16話 火の魔術師たちは、実技試験を始めました。
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「おーけい、全員ちゃんと集合したね。じゃあ、今から実技試験を始める。号令」
学校の校庭に、先生を取り囲んで集合した。
中には急いできたらしく、ぜえぜえと息をしている生徒もいた。
この学校の校庭は、いたってシンプルである。
学校の入り口となる頑丈そうな門をくぐり抜け、花と果実の実った木がサイドを飾り、道を作る。その道をしばらく通っていくと、薔薇園にあるような、薔薇のアーチがある。そこを通り抜ければ、今俺達が集合している校庭にたどり着くのだ。門からアーチまで少し長いので、飛行魔法を使用することを許可されている。
俺らの周りには、対して何もない。
対して、という割には木と花が沢山ある。沢山あるだけで、木と花しかないので、俺にとっては対して、という言葉がふさわしいと思った。
実際、その木と花は学校の敷地を縁取ったような、囲んでいるような、そういう役割しかないため、あまり関心はない。
俺らはそんな何もないような空間の中、2列にパートナー順で並ばされた。
天響と戦わなければいけないのか、と改めて考える。
横にいる優しい性格の持ち主を、こんな俺が壊していいものか。
「ん、どうしたの? 具合でも悪い、とか?」
さっきからずっと下を向いて、口を開かない俺を彼女は心配してくれたらしい。
その気遣いが、逆に俺を迷わせる。
「ああ、大丈夫さ。ちょっと考え事をね」
そう適当に誤魔化して、俺はもう1度考え始めた。
自分の実力が普通より上だということを、自分でも自覚していた。
実力というのは、自分が努力して手に入れた力ではない。京也は、それを知っているから、自分の事を昔から憎んでいた。
(火の魔術師とはいえ……本気を出すわけにもいかないしなあ)
自分が本気を出して戦闘したら、一体どれだけの被害が生まれることか。考えただけでも恐ろしくなる。京也は、自分を安心させるように、借り物の戦闘服のローブをぎゅっと握った。
自分の実技試験の順番は、6番目だった。
6番という数字は良いのか、それとも悪いのか、俺にはわかりかねる。
実技試験というのは、魔術師と魔法師(の卵)がお互いの魔法・魔術をぶつけ合い、戦闘を実技用ルールに従って行うことである。
普通の戦闘と違うところは、実技用ルールが存在するということだ。
あくまでも学校の授業なので、ちゃんとした安全に伴ったルールが存在する。
「実技用ルールのおさらいをするぞー。ちゃんと聞いとけよ?
1、相手を傷つけるような魔術・魔法は使用しない。
2、2対2の戦闘になるため、他のものは邪魔をしない。
3、安全性を確保するため、防護領域術をしっかりかけておくこと。
4、高度な魔術・魔法の使用は許可する。
5、戦闘者は、戦闘服、ヘッドフォンまたはイヤフォンを着用しておくこと。
6、教員の指示に従い行動すること。
7、武器の使用は許可する。
8、以上のルールを踏まえたうえで、実技戦闘を行うこと。
っと、こんな感じだったよな。じゃあ、1組目から」
基本的なルールばかりなので、あまり説明することもないが、1つ強いて言うのなら、防護領域術だ。
防護領域術とは、実技戦闘を行う際に必ず戦闘者がかけておかなければならない術の事である。
右手の人差し指と中指をくっつけ、その指を左側に薙ぎ払うと、すでに防護領域術がかけられるという、簡単な術だ。
この術は中等部の方で習った。
防護領域術は、戦闘をする際に、自分の身を守るため、魔法や魔術などの莫大な力が外に漏れ出て、被害を生まないためにかける。この術をかけることで、淡い白色、水色のような膜が周囲をかこむのだ。その膜に、すべての魔術や魔法の力は吸収される。
「では、お互い防護領域術をかけて。
……戦闘服、機具の着用Ok。では、開始する」
合図がかかって3秒の間。
【Game start!】
緑色のログメッセージが2人の眼中に表示され、一瞬で消えた。
カウントダウンがあっている最中は、武器を構える、構えの体勢をとることしかできない。それ以外の行動は、一切許されない。
1組目の戦闘が、始まった。
次から京也たちの実技です。