を張り体を支えていた菌糸と離れる事で支えを失った結果、数10cm先に横倒しとなった。
終わった。5秒前の俺を殴ってやりたい。ステータスの生命力が刻一刻と減っていく。最後の望みを掛け、必死に舌を使い元の位置へと戻る。
ザリザリッ・・・ゴッ・・・・コロコロ。
くそっ、傘がひっかかって転がる!
戻れない!
だめだ、生命力が半分を切った!
そこの石!じゃまだ!
ゆっくりと時間が引き延ばされる。脳内麻薬が分泌(あるか分からないが)され、思考が加速する。キノコ。魔物っぽいが、たぶん菌類に属するはずだ。朽ちた木などに菌糸を伸ばし、栄養を収集。子実体を作り、胞子を飛ばし増える。今無いのは菌糸。栄養を集める根が無い。
根が無いんだ。根が無いなら根を張ればいい!
某ロボットアニメに出て来るような効果音と共に解決策が脳裏に浮かぶ。
俺は体を曲げることで、いしづきがあった根元を地面へと接地させる。接地面から菌糸を広げるよう意識を向けた。
運よく元々張っていた菌糸がこの辺りまであったようだ。意識して繋いだのが功を奏したのか、なんとか接続を確保。生命力の低下が緩やかになる。しばらくすると低下は無くなり、ゆっくりとだが回復傾向へと傾いた。
はぁぁぁ・・・助かった。こんな事になるとは思わなかった。いや考えてなかっただけだ。これからは何をするにしても慎重に行動し、安全対策を設けるようにすると誓った。




