第十五話:湊の還る場所
湊が光の中に消えてから、どのくらいの時間が経ったのでしょうか。 隣に座る空くんの震える呼気だけが、そこが「現実」であることを教えてくれていました。
湊が最後に私の耳元で囁いた言葉。 それは、愛の告白よりもずっと強く、私の魂を抱きしめるような言葉でした。
『——凪。これからは、お前の幸せが、おれの生きた証だ。愛してる』
「……湊のバカ」
私は溢れ出した涙を拭いもせず、空を見上げて呟きました。 あんな風に消えてしまったら、もう無理に笑う必要も、透ける足を心配する必要もありません。でも、胸にはぽっかりと、湊の形をした穴が開いてしまったようでした。
「凪……」
空くんが立ち上がり、私に手を差し伸べました。その目は赤く腫れていましたが、先ほどまでの絶望した色はありませんでした。
「……あいつ、笑ってたな。最期まで、お調子者の顔してさ」
「うん。……最低だよね、自分だけスッキリした顔で還っちゃって」
私は空くんの手を借りて立ち上がりました。足元に広がる海は、先ほどと変わらず穏やかに凪いでいます。湊はこの海の一部になり、そして、私たちの記憶という、決して消えない場所へ還っていったのです。
あれから数ヶ月が経ちました。 私と空くんは、今でも時々あの防波堤に行きます。湊はいませんが、潮風が吹くたびに、彼の「熱」が頬を掠めるような気がするのです。
私はもう、無理に笑うことはしません。泣きたい時は泣き、湊の悪口を空くんと言い合い、そうして少しずつ、自分の力で本当の笑顔を取り戻してきました。 ふと足元を見ると、そこには濃くはっきりとした私の影が伸びています。もう、光に溶けてしまう誰かを繋ぎ止めるために、自分の存在を削る必要はない。
「凪、行くぞ!」 先を歩く空くんが振り返ります。 「今行く!」 私は大きく息を吸い込み、青く煌めく海に向かって一度だけ深く会釈をしました。
湊、見ててね。 君がくれたこの「笑顔」で、私は明日も、その次の日も、ちゃんと生きていくから。
湊の還った海は、今日もどこまでも優しく、私たちの背中を見守るように凪いでいました。
これで、一応完結です!
と、思ったんですけど、短編のほうが完結っぽいかなーとかいろいろ考えてます…
なんとなく、最後がうまく書けなかった気がする…
一人称だったり、三人称だったり…
コメントでアドバイスをお願いします!




