5話(視点移動有)
ホワン家の庭で進化ウィンドウを開くと、いつの間にかレベルが1から2に上がっていた。それに伴ってAPが1ポイント増えた。
そういえば昨日、なんか色々轢いていた気がするのでそれが関係しているのかもしれない。
さて、このAPをどんな成長に割り振るべきか。
また速度に割り振ってもいいが、どうせなら奇抜な成長をしてみたいと思っている。
「ほーらクロウちゃん、またお散歩に行きまちょうね〜」
「いやー! いやぁー!」
そんな事を考えていると、後ろからクロウをあやすホワンが近づいてきた。
クロウは明らかに嫌がっているが、ホワンの腕の中から逃げられずにいる。
「あらあら、どうして泣くの? こんなにいい天気なのに」
ホワンは嫌がっているクロウにそう言う。原因が自分の行動にあると気づいてないようだ。
「よちよち、大丈夫よ〜。今日はいい天気だから散歩すればそのうち嫌な気分も吹っ飛ぶわよ〜。だから今日もお散歩行きまちょうね〜。」
「ぎゃー! ぎゃー!」
クロウはホワンの手によって、俺の座席に座らされた。すると先ほどより激しく抵抗するのだった。
こうも抵抗されてしまうと、こちらとしても何か対策をしなければと思う。
ふぅむ、だがクロウを黙らせるにはどういった進化をするべきだろうか。
やはり思いっきり怖い思いをさせて抵抗する気力を無くすのが一番だろうか。
しかしただ怖いだけでは面白くない。クロウを怖がらせる以外に付加価値が欲しい。
……そういえばホワンの言う通り、今日はいい天気だな。こんな天気に最適な進化があったような。
そう思いながら強化のリストを眺めると、確かに最適な進化が一つあった。クロウを怖がらせ、尚且つ俺が爽快な気分になる、いい天気にぴったりな進化だ。
よし! 今回はこの進化をすることにしよう!
そして俺は、新しい能力『空中浮遊』を習得した。
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ゴブリンは昨日の出来事を思い返しながら歩いていた。
あの女はなぜあんな速度で逃げれたのだろうか。ただそれだけがずっと疑問に残っていた。
あの超速の逃げを初めて見たときは相当驚いた。思わず「えっ……えっ?」と二度「えっ」と言ってしまうほどだった。
「うーん。人間って、あんな速度で逃げられるものなのか……? もしそうだったら、今後は逃げられないよう細心の注意を払う必要があるな」
ゴブリンは最終的に、『今まで知らなかっただけで人間はあれだけの速度で逃げれる』と無理やり結論付けた。自分でも無理やりな結論だと思っているが、そう考えなければあの事実を受け入れることができないのだ。
と、その時ゴブリンは近くから昨日の女と赤ん坊の香りを感じた。
「! 奴らまたこの森に来たのか……」
昨日の速度を思い出すと少し怖い。しかし、そんなものに恐れているようではゴブリン族の名が廃る。ゴブリンはその香りがする方に歩いて行った。
歩いていると、確かに昨日の女と赤ん坊はいた。昨日と同じく、赤ん坊をベビーカーに乗せていた。
……だがその二人は、遥か上空に浮かんでいたのだ。
ゴブリンはそれを見て、思った。
『実家に帰ろう。宙に浮かんだ人間の幻覚が見えるなんて、俺は病気に違いない』と。