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凪の海に、湊は還る  作者: サワベリカ
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第十一話 三人の影、一人の予感

最近、ちょっと短すぎる?と思っていたので、今回は少し多めにしました!

こないだ、初めてコメントをいただきまして!とてもうれしく思っています!

コメントで、もうちょっとこうしたほうがいいよ。とか、ここがよかった。などを書いてもらえると、とっても嬉しいのでよろしくお願いします!

あと、ランキングに乗りました!ありがとうございます!やったー


湊が空中でふんぞり返るのを横目に、私はカバンを手に取りました。空くんがこちらに気づいて、少し照れくさそうに手を振る。 湊はもう、私の部屋に閉じこもるだけの幽霊ではありませんでした。


「凪、待たせたな。……あいつ、今日も隣にいるのか?」


空くんが歩み寄ってきて、私のすぐ右側の「空間」に視線を向けました。


「うん、バッチリいるよ。空くんの三倍はモテてたって、威張ってる」


「……はは、相変わらずだな。実際は、女子から手紙をもらっても『おれ、決めた奴がいるから』って全部断ってたくせに」


「お、おい空! 余計なこと言うんじゃねーよ!」


湊が顔を真っ赤にして(幽霊にそんな機能があるのかは不明ですが、私にはそう見えました)、空くんの周りをぐるぐると飛び回りながら必死に抗議します。


「……決めた奴、って?」


私が思わず聞き返すと、空くんはニヤリと意地悪く笑って、湊が今まさに浮いているであろう虚空を見据えました。


「さあな。あいつ、中等部の頃からずっと一人の名前しか口にしなかったから。なあ、湊?」


「あー! あー! 聞こえない! 凪、今の空の言葉は全部デタラメだ、忘れろ!」


湊が耳を塞ぐようにして私の周りをバタバタと飛び跳ねます。空くんには届かないその必死な叫びが、おかしくて、そして胸の奥をじんわりと熱くさせました。 空くんは湊がそこにいて騒いでいるのを確信しているように、ふっと優しく目を細めました。 見えないはずの存在を、心の音で感じ取っている。その光景が、私には何よりも尊いものに思えました。


私たちはそのまま、学校の近くにある小さなハンバーガーショップに寄ることにしました。 放課後の店内は学生たちで賑わい、ポテトの揚がる音と話し声が充満しています。


「凪、これ。あいつの分」


空くんがトレイの上に、余分に注文したポテトを一つ置きました。


「……空。お前、本当にいい奴だな」


湊は少しだけ照れくさそうに鼻をすすって、そのポテトを愛おしそうに覗き込んでいます。先ほどの暴露を引きずっているのか、心なしか私と目を合わせようとしません。


「空くん、湊が『お前、いい奴だな』って感激してるよ。……あと、さっきの話、あとで詳しく教えてね」


「おい凪! 蒸し返すな!」


「……ふん。あいつが消えないようにするための、保険だよ。あと、惚気のろけ話を聞かされる俺の身にもなれ」


空くんはぶっきらぼうにハンバーガーを頬張りましたが、湊と私のやり取りを想像しているのか、その表情はとても穏やかでした。


湊は食べることができないのに、私の隣の席に座って、流れるような食レポを始めました。 「いいか凪、そのチーズがとろけてる部分、そこが一番美味いんだ! あー、今の空の食べ方! ソースがこぼれそうでハラハラするぜ。ほら、ティッシュ取ってやれよ!」


「……もう、湊、うるさいよ」


私がつい独り言のように返すと、隣のテーブルの知らない生徒が不思議そうにこちらを見ましたが、今の私はそんな視線なんて少しも怖くありませんでした。


幸せでした。 湊が消えそうになったあの日の恐怖が嘘のように、私たちの時間は、あの日止まった場所からゆっくりと、でも確実に動き出している。


けれど、楽しい時間はあっという間に過ぎ、外はすっかり群青色の夜に包まれていました。 駅前の別れ際、空くんがふと立ち止まって、夜空を見上げました。


「……なぁ、凪。俺、最近思うんだ。……あいつが戻ってきたのって、本当に俺たちを救うためだけだったのかなって」


空くんの言葉に、湊がぴくりと肩を揺らしました。


「どういうこと?」


「いや……うまく言えないけどさ。あいつ、時々、すごく遠い目をして海を見てるだろ。俺たちには言えない『宿題』を、まだ持ってるんじゃないかって気がして……」


空くんの鋭い指摘に、私は湊の顔を盗み見ました。 湊は一瞬だけ、戸惑ったような顔をして視線を逸らしましたが、すぐにいつものお調子者の笑顔を作りました。


「考えすぎだって、空のやつ! おれの宿題は、凪を世界一幸せな笑顔にすること。それだけだよ!」


湊は私の頭を撫でる仕草をして笑いました。 でも、その手のひらが、夜風に吹かれた街灯の光に透けて、アスファルトに影を落としていないのを見てしまったとき、私の胸に再び、あの冷たい「さざ波」が立ち始めました。


「……そうだね。きっと、そうだよ」


私は、自分に言い聞めるように、精一杯の笑顔を作りました。 笑っていれば、彼は消えない。そう信じることが、今の私にできる唯一の抵抗だったのです。


街の灯りが三人の影(……あるいは二人の影と、一つの光)を長く伸ばし、静かに夜の中に溶けていきました。

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