第3話 2人目
なんで俺がこんな『能力』を持ってるのか。理由なんてどうでも良い。
肝心なのは、この能力のおかげで、俺は今、逃げることができてるってことだ。
今思い出してもムカつくぜ。俺は何も悪くねーのに、気がついたら檻の中だ。
仕事でエラそーに説教垂れてくるゴミ上司にムカついて、ぶん殴ってやったらクビになった。説教以上にムカついたから、責任取らせるために会社に火を点けてやった。
会社が全焼しちまうのを呆然と見てやがった上司に社長に元同僚どもの顔、傑作だったぜ。
もちろん、俺にそんな面倒なことをさせちまったゴミは後日、責任取らせるために有り金全部いただいてからぶち殺してやったが。
それからも日々、イラつく毎日だった。大した存在でもねーくせに、他でもねぇこの俺様を苛立たせる常識外のゴミども。説教垂れてくる頭のイカレたゴミども。
俺はソレ全部の処理をしてやっただけだ。当たり前だ。どんなゴミも、結局は人間が処理しなきゃならねぇ。他でもねぇ人間様を不快にさせるものならなお更だ。
なのに誰も処理しねぇ。だから俺が全部処理してやったんだ。俺をイラ立たせる常識外のゴミも。頭のイカレたゴミも。人間であるこの俺をムカつかせた以上、処理するしか仕方がねぇ。
もちろん、処理してやった分の見返りは、ゴミ自身からもらってやった。どいつもこいつも、人間のことを散々ムカつかせておいて、大した有り金持ってねーのがほとんどなのは余計にムカつく。マジ人間のこと嘗めんてじゃねーって話だ。
仕方ねーから足りねー時はソイツの家に行ってやった。で、小さいゴミも処理して、使えそーなゴミがあれば処理する前に使ってやって全部処理した後で、金品を全部貰ってやってからその家に火を点ける。
隣の家が燃えちまっても、それは人間を怒らせたゴミのせいだ。むしろ、そんなゴミの隣に住んでるヤツがイカレてるだけ……いいや、そいつらもゴミだっただけの話か。
もっとも、これだけ日々額に汗してゴミ処理してやったのに、人間を不快にさせるゴミはちっとも無くならねー。
そんなゴミばっか溢れてるせいで、俺はいつまでたっても定職に就けねーし、ゴミ処理を辞めたくても辞められねー。
ま、場合によっちゃあ、定職に就くよりも稼げるのが良いところではあるんだけどよー。
それでもよぉ……いい加減よぉ!
俺にフツーの生活させろよ!!
マジ人間のこと嘗めてんじゃねーぞゴミども!!!
俺はそんな当たり前なこと願ってるごくフツーの人間様なのに。
なのに気がついたらケーサツに捕まってた。
もちろん俺はキチンと、懇切丁寧に説明してやったさ。
ムカつくゴミがいたから処理しただけ。その代金をゴミ自身からもらってやっただけ。使えそうなゴミがあったから使ってやっただけ。後処理のために全部燃やしてやっただけ。
だっていうのに、どいつもこいつも、人間様である俺の話を無視しやがって、頭のイカレたヤベーやつ扱い。
で、わけの分からねー裁判に立たされた後で、気がついたら檻の中。
なんだってこの俺が……
人間様のこの俺様が……
この世にはゴミしかいねーじゃねーかー!!!?
そのことに、檻に入れられてから気づかされた。
道理で人間のジョーシキが通用しねーゴミしかいねーと思ったら。
この世にはゴミしかいなかったんだ。
マトモな人間は俺一人しかいねー。
だったらもう、全部処理するしかねーよなー……
そう決めてからは、檻の中でのゴミ処理の日々だった。
まず、同房に入れられたゴミからだ。いつもいつも鬱陶しく話しかけてきて、無視してやったら今度はあからさまに見てみぬフリ。
ボクはあなたに迷惑はかけません……
そうやって無害なフリしたゴミが一番タチがワリーんだ!
人間のこと、嘗めやがって~~~~~~~~~……
だから真っ先に処理してやった。
そしたら大騒ぎになりやがった。
意味が分からねー。俺はゴミ処理してやっただけだぞ? 同じゴミを処理しようとしねーテメーら役立たずのゴミどもの代わりによー!
そう思ったらまたムカついてきて、だから駆けつけてきた看守服着たゴミどもも全員、処理してやった。処理するのだって楽じゃねー。中にはやたら頑丈なゴミもある。ゴミの分際で反撃してくるゴミも。
それでも処理しなきゃ、こっちが汚れる。
だから来た全部、処理してやった。
後は当然、全部燃やしてやらねーと。
そう思って火を探してたら、また捕まった。
ゴミどもが!!
人間様をムカつかせるんじゃねー!!
触んじゃねー!!!
何度叫んでも、ゴミが人間の言葉を理解できるわけも無し。
結局そのまま捕まって、あれよあれよと、移動させられて――
で、気づいた時には、最初とは別の檻に連れてこられた。檻の中には俺一人しかいねぇ。オマケに、両手足は縛られて、これじゃあゴミ処理どころかケツも拭けやしねー。
なんでこうなったんだよ? おかしーだろ?
俺はただ、普通に生きたかっただけだぞ?
なのに、ゴミどもがゴミどもの分際で人間のこと嘗め腐った言動ばかりして、俺のことをムカつかせた。だから処理してやってたんじゃねーか。
なんなら、この世界に誰よりも貢献してたじゃねーか。感謝されこそすれ、何だって檻に閉じ込められなきゃなんねーんだ!
人間より数が多いってだけで、ゴミどもの分際で、人間のことを、頭がおかしーだの、イカレてるだの、キョージンだの、イジョーシャだのと。
ゴミどもにだけは言われたくねーんだよ!!
なに考えてんだゴミのくせに!!
人間のこと嘗めんのも大概にしろよ!!
ゴミクズどもがー!!!
絶対に逃げ出してやる……
ゴミどもが話してるのが聞こえた。俺のことを死刑にするとかしねーとか。
何だってこの人間様が、ゴミどものせいで殺されなきゃならねーんだ?
なに考えてんだよ!
おかしーだろ!!
わけ分かんねーんだよ!!!
必ず逃げ出す。で、ここにいるゴミども全員、処理してやる。ぶち殺してやる。
で、こんなゴミどもの集まった建物全部、中にいるゴミと一緒に燃やしてやる。
ほんとーなら、そういうのはゴミ処理業者の仕事なんだがなー!
やらねーゴミしかいねー世の中なんだから、この俺がやるしかねーものなー!!
そんなことをずっと考えてた。考えながら、何日も何か月も、ここに閉じ込められ続けた。
どれだけ長くいても、ムカつくばっかりだ。
人間がこーして苦しくてキュークツな思いしてる間に、この檻の外じゃあ、人間ヅラしたゴミどもが人間のフリして生きてるって考えると……
ちくしょう!!
ムカつくゴミ全部!!
握りつぶしてやりてー!!!
外からのザーザーうるせぇ音にさえイラつきながら、そう考えた時だった。両手足を包んで使えなくしてた硬ぇ布に、穴が開いた。
しかも、その穴を中心に、指で触ってる部分、全部が柔らかくなって形を変えたんだ。
おかげで布も取っ払って、手足を縛ってたベルトも簡単に外すことができた。
看守服きたゴミどもが来ねー時間だったおかげで、突然目覚めた『能力』を調べる時間があった。
何かを『握りたい』、『掴みたい』、そう強く思った時、物や、空気さえ掴むことができる、そういう能力。掴んだものは掴めるように柔らかくなって、形を変えることもできる。で、足でその力を使ったなら、掴めるように形を持った、空気の上に乗ることができちまう。要するに、見えない足場を作って、その上を歩くことができるってわけだ。
全部を理解した後は、すぐに行動した。
まず、誰も来ねーことを確認してから、壁に穴を掘った。で、出た先にある壁にも穴を掘って、その穴の先にある壁にも、穴を掘って……
それを繰り返してるうち、この建物の端っこまで来て、外に出ることができた。
外に出れば、後はただ、空を走って逃げるだけだ。
運がいーのか悪りーのか、ドシャ降りの雨が降ってるせいで、俺が堂々と空を奔ってても気づくヤツもいねーだろーしな。そもそも、人間が空を走ってる、なんて考えるヤツいねーか。ゴミならなお更だ。
まずはこのまま逃げる。で、必ずまた戻ってきてやる。
戻ってきたら、この俺様をムカつかせるしかしてこなかったゴミども全部、処理してやる。もちろん建物も全焼させる。
この力を上手く使えば、簡単にできるだろーよ。仮にまた捕まったとしても、この力があれば逃げるのは簡単だ。
分かったかゴミども!! 人間嘗めんなバーカ!!
ゴミはゴミらしく!! 人間様に大人しく処理されろ!!!
処理されるのがイヤならせめて!!
人間様キレさせるんじゃねー!!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
大雨の中でも楽しくなって、夢中で空を走ってた時、ソイツは目の前に現れた。
ドシャ降りの中、傘も差さねーで……
いや、それ以前に、俺は今、空の上に立ってる。で、青い服着た青い髪のその女も、俺と同じように、空の上に立ってた。
何者だ、コイツ……
何だお前……?
「リンユウ」
しゃべったのは一言だけだったが、何となく、名乗ったことだけは分かった。
もっとも、ゴミの名前なんかどーでもいい。
今目の前に、使えそーなゴミが立ってる。だったら使うだけだ。処理するのはその後でいい。
そう思って、近づこうとした時――
とっさに避けたが、気づいたら、ソイツはものすげー速さで通り過ぎた。
で、分かった。なにせ散々、ゴミの処理をしてきたんだ。ゴミの中には当然、ゴミの分際で反撃してこようとしたゴミもいる。
だから、この青いゴミが、ゴミの分際で、人間に攻撃したことも、理解した。
イカレてんのかテメー!!
ぶち殺してやる!!!
決めて、叫んで、走り出した。
青いゴミはドシャ降りの空の上を自由に飛び回ってる。俺は、空を蹴って、空を掴んで、必死に追いかけまわした。
ゴミにしては、かなりやる。疲れるゴミ相手の時はテキトーに逃げ出すところだが、どーせ逃がす気ねーんだろ?
それに、勝算ならある。てかむしろ、こっちのが明らか有利だ。
俺には、『能力』がある。触ることができれば俺の勝ちだ。で、ゴミも人間を殺すには、俺を触るしかねぇ。
空気を蹴る、走る、掴む、ぶら下がる、跳ぶ――
掴む、伸ばす、盾にする、剣に……ならねーのかよッ、使えねぇ!
とは言え、便利な能力だ。大量のゴミ処理には向かねーが、ゴミ一つの処理なら、工夫すりゃあ簡単にできる
……こうして!
こっちに飛んできた青いゴミが、まるで転んだみてーにバランスを崩した。
空気を引っ張っておいて、そいつを上手いこと足に引っ掛けてやったんだよ。ある程度の力がいるが、一度伸びたらネリケシみてーにどんどん伸びてくれたぜ。俺以外のヤツが、俺の触ってる空気に触れられるかどうかは賭けだったがな!
で、このまま顔を触っちまえば簡単に殺せるわけだが、殺したら使えなくなるからなぁ。
転ばせた時と同じように、空気を引っ張って、ゴミの顔に巻きつける。顔以外にもだ。
もちろん、ちゃんと使えるように、使う部分だけには巻きつけねぇようにする。まあ、必然的に腰から下だけだが。
見えねー空気に縛られて、じたばた暴れてる青いゴミ……
ゴミとしては上玉だ。処理するのが勿体ねーな。処理するのは止めて、一生使えるよう保管しておくのも――
縛られて潰れたゴミを眺めてたら、突然、ゴミの両手が広がった。
なんでだ? 俺は空気から手を離しちゃいねー。手足を放せば、せっかく伸ばした空気が元の空気に戻っちまうことくらい分かってる。
なのに、自由になった手と、使うために縛らずにいた足を広げて、青い目をこっちに向けて、こっちに向かって手を伸ばした時、突然、雨とは違う理由で顔が冷たくなって、息苦しくなって、目の前が……どころか、体全身、雨とは違う水に沈んで――
――コレ、ゴミじゃねーわ……
――人間でもねー……
まさか……カミ――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
記録的な大雨が上がった明くる日。
小さな孤島に建設された、凶悪犯、精神異常者と目された重刑務者たちが収監される特別刑務所が、島ごと津波に呑まれ消失したことを人間たちが知るのは、数日後のこと……




