第六話 三人の影、重ならない輪郭
「凪、今日はおれも学校について行っていい?」
朝、玄関で湊が突飛なことを言い出しました。幽霊になってからの彼は、いつも家で私を待っていたのに。
「え、いいけど……誰にも見えないよ?」
「わかってる。放課後にでも屋上に行きたいんだ」
「え、急にどうしたの?」
「いいから。あいつ、たぶんあそこにいるからさ」
放課後。
湊に促されて辿り着いた屋上。フェンス越しに海を眺めていたのは、あの日以来、一言も交わしていない空くんでした。湊と空くん、そして私の三人で、よくこの場所で将来の夢を語り合った……そんな思い出が、鋭い痛みと共に蘇ります。
空くんは私の気配に気づくと、一瞬だけ目を見開きましたが、すぐに気まずそうに視線を逸らしました。
「……凪か。珍しいな、こんなとこに来るなんて」
「空くん……」
沈黙が流れます。湊は私の隣で、もどかしそうに空くんの顔を覗き込んでいました。 「あーあ、あいつも相変わらず暗い顔してんな。凪、ほら、なんか言えよ!」 湊の声に背中を押されるように、私は震える声で口を開きました。
「……空くん、あの、ずっと……謝りたかったの。あの日から、私、空くんのこと避けてたから」
「……謝る必要なんてねーよ。俺だって、お前に会うのが怖かっただけだ。あいつのことを思い出して、自分が壊れそうで……」
空くんの手が、ギュッとフェンスを握りしめました。その拳は、白くなるほど力が入っていました。湊はそれを見て、寂しそうに、でも愛おしそうに笑いました。
「……ねえ、空くん。湊なら、今そこに立って『湿っぽいのは無しだぜ』って笑ってると思うよ」
私の言葉に、空くんが驚いたように顔を上げ、そこから二人の対話が静かに始まりました。




