15話 火の魔術師は、実技試験を受ける。
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ゲームセンター騒動から翌日。
学校に来てみれば、何とちょっとした有名人になっているではないか。
今日はいつものメンバーで朝、待ち合わせをしてきたのだが、なぜだろう、いろんな生徒が俺達をじっと見ているような気がしたのだ。
ちなみに、寮生活が始まるのは明日からで、昨日はそれぞれ自宅へ帰った。
耳をそっとそばだてていると、
「あの人達が、昨日のだよ」
「京也っていうらしいよ。昨日のタイムラインで見たー」
「ああ、秋都たちが拡散してたっけ。動画付きの」
「なんかの音楽ゲームで神プレイを披露してたっていう、アレね」
という会話がいくつか聞こえてきた。
俺のことか、と心の中で溜め息をついた。自分の事なんてどうだっていいからだである。自分のせいでみんなに迷惑をかけている、と思うと申し訳ない。
そのことを皆に言えば、すぐに気を使っている反応を示した。
やはりこの人たちは優しいな、と改めて思った。
さて、そんなことはどうでもいいが、今日は何でも実技試験があるらしい。
先ほど、生徒のタブレット端末に連絡が入っていた。
俺は実技試験は当分しない、という話を聞いた気がするのだが、なにやら違ったらしい。予定変更、というわけである。
教室に入り、ホームルームの時間になる5分前に、先生は教室へと入室した。
随分と早いな、と思った。その理由は、すぐに判明した。
「今日はいつものホームルームの時間の15分を使って、やることがある。
タブレット端末に、実技試験を午前中の3時間を使って行うということを配信したから、みんなも分かっているだろう。
朝から準備する理由は、アレだ。まだ戦闘服とイヤフォン、ヘッドフォンの注文をしていないからだ」
そう、少し忘れかけていたが、この学校では実技用の戦闘服と、耳に装着するヘッドフォンとイヤフォンを注文しなければならない。それは明日か明後日くらいに配布されるらしい。ちなみに、今日中にタブレット端末で注文しなければならないが、俺はもう注文済みである。
「だから、戦闘服はみんな同じ服に統一したいと思う。みんなは、今から渡す服を、更衣室で着替えてほしい。すまん」
先生が1人ずつに戦闘服(?)を渡していく。
渡されて広げてみると、トップスは、真っ白で、ボトムスは長い黒色のスラックス。その上に大きいローブを羽織る、といった感じだった。
ローブのデザインは、純白の生地に、黒色のライン、学校の紋章、ポケットなどが、おとなな印象を与えつつも、シンプルな生地にマッチしていて、格好いい。
全員分配り終えたようで、先生は次にヘッドフォンとイヤフォンを配り始めた。
「京也、お前はどれがいい?」
「えっと、じゃあこれで」
先生は両手に零れ落ちそうなカラフルなイヤフォンを沢山じゃらじゃらと持ち、両腕にこちらも同じ、カラフルなヘッドフォンをかけていた。
少し申し訳なかったが、一番とりにくそうなイヤフォンのブラックを頼んだ。
ちなみに、俺は先ほど述べたようにイヤフォンのブラック。
天響はイヤフォンのパールホワイト。
杏樹はオレンジのヘッドフォン。
悠斗はブルーのヘッドフォンだった。
「よし、ホームルームの時間はあと12分くらいしかないが、更衣室で着替えてきてくれ。それと、校庭に9時集合。詳しい説明は後でするが、」
先生は、少し顔つきと話し方を変えて(少し怖い)抑揚をつけて話し始めた。
「これは練習と思ってくれてかまわない。あまり相手を傷つけるような魔法、魔術は禁止。それと、練習だけど真剣に。対戦相手は、隣の席のペアだ。まあ、分かっているだろうが、寮生活も同じだ。
……くれぐれも失敗するなよ?」
最後の失敗するなよ、という部分だけやけに強調し、先生は俺らをせかすように早口で喋った。
「早くしないと、この戦闘服は着用するのに時間かかるから、早くしないと困るのは君たちだよ? 遅れたら減点。タブレット端末をポケットに入れて、必ず持ってくること。忘れたらそのペアは試験できません。おっけい? じゃあ、先生は校庭のド真ん中に仁王立ちして立っているから、そこに集合!」
そういって、少し人をいじるのが好きそうなエル先生は教室を出て行った。
「京也、絶対端末忘れないでねっ?」
「天響こそ、忘れるなよ?」
半ばふざけて約束を交わし合い、俺達は更衣室へと走った。