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第1話   4人目

 僕がこの『力』に気づいたのは、先週のことだ。


 本土から離れた、小さな島の学校にある、中学3年の夏休み、より少し前。

 他の生徒たちが、単純に夏休みを前に浮かれていたり、しなきゃいけない受験勉強にげんなりしていたり、逆に燃えていたり。僕にとっては、期末テストも無事乗り越えた後、忙しくなる夏休みを前に、まだ学校を理由にノンビリできる、そんなころ。


 きっかけは、無意識に拳を握りしめた時だった。大して力を込めてもないし、握って何かしたかったわけでもない。本当に何の気なしに()()握った、それだけの拳の中に、何かを握りしめていた。

 何だと思って見てみたけど、何も無かった。

 指と勘違いしたのかな? その時は、そんなふうに思った。


 けどまた次の日も、同じことが起きた。今度はハッキリと、何かを握りしめていると実感できた。指どころじゃない、もっと大きな、形のあるものだ。

 そう思って拳を開いて見てみたのに、やっぱり何も無い。

 試しに拳を握ったり開いたりを繰り返した。すると、普通にただ握りしめた時と、何かを握った感覚が交互に起きた。何かを握ってるのに、手の上には何も無い。言葉にするなら、()()握ってる、としか言いようがない。

 そういう病気なのかな? 最初は、そう思った。とは言っても、それ以上に何かあるわけでもないし、この島に一つだけある診療所は、いつも人で混んでるし(ほとんどがお爺ちゃんとお婆ちゃん)。



 病気なら病気で、後から考えたらいいや。そう思うことにして、この際だから、この現象を色々と試すことにした。

 誰もいない山の中にポツン……とりあえず、()()握る時と握らない時があったから、はっきりと『握る』ということに意識してみた。すると、今度ははっきりしっかり、()()握ることができた。

 感触は、柔らかい工作粘土? みたいな。力を込めると形を変える。弾力はあるけど、元の形には戻らない。

 手を開いて確かめてみると、消えてなくなる。きっと空気に戻ったのかな? どっち道見えないけど……

 次にやったのは、握れる時と、握らない時。これは簡単だった。はっきり意識すると握ることができて、握りたくない、そもそも握ると意識せずにただ拳を握ると、普通に握らずにいられた。

 無意識に握ってしまう時はあるけど、まあ、それはそれで仕方がない。

 そう思いながら、また握りたいと思って握ってみた時……


 握るどころか、()()()。ボールどころじゃない。もっと大きなものを、僕の右手は掴んでいた。

 けどやっぱり見えない……いや、見えた。透明で見えづらいけど、よく見たら、掴んでる()()の形が、掴んでる形に変わっていた。

 左手も、そうしてみた。すると、左手も同じように、()()を掴んだ。

 掴んで引っ張ってみると、伸びそうだけど、結構固い……


 ……あれ? これ、()()、登れるんじゃね?


 そう思って、右手を離して、もっと上を、()()()()()。その右手で体を持ち上げて、左手で()()()()()。掴んだ部分は少し下がったけど、僕くらいの体重は支えられそうだ。

 そのまま引っ張ったら、体は持ち上がったけど……

 何度かやってるうちに、限界が来て落ちた。

 まあ僕自身、運動は嫌いではないけど、好きでもない。体力も腕力も年齢相応な人並み。だから腕だけで登るなんてできるわけがない。


 せめて足も使えたらなぁ……


 そう思いながらもう一度やってみた時、今度は足が掴んでいた……というより、もっと単純に、足が、()()の上に乗っていた。足の裏に、()()の板……というよりもっと柔らかい、クッション? そんな感じの感触が起きた。

 素手じゃなくて靴を履いていてもそうなるなんて、なんて便利な……

 じゃなくて、これはもう、『病気』で説明がつかない。そういう『力』だ。そうとしか説明できない。

 握った時と同じように、足でも『掴みたくない』と考えると、()()のクッションは消えた。地味に高かったせいで、降りた瞬間、中々痛かったけど……


 痛みに伏せて、近くの木に手を着いた時だった。

 多分また無意識に、『掴みたい』って思ったんだと思う。普通に手を着いただけだったつもりの木を、()()()

 見てみると、僕の指が、木に()()()()()

 よく漫画やアニメで、手や指が物や人を通り抜ける描写があるけど、通り抜けてるんじゃない。実際、かなり柔らかいけど、木を掴んでる感触がある。

 掴んだまま、引っ張ってみた。すると、その木の掴んだ部分がえぐれた。

 手を離した部分は普通の木の感触になってて、手に掴んだ木の一部も、意識しなくなった途端、普通の木の感触に戻ってた。


 その日はさすがに怖くなって、すぐに家に帰った。

 間違ってこの『力』が発動しないかな……そう心配しつつ普通に過ごしたけど、はっきり『掴みたい』とか、『乗りたい』って思わない限りは発動しない。どうやら、漫画とかでよくある、『能力に振り回される』展開は経験せずに済みそうで安心した。

 そういうの、大抵グダるし……




 土日だったこともあって、次の日も山の中に一人、ポツン……

 ちなみに、寝てる間に事故が起きないかも心配だったけど、大丈夫だったみたいだ。

 昨日のことを思い出しつつ、また色々と試してみた。

 色々と試して、分かったことをまとめてみると……


・『掴みたい』『乗りたい』そうはっきり意識した時発動する。

 まあ、だったら昨日、無意識で発動してた理由は分からないけど。

 多分、僕がこの『力』に気づくために必要なイベントだったということで……


・手の平、足の裏でだけ発動する。

 他の部分でも試してみたけど、ダメだった。

 理由は多分、指が有るか無いかが条件なんじゃないかな? 知らんけど……


・水や空気、木とか石を()()()()して、()()()ようにできる。足の裏なら乗れる。

 ちなみにそうやって()()()物は、手を離すか意識から離すかしたら元に戻るみたいだ。

 といっても、空気や水はともかく、昨日の木みたいに掴んで形が変わったものは、もう元には戻せないみたいだけど……


 これが、僕の『力』みたいだ。いわゆる『超能力』とか、古い言い方なら『神通力』とか。近年では『個性』や『術式』なんて呼ばれ方もされるアレだ。

 別に『力』でも構わないんだけど、なんとなく呼びづらい気がするし……

 今時の流行りにのっとって、『スキル』と呼ぶことにしよう。


 スキル……

 物や空気を無理やり掴める状態にする……

 無理やりの物理的な干渉……


 うん、決めた。

 僕の持つ『力』の名前。



 スキル『物理干渉』



 ……なんて、アレコレ夢のありそうなことを考えた後で、現実に戻った。

 実際、かなり便利なスキルだとは思う。中三の僕でも色々な使い道が思いつく。


 まず、玄関の鍵を落とした時。ドアを()()()引っ張って、穴を開ければ鍵を開けられる。

 穴は元に戻せないけど……


 同じように、銀行の金庫なんかも、穴を開けて中に入れる。

 手足だけで穴を開けるの大変そうだし、監視カメラにも映るし、逃げられないけど……


 不良相手にも、この力を使えば簡単に勝てる。

 勝つまで痛い目に逢うだろうし、使ったらグロ不可避だけど……


 後は、空を飛ぶことはできないけど、空や海の上を歩くことはできる。ちょっと体力があれば、この島から、本土まで歩いていくことだってできる。

 ただ、さっきも言った通り、このスキルが発動するのは手の平か足の裏だけ。背中やお尻や、それ以外の部分じゃ発動しない。つまり、疲れても空の上に座ったり、寝転がったり、そういうことはできない……

 厳密には、やろうと思えばできる。

 便所座りやヤンキー座りならできるし、後は、空気椅子。体を横にすることもできはする。手の平と足の裏以外は宙吊りの状態で……


 それでも上手いこと使いこなすことができれば、ハリウッド映画バリのアクションもできるとは思うけど、()()()は別に超人なわけじゃないし、そもそも、そんなことする機会も必要性も無いだろうからなぁ……


 と、このように、便利ではあるけど万能じゃない。使い道はたくさんありそうで、少なくとも僕が思いつく限り、これはっていう旨味は見当たらない。異能力物のお約束というヤツかな?



 大よそを理解した後も色々と試して、少なくとも、スキルが暴発する心配は無さそうだと判断した後は、戻る日常に思いを馳せた。




 本土から離れた小さな孤島。小中学校はあるけど、高校は無いから、高校進学を考える人たちはみんなこの島を出ていくことになる。船で通うこともできなくはないけど、特に観光名所があるわけでもないこの島に来る船の本数なんてタカが知れてる。少なくとも、学校が始まりそうな時間に間に合うような時間に往復できるフェリーは無い。

 定期船もそう。そもそも全部、荷物のための輸送船だし。

 だから、個人で船を持ってるってわけでもない家の子たちは、一人暮らしを始めるか、学生寮に入るってことになるわけだけど……


 それでも高校進学のためにこの島を出る子たちは多い。何なら、年々増えていってるって話だ。

 理由はまあ、色々あるんだろう。

 そういう時代だからと言ってしまえばそれまでだし、故郷を出てでもやりたいことや夢をはっきり持ってる人もいる。

 あとはまあ単純に、何もない田舎の島に嫌気が差したから、なんていうのもよく聞く。煩わしい親元を離れたいって声もそう。

 学生寮とかもそれはそれで煩わしいんじゃないかって思うけど……


 ただそんな時代と言えども、少数派の人間というものは必ずいるもので。

 他でもない、僕がその一人だ。

 中学卒業後、進学はしない。島も出ない。就職する。て言っても家業だけど。

 内容は、企業秘密ってことで。多分、説明したって分からないだろうし……


 勉強が嫌いなわけじゃない。高校や島の外に興味が無いわけでもない。ただ単純に、これと言ってやりたいと思えることも無い。

 まあさすがに、小さかったころは人並みに、宇宙飛行士になりたいとか、プロ野球選手になりたいとか、そういう可愛い夢をたくさん持ってた。ある程度成長した後も、なりたいと思った職業が無かったわけじゃない。

 けど、今は便利な時代だ。こんな小さな島でも、インターネットは使えるしスマホだってみんな持ってる。無い家もあるけど、僕の家にはパソコンもある。それらを使えば簡単に、その職業について調べられる。僕には絶対無理ってことも。


 なれるかどうかも分からない夢に生きるより、誰でもなれる仕事に就いて、稼げる程度に極める。それが勝ち組、というと大げさかな? まあ無難な人生だ。

 こう考える子は僕以外にもいる。こういうの、悟り世代っていうのかな? 知らんけど。


 ただまあ、誤解される前に言っておくと、そういう理由から家業を継ぐことにしたわけじゃない。

 確かに、両親がやってる仕事は僕でもできる仕事だ。小さいころから手伝ってきたしね。手伝いを強いられることもあったけど、基本的に僕の方から手伝ってた。

 子供じゃなくてもキツイと思うことは多いし、大儲けできるような仕事でもない。そんな仕事で僕のことを育ててくれた両親のことは、素直に感謝してるし、尊敬してる。

 そんな仕事でも、上手くいけば嬉しいし、楽しいと思える瞬間だってある。一生の仕事にできるほど誇れるかって聞かれると……


 当たり前だって、はっきり言える。

 だって、この仕事してる時の父さんと母さん、メチャメチャカッケェーんだもん!


 もちろん、家業を継ぐからには、この島からは出られないってことになる。手に職は付くだろうけど、マニアックすぎるし。

 けどさっき言った通り、今は便利な時代だ。

 確かにこの島には娯楽もほぼほぼ無いし、買い物で不便を感じる時もある。けど、スマホがあれば動画も見れるしゲームもできる。買い物だってできる。島だから届くまで時間が掛かるし送料は高くつくけど……


 人間関係も、特に不満に感じたことはない。両親は元より、ご近所さんやお得意さんとも上手くやってる。人見知りだったり対人が苦手な人には地獄かもしれない環境だけど、僕にとっては極楽だ。


 退屈な島かもしれない。けど平和で、とても優しい島だ。

 そんな大好きな島に住んで、好きな仕事をして生きる。これより幸せな人生は他に無いんじゃないかな? 知らんけど。

 そんな人生を送るために、夏休みには、仕事を今まで以上に本格的に習うことになってる。もちろん、宿題とか学校のことはちゃんとする前提ではあるけど、今まで以上に忙しくなるのは間違いない。

 卒業後は、もっと忙しくなるに決まってるから、それに向けての予行練習も兼ねてるんだろうな。


 不安もあるし、緊張もしてる。けど同じくらい、楽しみでもある。

 そんな日々が始まる前に、このスキルのことを調べる時間があったのはありがたかった。

 なんで僕にこんなスキルが身についたのかは分からないけど、特に興味も無い。ドラマや少年漫画が始まりそうな展開にワクワクするような段階でもない。

 特に生活や仕事に支障が出るわけでもなさそうだし、まあ間違って使いそうになる時はあるかもだけど、そうなってもきっと、最初と同じ、ちょっと空気を握りしめるくらいだろう。

 そんな持ってても仕方のない力で、どうこうしようだなんて考えない。仕事でも役に立ちそうにないし。

 まあ、いざという時は何かに使えるかも……

 そのくらいに考えて、僕は、僕の人生を生きたらいい。


 そう結論づけて、()()()()()()()海の上で、ちょうど沈んでいった夕日に背を向けて、家に帰っていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 なにがあった?


 なんでこうなった?


 家に帰って、宿題をして、母さんの作った夕飯を食べた後は、楽しみにしてたアニメの配信を見る。

 そんないつもの日常に戻るはずだったのに……


 帰ってきたら、家が、潰れてた。

 家と一緒になってる仕事場も、あまり広くは無いけど友達と遊んだこともある庭も、車も全部、ぺしゃんこに……

 なんなら、周りの家も。ここら一体が、吹き飛んでる。

 まるで、ちょうど僕の家に、何か大きな……

 隕石でも降ってきたみたいに……


 で、そんな潰れた家と一緒に転がってるもの。

 家と同じで潰れてたり、ねじ曲がってたり、少なくとも生きてるようには見えない、人、人、人――


 いつも笑ってたお隣さん、先週1歳になったばかりのお向かいの僕ちゃん――



 母さん、父さん――



 そんな、転がった人たちの中心。無くなった僕の家に立ってる、黒い服着た男。


 誰だよお前――


 誰なんだよお前は――




「ジョウコウ」




 それだけ聞こえた直後。

 ジョウコウ? は、僕の目の前に移動した。で、体を持ち上げて――

 景色が、傾いた。

 で、首の感覚が……


 あ、これ、折れて――



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ――島消失


 翌日の新聞、およびネットニュースその他で、そんな見出しの記事がゴマンと載せられた。

 そして、数日ばかり世間を騒がせた後は、やがて人々の記憶からも失せ、誰もがそれぞれの日常に戻っていった。





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