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第5話   1人目

「…………」


 部下の一人である、ゲッカの報告を受けて、ため息を吐く者がいた。

 うんざりすると同時に、現状には嫌気が差してしまう。

 自ら動くことができず、代わりに自身の力を分け与えた四人の現身(うつしみ)たち――


上甲(ジョウコウ)』、『左羽(アテラバ)』、『鱗右(リンユウ)』、そして『牙下(ゲッカ)』。

 彼らの心配をしているわけじゃない。

 相手が人間な以上、自身の力を持った四人が負けることなど、まずあり得ない。様々な呼ばれ方をされてきた、『スキル』を目覚めさせる存在は、人間だけなのだから。


 うんざりしているのは、根幹となった存在を撃ってからうん百年、うん千年と経っているにも関わらず、『スキル』に目覚める人間は後を絶たないという現状。

 一人が目覚めれば、後顧の憂いや次の誕生を回避するよう、目覚めた人間の周囲、関係した人間まで消す必要もある。

 目覚めたその一人のせいで、これまでどれだけ無駄に命を奪うことになったか……


 更に厄介なのが、いつ人間のもとにその『スキル』が目覚めるのか、全く予想がつかないということ。

 基本的に『スキル』が目覚める人間は一度に一人だけだし、目覚めた後は『スキル』を使えば使っただけ居場所もすぐに分かるが、次の一人が目覚めるまでの期間にはかなりのバラつきがある。

 その人間と周囲まで消して、数百年後に新たに目覚めることもあれば、数十年後の例もある。かと思えば、千年以上目覚めないことさえあった。

 最新の、ゲッカの例がまさにそれだ。最後に殺した人間がいつ現れたかさえ思い出せないほど長い間、『スキル』が現れることは無かった。だからこれで、四人の、そして、自分の役目も終わったと思っていたのに……


 思い出されるのは、あの忌々しい、『スキル』を持ち、操っていた存在のこと――



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その存在と、自分が持つ『スキル』は正に、対局だったと言っていい。


 自身が操り、今は、現身である四人の部下たちに分け与えた力……

 圧潰(あっかい)・燃焼・水没・切断

 主に以上の外的な要因で物質に干渉し、形や状態を変化させるための力。言うなれば、用途に合わせた()()干渉、それが自分の持つ、『スキル』だった。


 一方で、ヤツはと言えば……

・空気を掴み、形を変え、質量を一時的に与える。

・物質さえ掴み、形を加工できる。

・足でもそれが可能で、足で掴んだ空気の上に乗れる。

 外的も内的も、物的もなにも関係なく、全てを無視して行う、()()()干渉。


 どちらがより強力とは一概には言えない。

 潰す。燃やす。濡らす。切る。

 掴む。伸ばす。乗る。形を変える。

 どちらも物はもちろん、生き物に対しても絶大かつ強大な力には違いない。更に言えば、侵略や殺戮を目的としてこの力が備わったわけではないのだから、本来なら比べること自体が間違いだ。相手もそう思っていただろうし、事実、興味も無かったろう。そういう性格だったことも知っている。


 とは言え……

 同族嫌悪、という概念は、どうやら人間だけでなく、自分たちにもあったらしい。

 似たような目的でもって備わった力、だが自分よりも、明らかに便利で器用で、そして神がかり的力。やろうと思えば、ただの人間たちでもできてしまう自分の力とは全く違う。


 嫉妬してしまった。

 存在が違えば役割も違う。本来なら、懐くはずの無い感情だった。

 それでも、懐いてしまった。

 自分には人間にもできるような力を与えられ、何故ヤツは、人知を超越した力を授かったのか……


 許せなかたった。たとえ、存在も役割も違ったとしても、まるで自分は、人間と変わらない劣った存在であると言われたようで。同時に生まれ力を授かった、ヤツよりも劣った存在だと言われたようで……



 一度懐き、大きくなり、膨れ上がった嫉妬が爆発し、ヤツを手に掛けさせるまで、そう時間は要さなかった。

 方法は、決闘だった。昔からある由緒正しい勝負法だ。

 理由は何でもいい。お前が気に入らない。だから勝負しろ。

 それで相手が受けたなら、その時点で決闘は成立。

 そして、一度成立してしまえば、その決闘の結果がどうなろうと、お互いに文句は言えない。

 たとえそれが、卑怯と呼ばれる方法を使っての勝利だとしても……


 念に念を幾重にも重ねた策略。周到な根回し。裏の裏の裏まで読んだ行動の抑制。

 自分でも、よくここまでのことができるものだと呆れかえる卑劣な手段。

 それでも、長年の嫉妬と憎しみのもと手を尽くしたおかげで、何の苦労もなく決闘には勝利できた。

 卑怯だと(そし)りを受けることもままならない結果だが、あいにく、この場には自分とヤツの二人だけ。

 あとは、死にゆくヤツから、『力』を奪って、それで終わりだ。

 自分を人間と変わらない存在へ追い落とした『力』を奪い、自分は、自分自身にさえ文句を言わせない絶対の存在となる。

 そのために、力を奪おうとした時――


 ヤツの中から、『力』が消えた。同時に、確信できた。

 ヤツはこの『力』を、自分たちの生きる世ではなく、人間たちの世に放ったと。

 自分たちが直接干渉することは許されない、人間たちの世へ……



 そのことはすぐ、上の存在にバレた。

 人間の言葉で言うところの、絶体神、最高神……要するに、決して逆らうことは許されず、敵対など(もっ)ての(ほか)な、()()の存在に。


 ()()は命令した。


 人間の世へ放たれた『力』を、直ちに()()、もしくは()()せよ。

 たとえ、残滓の一つも人間の世へ残すことは許さない


 逆らうことは許されない。従うより仕方がない。

 死してなお、自分のことを苦しめ縛る、ヤツのことが憎くて仕方がない。忌々しくて仕方がない。ヤツさえいなければ、こんなことには……



 憎しみを懐きつつ、それでも最上の言葉に従った。

 自ら動くことができれば楽なのだが、自分たちが人間の世に直接干渉することはできない。

 できることは、人間の身と同等の存在を新たに生み出し、送り出すことだけ。

 だから生み出した。

 自分の持つ力を四つに分けた、人間の世で活動できる四人の現身。

 四色の部下。


 (上甲)

 (左羽)

 (鱗右)

 (下牙)


 四人にしたのは多すぎても管理統率しきれないから。

 色を分けたのは分かり易いから。

 名前の由来は、愚かで浅ましい人間たちの生み出した伝説を参考にして。


 この四人のうちの誰かが現れるということは、その人間と周囲を皆殺しにするということ。誰も、この四人の存在を知るものは残らない。

 それでも、認識する者がいるのなら、その人間は考えるだろう。

 人間たちの生み出した伝説と、同じ色、同じ人数の者たちが、殺戮と破壊を繰り返している。

 そして想像するだろう。そんな四人が守り、四人を操る存在が、どこかにいる。

 神か、悪魔か……


 そうやって、強大かつ絶対な存在、すなわち、()()の存在に気がつくんだ。

 気がついた人間たちは自分のことを、形はどうあれ崇め(たてまつ)(こいねが)うに違いない。

 絶対の存在と……


 せめて、そのくらいの()()()()()()が無ければ、こんな面倒で下らない作業など、とてもやっていられない……



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな下らなくて面倒な仕事を、せめてもの楽しみを糧に行い続けて幾星霜。

 四人の中の誰かが()()しようとした瞬間には、その人間の中から逃げてしまう。

 悠久の時が流れたというのに、ヤツの『力』……人間たちの『スキル』が無くなることはない。

 決して目覚めはしないだろうと確信した瞬間には、次の人間に目覚めてしまう。

 まるで、自分の反応を見て楽しんでいるかのように……


 良いだろう。それがお前を殺した、自分に対する()()のつもりなら、とことん付き合ってやる。

 お前の存在は許さない。それでも力は魅力的だったから、それだけでも自分のものとし、残してやろうと思っていた。

 だが、それを決してさせないというのなら、自分は、それを追い続け、そして、消し続けるだけだ。

 逃がしはしない。遺しはしない。


 自分を貶め、辱め、そして追い落としたお前の『力』、人間たちに宿った『スキル』。

 跡形も無く、消し尽くしてやる。


 たとえ、そのために人間の全てを根絶させることになったとしても。


 何度でも……




 逃げられると思うなよ――





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