死にたがりの人間が求めた『有意義な死』
短編です。
なんとなく書いてみました。いや、非常に時間は掛かりましたけどね。
キーワードどおり、途中でオチが見えます。残念な小説です。
基本暗い話なので、そういうのが苦手な人はUターンをば。
では、本編をどうぞ。
俺は、死にたかった。
中学生の頃だったかな――――何年生だったか、なんてのは思い出せないが、多分その頃だったろう。
『どうして自分は生きているのか?』
その答えが、それまでの人生―――十数年間のうちに欠片さえ見出せなかったんだ。
もっと生きたいって人間はいるはずだ。例えば、その辺に居る爺さんでも、婆さんでも、はたまた難病にかかり余命まで宣告された病人とか―――生きる理由、意味がある。見出すことが出来ている。
ただ、俺は全く見出せなかった。生きる意味、必要性さえ感じなかった。
友人が居なかったりしたわけじゃない。友人はそこそこいたし、変なトラブルも起こらず。かといって、家が貧乏だったりもせず、そこら辺にある普通の中流家庭と同じだった。
―――話は逸れるが、俺はこの『普通』ってのが嫌いだ。そう、意味が分からないからな。何を基準にして普通と言い、何を基準として普通じゃないと言うのか。それが、分からない。
そんなことと同じように―――何度も言うが―――俺は、死にたかった。
出来ることなら、生きたいと願う奴らにこの命、差し出してやってもいいくらいだ。所詮俺に必要ない命、もっと有意義に使える奴らに渡したほうがいい。
だが、いざとなるとそんなことは出来ない。俺が命を惜しくなったとかじゃなく、周りにそんな奴が居なかったというだけだ。
結局、俺はどうしたか?
俺は、中学卒業後家出して、『有意義な死』を探しに行ったよ。そう、誰かの役に立つ死を、だ。
親は放任主義でね…特に俺の家出に気付くことも無かったようだよ。大方、友人の家にでも泊まってると思ってたんだろ。警察が動かなかったからな。
家出して一週間後くらいか、俺は住んでいた県から二つ三つ離れた県の公園のベンチで考えた。『有意義な死』について。
誰かの役に立つ死。それが俺の望みだ。
先ず真っ先に考えたこと、それは金についてだ。
金は人を堕落させるが同時に幸福をも呼び寄せる。だとすれば、金を動かすことからはじめる。
そこで俺は、少ない金を使い果たし、東京――――それも、いわゆるヤクザの巣窟へと足を踏み入れた。
勿論、そんなところに俺のようなガキが足を踏みいれるなんてことが出来るはずが無い。だが、客としては別だ。
俺はここに、金を借りに来たのだ。それも、一千万と言う大金だ。ヤクザたちは、俺の身体を担保として金を貸した。つまりは、金が返せなければ俺は外国に売られるというわけだ。恐らく、俺の身体、内臓や目、手や足――――全て売り払って一千五百万というところだろう。ヤクザたちからすればボロ儲けというわけだ。
だが、俺も一千万をこのまま残しておくわけにもいかない。どこかで使い果たさなくてはならない。そこで俺は、ヤクザの一人に博打場を教えてもらった。それも、近辺にある中で最も高レートの賭博場だ。
一千万の中からいくらか使い、その賭博場へと向かった。この時点で、金を返せはしない。少し金を使った時点で、金を返す当ては無い。
俺は、ボロいアパートへ足を踏み入れ、二階へあがる。ドアの前にはヤクザが居たが、一千万を見せると、金づるだと思ったのか、すぐに道を開けた。俺の思うつぼだ、有意義な死はすぐ側にある。
改めてドアの前に立つ。中からは丁、半などと言う声が聞こえる――――簡単なギャンブルをしているようだ。
ドアを開ける。ヤクザが十人ほどいて、全員が例外なく俺を睨みつける。普段の俺ならビビっていたかもしれないが、死を覚悟した人間は――――俺は、何も感じなかった。何も言わず、一千万をばら撒く。ヤクザたちの目の色が変わり、俺を座らせる。
――――まったく、人は、人って奴は。
どうしてこう、金に汚いんだか。まあ、そのおかげで俺の『有意義な死』があるわけだが。ヤクザだろうがなんだろうが、『有意義な死』であれば、なんでもいい。
俺は人の汚さを垣間見た気がした。だが、それと同時に俺の終わりも感じていた。
ギャンブルは簡単、賽の目を丁か半かで当てるだけ。賭けた金額の倍を手に入れることが出来る。
俺は五百万を取り出し、丁に賭けた。結局のところ、半でも良かったのだが、なんとなく、だ。
死を望む俺に限りなく有難い目。賽の目は半だった。初っ端五百万が無くなる。
次に俺は二百五十万を賭けた。そう、賭け金を半分にしながらやっていくつもりだ。死ぬとはいえ、死ぬ前の座興、遊び。このくらいは許されていい――――。
俺は更に丁にそれを賭けた。出た賽の目は見事に半になる。俺にとっては、ハズレたことこそ、当たり。俺は少し胸が高鳴っていた。
百二十五万を賭け、更にもう一勝負。俺は丁に賭けた。確率的には二分の一だ、さすがに三度目になると、丁が出た。
俺の持ち金はこれで二百五十万。俺はここで、面倒になった。そう、次に俺が賭けた金は全て、つまり二百五十万だ。俺はこれを全て丁に賭けた。
『有意義な死』に近づく、俺の賽の目。出た数は、丁。
俺の持ち金はこれで五百万。俺はなんとなく腹が立った。死へのカウントダウンまでもう少しだと言うのに、邪魔されているような気がしたからだ。
再び持ち金全てを賭ける。やはり丁だ。
ふられた賽の目は丁―――――。
一気に俺の持ち金は一千万、振り出しに戻ってしまった。
俺はいい加減腹を立てる。飯を前に置かれてお預けを食らわされる犬のようだ――――そう思った。
俺は再び全額賭ける。ヤクザたちから声が上がる―――――。
俺は半を選択した。
だが、出た目は半。
最悪なことに、俺の持ち金は元あった金の二倍、二千万にまで到達してしまった。
―――――くそっ。
俺は舌打ちをする。回りのヤクザの殺気だった目線など気にならない。
俺のうちにあるのはただ、生きているという気味の悪い感触だけ。
助けなくていいのに助けられたというか――――邪魔をされた、そんな気分。余計なお世話をなにかの力で焼かれたようなそんな気分がしていた。
俺はそれから、全額を賭けて賭けて賭けていった。
だが、俺の言った目はことごとく当たってしまい、二千万が四千万、四千万が八千万、八千万が一億六千万、一億六千万が三億二千万、三億二千万が六億四千万と膨れ上がっていってしまった。
六億四千万?そんな金が、一体『有意義な死』の何に役立つ?
ヤクザたちは、六億四千万の勝負に負けた時、金が無いと言い出した。
一億ほど足りないのだ。俺はその分をチャラにする代わりに、もっと高レートの賭博場を教えるように言った。ヤクザ達は何のためらいも無く場所を俺に教える――――まあ、そうだろう。自分たちに関係の無い賭博場の場所と言う情報が、一億で売れるのだから。俺は、自らの無駄な強運、幸運に悪態をつきながらその賭博場を後にした。
大量にある金のうち、いくらかを使い教えられた賭博上へ向かう。持ち金は約五億四千万。世界一周しても余りあるほどの金だ。一刻も早く、この無駄な金を消し去りたいものだ――――――。
俺は賭博場へ向かう。そこは前の賭博場と同じような場所で、ヤクザたちが何人も集まって博打をしているらしい。
博打というのは、「その場で朽ちる」から博打なのだそうだ――――――。俺が朽ちる時が、今ここにあるだろうか?
「よお、坊主」
重い扉を開き、中に入ると、だだっ広い倉庫の中の真ん中で、退屈そうにソファに座っている老人がいた。
倉庫には何もなく、ただ俺と老人、ソファとその前にあるテーブルだけだった。
老人は白い長髪を持ち、黒い不吉なスーツを着て、足を組んでそこにいた。
「クク……面白い。まさか、本当にこうなるとはな……」
老人は、手を顔に当て笑いだす。それはまるで子供のような屈託のない笑い方だった。
「坊主、死にたいんだってな?」
笑い終えると老人は、俺にそう問いた。
俺は何も言わず頷いた。
「クックック……だろうな。そうでなけりゃ、おかしい」
おかしい?なにが?
……ああ、前の賭博場に居た奴らが連絡でもしたのかね……。
「さて……、じゃあ始めようか?」
そう言って老人は、スーツの内ポケットへ手を伸ばし、ゴトリという音を立ててそれをテーブルの上に置いた。
それは、リボルバー式六連装の銃だった。
「ロシアン・ルーレットは知ってるな?リボルバーに一発だけ弾を込め、互いに一発ずつ、こめかみに向けて引き金を引くというゲーム、ギャンブルだ。もちろん――――」
そう言って老人は一旦は置いた銃を手に取り俺に渡し、リボルバーを回すようにと促す。余程油でも挿しているのか、長い間回っていた。そして止まると、俺は老人にそれを返した。老人は倉庫の端へ銃口を向ける。そして撃鉄を上げ、引き金を引いた。
「もちろん、本物だ」
銃口の先にあったドラム缶は、中にあった液体をドボドボと流していた。それと同時に、倉庫内には銃撃の音が響き渡っていた。
「さて、今回はルールを変えるぜ。死にたがりの坊主。通常は弾は一発だがな。今回は一発だけが空砲だ。つまり、今入っている残りは全部、実弾だ」
つまり、六分の一の確率で死ぬ。
……いいじゃないか。まさしく死のためのゲームだ。
「クク……それじゃあ、一発だけ空砲を入れるぜ」
言って、老人は撃った弾を外し、空砲と思しきものをリボルバーに込める。込めながら老人は言う。
「先攻後攻の話だがな……このゲームは、先攻が明らかに不利だ。まず最初に六分の一という薄い確率を引いて来なければならない。だが、引けばそこで終わりだ。もう何もしなくていいんだからな。相手が死ぬのを待つのみだ」
それは俺もわかっていた。いや、誰だってわかることだろう。要は本当の意味で勝負するのは先攻だけなんだ。
「どっちがいい、と聞いたところでお前は先攻を選ぶんだろう?だがそれじゃあ俺が面白くない。――――俺が先攻をもらうぜ」
俺はそれを聞いて驚きを隠そうともしなかった。自ら先攻を選ぶ?馬鹿な。自殺行為だ。俺と同じ『有意義な死』を探しているのか――――いや、違う気がする。何となくこの老人は、死のうとしていない気がする。いやむしろ、死ぬのを怖がっているような。表には出さないところで、死ぬのを怖がっている。そんな気がした。
「さあ、リボルバーを回しな。俺がやっちゃあイカサマみてえになる」
そう言って老人は俺に銃を渡す。それは鉄の重さを持ち紛れも無い本物だと改めて実感することが出来た。
俺は勢いよくリボルバーを回した。カラカラという音が響く。無限のような時間を経て回転が止むと、俺は銃を渡した。
「オーケーだ。じゃあ――――撃つぜ」
老人はそれがまるで毎日やっている日常茶飯事の事のように、撃鉄を上げ、こめかみに銃口を当て、引き金を引いた。
銃撃の音が聞こえる。
が。
「クク……当たりだ」
老人は死んでいなかった。
なんと、六分の一の確率を引き当ててしまっていた。
つまりは、残りの五発はすべて実弾!
「坊主、お前の番だ。――――なに、お前が死んだらちゃんとお前の借りた金はしかるべき所に返すさ。残った金は俺が使ってやる。お前の言う、『有意義な死』だ。誰も不幸にならねえ、誰かが幸せになる」
確かに、な。
その通りだ。
俺はテーブルに置かれた銃を持つ。躊躇いなく撃鉄を上げ、銃口をこめかみに当てる。
いいんじゃないか、こういうのも。綺麗に、死んで行ける。
俺の『有意義な死』は――――今、ここにっ!
俺は引き金を引いた。
最後の瞬間聞こえたのは、俺の命を奪う銃撃音と、笑い声。
「クク……フフフフフ、ハハハハハハハハ!」
俺の引いた引き金には、実弾は込められていなかった、空砲だ。
「そう、お前は確かに死のうとしていた!だが、だがだ!お前は今、空砲だとわかった瞬間、わずかながら安堵を感じたっ!」
俺は黙ることしか出来なかった。そう、自分でもその感覚はわかっていた。俺は、確かに死ぬその瞬間、そしてそのあとの助かった瞬間、明らかな安堵が俺の中にはあった。
「つまり、お前は本当の意味で『有意義な死』など求めちゃいないっ!お前が求めているのは『有意義な死』なんてカッコつけたものじゃねえ、ただの『偽物の死』を求めているだけだ!綺麗な死なんかじゃねえ、汚い死だ!お前は生きたがり、死のうとなんてしちゃいねえ!」
老人の言葉は俺の心を的確に刺し、潰していく。老人の言うことは何一つ間違っちゃいない。どれもこれも本当の真実だ。嘘偽りなど一切ない、挟む間さえもない。
「そいつはやる」
老人は俺の手の中の銃を指差した。
「それにはきっと、お前の『偽物の死』が染み付いている。お前はその空砲で死んだんだ。『有意義な死』を求めるお前は、その何の変哲もない空砲で死んだ!だったらその凶器を一生背負え!自分を殺したそれを一生持ってやがれ!」
俺は銃を見つめる。空砲を撃っても、その重さは変わってはいなかった。
「お前の金は貰っておく。だが、借りた一千万は返しておいてやる―――そして、生きろ。生き続けろ。死を求めるお前は今死んだ、だったらこんどは生を求めろ」
老人は、そう言った後、俺に倉庫から出るようにと顎を使った。その様子に腹が立ったが、どうしようもなかった。
俺は右手にある銃の冷たさ、重さを感じながら出口へ向かっていく。歩く俺の背中に、老人の言葉がかけられた。
「この勝負の意味、そしてお前の生きる理由が見つかった時、もう一度ここへ来な。きっと、面白いものが見れるぜ」
俺は何も言わず、倉庫を後にした。
倉庫から歩いて一時間くらいした頃、俺は何と無しに銃を弄った。銃には、撃った後の空砲が二発、それと未使用の薬莢が四発入っていた。俺は空に向かって残りの四発を撃ち放つ。
が。
それはすべて、空砲だった。
俺は戦慄する。
あの老人は、『六分の一を当てて』いやがった!
俺は思い出す。老人がドラム缶に向けて銃撃を放ったあと、老人は、『一発だけ』薬莢を変えていた。つまり、実弾は一発しかなかったんだ!しかも、俺がリボルバーを回して、イカサマの類は全くありえない!撃つ時も奴が銃に触ったのは持ち手のみ、リボルバーには指も届かない!
……なんてジジイだ、考えられねえ。
俺は、銃をグッと握り締め、また歩き出した。
「今頃、坊主は俺が六分の一を当てたことに気付いてる頃だな」
俺は、坊主が出てから一時間の間、ずっとこの倉庫のソファに座っている。今、二十本目の葉巻を吹かしているところだ。
「クク……懐かしい。昔を思い出すぜ」
俺は葉巻を深く吸い込み、目を瞑って味を確認した後、煙を噴出した。
「だが、な。あれは俺の運だけじゃねえ、坊主の運も絡んでやがる」
俺がやったのは、リボルバーに大量の油を差しただけのことだ。坊主は絶対気付いちゃいねえが、あんなにグルグル回るのには俺の策略があった。
坊主がリボルバーを回した後、俺は銃を思い切り振って、ドラム缶へと狙いを定めた。このとき、リボルバーは少しばかり回転している。ただ、どれくらいってのはわかんねえ。つまり、完全に俺も運に頼っている。そして、だ。これがどういうことかというと。
まず坊主が回す。恐らくこの時点では実弾の入っている部分には当たっちゃいないはずだ。だがここでさっき言った俺の策が使われる。坊主が引いた場所からすこしずらすことで、見事実弾の場所へと移動した。
簡単な話、坊主の引いた場所、または俺の引いた場所がズレてりゃ、六分の一なんて引くはずがなかった。俺だけの運でもダメだし、坊主だけの運でもダメだった。
「そういうこったよ、坊主。まあ、例え俺が回してお前が撃ったとしても結果は変わらなかったと思うがな……クク、面白かったぜ」
俺は二十本目の葉巻を地面に落とし靴で踏み付けた後、倉庫を後にした。
四十年後。
あの老人との勝負から四十年経った。
俺は毎日を生きるため、色々な無茶をした。いや、生きる実感が欲しくて、かもしれない。
老人との勝負後、だらだらと生きてはいたが、それはなんというか、味気ない生き方だった。甘さも、辛さも、すっぱさも、味付けのされていない握り飯。ただ食べるだけといった生き方。生きた実感は全くなかった。
あの日から何日かしたあと俺は再び金を借りに行った。生きるためだけの金があればいい、そう思ってすぐ返せそうな金額、二十万を借りた。
そして俺が向かったのは、最初に行ったあの賭博場だ。あの中でなら、きっと生きた心地がするだろう。
三日かけて俺が手に入れた金は、二億だった。自分でも驚愕する勝ち方だった。三日間寝ずにいた俺は、どこかのホテルにでも行こうと三億を持って賭博場を出ようとした。すると、ヤクザの一人が俺を引き止めた。
「兄貴」
……兄貴?
俺は聞きなれない言葉に首を少しかしげた。
「俺は、この賭博場を仕切ってるもんです――――兄貴、こないだも勝ってましたね」
こないだというと、あの一千万を持っていたときのことだろうか。しかし、あの時は数時間でもっと大量の金を稼いでいた。
「俺は、兄貴みたいに運のいい方は初めて見た。その強さ、運、気迫に惚れたんだ。見たところ中学生のようだが、それでもその目の奥には、何かが宿っているように見える」
そのヤクザは俺の目をギラリと睨む。だが、その目は俺を威嚇しているのではなく、ただ品定めをしているような目をしていた。
「この賭博場にいる俺たち全員、兄貴に惚れやした。どうか、ついて行かせてくだせえ。俺たちヤクザもんは、義理堅い。一度兄貴と呼んだんだ、どこまでも着いていきやす」
ヤクザが頭を下げると、周りの俺と賭けを共にしていたヤクザたちも同じように頭を下げた。
俺は、何も言わず、ただ二億の入ったトランクケースを仕切っているというヤクザの前に置いた。そしてそのまま賭博場を後にした。
ヤクザは俺の考えに気付いたのか、トランクケースを抱え、俺の後についてきた。
……クク、面白そうだ。こんな生き方も。
ヤクザものを味方につけたんだ。面白そうなことに手を出すとするか。二億を元手に、この辺りの賭博場全て、ブッ潰してやる。
そして、それから四十年たったのが、今だ。
俺は、二億を元手にまず、本拠地を構えた。それからはずっと俺は賭博をして、一つ一つ賭博場を潰していった。潰した後の賭博場には誰も居なくなる。その隙を突いて、ヤクザたちにそこを占領させる。こんな方法を使い、俺の総資産は最早日本を支えられるほどとなり、味方のヤクザの数も何倍もの人数になった。
ある時、敵対するヤクザグループが俺たちの賭博場を攻撃してきて、そこの連中と引き換えに俺を差し出せという取引を持ちかけてきた。まあ、確実に俺を殺す気だったんだろうな。だが、人質は二十人弱。俺一人より連、中のほうが大切だ。そう思い俺は、あの時俺をはじめに『兄貴』と呼んだ男に、行こうとしている旨を伝えた。するとそいつは
「駄目です兄貴。そんなことはさせません」
というのだった。
「兄貴がいなけりゃ、これから俺たちはどうすればいいんですか。俺たちは賭博自体には全く手を出してねえ、金を動かしてたのはいつも兄貴だ。兄貴が死んだら、俺たちが、困る!この件は俺たちで絶対何とかします。兄貴はただ、待っててくだせえ……おい、三下どもっ!行くぞッ!」
そう言い残してあいつは、走って行った。
俺は、涙を抑えることが出来なかった。
あのとき、『有意義な死』を求めている時、まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった。
今俺は、『有意義な生』を、生きている。
翌日になると、奴は帰ってきて、全員無事に救出したと俺に伝えた。そして俺は、そいつにこう言い放った。
「野暮用だ。俺のアレと、空砲弾六つ、実弾一つ、油差しも用意しな」
「兄貴……?」
そいつは、少しいぶかしみながらも俺の部屋を出て行った。
なあ、じいさんよ。四十年前の答えが、今出たぜ。
俺が生きる理由ってのは、『誰かのために生きる』んだよな。自分が死んで、誰かに幸福になってもらうんじゃなくて、俺が生きて誰かの幸福になるんだ、そして今俺には、俺が死んだら困ってくれる奴らが居る。
だったら俺は、死ぬわけにはいかねえ。もしそんな奴らが居なかったとしても、死んで一度の誰かへの幸福より、生きて何度でも誰かへ幸福をやりたいと今は思うぜ。
そして、あの勝負の意味だ。
もう、答えは一つしかねえ。
あの時のじいさんがいなけりゃ、今の俺はねえ。
だとしたら、じいさんを、俺が演じなきゃ、なあ?
「兄貴。持ってきました」
俺はそれを受け取った。
俺の言うアレとは、あのじいさんとの勝負の時使った銃だ。たっぷりと油を差し、空砲五発、実弾一発を入れる。
「それじゃあな。俺はでかけるぜ。なに、すぐ戻るさ」
「兄貴、お気をつけて」
俺は見送りの言葉を背に受け、黒いスーツを羽織る。
外に出ると、太陽の光が眩しかった。ズボンのポケットへ手を入れ、歩き出す。
俺はもう気にしちゃいないが、周りからはひそひそ声が聞こえる。
「あの人、ヤクザなんでしょ?しかも元締め」
「ええ。いつでも葉巻を吸っているんですって。一時間で二十本は余裕だとか。ヘビースモーカーよ」
「その長い白髪を見たら後にはもう何も残らないとか……」
クク、面白いことばかり言ってるな。
俺は一歩一歩歩き続け、遂にあの倉庫へやってきた。
「ソファも、置きっ放しか。俺らしいな」
俺はホコリのかぶったソファへ腰掛け、来るはずの客人を待った。
足を組み、五分ほどすると現れた人物がいた。
それは、若かりし頃の俺で――――。
さあ、このあとがきを読んでいる人(最後まで本編を読んだ人)はどれくらい居るのでしょう?
途中でオチが見えたと思います。いや、読んでればの話ね。
因みに、普段はこんなの書きません。コメディーやらパロディが好きです。
今私が書いてる連載中の奴とかな!
では、読んでくださってありがとうございました。またお会いできるといいですね。