八十九日目
はい、すでに街の近くに移動済み。街から1kmと言った所。前と同じく巨木の上部に洞を作って隠遁中。
『移動した訳だけど、これからどうするの?』
ふふ。昨日一日使って救出方法を考えたさ。俺の菌魔法を使って菌糸を街へ伸ばす。菌糸に関しては俺の足元にある糸だと教えた。
これを使って場所を探し、地面を掘って道を作って救出。ドヤァ?
『・・・・・・。』
あの、そんな真剣な顔して考え込まれても反応に苦しむんですが。あ、いい案ですか。ええ、一日頑張って考えたので。
とは言っても街まで1kmもある。そこまで菌糸を伸ばせるのかすら判らない。とりあえず伸ばして行ってみよう。
『え?もう街まで行ったの?』
なんか数時間で街まで菌糸を伸ばす事が出来た。とは言っても菌一本なので退路を作るまででは至っていない。街の地下まで結界は張られていないご様子。まあ普通に考えると無理だわな。街の中へ菌糸を這わせてミールの捕えられている場所を探す事に。
また、あわせて退路の作成。これは菌糸を太く育てて穴を開ける事にする。菌糸を筒状に育て、蠕動運動させることで土を排出。粘液の技能が役に立った。しかし生命力と魔力の消費が激しい。このままでは厳しいか。
『わかったわ。この辺りの魔物を適当に狩って来る。ああ、安心して。見つかるようなヘマはしないわよ。』
手早く魔物を狩ってもらい、口内へと放り込んでもらう。消化吸収しつつ街の菌糸を拡張していく。時折、小さな子実体・・・キノコを適度に作り出す。するとその場の視界が開ける。言うなれば小さな俺を作っているイメージだ。
壁と壁の隙間に菌糸を通し、部屋らしき場所に出たらキノコを生やす。街の端から順次実施。道端にも生やしたり。どこだいねぇぞ?
この街に下水は無いらしく、糞尿垂れ流し方式らしい。ウン君を避けるためにハイヒールを作った古代の西の大国と同じですな。
道には捨てられたブツが溢れている。これがこの世界の基準だとすると、かなりヤバイ。案の定、疫病が蔓延しているご様子。俺には菌魔法があるからな。雑菌などには去って貰っている。
しかしこの世界の人間は欲が深いのかねぇ?
自分がよければすべてよし。権力者は権力をより求め、下々の者たちなどゴミとしか思っていないご様子。
出る杭は打たれ、技術は発展せずと言った感じだろうか。なんだかなぁ・・・。
あ、スラムで女性が襲われている。可哀そうに。という事で、ヤロウのケツに向かって消化液をブッカケてみた。ふふ、俺特製の粘着消化液を存分に楽しむがいい!
ジュウジュウと音を立てて穴付近から煙が立ち上る。なんかすげぇ消化力上がってないか?
まあいいか。のたうち回る強姦魔。女性が近場にあった石を持ち上げて・・・ストライーク!
こんな事してる場合じゃなかった。ミールを探さないと。
『どう?調子は。』
うむ、街の半分ほどは監視下に入れれた。あ、なんかデカい施設があるな。あそこを調べて見よう。
どうやら冒険者ギルド的なモノみたいだ。装備を纏ったオッサン達が酒をカッ喰らっている。大概上に行けば権力者が居るはず。と言う事で菌糸を伸ばして部屋を監視下に置いていく。
なんかビアダルヒゲオヤジ、デカい団子っ鼻で鼻先と頬を朱に染めた、どこかで見たことあるようなヤツがニヤニヤしながら椅子に座っている。その足元には美人秘書が。
クソガッ!
俺だってそんなことされたこと無いのにっ!
どうもギルドマスターの部屋といった所だろうか。こいつに何かしたらバレるとまずいので監視しつつ菌糸を這わせていく。壁の中を突き進む菌糸はバレる事はない。なんたって細胞一個分のサイズだからな。
あ、奥に空間がある。隠し部屋っぽいな。ここか?
中にキノコを生やし、視界を確保してみる。居た。金属の籠に囚われ、ボンテージファッション。鎖で動けないよう固定。口はマスクでふさがれマスクの口もとには管が付いており、管の先にはたっぷりと蜜を入れた器が。
無理やり蜜を流し込んでいるのか。最悪だな。ミールは苦しみ暴れているが蜜の水圧を押し返すような力はあの小さな体には無いだろう。すでに大量の蜜が流れ込んでいるためか、腹がパンパンに膨らんでいる。暴れている所を見ると、まだ理性は保てているらしい。
さて、場所は判ったので退路を確保しよう。一応見つけた事をイリへと伝える。状況を簡単に説明したが、怒髪冠を衝くレベルで憤怒している。絶対に助け出すと言い聞かせ、落ち着かせた。
『お願い!絶対に助けてあげて!』
モチのロンでございます。とりあえず退路となるトンネルを地下に造成。順次拡張しミールが通るほどのサイズまで広げる。隠し部屋までは消化液を使って溶かし、穴を作っていく。隠し部屋は石で囲まれてるな。流石に石を溶かすには時間がかかる。ので石を1つだけ外す事にしよう。
退路は木の柱や土壁を掘り進んだ。ちと遠回りになったがなんとか確保。
さて、壁の石を固定している漆喰・・・だろうか?
これを腐らせて隙間を作り、押し出す。石が一気に落ちない様、菌糸で抱き留めてゆっくりと。
壁の石が外れる音がしたのだろう。ミールがその方向へと視線を向けた。
あれ?
ミールさんが目を見開いて驚いていらっしゃる。どういうことなの。
『あなた、自分の姿見えるのよね?どんな感じなの?』
ああ、なんか白くて太いミミズみたいな生き物が壁から頭を出したように見えるね。そりゃビビるわ。こればかりは仕方ないね。気付かれると不味いのでさっさとミールを助ける事にする。
ミールの居る籠へと退路管を伸ばし接近。ミールがなんとか逃げようとガッチャガッチャと鎖を引く。ちょっと静かにしてくれませんかね!?
ビアダルオヤジの状態を確認。くそっ・・・吐き気を催すような顔をして楽しんでやがる。いつかボッコボコにしてやる!
籠は金属だが溶かせるかね。退路管の内側から消化粘液を分泌させて塗り付けてみる。シュウシュウと音を立てて大穴が開いた。
『んー!んぅぅー!!?』
ガッチャガッチャ
ミールは顔を左右へと振り、一層激しく動いている。もう少し見た目に気を付けるべきだったか。
あ、オッサンが何か気付いたみたいだ。やばい。とりあえず触手を伸ばしてミールを絡め取る。ミールの涙がヤベェ。
仕方ない。頭からガブリと行って、鎖ごと飲み込む。あとは繋がった管と鎖を溶かし切る。よし、確保ぉ!
ずるずると蠕動させてミールを吸い上げて行く。伸ばした退路管を部屋から引き揚げ、石を元の位置へとハメなおす。土と粘液を混ぜたもので隙間を補完。これでしばらくはバレまい。ちと色が違うかもしれんが気にしない事に。
ミールを確保した事をイリへと伝え、退路管の出口、街から少し離れた場所へと向かってもらう。
『わかった。先に行って待機しとく。』
ミールを確保次第、その場からはさっさと引き上げる様に伝え、イリを見送る。俺はミールに集中。空気はあるはずなので大丈夫だろう。顔が変な方向を向いていないか注意しながら退路管を動かす。
ギルドの壁や柱の中をグネグネと通り、地下へ。あとはほぼ直線に町の外へとミールを送り出す。
20分ほどして街を脱出。出口は見た目はラフレシア。中央にぽっかりと穴が開いている。その中は赤黒くヌタヌタと光る。イリは時折、その穴を覗き込み、また周りを警戒する。
付近には出口を囲むように俺の子実体を生やしているので何か通ればすぐにわかる。今のところ安全だ。
ゴブッゴポッ
退路管の中の異物が近付いたため、不快な音が鳴り響く。暫くすると、ニュウっと中から一人の妖精が姿を現す。イリを見たその妖精は驚き固まっている。
『ミール、判るわね?ひとまず逃げるわ。もう少し我慢しなさい!』
コクコクと顔を縦に振るミール。そんなミールを抱き上げると、一目散にその場から離れて行く二人。
こうしてミール救出作戦は成功を収めたのだった。