1話
「ベビーカーに轢かれて死んだんですが、こういうのって異世界転生できますかね?」
「え……?」
俺は死んですぐ、目の前に降臨した神にそう質問した。神は唖然とした表情をする。
「ベビーカーって、あのお母さんが取っ手を持って手押ししながら進む赤ちゃん用の乗り物ですか?」
「はい。それに轢き殺されました」
少しずつ焦る様子の神に対し、俺はまっすぐなまなざしで答える。
「ちょ、待って! トラックとか乗用車なら分かるけど、なんでベビーカーに轢かれて死んだの!? あんなのに轢かれて死ぬ余地なんてないじゃないですかっ!」
「仕方ないでしょう。ベビーカーに轢かれそうになった女の子を助けたら、そりゃ死にますよ」
「『トラックに轢かれそうになった女の子を助けたら、そりゃ死にますよ』みたいなニュアンスで言わないでくださいっ! それ女の子轢かれても怪我だけで済むんじゃないの!?」
「大型のベビーカーが時速100キロで来たんですよ。怪我だけで済むとお思いですか?」
「いや、大型で時速100キロとか完全にトラックでしょ!? ベビーカーがそんな早かったら手押ししてるお母さんも乗ってる赤ちゃんも大変なことになっちゃうでしょうが!」
「いちいちうるさいですね。何ですか、『トラックに轢かれる奴は転生させてあげるけど、ベビーカーに轢かれる奴は転生させてあげない』って言いたいんですか? 依怙贔屓ですよそれ」
「それ以前の問題っ! ベビーカーに轢き殺されるってシチュエーションが無理があるんだっての!」
「最近のベビーカーは危ないんですよ……。あなたも地上界に降り立ったら一瞬でベビーカーの餌食に会いますよ」
「私の知らない間にどんだけ修羅になってるんだ、地上のベビーカー業界は……」
神は俺に対しバシバシと鋭い突込みをしていくが、最終的には呆れ果てた顔になってしまった。地上のベビーカー業界に不安を覚えたからだろうか。
「で、転生させてくれるんですか? どうなんですか?」
「あー、はいはい転生ですね。まぁ事実だとしたら悲惨な死に方ですし、お詫びとして転生させてあげますよ」
なんだかんだあったものの、最終的に神はテンプレ通り俺の転生を認めてくれた。
「よっしゃ」
俺が小さくガッツポーズすると、「何調子乗ってんですか」と神に叱られた。
「……で、したい転生のリクエストとかありますか? 『魔物を倒す剣士』とか『全知全能の僧侶』とか、ある程度希望通りにできますけど」
神はぶっきらぼうにそう発言する。その問いに、俺はこう答えた。
「ベビーカーに転生したいです」
「は……?」
神は再び唖然とした表情をする。
「ベビーカーって、あなたが轢き殺されたって主張するあの乗り物ですか?」
「はい、あれになりたいです」
再度焦りだす様子の神に対し、俺はまっすぐなまなざしで答える。
「いやいやいや、おかしい! なんで轢き殺された乗り物にわざわざ転生しようとしてんの!?」
「俺も魔物とか轢き殺したいんですよ」
「危険思想かよっ!? そんなやばい思想の奴に転生させる訳あるかっ!」
「何ですか、『剣で魔物を倒すのはさせてあげてもいいけど、ベビーカーで魔物を倒すのは禁止』って言いたいんですか? 依怙贔屓ですよそれ」
「いろんな意味でそれ以前の問題だよっ! そもそもベビーカーは魔物を倒すための道具じゃないからね!?」
神は俺に対しわーわーぎゃーぎゃー色んな発言を突っ込んでいった。が、そろそろ飽きてきた。
「もういいです。そんなに転生させたくないなら、自分の力で転生します。」
俺はそう言い、新しい異世界があるであろう方向へと猛ダッシュした。
「ちょ!? 何勝手なことしてんの! やめろ、戻ってこいっ、戻れ! て、転生すんなああああああっ!」
神が最後になんか色々叫んでたが、とりあえず俺は異世界へ飛び込んだ。