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愛媛県立大洲高校、肱川をいう河川に囲まれた青春。

愛媛県にある城下町大洲。こので暮らす高校生たちが織りなす青春物語。

高校2年の7月。私が失踪した親から自立して川沿いの田舎町で暮らしていた頃の話です。

蝉の声が煩く団扇を片手に一人ぐらしをしていました。

偶然宝くじに当選した私は、その殆どを銀行へ預け、仲間たちと色々な場所へ行っては高校生活を謳歌して過ごしていました。宝くじが当たった事は当然内緒です。


「ハル、また勉強してるの。つまんないよ。遊びに行こうよ。」

電話が入りました。

「これ済ませたら。何処か行きたいね。」

「終わったら知らせて。退屈で死んじゃうよ。」

「連絡待ってるから絶対来てよ。」

「うん、わかった。」


私は参考書を閉じて二階の自室からリビングに降りると冷蔵庫から麦茶を出してエアコンを点けます。

「宿題終わった。何処に集合?」

「いつものコンビニ。」


私は、急いで着替えると自転車に乗ってコンビニへ向かいます。

コンビニエンスストアに到着すると、同級生の香織と結衣がいました。

「ねぇ、今度どこか行かない?」

「お金がかかんない所がいい。山とか海とか。」

「そう、そんな感じで。」


夏真っ只中で、太陽はギラギラと照りつけ、道路は照り返しで陽炎が揺らいでいました。

「まぁ、いいけど。小学校以来やってなかったし。」

「ハルってさ、勉強ばかりしててあたし達と遊んでくれないしさ。今年の夏は付き合ってよ。」


何が嬉しくてエアコンのない場所へ行かなきゃならないの?なんて思いましたが、これも学生ならではのお付き合いという訳です。

「じゃあ、まあ、少し離れた場所で、テントを貼ってサマーキャンプでもやる?」

「いいねぇ。ハルちん。ナイスアイディア。でもテントなんて持ってんの?こういうの全然興味なかったでしょ。」


香織はめがねを光らせ答えます。

「安いのが、ひとつあるから。4人くらいが泊まれるやつ。兄貴が買ってたので借りるよ。」

「じゃあ、決まりだ。」

結衣はそういうとシステム手帳を取り出した。

「いつがいいかなぁ。二人とも予定とか。」

「じゃあ、今度の土曜日と日曜日でいい?」


二人で即決すると。私の方を見ました。

…この二人、もう最初から仕組んで私を誘ったのね。


「で、夕食はカレーでいいんでしょ。普通に。」

「え、他にも欲しくない?焼肉とか。」

「まぁ、もう二人にお任せするから。」


いつもこの調子です。

「水鉄砲も持って行くから当然、水着も持って来なさい。撃ち合いで負けた方が神社で肝試しするから。」

一応、各自役割分担の大枠を決め、詳細はスマートフォンで連絡し合う事にしました。


ここ、愛媛県立大洲高等学校では、帰宅部メンバーの夏は伝統的に向日葵の水やり当番に従事するため、何かしらの部活動に従事している者が多く、私たち3人も文芸部、バスケットボール部、テニス部に所属している訳です。


「7月って、こんなに暑かったけ。」

私は、決壊した水害の思いを胸に、また不安な夏を過ごしています。

「あの二人。全く勉強する素振りがないけど、大丈夫かしら。」

私は帰宅した後、シャワーを浴びて物思いに耽っていました。


夏になると思い出すのが納涼花火大会です。八月初めに元カレと手を繋いで観た甘酸っぱい思いは、ただの酸っぱいだけの思い出に変わりました。

「お前ってさ、話つまんねーよ。そんな太宰治とか、夏目漱石とかの話しされてもさ。どうリアクションしていいかわかんないじゃん。」

とても大きな打ち上げ花火が咲く中、りんご飴とかき氷を露店で買った私。

帰り際、切れた鼻緒を直してくれた彼。そんなベタな夏は彼が芸能事務所にスカウトされ、東京へ行ったサヨナラと共に遠い記憶となったのです。


香織と結衣は落ち込む私を見かねて慰めてくれた恩人になりました。


「あれか。親友の香織、結衣はまだ私が傷心のままいると思っているのかなぁ。」

もう2年も経っているから、気を遣わなくても平気なのに。


ハル『もう平気だよ。落ち込んでいないから。』

私は二人にメールを送りました。

香織『何が?何かあった?』

結衣『急にどうした?腹減ったの?』

Re:『そうね。お腹がすいただけ。』


私は、花柄のワンピースに着替えると夕食の支度を始めました。

柔らかな空調の風が心地よくそよぎ夕焼けがキッチンを赤く染めます。

夕食を終え、私はサマーキャンプの準備を終えると、机に向い勉強を始めました。


翌日早朝、。私たちは、香織の父親の運転で、佐田岬半島の灯台にあるキャンプ場まで出かけました。

「みんな懐中電灯は忘れてないかね。あのキャンプ場は辺りに外灯がないから気をつけないといけないよ。」


休憩所付近でおやつを買って、お喋りをしながら外を眺めていると、瀬戸内海と宇和海が一望できます。途中でしらす丼で昼食を済ませました。


岬の駐車場に着くと香織のお父さんから色々と注意を受けます。

「変な人に声を掛けられても無視すること。後、沖へは行かないでなるべく近くで泳ぐこと。いいね。」

「お父さん、もう高校生なんだから判ってるって。」

「じゃあ、明日の夜に迎えにくるから。怪我に気をつけて。」


昔から崖の方は自殺の名所をして知られていますが、それは過去の話。私たちは反対側の安全な場所を選んでテントを貼ります。

ドーム型のテントを張ると、私たちは水着になり、ゴーグルをして海に潜りました。海の中は澄んでいて、視界も良く魚たちを観測する事ができます。足ひれを使い縦横無尽に泳いだ後は、水中に潜ったまま、空を見上げ楽しみました。


「そろそろ晩ご飯の準備をしようか?」

私たちは、ウインドブレーカーを羽織って、下ごしらえした野菜を入れて鍋に煮込み、飯盒でご飯を炊きます。

泳いだ後なので、みんなお腹ぺこぺこです。


「鍋にルーを入れたから、みんな後はこの焚き火台で濡れた身体を乾かして。」

他にもキャンプをしている人たちが居ましたが、家族連れがいらしたので安心して過ごしました。


「まだ、陽が高いね。これからどうする?」

「交代でカレーを混ぜながら遊んでみようよ。焦げちゃうと勿体ないし。」

「そうだね。枯れ木を追加して夕方までこの辺りを散歩して、それから。」

「それから?」

「夜にみんなで夜光虫を見ながら、外で食べよう。一度、ポリタンクにある水を使って身体に付いた潮を洗い流して。」

順調に、キャンプは進んでいました。


夜中、知らない一人の少女がテントに近づいてきます。

「あの、もし良かったら、一緒に居てもいいですか?」

「あれ、一人?ご両親は?」

「私、この近くに住んでいるので、家にいます。退屈なので、よくこの海岸に遊びに来るんです。」

「そうなの?慣れてるんだね。いいよ。お姉ちゃんたちと一緒にお喋りしよう。」

潮騒の中、私たちは少女の話を聞く事にしました。


「へぇ、学校までバスで通ってるの。大変だね。」

「うん。でもお友達や弟も一緒だし、慣れているから。」

「学校で、いじめとかないの?」

「あまり聞かないよ。」


私たちは出会った少女の話を聞いたり、私たちの学校での様子を話しながら時間を潰します。

「いいなぁ。私も早く高校生になりたいな。」

「もうすぐなれるよ。」

陽が沈みかけた頃。少女は家に帰りました。


私たちはカレーライスを食べた後、予定通り夜光虫を見て過ごします。

「あの子無事に帰ったかな?」

「地元の子供だから、平気なんじゃない?心配し過ぎだと思うよ。」

私たちは、テントに入り。気が付けば翌朝になっていました。泳ぎ疲れたせいかぐっすりと眠り、目が覚めたのです。

「あ、花火するの忘れて寝ちゃったね。」

香織はちょっと残念そうに言いました。

「いいじゃない。帰ってからでもできるしさ。」

「まぁ、そうだけど。」

「二人とも早いね。おはよう。」

結衣は、目を覚ますとまだ寝たりないと言った様子で起きてきました。

「昨日の女の子の話、結構面白かったよね。」


香織と結衣は顔を見合わせると私に問いかけます。

「誰…ハルちん何言ってるの?私たち三人だったよね。脅かさないでよ。」

私は、一瞬凍りつきました。

「ふたり共、何言ってんの。ほら昨日の…。」


「嘘〜っ。覚えてるわよ。あの子来たら、一緒に焼肉しよ。」

「もう、冗談やめてよ。」


「お姉ちゃんたち、こんにちは。」

昨日の女の子がまた、遊びにやってきました。

「今日はね、とっておきの持ってきたんだ。日本製鐵株式会社の株っ!」


荒波が止まった。まるで東映の様に。


「小学生あんた、何持ってんのっ。こんな時期に。」

「お小遣いで、試しに買ってみたんだ。不労所得者になるの。」

「若いうちにそういうのに手を出したら駄目、ちゃんと働きなさい。」

「だってお金持ちなら何でもできるし。」

「ダメ。勉強して女弁護士にでもなりな夢を持ってさ。」


「でもママ。」

「お姉ちゃんでしょ。」

「間違えちゃだめ。」

「お腹すいた。」

「これから、肉焼くから食べて行きなさい。用意するから。」

「ありがとう!」

こうしてバタバタを午前中が終わりました。私たちは、泳ぐ準備をします。


「どうする?一緒に泳ぐ?」

「うん。泳ぐ。」


持ってきた浮き輪とビーチボールを膨らませ。私たちは海へと入っていきます。


「脚を引っ張られないといいけど。」

結衣は、霊感があるのでたまに怖い事をつぶやきます。

「ほら、怖がっちゃうこと言わないの。泳げないじゃない。」

「でも…。」

ビーチと言うには、整備されておらず砂利混じりの海でしたが、何事もなく私たちは海を楽しむことができました。


「お姉ちゃんたち、ありがとう。また来年遊ぼうね。」

少女はお礼を言って帰って行きました。

「何か、楽しかったね。あの子泳ぎ上手かったし。」

私たち三人は、Tシャツにショートパンツに着替えると。キャンプ道具を片付けてました。香織は無事なことを伝えて、迎えの電話をしています。


「結衣、どうしたの。」

「ううん。後で話す。」

皆んなで何回かスマホで撮った写真を見て結衣は気落ちしていた様子。何となくその理由は判りましたが、結衣は慣れっこなので、私は関わらずやり過ごします。

夕日が沈む頃には車が到着したので、私たちは周辺のごみを拾って帰路につきました。


翌日私は心配になり、結衣に連絡をしました。

「様子変だったけど。写ってた?」

「まぁ。でも一応、念仏を唱えて供養したらスッキリしたから。」

「あ、やっぱり。大変だったね。」

「ううん、今回のは特に酷い怨念はなくて、楽しそうにしてたから一緒に写りたかっただけみたい。溺れたんだろうね。」

「若かったの?」

「私たちよりちょっと年下みたいだったな。可哀想に。」

「肝試しとか、言ってたけど大丈夫なの?」

「神社にお化けなんか出る訳ないででしょ。墓地だったらやんないけど。」

電話の向こうでの声は明るい結衣。この子は強い。霊能に悩まされた時期はもう過去の話でした。


今ではこの地域を守護する力を備え、沢山の経験を積み成長していたのです。

それはもう、県の依頼で小学校に出没するトイレの花子さんなど次々と倒し、戦没者の無念を残して彷徨っている亡者などが銃を構えて突進してきた時は、数珠で雷を落とす尼。「紫電改の結衣」という二つ名を持った女でした。

「さすが紫電改。」

「今度、それ言ったらハルでも許さないわよ。」

「すません。結衣さん。」

その時、急に私の家にだけ、黒々とした雷雲が立ち込め大量の雨が降りました。


「ハル。夏だから、ね。」

「そ、そうね。じゃ、また連絡する。」

『風そよぐ ならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける』

夕立の後の雨は焼けたアスファルトの打ち水となり、風をもたらしました。


午後になり私は河川敷まで向日葵を観に、自転車を使って走りました。

ここで、花を楽しむにはあの場所。五郎の赤橋になります。

暫くひまわり畑での中で遊んだ後、準備していた水筒でお茶を飲み、タオルで汗を拭き取りました。


私は近くにある高校の受験でお世話になった『宇都宮神社』へ伺い、前もって肝試しに使わせて頂く為、ご報告にあがりました。失礼のない様にと。

「ここって、あまりいい思い出ないんだよなぁ。でも祈ろう。」

私は、手を合わせてここ一年をご報告をするとそのまま去ろうとしました。

「ハル。久しぶりだね。」

「あ、叔父さん。」


「まだ、あの事故の事、気にしてるのかい?他人のことで気に病むのはもう良しなさい。」

「他人じゃないよ。大切な友人だった。」

「…。」

「お前は過去に拘り過ぎる。困ったな。」

叔父さんの言っている事は判るけど、当時の私は、そう簡単に気持ちが納得する程、大人ではありませんでした。

「ねぇ、叔父さんあの時私は言ったよね。しょうがないなんて片付けたフリしてもどうしようもない。あの件は、解決なんてこれっぽっちもしないまま大人たちは幕を下ろされた。やるせない。って。」

「…。でもなハル。それでも俺はお前が背負い込むべきではないんだぞ。」

「納得いかない話なんだって。」

「悲しい時間が過ぎるだけだ。もう元には戻れない。叔父さんはな、お前が心配なんだよ。」


今日は、蝉の声がやけに大きく聞こえます。


「もう、夏休みだろ。友達と楽しくやっているかい?」

「うん。皆んなのお陰で色々誘ってもらってる。」

「あぁ、それが良い。勉強時間を割いてでも、お前は友達との時間を大切に過ごしなさい。高校生の夏休みなんて二度と戻っては来ないんだから。」


遠くから甥の声が聞こえます。

「蝉、捕まえた!」

「おう。今行く!…じゃあな、ハル。もし何かあったら俺も力になってやるから。一人でどうにかしようなんて思っちゃダメだぞ。いいな。」

「うん。頼りにしてる。ありがとう。」

杜の木陰で太陽を避けながら、私はそこに座ってキラキラした木の葉を見つめました。

「今年も暑いなぁ。」


私は、一旦家に戻りました。

近所のコンビニでかき氷を買って。冷凍庫に詰め込みます。

「そうなんだけどね。叔父さん言ってる事は正しいんだけど…。」

私は、キッチンでパスタを作ってリビングのソファーで横になっていました。

「興醒めって訳じゃないけど。今日は元気でないな。」


私は中学時代のアルバムを取り出し眺め、そして香織に電話を掛けます。

「ねぇ、香織。今大丈夫?」

「あ、うん。どうした?」

電話に出た香織は、眠っていたらしい。

「…ハル?」

「あ、ごめん。」

「いいよ。何かあったんだね。」

「大した事ないけど。今日、叔父さんにばったり会ってね。」

「今から、ハルん家行くよ。15分で着くから待ってて。」


私は、頭が重かったので解熱剤をコップの水で流し込む。しばらくすると、香織がやって来ました。

「あ、今開けるから。」

「うん、大丈夫?ハル、珠代の事だろ。」

「何で判んの?」

「香織の洞察力をナメてはいかんよ。」

香織は眼鏡を上げると私の顔を見つめました。


ー 私たちは三年前までは4人組のグループだった。 ー


「しょうがないなぁ。何回でも聴いてやるよ。話してみな。」

私は、買って来たかき氷を香織に渡し。リビングへと向かいます。

珠代は当時、親の都合でこっちに転校して来た女の子。こんな田舎に転校して来たって事は、おそらく何かトラブルに巻き込まれたか、親の夜逃げ。

珍しくもない事情です。その辺り田舎の学生は、何となく察してしまうわけで、私たちは早々にメンバーに加えて、一緒に遊んでいた訳です。


「そうだったね。あの頃。懐かしいよね。ハルにも彼氏いたし。」

「え、何?唐突に。」

「私、あんたの叔父さんに頼まれてんのよ。」

「…。何を?」

「彼氏。この夏に。どうにかしてやってくれって。」

「いきなり何でそうなるのよ。」

「あんた、結構モテんだろ。そろそろ。」

「いやいやいや、無理無理無理。」


「こいつにさぁ、話聞いてみない?」

香織が、卒アルの男子の一人を指さしました。

「ダメだって。無理に決まってるでしょ。」

「そんな事言って。」


私は、真っ赤になっているのが自分でもわかります。

「香織っ。今年は、女子だけで遊ぶって言った。」

「遊ぶよぉ。でもハルはお年頃なんだから…。電話するっ。」

「やめて。」

「もっしも〜し。聡。今から来なさい。話あるから。そう。コンビニ前。」

「あんた、どういうつもりよ。」

「はい、着替えて。着替えて。」

「え、ちょっ。」

「いいから、いいから。」


そして、私としては。全く予想外だった。夏の恋愛ストーリーが幕を開けるのでした。

「さ、紹介してもらうよ。」

「えっ、私が選ぶの。」

「そりゃ、あんた。相性ってあんでしょ。」

「…。」

「ほら、その気になって来た。行くよ。行くよ。」

「…。」

「観念しろっ。アハハハ。」


聡生徒会長プロデユースinコンビニ前。

「すまんねぇ。聡。」

「どうしたの?ハルそんな格好して?何処かへ出かけるの?」

何も知らされてない、聡会長。私はもう、これがとんでもない唐突な計画だとその時知りました。

「香織。俺に何か用?」

「こいつに、男紹介してくれ。」

「えっ。」

仁王立ちしている香織。

「ハルだ。居んだろ、好きだって噂の男子の一人や二人。」

「まぁ、そりゃお前たち人気あるから。」

「タダとは、言わねえ。香織様が小遣いやるから。この銀貨でどうだ。」

「いや、別に要らんよ金貰って、男の紹介なんて生徒会そんな仕事してないし。」


「なぁ、お二人さん。夏休み、大洲高生の男子は何してると思う?」

「市内で何かしてそう。」

「いや。暑さを避け家か学校で部活。考える事なんて男女あんまり関係ないから。じゃ二人共、明日は生徒会室集合な。」


翌日、私たち三人は生徒会室に居ました。

「三人さん。お疲れ様。生徒会室へようこそ。」

「あ、はい。」


副会長、書記、会計など、生徒会全員お揃いでお待ちかねです。

「聡会長から、聴いたけど。暇なんだって?徒会室あるあるだから。気にしなくていいよ。今、飲み物出しますね〜。」

「あ、いえお構いなく。」

会計のるり先輩が手慣れた感じで歓迎ムードを演出します。


「実は、この生徒会では、こういったケースに対応すべく。高校生カップル対策データベースが存在しているのだよ。」

早速、書記のデータの照会です。


「要するに、既に付き合っている校内生徒を除外して。ハルさんと趣味が近くて話やすい話題や行動を探せばいいのよね。たぶん、この2グループだと。どうです会長。」

「どれどれ。あぁ、これなら大丈夫そうだな。お前たち三人のグループデータと照合して。」

「聡、何。私たちグルーピングされてんの?」

「当然、当然。纏めて三人とも入ってるよ。」

緊張する香織と結衣です。


「あ、ありました。彼女たちにはハードル高すぎない会長。」

「いや、この時期のバイトしてない男子高校生って暇だし。この程度なら一緒に居てもいいレベルだぞ。お付き合いなんて思わずに一緒に話してみたらどうだ?取り敢えず会ってみな。これなら話合いそうだから。」


「あ、生徒会の書記の瀬戸です。ごめんね急に。ちょっとだけ、生徒会に来てくれる。時間?あ、うん。じゃあ待ってる。」

「すぐ来れるそうですよ、聡会長。」

「あぁ。良かった。三人に言っとくけど、ここであった事は他言無用だぞ。」

「うん。」


「生徒会長さん。なんか用?」

「お前の友達。夏休み、何か楽しそうに遊んでるようだから。こいつら混ぜてやってくれない?」

「こんにちは。さっき電話した書記の瀬戸です。」

「あ、ども。えっと。」

「この生徒が香織さんです。あと、結衣さんにハルさん。」

「はじめまして。なぁ会長。何、この三人の女の子。」

「暇なので生徒会室に来た。ただそれだけ。お前リーダーだろ、野郎ばっかりで夏休み過ごしたって仕方ないだろ。はい、全員解散。」


「え、何だかよく分かんないけど、みんな空き教室で話してるから、三人とも夏休みつまんないなら、来なよ。俺らでいいなら話し相手くらいにはなれると思うから。」


「生徒会室、締めますよ。」

これから本格的に今年の夏の出会いがありそうな予感がします。



昨年、まだ入学したばかりの夏休みの出来事。


夏休みに学校へ行くなんてのは時々億劫になる事のありますが、友人や好きな人がいればそれは別の話です。

私は、一人、学校近くの駅のホームで小説を読んでいました。

「ねぇ、君。大洲高校の制服だよね。」

その男の子は私に話しかけてくれました。まだ背の伸びきっていない男子。

「話かけちゃダメだったかな、熱心に本読んでたから。」

彼の名前は秀一。秀一君は、そう云うとジュースを一本私に渡して話を続けます。

「俺、まだよく馴染んでなくてさ。五十崎(いかざき)から通っていて。」


当時の私はでも今までの友達と違って話を聞く側になっていました。何か友達を新しく作るのって大変だなって感じてるそんな時期に直面してなたんでいたのを覚えています。

「ハルさんだっけ。君は勉強得意?」


自信なんてないよ。だって授業のノート取っているだけで終わっちゃって、何にも頭に入らないっていうか、テストの成績も良くなくてさ。昔から要領悪くて。

「なんかお互い大変だよね。」そう私は、相手の話に合わせて話を続けました。

「そうなんだよな。必死で後から追いついて、また離されて。参考にハルさんのノート見せて貰っていい?」


「ノート?いいよ。これでいいかな。」

何か恥ずかしいな。女子のノートって大体こんな感じだよ。カラフルにする癖がついているだけ。

秀一君とは、駅でよくお話するようになりました。徐々にお話しする回数も増えていきましたが、入学したて特有の悩みを相談し合うその程度のお友達です。


私たち、二人は廊下で会ってもあまり目を合わせませんでした。お互いのルールというか。駅で話をするのが日課になっていて、学校での生活はこの駅とは別。そんな気がします。


いつも会っているので、顔馴染みの友達と出会う感覚。いつの間にかそうなってました。この頃は二人とも特別な感情なんてなく、「ただおしゃべりしたい。」お互いいないと何か寂しいかも。という気分的な約束です。私たちは夏休み期間は、月曜日と金曜日の週2日この駅で待ち合わせる約束をしたのです。


駅で秀一君と会って間も無く、私たちで話題になった事がありました。それは、私の様に本自体もう読む人たちが居なくなったと云う事です。

きっと、駅で秀一君が私に声をかけたきっかけも「小説を駅で読んでいる女の子の物珍さ」、なのかなと思います。


これまで、私が読んだ小説の名作で推薦するとすれば、太宰治「晩年」、宮沢賢治「春と修羅」、森鴎外「うたかたの記」、萩原朔太郎「月に吠える」、中原中也「作家と孤独」、国木田独歩「初恋」、三好達治「測量船」、佐藤惣之助「釣れない時」。お気に入りは「西田幾太郎全集」。授業が終わると大昔に古書店から買ってきたのであろう飴色に変色したページを貰っては読み耽り本棚に入れ、気がつけば、本の山が出来ていました。


「君、小説に興味あるなら、読んでみる?」と手元にある何冊かを秀一君に勧めたのですが、彼は、小説そのものには興味を示さず、この駅に座っている私に興味があったようです。それはそれで、女の子冥利に尽きると云うかちょっと嬉しくもあった訳です。


「私が好きな男性のタイプ?『沖田総司』。」私が、秀一君にそう話すと、

「じゃあさ。今度『池田屋』行こうよ。一緒に。」

と、おおよそ愛媛県民にしか判らない宇和島ネタで返してくれる。そんな優しいユーモアの持ち主です。


「じっとこの駅にいても、駅員さんに悪いかな。」

「大洲城で昔のライフル撃ちたいよね。」

「え、ハルさん撃ったことあるの?」

「大洲で、銃や刀を持ったこと無い人なんていないって。ふふっ。」

ちょっと大人っぽい、大洲の女性を演じてみたりしました。


そんな日常会話を週2回繰り返すうちに、駅に花火大会のポスターが貼られます。

「私が、秀一君を花火大会に誘ったら、来てくれる?」

「うん。行きたい。ここの花火有名だけど、行ったことないから。」

「じゃ、約束ね。」

これは、ただの友達同士の約束。


「今日は、ここまでで、帰ろうか?」

「ハルさん。俺、色々話せて楽しかった。もし週二回の駅でのおしゃべりがなかったら、僕は二学期の高校生活まで不安に過ごしてたと思う。」

「ちゃんと勉強してる?卒業したら目標に向かって行こうね。」

「お互い、前向きに。」

「そう。前向きにね。」


昨年、中学3年の時の花火大会で私は彼にフラれました。なので今年は花火を見るつもりなんてありませんでした。でも花火大会のポスターを見て私はこう思ったのです。秀一君に花火を楽しんでもらえれば、きっと私の心も昔の様に傷つく前に戻れるのではないか。


「カップルで出かける花火大会」そう言ったイメージが強くありそうですが、花火はそんなちっぽけなイベントではありません。大勢の家族連れ、ビジネスマン、夫婦、ご近所の皆さん、誰もがその魅力に心打たれます。


『たまたまに 小さき花火 あがりけり 夕涼み舟 今や出づらん』


まるで、この地域の花火を詠んだみたい。この人は何処で誰と花火を観たのでしょう。

そして、大洲の納涼花火大会は始まりました。

私を秀一君は、露天のりんご飴とたこ焼きを買って、河川敷に腰掛、何度も打ちあがる花火を見上げました。

「秀一君は、大洲の花火大会ははじめてなの?」

「はじめてです。盛大ですね。五十崎は山間部なので、大きな花火ってできないんですよ。これ程の規模だとは知りませんでした。」


浴衣姿で団扇を使い、虫を払いながら二人で夜空を見上げるとまるで夜空を覆うような大きな錦かむろが打ち上がります。

こうして、私たちの高校一年の夏が始まりました。


この地、大洲市は愛媛県では珍しく鵜飼いが盛んに行われ、肱川の河川敷に多くの屋形船が繋ぎ止められています。


「鵜川立ち取らさむ 鮎のしがはたは 我れにかき向け 思ひし思はば」


この歌の様に風情がありそうですが、実は、その。鵜の喉から出てくる魚の量が。

「ハルさん。そのお弁当美味しそうですね。」

秀一君の一言で私は窮地を脱することができました。

「秀一君のその言葉、一生忘れないわ。ありがとう。」


思い切って私は、相談してみる。

「ところで、秀一くん、私の友達に会ってみない?」

「えぇ、いいですよ。ハルさんのお友達なら。」

「香織と結衣なんだけど、結構個性的で面白くなると思うの。」

「どういうタイプのお友達なんですか?」

「そうね。すごく活発な子と、私より大人しい子。両方話しやすいから会話に入ってみると楽しいと思うの。」

「そうですか。是非お願いします。高校で知り合いが多くなると、二学期に学校が楽しくなるし。」


私は、あの二人なら秀一君とどんな話ができるだろうと想像して楽しくなった。

「今度会う時までに、いつがいいか相談しておくから、楽しみにしておいてね。」


大洲駅にはガラス製の風鈴が飾られ、カランと音がなっていました。

「また今度ね。」

「はい、ハルさん。また今度。」

私たちは、駅で別れて家に帰る事に。


『風になる 鈴のひびきは夏の夜 月まつ程の 友とこそなれ』


帰り道の土手沿いを歩くとマツムシが鳴いていました。


私はその夜、香織と結衣に連絡を取り、近くの古民家で甘い物でも食べながら話をしようという事にしました。


「ハル。そうか、男か。」

香織は、変な想像をしている様ですが、たぶん秀一くんと会えば判るでしょう放っておきました。


「結衣はどう?真言宗の法事で忙しい?」

「ううん。そっちは親がやるから。誰かが変な霊に取り憑かれない限り、出番ないと思うの。参加出来る筈。で、何処で話すの?」

「高校近くの古民家カフェ。」


そうして、約束の日。四人でカフェに集まりました。

「お待たせ、秀一くん連れて来たよ。」

「えっと、こっちが香織でこっちが結衣。地元中学の同級生で同じ大洲高校の二人よ。」

「初めまして、秀一です。」

「あ、君。同じクラスだよね。」

どうやら香織とは顔見知りだったらしく、私はほっとしました。カフェの中はとても涼しく快適でした。

「ねぇ、何注文する?」


私たちは一学期での学校での部活動や、教師たちの話題で盛り上がりました。

「結衣先生、何時ぞやはお救い頂きありがとうございます。今は元気にやっております。あれ以来、仏壇の線香を焚き供養をしております。」


店内がしんと静まります。秀一くんやってくれました。


「そう、結衣のお弟子さんだったの?」

「まぁ、お盆の得意先ってだけ。四国ではよくある事よ。」


その後、私たちは夏休み恒例の肝試しを計画する事になりました。今回の舞台は大洲神社。夜中に決行、神社の裏にある目印を持ち帰ること。高圧水鉄砲でカップル達を射抜く事は許可。怯んだ相手を簀巻きにして、肱川へ落とすってのも考案しました。


こういう、出来そうでやっちゃダメな事を話しちゃうのが女子高生です。

秀一くんは、高校球児を連れてくるとの事。内子高校小田分校との演習に我々、大洲高校が負けていい筈がありません。


「はぁ、私何考えているんだろう。高校にもなって、合戦気分で計画練るなんて。」


16歳の夏休みをどうやって楽しむか。それで頭が一杯になり勉強の事なんてそっちのけでした。


その夜、結衣から連絡がありました。

「ハル。あんたまた変なこと考えてないでしょうね。」

「バレた?」

「全然反省してないじゃない。あんたは普通に女子高生やってていいのよ。私みたいに変わり者扱いされなくていいんだから。普通に夢を思い描いて、恋に落ちて。私にできない『普通』の人生を歩め。夜更かししてないで寝なさい。」


また、友達に注意されてしまう。私は、部屋の電気を決して、おとなしく布団の中へ入って夢の中へ落ちて行ったのです。


空から大きな女性がパラシュートで降下してきました。大洲から自衛隊に入隊した女性です。今から夕刻までに特訓。肝試しけ何故特訓が必要かと云うと困りますが、訓練好きのメンバーが呼んだとしか考えられません。


「いいな、お前ら。大洲は戦場と化す、何があっても生還してくれ。私からは、以上。」

そして、去って行きました。


「誰よ、あの人呼んだの。あんな大荷物背負って、この後肝試しやっても無意味じゃない。あれ以上のおっかない化け物いないわよ。」


夜が更け、男女ペアになって大洲神社の奥にあったこよりを取って集合。何も無いまま肝試しは解散。印象に残ったのは、朝のお経とパラシュートで降りてきた女性自衛隊員でした。


「まぁ、男を手をつなげた女子もいるし、夏休み中に2〜3カップルができれば成功でしょ。」


私たちは家路に着き。何事もなくは無い肝試しに原因不明の憤りを感じつつ眠りについたのでした。


これがきっかけで、瀬田先輩と秀一くんがお付き合いを始めたそうです。


今朝になって、昨夜の夕立ちが彩雲を呼び虹が掛かりました。彼ら二人の祝福している様で、なんだか嬉しい反面、つくづく私は男運に縁が無いと思い始めたのです。


逆境になるであろう二人の恋を少し羨ましくもあり、乗り越えていけるだろう。という期待は数ヶ月後無残な終わり方をしますが、その話はしないでおこうと思います。


『むら雲の 絶え間の空に 虹たちて 時雨過ぎぬる をちの山の端』


思春期の恋がどの様な形であれ、一度で成就されるなどと云う事は僅少(きんしょう)と認めざるを得ない実態。ですが、恋は1100年前より歌として詠まれ続け今に至ります。

我々の世代は幾重の難問を突きつけられようとも恋する人物と出会いと別れを繰りし大人へと成長をすべきなのでしょう。


時として、残酷な死を遂げる友人が居たとしても、心の奥底にとどめながらその想いを胸の奥底に留め、纏わり付く不幸を時折思い出しては繰り返す。そして何くわぬ顔で平然と生きていくのだと私は気づき始めました。


「『荒ぶる季節の乙女たちよ』(講談社)」にも載っていない男同士の恋愛騒動がこの平和な大洲でおきて散ったのよね。」


唖然とした私。プシューっと口から魂が抜けていくかの様に呟きながらその夜を過ごしたのです。


瀬田先輩にはひとつ年下の弟くんがいます。陸上部の瀬田兄弟は有名で、私は弟くんとペアを組まされると云う事になりました。


「えっと、御免なさい。香織のせいで、変なことになっちゃって。」

「ハル、俺はいいんだけど。香織って何なの?男子生徒を親友の当てがうの趣味って事?」


「いやー、本当ゴメン。女子高生って、周囲をくっ付け合って遊ぶのよ。この年頃になると。」

「どう、考えたって俺とハルがカップルになる訳ないでしょうが。」

「あんた、言ったわね。私の水着姿を見て好きになる男子多いんだから。」

「いや、俺のプライドに掛けてそれは無いわ。だってお前のハルの胸、変わって無いじゃん。」

「あんたに何がわかんのよ。」

「判るよ、ハル80のA位だろ。」

「るっさいわね。宿題とっととやるわよ。」


冷やしたスイカを食べながら、物理の教科書を開き懸命にノートを開く私たち。そして全く勉強の出来ない要領の悪い瀬田弟くんを一方的に面倒をみる私。中学時代と全く変わらない高校一年の貴重な夏休みが過ぎていくのです。


学校に内緒で、原付免許を取得しました。

この大洲でずっと夏休みを過ごすことが退屈になった私は、預金を引き出し、赤いベスパを購入し、四国の名所を旅しようと計画します。


鞄に荷物を積み、出発すると最初に向かったのは「いよ下灘駅」。ここで食事を済ませ、そのまま、四国カルストへ。沢山の白い風車が並ぶ休憩所まで登るとソフトアイスを購入。キャンピングカーで旅をしているという家族連れにお会いする事ができました。

「あなた、一人で旅しているの?」


若い奥さんが私に尋ねます。

「はい。免許を取ったばかりで不安ですが、四国内なら平気だと思うので出かけちゃいました。」

「いい思い出になるわよ。きっと。」

「宿泊は?」

「テントを持ってきているので、平気です。」

「それにしてもすごい景色ね。ここって。」

「冬場は、凍結するので大変ですけど、夏場は、結構人気あるんですよ。」

「高知へ抜けるの?」

「ええ、一旦、桂浜を目指して降ろうと思います。」

「気をつけてね。急勾配だから。」

「ありがとう、ではこれで。」


国道440号を通り、梼原町(ゆすはらちょう)経由、国道197号線を下り桂浜へと到着です。ひろめ市場で食事を摂って、何処かテントが張れる場所を探しました。


「どこでもええき、街中はいかんが、おまんが好きなとこ建てんね。」

国道196号線の近くには綺麗な川が脇に流れているので、その側にテントを設営して一夜を過ごします。


夜になると、子だぬきであろう動物がテントを引っ掻いている様な音がしました。

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