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6話(視点移動有)

 その日、ホワンとクロウは綺麗なおめかしをして庭にやってきた。

「昨日は空飛べて楽しかったわね、クロウちゃん」

 ホワンはそうニコニコとクロウに語り掛ける。相当空中散歩が楽しかったようだ。

「……」

 クロウは俯いてたままじっとしている。相当空中散歩が怖かったようだ。


「さてと、今日はここに行くわよ。クロウちゃん」

 そう言うとホワンは一枚のチラシを取り出し、クロウに見せた。

 見たところ、様々な商品が描かれている広告チラシのようだった。

「この国の隣国である『トーナリ王国』のデパートで行われるビッグバーゲン! 遠いから毎年行けなかったけど、今年は行けそうな気がするから絶対参加して見せるわ!」

 ホワンはいつもののほほんとした雰囲気は無く、メラメラと闘志を燃やしている。これがバーゲンを前にした主婦の力か。

「さ、すぐに行くわよ!早く行かなくちゃいい商品が売り切れちゃうわ!」


 ホワンは速攻で俺にクロウを乗せた。

 クロウは泣いているが、昨日までのような抵抗はしなかった。おそらく抵抗しても無駄だと言う事を学習したのだろう。

 そしてホワンはベビーカー(俺)を押しながら、猛スピードで空へと駆けていくのであった。


========================


 故郷であるトーナリ王国付近の森へと帰り着いたゴブリンは、周辺の魔物を統治しているキングオークと話をしていた。


「トーナリ王国侵略、ですか?」

「そうだ、今から出撃を行うつもりだ。ゴブリンよ、貴様も軍隊に入って貰うぞ」

 キングオークはトーナリ王国侵略を企てていた。ゴブリンが帰ってきた日がちょうど出撃の日と被ったため、ゴブリンも急遽軍隊に入る事になってしまったようだ。


「よろしいですが、何故今日進軍を?」

 ゴブリンは不慣れな敬語を使って質問する。

「今日はトーナリ王国で祭りがあって、警備が商業地区に集まっているのだ。我々はこの隙に警備が手薄になっている城門から進軍をするのだ」

「なるほど。人間たちが浮かれている隙を突くわけですか」

「ぐふふ。今日のためにこれだけの軍勢を集めた。作戦が失敗する事はないだろう」


 キングオークの元には、数多の魔物達が集まっていた。オーク、コボルト、リザードマン。さまざまな種類の魔物達が統制がとれた状態で並んでいる。

「ではさっそく出撃するぞ。ゴブリンは『ゲ』の『4』班に移動せよ!」

「了解しました、キングオーク様」

 ゴブリンが担当の場所へ移動しようとしたその時、下っ端のリザードマンが焦った様子でキングオークの元へ走ってきた。


「も、申し上げます! 空中に怪しい飛行物体を確認しました!」


 それを聞き、キングオークは眉をしかめながら

「それはきっと偵察部隊のデスコンドルだろう。味方だから安心しろ」

 とぶっきらぼうに答える。

「い、いえ。それが……デスコンドルを撥ね飛ばしながらこちらに向かって来ているのです!」

「なんだと?」

「あ! あれです! あの物体がこちらにまっすぐ向かってきています!」


 リザードマンは空中を指さす。そこには確かに謎の飛行物体がこちらの方向へ近づいていた。

「あれは……なんだ?」

 キングオークはじっとその物体を見つめる。

 その物体は今までキングオークが見たことが無いほどの速さで移動していた。

 果たしてその正体は……ベビーカーに乗った赤子と、それを押す人間の女性だった。


「なんだあれ!」

「べ、ベビーカーだよな、あれって。 つーか人間って空飛べたっけ……」

「人間達の秘密兵器か!?」

 数多の魔物の軍勢は、騒ぎ出した。誰も彼も、今まで見たことのない未知の存在に遭遇した事に困惑した。

 ゴブリンもそれに乗じるように「なんでこっち来たんだよ……」と嘆く。


「こっちに落ちてくるぞ!」

 誰かがそう叫んだ。そしてその叫び声が聞こえたと同時に、ベビーカーはどんどん高度を下げていき……最終的に大軍のど真ん中で大きな音をたてて着陸した!



 着陸した以後も、ベビーカーの暴走は続いた。目にもとまらぬ速さで大軍の中を走っていく。

「に、逃げろーっ! 撥ね飛ばされるぞーっ!」

「あぁっ! ジミーが逃げきれず弾き飛ばされた!」

「た、助け……へぶぅ!?」

 大軍は大パニックとなった。ある者は逃げきれずベビーカーに撥ね飛ばされ、ある者はベビーカーから少しでも離れようと猛ダッシュで逃げ、ある者はどうしればいいんだとその場でオロオロと泣いていた。もはや大軍に先ほどまでの統制など無かった。


「くぅっ。まさかこれほどまでに強い人間が来るとは、予想していなかった!」

 キングオークは爪を噛みながら悔しそうに言い放つ。

 それを聞いたゴブリンは思わず「いや、あれ本当に人間なのかよ」と突っ込みそうになったが、キングオークにそんな無礼な突っ込みはできないので心のうちにしまう。

「しかしここでやられっぱなしになってしまっては魔物の名が廃る! 我が成敗してみせる!」

 キングオークはそういってベビーカーの進路上へと走っていく。


 どんどんキングオークへと迫りくるベビーカー。それに向かってキングオークは叫ぶ。

「待て、人間よ! 我が名はキングオーク! これ程の狼藉、見逃すわけには……ぐっぼぉっ!?」

 だがキングオークはむなしく、ベビーカーに弾き飛ばされてしまったのであった。


「き、キングオーク様ーっ!?」

 ゴブリンはキングオークに駆け寄る。

「ゴブリンよ……。あとは任せたぞ……ガクッ」

「き、キングオーク様、目をお覚まし下さい! 『ベビーカーに轢かれて死んだ』とか、すっごい字面が情けない死に方ですよーっ!!」

 ゴブリンとキングオークがそんな会話をしている隙に、ベビーカー達はトーナリ王国の方角へと走り去ってしまった。


 ……嵐が過ぎ去った。しかしキングオークの軍は癒えようのない深い傷を負ってしまった。

「……一体、あれは何だったんでしょうか」

 キングオークに報告をしたリザードマンが、ぽつりとそう呟く。

「……強いて言うなら、悪い夢だったとしか言いようがない」

 それに返答するように、ゴブリンはそう呟くのであった。

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