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別世界の私へ  作者: 反兎
2/4

ノジャスティ:1


「それでは判決を申し上げます」


全体に響き渡る、とても威厳のある声で私の意識は目覚めた。


私がいる所はやけに高さのある立派な建物で、結構高い位置の座席に私は座っている。何段あるのか凄い数の座席数で、見渡す限り満席だった。


そしてここにいる人々は、皆劇を見るようにある一人の人物を見ている。


私はその人物の真後ろ側の座席で、私の位置からは調度、その人物を偉そうに見下ろす女性がよく見える。その女性は純白の法冠を被り、そして純白の法服を着ていた。


法冠には金色で天秤のマークが描かれおり、天秤の柱は槍のように先が尖っていた。


そう、ここは法廷だ。


そして大勢いる聴衆の中に私はいた。


皆どんな判決が出るのかと目を輝かせ、期待のこもった表情をしている。判事もそれを理解しているのだろう間を持たせるように無言を貫く。この無言の間に聴衆は緊張を高める。

この場にいる全員の緊張がピークに達した時、判事はよく響く声で判決を下した。


「判決は死刑」

「そんな…それはあまりにも不当な判決です!」


被告人の弁護士が異議を称えるがそれに判事は表情一つ変えず、笑顔で言い放った。


「首斬りで」


それを聞いて、うぉぉぉぉぉお!!!と聴衆の叫びで建物が揺れる。弁護人が異議を称えているが、周りのが煩過ぎて何も聞こえない。


判決が下され黒い布を被った刑執行人2人がふっと出て来た。一人は物凄く大きな斧を持っている。被告は逃げようにも手足を枷で繋がれていて逃げられない。執行人は聴衆が見やすいように被告を台の上に乗せ、押さえ付ける。


皆事の成り行きを興奮した眼差しで固唾を呑み見守る。そして執行人はまな板の魚を捌くように斧を振り下ろした。


ゴトッ…


頭が下に落ちた音が無惨に響く。切断された首からは血が噴き出て、血溜まりが出来ている。頭はコロコロと弁護士の方に転がっていき、弁護士はひぃぃっと悲鳴を上げて後ずさった。


被告の首からはとめどなく血が流れ出ていた。彼の生きていた証が流れ出ていく−−−−。


私は被告の首が切断されるのを見て、恐怖と怒りを感じた。

私は恐怖しか感じていないのだが、これが別世界の自分になった時の難点で、この世界の私の感情も感じてしまうから凄く変な感じがする。


この世界の私は、この無慈悲きまわりない法廷に憤りを感じていた。


目の前で無惨にも人が殺されたというのに、聴衆は歓喜している。ここにいる人々の歓喜の声で、また建物が揺れる。私はその様子を見て吐きそうになった。


判事はいい気味だとばかりにほくそ笑み、十分堪能したのか満足げに木槌を打ち鳴らした。


「これにて閉廷〜」


軽い調子で裁判を終わらせた派手めな判事は、挑戦的に私を見据えて不適に微笑み、上品に手を振って出て行った。



この世界で1番儲かるのが法廷だ。


一裁判で相当の収益が得られる。チケットはいつも完売で、チケット欲しさに犯罪まで起きる程だ。いい値段の入場料なのだが、それでも皆本物のスリルを求めて法廷へとやってくる。


この国の法廷は、もはや法廷という名の娯楽と化していた。


私が座っていた中央の席は判事の目の前で、まるで自分が被告になったような擬似体験ができる。だから1番人気で値段も高い。


購入したチケットはどの裁判のものか行ってみないと解らないサプライズ方式になっているのだが、それでも裁判を見にくる人々は、皆が皆、残酷な結果を期待し望んでいる。


私が見た裁判の被告は軽犯罪で初犯だったので聴衆は見るからにガッカリしていた。だが、彼は死刑になった。


この世界の人々は自分の重力を自在に操る事ができる。「浮きたい」とか危険を感じたら浮くのだ。だからこの国では自殺者がいない事が誇りだった。


重力を操れるのはいいが、調子に乗って浮き過ぎると降りられなくなるという難点もある。そして浮かべると、人はバカな事をしたくなるみたいで……、さっきの被告は上から自分の雨を降らせた。


つまりは放尿したのだ。


違反行為なのだが、それでもやってしまう人がいる。

普通なら長くて8年の懲役で、それに彼は初犯だからいくら何でも死刑なんて事はありえない。


だが彼は、運が悪かった。


その雨を判事に降らせてしまっていたのだ。


判事は自分に汚いものをかけてくれたお礼をさっきの裁判でした。それがさっきの首斬り刑だ。


この国は法廷世界ノジャスティ。


この国の裁判は裁判官の独断と偏見で判決が決まる。正義なんてものは微塵もなく、真実なんてあってないようなものだった。

この国の王でさえ、法廷では裁判官には敵わない。


そしてこの世界での私、トゥルーディー・コウヤは最年少弁護士だった。





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