第四話 余計なお世話と、隠した本音
湊が戻ってきてから、私の毎日はすっかり彼中心に回り始めていました。 学校から帰れば「おかえり」という声がして、今日あった出来事を報告する。そんな、当たり前だったはずの幸せに、私はどっぷりと浸かっていたのです。
そんなある日の夕食後。私はいつものように、湊が座っている(はずの)椅子の向かいで、温かいココアを飲んでいました。
「……ねえ、凪」
湊が、どこか落ち着かない様子で、テーブルの木目を指先でなぞる仕草をしながら切り出しました。
「ん? 何?」
「……凪ってさ。その、新しい彼氏とか作らないの?」
一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。持っていたマグカップが、カタりと音を立てて揺れます。
「……え?」
「いや、ほら。おれ、こんな姿だしさ。凪だってまだ高校生なんだから、ずっと幽霊の元カレに縛られてるのもどうかなーって。もっと、ちゃんと触れるやつとか、一緒に飯食いに行けるやつとか……」
湊はわざとおどけたような口調で続けようとしましたが、私はそれを最後まで聞くことができませんでした。
「……湊。今、なんて言ったの?」
「だから、凪の将来を考えたら、新しい恋人くらい——」
「ふざけないで!!」
私が立ち上がると同時に、椅子がガタンと大きな音を立てて倒れました。私の怒鳴り声に、湊は目を見開いて固まります。
「何言ってるの!? やっと、やっと湊に会えたんだよ!? それなのに、他の誰かを作れなんて……よくそんな酷いこと言えるね!」
「凪、落ち着けって。おれはただ、お前の幸せを——」
「私の幸せは、湊がここにいることなの! 湊以外、いらないの!」
叫んだ後、視界が急に熱くなりました。ボロボロとこぼれ落ちる涙の向こうで、湊は今にも泣き出しそうな、それでいて酷く申し訳なさそうな顔で私を見つめていました。
「……ごめん。……そうだよな。ごめん、凪」
湊がそっと手を伸ばします。けれど、その手は私の頬を通り抜け、虚空を撫でるだけ。 いつもなら「幽霊だから仕方ない」と笑い飛ばせるはずのその現象が、今はどうしようもなく残酷な拒絶のように感じられて、私は声を上げて泣き崩れました。
湊の馬鹿。 自分の存在がどれだけ私を支えているか、これっぽっちも分かってない。
でも、泣きじゃくる私をただ見守る湊の輪郭が、ほんの一瞬、部屋の灯りに透けていつもより頼りなく見えたことに、私はまだ気づく余裕がありませんでした。




