3話 火の魔術師と幼馴染。
03
着席予定時間の5分前には、大体の人は席についていた。
辺りをぐるりと見回すと、仲良く談笑している生徒もいれば、緊張した表情で座っている生徒も多々いる。
そして気づいたこと。
席についていない人がいる。
さらに、その席の主は座っていないだけではないのだ。
そう、教室にいない。欠席だろうか、と首をひねった。
まあ、気にしないでおこう。
そう考え、俺はある人の存在を確認した。
「あ、来ていたのか。久しぶりだな、春」
「京也君! おはよう! いい朝だねー」
廊下側の席。前から4番目の席に、彼女は座っていた。
俺の姿を見つけて、少し話したいと思ったのか、席を立つ。
こちら側に来た春に合わせ、俺も席を立つ。
「同じクラスだったんだねー。なんか嬉しいな。
これからも、末永く宜しくね!」
「おう。ところで、今日はその髪型なんだな」
春のいつもと違った髪形を見て、指摘する。
通常は長い髪をポニーテールに結っているのだが、今日は違う。
そのサラサラな髪を、惜しげもなく空気に晒している。腰辺りまである長い髪を結っていない。ストレートロング、と言うのだろう。よく分からないが。
その髪の右サイドには、綺麗な紫色の花髪飾りが添えられている。すごくアクセントとなって綺麗だ。
「あ、えーっと……気づいてくれたんだ」
「ああ。当たり前だよ。その髪型のほうが、似合っている」
「ありがとう。あ、もうそろそろ座らないと! じゃあまたね」
「またな」
時計電子パネルは、俺達が3分話していたことを告げた。
席に座る。
春は、俺の幼馴染だ。
お淑やかさと女性ならではの快活さがある、と言ったところか。
3年前から連絡のみの関係だったので、久しぶりに会って話したいことが多い。
春は黒い髪をすごく伸ばしていた。いや、連絡で写真を送っていたりもしていたが、髪をおろしていたところを見たのは初めてだ。写真の中では髪を必ず結っていた。
まあ、この養成学校も規則は甘い。
なんせ、実力さえあればいい。規則は最低限の事を守ればいい、そういうことだ。なんてフリーダムなんだ、と今更ながら思う。
そのため、春はせっかくだからと髪をおろしたのかも知れない。
「もう入学式かぁー」
隣で書籍を読み終えて、うーんと背伸びを彼女はした。
天響は緊張を感じさせない、あっけらかんとした笑みで言った。
「そうだな。緊張はしてないのか?」
「うん、まあね。この学校はお兄ちゃんも通っていたから、よく話は聞いてきたんだよね。あんまり緊張しなくていいぞー、って言っていたからさ。試験も終わったし、気楽にーってね!」
「そ、そうか」
本当に、彼女は緊張していないようだ。
そして、移動時間を知らせるチャイムが鳴った。
生徒たちが一気に立ち上がり、それぞれ講堂へ向かう。
そして、俺も早速向かおうとすると呼び止められた。
「京也、一緒に行きましょう!」
「京也くーん! 一緒行こー」
ほぼ同時に天響と春が声をかけてきたのだ。
それに驚いたのは俺だけではなかったよう。2人も、
相手の顔を見合わせ、疑問に思っていた。
そこで俺は、とりあえず説明した。
「こっちが幼馴染の春。そして、俺の友達の天響。
まあ、お互い仲良く……して欲しい」
「ああ、なんだ。てっきり彼女さんと思ったよー。
幼馴染の春です! よろしくお願いします」
「私も彼女さんかと。友達の天響です。こちらこそ」
なぜ、お互い彼女と思っていたのかと疑問が浮上したが、まあ仲良くしてくれるみたいだしいいか。
「3人で行こう。いいよな?」
「うん!」
「ええ、もちろん」
そして俺らは、仲良く(?)講堂へと向かった。