第一話 雨の匂いと、嘘みたいな再会
しとしとと冷たい雨が降り続く、ある日の午後のことでした。 凪は、あの日からずっと、色を失った世界の中にいました。
中学生のときに付き合っていた、湊。 「大人になっても、ずっと一緒にいようね」 そう笑い合っていたはずの彼は、もう、この世界のどこにもいません。不慮の事故が、二人の時間を無情に奪い去っていきました。
「……湊の嘘つき」
誰もいない部屋で、凪は膝を抱えてポツリと呟きました。 視界が涙で歪み、机の上に置かれた彼との写真が滲んで見えます。 彼を失った喪失感は、鋭い刃物のように、今も彼女の心を削り続けていました。
「会いたいよ……。もう一度だけでいいから、声が聞きたい」
その瞬間でした。
「……ったく、凪は相変わらず泣き虫だなぁ」
背後から聞こえてきた、聞き覚えのあるやさしい声。 凪は心臓が跳ね上がるのを感じました。ゆっくりと、恐る恐る振り返ると、そこにはあの日と同じ、少しいたずらっぽく笑う湊が立っていました。
「湊……?」
「そうだよ。ほら、そんなに泣いてたら、せっかくの可愛い顔が台無しだよ」
照れもせずに、真っ直ぐな言葉を投げてくる彼。 でも、その姿はどこか淡く、背後の本棚が少しだけ透けて見えているようでした。
「な、なんで……? 湊は、もう……」
「わかんない。でも、凪の声が聞こえた気がして、気づいたらここにいたんだ」
湊は昔のように、凪の顔をじっと覗き込みました。 凪はたまらず彼に手を伸ばします。けれど、その指先は空しく彼の体を通り抜け、そこには冷たい空気の感触しか残りませんでした。
「……あ。そっか。おれ、幽霊になっちゃったんだな」
湊は少しだけ困ったように笑い、それから優しく微笑みました。
「でも、これでもう一度、凪の隣にいられるね」
凪は何度も、何度も頷きました。 幽霊の彼との、不思議で、切ない共同生活。 けれど、温もりを失った彼が、どうして今、私の前に戻ってきたのか。その本当の理由に、凪が気づくのはまだ先のことでした。




