第十二話 さよらなの輪郭
「宿題、か……」
空くんと別れた帰り道、私は隣を歩く湊に、それとなく視線を向けました。 湊は夜の街灯をすり抜けるように、軽やかな足取りで縁石の上を歩いています。その姿は一見、何の悩みもない少年のように見えますが、ふとした瞬間に見せる横顔が、どこか遠くの、私には届かない場所を見ているような気がしてなりませんでした。
「ねえ、湊。空くんが言ってたこと、本当なの?」
私の問いかけに、湊はぴょんと縁石から飛び降り、振り返って悪戯っぽく笑いました。
「空のやつ、深読みしすぎなんだよ。おれに宿題なんて似合わないだろ? 夏休みの宿題だって、いつも最終日に凪に泣きついて写させてもらってたし」
「それはそうだけど……」
湊は笑っている。でも、その瞳の奥には、何かを隠し通そうとする強い意志のようなものが、静かに、けれど確かに宿っているのを私は感じていました。
その翌日から、湊の様子が少しずつ変わり始めました。 家で二人きりでいる時、湊はよく、窓の外に広がる海をじっと眺めるようになりました。昔のように饒舌に喋り続けるのではなく、ただ静かに、潮の満ち引きを数えるかのように。
「湊? どうしたの?」
声をかけると、彼はハッとしたようにいつもの笑顔に戻ります。
「いや、なんでもない。……ただ、今日の海は一段と綺麗だなと思って」
その言葉が、まるで「記憶に焼き付けようとしている」かのように聞こえて、私の胸はギュッと締め付けられました。
ある日の放課後。図書室で空くんとテスト勉強をしていた時のことです。湊は私たちの間をふわふわと漂いながら、空くんの教科書に落書きをするふりをしたり、私の髪をいじったりして遊んでいました。 しかし、図書室の窓から差し込む西日が湊の体を貫いた瞬間、私は息を呑みました。
湊の足元が見えないほど、透けていたのです。
以前よりもずっと、光の粒子が細かく、不確かになっている。私は慌てて、湊にしか聞こえない声で囁きました。
「湊!足が… 」
湊は一瞬驚いた顔をしましたが、自分の足元を見て、すぐに私を安心させるように笑みを浮かべました。
「大丈夫、おれはここにいるよ」
「でも…」
「凪、笑って?」
すぐに湊の足は元に戻りましたが、私は気づいてしまったのです。湊が私に「笑って」と言うたびに、湊の表情には、一瞬だけ、ひどく悲しい色が混じることに。




