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輝きは足元。

作者: 井ノ下功

 


薄闇が遠く、

遠く向こうから少しずつ、

この場所を包んでいく。

絽の着物、

麻の手拭い、

この時間はそんなようなもの。


見下ろした町並みは思っているより灰色で、

私の町とはこんなにも色褪せていたのか、

と、

少々絶望するような。

ふと見た大学の坂の脇には、

生い茂る緑と奇抜な看板。


『新入部員、求ム』

『マムシに注意』


踊るように書きなぐられた文字列を、

斜めに読んで私は跳ねる。

転んだらそのまま車道まで転げ落ちる。

そんな危惧を抱える坂道で、

小さく小さく心が跳ねる。


見下ろす町並みはやはり灰色で、

失望はやはり失望のままで、

麓の駐輪場に一人。


紫が濃く、

濃くなりつつある夜空を仰いで、

浮かび上がった星を数える。

絽の着物、

麻の手拭い、

必要な季節はもう少し先だ。


今の時期には金星が見える。

いつかどこかで出会った誰かが、

そう言って指差した辺りを見遣る。

白点は薄色の背景の中では目立たない。

金星はまだ遠い。


泣き濡れているくせに妙に爽やかな風。

新しいくせに変にレトロな電灯。

狭く古びた街道は依然、

私を路傍の石ころのように扱う。


一台の車も通っていないのに、

信号は赤を示すから、

白線の手前、

生真面目にブレーキを引き締める。



不意に、振り返って、気が付いた。



そうか、

町が色褪せているんじゃないんだ。


 

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