八十一日目
初雪。なかなか風情があるが、寒さがやばい。紫は俺の近くに退避している。どうも俺の体温が温かいらしく上手く巻き付いて暖を取っている状態だ。
イリは適度に魔物を狩っては持って来てくれる。大半は俺に。残りを紫に。俺からイリと紫にキノコ汁を提供。流石に寒いらしくイリも長時間外に出ず、最低限の狩りで済ましている状態だ。
まあ狩った魔物肉は外に置いておけば腐らず長時間保存できるのが大きい。これは俺の菌魔法が役に立っている。肉を腐らせる細菌の活動を菌魔法で抑制しているためだ。
滅菌するのは魔力の消費が激しいため難しいが、活動を低下させるのならそれほど必要ない。また外気温が低温と言う事もあり、かなり持たす事ができる。
とは言っても俺は腐った肉でも吸収できるので大丈夫。まあ旨く無いので余り食いたくは無いが。
『はぁ・・・やっぱりあなたの中、温かくて最高。ベトベトになる事だけは残念だけど、これは仕方ないわね。』
寝ながら俺の舌管を引き寄せ精蜜をチビチビと舐めつつオッピロゲ状態。眼福ではあるが、その、もう少し恥じらいってモンをですね?
『何が恥じらいよ。毎日の様にあんな事してるくせに。』
そうしないと出ないって言われちゃしない訳にも行きませんがな。あんな事と言うのは舌と触手による全身マッサージだ。体中を這いまわる感触が最高らしい。なんか食われそうになって目覚めたと語っていた。
しまいには自ら魔物に食われに行かないかと心配である。
『あなた、これからどうする?この辺りも執拗に人間が嗅ぎまわってるし、いずれ見つかるわよ?』
それなんだよな。イリの活動範囲、つまり目撃情報から範囲を割り出している様で、ちょくちょく人間を見かけるようになりつつある。冬は妖精は冬眠するので、簡単に捕える事ができる。ただ妖精もバカでは無いので、簡単には見つからない様に対策を取る。
また冬眠中は魔素の発露が低下するらしく、探査魔法でもひっかからない。ステンバーイモードってやつだ。なので見つかる事は殆ど無いとの事だ。また、冬眠しているからと言って、起きない訳では無いらしく、人間たちのほとんどは返り討ちに合うらしいが。
どうもイリは冬も活動する妖精と言うことで希少種と判断された模様。執拗に調査隊を組んで探そうと躍起になっている様子。
『まあ移動するのは簡単だけどね。場所さえあれば鉢ごと持って行けば住むだけだし。』
なるほどね。確かに。しかしこのままではイタチごっこ。いつかは捕まってしまうな。イリの魔力も無限ではないし、連日追い立てられれば補給もままならず力尽きてしまう。
人間に対抗しうる戦力が必要と言う事になるが、それは難しいんじゃないだろうか。
『そうね。あと一人でも同族が居てくれたらまだなんとかなったんだけど。』
ん?どういうこってす?
『ああ、言ってなかったっけ。私たち妖精は同族同士で子を作って増えるのよ。』
まあ普通はそうだわな。でも妖精って確か女性しか居ないとか言ってたような。
『そうよ?妖精・・・正確には花妖精ね。私たちの一族は女しか居ない。まあ女っていう括りではなくて、性別って言うのが無いのが正解かな?』
性別が無いと。あれか、雌雄同体ってやつか。男にも女にもなれる。でも男は子を産むことは出来ないので女としての体がベースになっている、といった所だろうか。
『うん?しゆーどーたい・・・って意味はよく分からないけど、大体あってると思うわ。私たち妖精は・・・』
長い時間を使って妖精の子作りに関して話をしてくれた。前聞いても答えてくれなったんだが、一族の秘儀とかがあるんかね?
まとめると子を託す側と子を育む側が居る。まあオスとメスだな。オスが卵を作っメスへ託す。オスは食べ物、まあ蜜だな。これを集めて、メスへと与え、卵を育てて子供誕生。
なんか色々とぶっ飛び過ぎてて理解が追いつかないが、こんな感じらしい。卵生なのか。
『でもねぇ・・・子を育む側に負担が大きくて、なかなか子を作らないの。だから私たち妖精は増えない。』
そこんとこ詳しく。
『えっとね・・・』
うーん、簡単にまとめると母体の体格が小さかったりすると帝王切開で卵を産み落とす。まあそれは稀なケース。過去にはあったらしいが今は殆ど無い模様。それでも産む時に骨盤を痛めるケースは多いらしい。場合によっては、そこで死ぬ事も多いとか。
なんで骨盤を痛めるのか意味が分からんのだが。
どう考えても作り方を間違っている様にしか思えん。
詳しく、詳細に。どんな事でもいいから子作りに関する話を聞き取ってみた。
集団、この場合、里の中で最も強い個体。大概が族長。これが卵を託す側となる。産む側に回って出産時に亡くなりでもすれば族長の持つ知識、力、すべてを失うのでしない。言い分は正しい。正しいんだが、バックアップを作れ。補佐でもいいから。
仲間全員で蜜、精気を集め、母体へ提供。卵を育てる。花から得られる少ない精気をかき集めて提供するんだそうで。そうしないと足りないらしい。厳しいってもんじゃねえぞ!
大きな卵であればあるほど強い個体として生まれる・・・と信じられている。
で、卵を大きくするため産まないように、ある植物の実を食べる。
うむ、無理やり卵太らしてるだけですな。
一応乳房はある訳だし、母乳とか出ないのか聞いてみたが、母乳ってナニってレベル。
卵を育ててる間にそれらしいのが出るらしいが、意味のない物として扱っていたと。
ドウイウコトナノ・・・・。
『え?おかしいの?』
ええ、かなり高確率で間違っていると思われます。話を聞く限り、イリが居た巣では当たり前な方法で、今の族長の、さらにずっと前からこの方法で血を繋いで来たと言う。よく絶滅しなかったな。
何かの弊害か。どこかの世代で本来正しい知識を持つ世代が絶滅したとか。あとは上位種への進化によって必要な精気が増加。精気が足らず子が出来ず。なんとか子を作るため、数多の犠牲の上で今の方法が編み出されたとか?
うーん、どっちかと言うと後者の気がするな。花妖精って保有魔力が多いらしいし。稀に上位種が生まれるだけなら、上位種と下位種での交配で下位種が生まれ、問題なく存続できる。と予想。
でも上位種が複数生まれ、互いに子を成せたとすると・・・少数の間は精気の収集が追いつくが、増えすぎると足りなくなって。
ありえるなぁ。恐ろしい世界だ。
話を聞くに、花妖精のルーツとも言われる妖精種は居たらしい。が、すでに絶滅したと言われている。もともと弱い種だったんだろうな。気候変動などで絶滅。強い今の種族が残ったと。
『私の居た里だと、誰が子を産むか花引きで決めるの。特殊な花でね。一枚だけ付け根元に色がついてる花なの。花びらを抜いて行って、色が付いていたらアタリ。一族の命を繋ぐためとは言え、当たった子は本当に可哀そうだったわ。』
おめぇ、死ぬかもしれないけど宜しくな!
って言われたらそりゃそうなるわな。とりあえずもう少し詳しく話を聞いて、本来あるべき流れを考えて見る。
卵を託すのは多分必要。いや、もしかしてオトコ汁的なものが・・・あ、無いんですか、はい。
いちいち相手に産み付けるってのが理解に苦しむんだが。無いなら仕方ないね。
託す側は産み付けるタイミングをある程度操作可能。簡単に言えば、ある程度大きくしてから産み付けれるって事らしい。なんのためにそんな能力が残ってるんだ?
ああ、なんかわかった。相手の体格に合わせて調整するためか。聞けば上位種は基本的に体が大きくなるらしい。また強い力を持つ個体も同じく大きくなる傾向がある。
つまり大きな体の相手には大きな卵を産み付けましょう、って事だな。うむ。ファンタジーすげぇわ。
『え?つまり族長から卵を託すのは逆だったって事?』
ええ、多分。ただ、族長の持つ強い力を引き継いだ卵を渡すのはあらがち間違いではないかと思う。高い確率で強い子が産まれるだろうし。そうか、強い子を産むための手法が残ってしまったのかも知れない。
『つまり、同格の相手か、上位の相手に卵を託すべきって事ね?』
まあそうでしょうな。同格と言うか、体格が一致する相手が正しいか。
卵も育て過ぎずに自然分娩した方が良いと思われ。乳房から出る分泌物を与えて育てるのが本来の流れなんじゃないかと。
『なるほど、一度試してみる価値はありそうね。でも、間違ってて子供が亡くなるのは辛いわ。』
子供って生まれてからどうやって育てるのかを聞くと、一度食べた蜜を戻して与えるらしい。
ああ、鳥と同じなのか。本来は、生まれたてには母乳を。ある程度落ち着いたら離乳食としてもんじゃ焼きを。育ったら蜜を。って流れなんだろう。ちなみに戻した食べ物はモンジャと呼ぶらしい。
過去に妖精族に転生した日本人が居そうだ。
現状でモンジャを与えれば死なずに育つんだからなんとかなる気がする。
『確かに今でもモンジャを与えて育ててるんだから、いけそうね。うん。同族の子を引き込めたら試してみましょう。』
こうして子作りに関して意見交換を行い、今後の方針を話し合った。
ナニ話してんだろうね、俺。