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別世界の私へ  作者: 反兎
3/4

ノジャスティ:2


「何やってんですか…?」


呆れたように一人の男が私に聞く。

私は無重力空間を味わっているみたいで楽しく、つい事務所の部屋で浮いていた。


「女性が…はしたないですよ」


ノジャスティは服装も建物も中世ヨーロッパ風で(と言っていいのか解らないが…そんな感じ)、浮かんでいると中のベロワーズが見える。

ベロワーズはゴスロリの人とかがスカートの下に穿いているようなやつで、私にとってはレギンスみたいなものなので見えたとしても平気なのだが、スカートの中が見えるというのが男には「はしたない」のだろう。


寡黙そうな黒髪の青年は私の手を掴み席につかせる。


「今日は弁護長が来るんですよ。ちゃんとして下さい。全くトゥルーはどうしてこうも−−…」


ネチネチと小言が続く。私はそれを右から左に受け流す。いつも同じ事を言われて耳に胼胝だ。

トゥルーとは私の事で、親しい人は私の事をトゥルーと呼ぶ。


彼の名前はマーシス・キルトン、私の補佐をしてくれている。見た目は寡黙っぽいがよく喋る。というより殆どが小言だ。男の癖に細かいのだ。


「人が真剣に話ているというのに何が可笑しいんですか!?」

「え…」


眉間にシワを寄せてマーシスが私に詰め寄るので、私は反射的にのけ反った。


そんなつもりはなかったのだが、マーシスを見るとどうしても顔がニヤけてしまう。私の幼なじみの男によく似ているのだ。


別世界に来ると自分の周りにいる人とそっくりな人に出会う。

私は知っているのに相手は私の事を知らないし、それに私が知っている人とは全然違ったりしていて可笑くなるのだ。

でもやっぱり、知っている顔を見ると落ち着くし、安心してしまう。


「何ですか今度は…、反省の色が見られないですね…−−はっ…!!」


マーシスは緑色の目を光らせて何か思い当たったみたいに声を出し、顔を強張らせる。


「…もしかして私に気があるんですか?」

「は?」


私はどうやったらそうなるのか解らない。恐怖に怯えたようにマーシスは続ける。


「確かに私は顔も良く頭も良く家柄も良くなどなどと、人を魅力してしまう要素を全て兼ね備えていますが…、トゥルーだけは…トゥルーだけは私を色眼鏡で見る事はなく大丈夫だと安心していたのに…これだと仕事に支障が出てしまうので私は辞めないと−…」


凄い勘違いのしようだが、マーシスは本気で思い悩んでいるみたいでアワアワしている。本当に辞める報告をしに部屋を出ようとしたので、私はとっさに手を掴んで引き止めた。


「いや、絶対ないから安心して!」

するとマーシスは私の手を両手で握り必死に訴える。

「本当ですか!?」

必死過ぎて目が怖い−−−。

私は怖くて手を振りほどこうとするが力が強くてほどけない。

「本当に絶対ないと言い切れますか!?私この仕事が好きなんです!生き甲斐なんです!あなたの事も意外と好きなんです!だから私の事を異性として見ないで下さい!!」

「…うん、わかった」

私は怖々と答えた。


その後、誓約書まで書かされサインまでさせられた。どこまでも細かい男だ。


ジリリリリリィ…


ベルが鳴る。訪問客が来たという知らせだ。

入り口のモニターにヘッドマイクをつけたツインテールのくりくりお目めの女の子が映る。受付嬢のベルちゃんだ。


『ハイ、トゥルー!お待ちかねかどうかは解らないけど会長が来られましたわよ〜。閉めだし食らわせずにドア開けてあげてね〜』


男なら目をハートにさせてしまう投げキッスをしてベルちゃんは通信を切った。ベルちゃんは可愛い笑顔で私の古傷をえぐる。


この事務所は受付から弁護士の個人部屋まで直通のエレベーターに乗って来るようになっている。だから部屋のドアを開けないとエレベーターの中で待ちぼうけになってしまうのだ。


初日に会長が私の様子を見に来てくれたのだが、私は勝手に入ってくるものだと思い会長が入って来るのをずっと待っていた。その所為で会長は私に嫌われていると勘違いして目に涙を溜めて帰って行ったらしい。

これは新人イジメの挨拶で、私は見事にハマった。

後から誤解は解けたのだが、今だに私は「会長が嫌で居留守を使った」と皆にからかわれている。


ピンポーーン


エレベーターが到着した。マーシスが入り口のボタンを押してドアを開ける。ドアはウィーンと横に開き、左手に杖を持った背の高い年の割には恰幅のいい好々爺が入って来る。

好々爺は右手を軽く上げて笑顔で挨拶した。


「やあトゥルちゃん。今日は入れてくれたんだね」

「ぐっ…」

ぐうの音しか出ない。誤解は解けたはずだが、会長の鋭い視線がまだ疑いの念を放っている。


「会長、今日のご来訪の目的は何ですか?私のトゥルーに迷惑をかけに来た訳ではないでしょう?」

「もちろんだよ。でも迷惑かけちゃうかな?やっかいな弁護を引き受けてもらいに来たんだよ。私のトゥルちゃんなら引き受けてくれると思ってね」

お互い笑顔なのだが…、その笑顔がやけに怖いし火花が散っている。


何だろう…これが大人のやり取りというものなのだろうか?

私は気を逸らせる為に会長に話かけた。


「やっかいな弁護って何ですか?」


私が話しに食いついたのが嬉しいのか、会長はとびっきりの笑顔を私に向けた。


「まずはチィーでも飲んでゆっくりしよう」


マーシスがお茶の用意をして出してくれる。マーシスの入れてくれる紅茶は美味しい。それに人の好みをちゃんと覚えていて会長にはブランデー入りの紅茶を出す。私の好みは甘めのミルクティーだ。いつも寸分違わぬ味で出してくれる。

添加物が多いからとマーシスが丹精込めて焼いてくれたクッキーを食べていると香を味わい一口紅茶を飲んでから会長が用件を切り出した。


「トゥルちゃん空挺ホテルで起きた殺人事件知ってる?」


知っているも何も今1番話題の事件だ。


空挺ホテル【ホースト】はスノードームみたいな形をした巨大の浮遊施設で法廷の次に人気がある。

遊園地にプールにカジノ、高級エステにネイルサロン、映画館にバーチャルゲーム、ゴルフ場にテニス場と言いだしたらきりがない程の豪華娯楽施設だ。

そこに男女7人が卒業旅行でそのホーストに行っていた。3泊4日で泊まりがけで遊びに来ていた7人は3日目までは楽しく遊んでいた。

だが4日目の朝に一人の女性がいない事に気付き、この施設は迷子になりやすく夜中にどこかに出かけて道に迷ったのではないかと思った彼らは慌てて彼女の捜索をホテル側に頼むと彼女はすぐに見つかった。

彼女は自分達が泊まっていた部屋の真下の芝生に血を流して横たわっているのを発見された。

彼らが泊まっていた23階の部屋から落とされて死んだとの初見が出され、警察では彼らの内の6人の誰かが彼女を手に掛けたのだという見方をしたまま、犯人はまだ特定されていない。

全員が容疑者のまま拘留されている。


「亡くなった女の子の妹さんの弁護を誰もしたがらなくてね−−−…」


それはそうだろう彼女が第一容疑者だ。1番黒に近い。

妹は姉のグループと仲が良く、何かと一緒に出掛けたりしていたらしい。

もし今回一緒に行っていなければ、こんな事にはならなかったのに…、そう思うと胸が苦しくなる−−−。


「−−トゥルちゃん彼女の弁護してくれない?」


この流れからして確実に会長の用件とはそれだろうと解る。それでも私は会長の口から発せられた言葉に戸惑う。


「…私は−−…」

言葉が続かない。何と答えたらいいのか解らない。マーシスが心配そうに私の事を見ている。


私が俯いたまま押し黙っていると優しい微笑みで会長が言う。


「トゥルちゃんが引き受けてくれなかったら彼女は弁護士なしで最高裁で吊るし上げに合うだろうね」

そういう言い方は卑怯だ−−−。

「可哀相にね」

会長はそんな事全く思ってもいないように言った。


「あなたって人は−−…どこまでトゥルーを苦しめれば気が済むんですか!?」


マーシスが敵意むき出しで会長に食ってかかる。会長はそれをやんわり笑顔でかわす。


「これもトゥルちゃんの為だよ。君は過保護過ぎる。それだと余計ダメにしてしまうよ。いつまでも逃げる訳にはいかないんだよ」

「逃げる事が悪い訳ではありません。必要な時もあります」

「うん。でもトゥルちゃんのは目を背けていてもどうにもならないものだよ。それは本人が1番良く解っているはずだね」


その通りだ。

会長の言う通りいつまでも見ない振りをしている訳にはいかない。


「…やります−−…」

「トゥルー!!?」

「私彼女の弁護引き受けます」


会長は歯をむき出しにしてニッと豪快に笑う。


「それでこそ私のトゥルちゃん」


私もつられて(呆れたようにだが)微笑んでしまう。マーシスは納得がいかない顔をしているが私の意見を尊重してくれているみたいだ。


「で、手始めにどうするかね?」

会長が挑戦するように私に尋ねてくる。

「もちろん彼女に会いに行きます」


私はその挑戦に乗るように答えた。



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