愛と憎しみは紙一重
昼休み。
俺は、クラスメイト―そして、恋人である遠藤美羽に呼び出された為、三階にある教室から屋上へと向かっていた。
朝教室で会った時に「ねぇ悠、昼休み…屋上まで来てくれない?」と美羽に言われ、話があるなら教室で良いのでは…と思いつつも承諾したのであった。
話とは何だろう。まさか別れ話か…?でも、朝話した時はやけに機嫌が良かったからそれは無いか…と思いつつ歩いていたら、いつの間にか屋上の扉の前まで着いていた。
少し古っぽくて所々錆付いている扉を開けると、美羽がにこやかな笑顔を浮かべて立っていた。
美羽の顔を見、つられて頬を緩ませつつも屋上へ入る。
「どうしたんだ?呼び出したり何かして。話なら教室で…
…ッ!!」
―何が起きたのか、一瞬理解出来なかった。
俺が屋上へ入ると、美羽は事前に用意していたらしい鍵で屋上の扉を施錠した。
何故鍵を持っているのか。そして、鍵を締める必要はあるのか…と不思議に思いつつも見ていると、振り返った美羽が直ぐ様何かを俺に突き刺そうとしてきた。
俺は反射的に後ろへと避けた。美羽が突き刺そうとしてきたモノが、俺の制服のネクタイを掠める。
まさか、俺を呼び出したのは―嫌な予感が頭を過る。
その予感が的中しているかしていないかを確認する為、美羽と少し間合いを取り、彼女が手に握っているモノを恐る恐る確認する。
―ナイフだった。
予感が的中してしまった。的中して欲しくは無かったのに。
俺は、彼女を凝視しながら2,3歩後退りする。
「あーあ…避けちゃったかぁ…
でも流石だねぇ、そんな所も大好きだよ…?」
美羽は、笑っていた。
理解出来なかった。
何故俺に刃物を向けるのか。何故そんなに楽しそうなのか。何故殺そうとしていたのに「大好きだ」何て言うのか。
美羽自体が、理解出来なかった。
「美、羽…?
何だ、よ…何で、こんな…こんな…ッ…」
恐怖と悲哀と混乱で、上手く言葉が出て来ない。完全に怯え切っている。
「何で…?何が…?」
未だに薄く笑みを浮かべつつも、首を傾げて此方を見詰める美羽。
「何でッ…ナイフ何か、持って…俺に…ッ…」
全身が震える。
奥歯が上手く噛み合わず、まともに話す事が出来ない。
そんな俺の様子を見て、美羽はより一層笑みを深めた。
「何でって……お馬鹿さんだなぁ…
好きだから殺すの。当たり前でしょう…?」
ゆったりとした口調で話す美羽は、狂気に満ちていた。
「やめろよ、こんな事…お願いだから、やめ―」
「嫌だよ。
ぜぇーったい嫌だ。」
俺の方へと歩み寄りながらも、俺の言葉を遮る様に言う美羽。
甘い声とは不釣り合いに、表情はとても冷たかった。
「ッ……来るな、来るなッ…!」
震える脚で後退りするも、背後にあった屋上のフェンスにぶつかり、フェンスのガシャンという音と共に崩れ落ちる。
彼女は、そんな俺の前へ立ち、口角を釣り上げるのと同時にナイフを振り上げる。
狂ってる。完全に狂ってる。
どうしてこんな事になったのだろう。普段はそんな素振り見せなかったのに。
天然でふわふわしてて、いつもあどけない笑顔を浮かべていて…誰よりも、愛しかったのに。
なのに、今は…恐怖しか感じない。
「ばぁいばい。」
美羽の声が聞こえると、目の前が深紅に染まった。