にゃんにゃんジュニア
今日は、まなみのたん生日。お昼には、なかよしのけんちゃんやひろみちゃんたちを、まなみの家によんで楽しくあそびました。
夜、パパの帰りをまって、ママとまなみの三人で、もう一回いわうことになっています。
テーブルには、ママのやいたまんまるのケーキとちょっぴりこげているお肉がおかれています。
「おいしそう。」
まなみは、鼻をくんくんとかぎました。
ふんわりとしたあまいケーキや思わずよだれが出てしまいそうな、お肉のにおいがしました。
「パパが帰ってからよ。ね?」
そう言ってママは、まなみのすきなみかんジュースをれいぞうこからとり出して、まなみのコップにたっぷり入れてくれました。
「ただいまー。」
げんかんでパパの声がします。まなみの顔は、ぱあっと晴れたようになりました。
「パパぁ、おかえりなさいー。」
よいしょ、とまなみはイスからとびおり、パパのところへと走って行きました。
早く、ごちそうが食べられるのと、プレゼントをもらえるのが、ごっちゃまぜになって、まなみはうきうきしています。
「ただいま、まなみ。パパもすぐに台所に行くから、先に行ってて。」
パパは、まなみの頭をゆっくりなでると、わらいました。
「うん。」
大きく一回、首をたてに下げると、まなみはどたどたと台所へ走って行きました。
きがえをすませたパパがイスにすわったので、まなみのたん生日会のはじまりです。
「まなみ、五才のたん生日おめでとう。」
「おめでとう、まなみちゃん。」
パパとママは、にこにこ笑顔で言いました。
「カンパーイ。」
三人のもったコップどうしが、カーンコーンと音をたてました。それから、ママが電気をフッとけしました。
テーブルにおいたケーキの五本のろうそくの明かりが、ゆらゆらとゆれています。
「フゥーッ!」
元気よくまなみは、ろうそくの火をふきけします。それから、電気がつきました。
「さぁ、まなみ。パパたちからのプレゼントだよ。あけてごらん。」
ピンクのリボンでむすばれた小さなはこ箱を、パパはまなみにさし出します。
「ありがとう、パパ。ママ。」
しゅるしゅるとリボンをほどいて、まなみははこ箱のふたをあけてみました。
「ねこちゃんだぁ!」
中から出てきたのは、まなみのてのひらにのるくらいの、 小さなねこのぬいぐるみです。
「でも、ほんもののねこちゃんがいいな。」
しばらくすると、まなみは風船がしぼんだような顔をしました。
「ごめんね、まなみちゃん。ママね、どうしてもねこがさわれないの。」
まゆ毛をハの字にして、ママは言います。ママは、ねこアレルギーなのです。
「ううん。このねこちゃんでいい。」
左手の上にねこのぬいぐるこをのせ、まなみは右手でいいこいいこ、と頭をなぜてあげました。
「まなみ、このねこの名前は、ねこちゃんなのかい?」
パパは、目の前にあったお肉をハシでつかみました。
「うーん。どうしようかなぁ。」
まなみが考えていると、ママがまなみの分のケーキを、切ってもってきてくれました。
「ねこちゃんでも、かわいいじゃない。」
と、ママは言います。
「うーん、そうだっ。けんちゃんがいい。」
幼稚園で一緒のけんちゃんの名前を出しました。
「あたし、女の子だから、いやよ。」
すると、どこからともなく、小さな女の子の声が聞こえてきました。
まなみは、びくっとして、それからまわりを見わたしました。
「どうしたの、まなみ。」
「ケーキ、食べないのか? パパが食べちゃうぞ。」
パパもママも、その声には気がついていないみたいです。
「やだぁ。まなみのだもん、食べる。」
そう言って、まなみはケーキをひと口、口に入れました。
「まなみちゃん、早くあたしの名前をつけてほしいな。」
また、まなみの耳に女の子の声が聞こえます。パパもママも、やっぱりわからないようです。
今度は、テーブルの上にのっているものを見てみました。
「あっ。」
するとどうでしょう。まなみの左手の中にいた、ねこのぬいぐるみが、まなみにウインクしているではありませんか。
「やっと、みてくれた。ねぇ、あたしの名前、教えて。」
ねこは、まなみのことを新しいお友だちと思っているらしく、にこにことしています。
まなみは、がたがたとふるえがとまりませんでしたが、 ねこのかわいい笑顔をみていたら、いつのまにかふるえがなくなっていました。
「ねこちゃんのぬいぐるみって、話せるんだね。まなみ、うれしい。」
ひとり言のようにいうまなみに、パパとママは首をかしげていました。
「やぁね、まなみ。ぬいぐるみがしゃべったりするわけないのよ。」
「そんなことないもん! ほら。」
ママにむかって、ねこを見せてみました。ママは、ジーッとねこを見ましたが、
「やっぱり、ただのぬいぐるみよ。」
と、まなみをがっかりさせました。
そんなことないのに、とまなみがねこの顔を見たとたん。
「パパはまなみの言ったことを信じよう。むかし、パパが小さいころ、ぬいぐるみと話したことがあるんだぞ。」
パパは力強い声でまなみに言いました。
「ほんとっ、パパ!」
「もちろんだよ。パパはな、ねこが大好きでな、パパのパパにお願いしたんだけど、飼えなかったんだよ。でも、パパのママが、ぬいぐるみをくれたんだ。」
「ねぇ、パパ。その子がパパとお話ししてくれたの?」
「そうだよ。だから、パパはまなみのことを信じたいんだ。」
「うわぁ。パパもなんだぁ。ねぇ、パパ。その子の名前はなんていうの?」
まなみの目がキラキラと光っています。パパは、ビールをもっていた手を離し、テーブルにおきました。
「はずかしいんだがな。」
もじもじしているパパを見て、ママはくすくすわらっています。
「ママは知っているの?」
「前に、パパから聞いたことあるのよ。」
「じゃあ、教えて。」
ママはパパを見ました。
「いや、パパが教えてあげよう。名前は、にゃんにゃんだよ。」
「えー! かっわいい。ねぇ、パパ。その名前、ちょうだいねっ。」
まなみには、どうしてパパがはずかしいと言ったのかわかりません。
しかし、パパのつけた名前が、まなみにはかわいく思えたのでした。
「ねこちゃんの名前、きまったよ。」
テーブルの上においたねこに話しかけると、まちくだびれたように大きなあくびをしてみせました。
「うれしい。で、どんな名前?」
「にゃんにゃん。」
すると、ねこは目をまんまるくしてびっくりしましたが、 にっこりとわらいました。
「うふふ。ありがとう。」
ママだけが、まだねこの声がとどいていないのか、口をパクパクしています。
「きっと、あのねこがまなみにお礼を言っているんだよ。」
と、パパがママに耳打ちしていました。
「あなたのぬいぐるみは、どこにあるの?」
「七年位前、この近所のリサイクル店に引き取られたよ。店長の子どもが、そのぬいぐるみをほしいと言い出したらしい。それまでは、おふくろの仕事場にあったから、大方、その子が見てきにいったんだろ」
「おかあさん、ピアノ教室開いているものね。でも、せっかくのたからものなのに。」
「まぁな。 でさ、まなみのたん生日だと聞いて、店長があのぬいぐるみをまなみにって。お礼のつもりかな。」
「もしかして、あなたがもっていたぬいぐるみをつかって新しく作ったのかしら。にゃんにゃんは。」
「そうかもしれないな。だとしたら、にゃんにゃんジュニアかな。」
パパとママは、楽しそうに話しています。まなみとにゃんにゃんも、顔を見合わせてわらいました。そして、にゃんにゃんはパパに聞こえるように話しました。
「そうだよ。あたしのママは、じんくんにかわいがってもらった、にゃんにゃんなの。」
自分の名前を言われてびっくりしましたが、パパは少しなつかしい顔をして、にゃんにゃんを見ました。
「まなみのあそび相手になってな。」
「もちろんよ、じんくん」
聞こえていないママも、わかっているような笑顔で、パパを見つめていました。
「にゃんにゃん、ずっとまなみのそばにいてね」
「うん」
まなみは、にゃんにゃんのおでこにそっとキスをしました。
五才のたん生日会は、まなみにとって、わすれられない一日となりました。