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第二章 1

 目の前に、ぼう、っと薄暗い空間がそびえている。そこに堂々と並んでいたのは、青白い、巨大な柱たち。


 結芽はたまたま、その光景を一言で表現できた。


 言うなれば、それは地下神殿。


 ただ、その規模がすさまじい。


 薄暗いながらも、空間の広大さが嫌でも伝わってくる。闇が、どっしり奥に構えているというか……まるで、底なしの穴でものぞき込んでいるような気分にさせられるのだ。


 結芽はつい、その光景に見入っていた。ふと隣を見れば、あの少女も目を輝かせて辺りを見回している。


 そして、その柱が――いや、柱とは限らないのだから、柱のようなものと言うべきなんだろうか――、ともかくその柱のようなものが、太さも高さも普通の比ではない。パッと見る分には石造(いしづくり)の、まさしく塔。両手を拡げても、十人だって抱えるのに足りないくらいだ。


 それに、この地下神殿の高さ……天井が、本当にあるのかさえわからない。柱の途中から、闇の中に掻き消えて見えなくなっていた。


 ただ、はるかな頭上は、真っ暗というわけではなかった。薄暗いもやのようなものが、常に色を変えながら光っていた。緑や紫、黄、朱や藍……そんな鮮やかな色が、カーテンのようにふらふら揺れながら、幻想的に輝いている。


 天上の世界と言われてもうなずいてしまえるその光景を、結芽はしばらく、ぼーっと眺めていた。手の光を消すのも忘れて、立ち尽くす。


(私、来たんだ……)


 思わず、声に出してしまいそうになる。それを呑み込みながら、胸の内でつぶやいた。

(本当に来たんだ、異世界に……)


 遅まきに湧いてくる実感で、結芽は心が昂ぶるのを感じていた。

(これが、異世界か……)


「やけにリアルだなー」


 聞き慣れない声がして、結芽は勢い振り返った。そしてぎょっとした。


 ちょっと離れた柱のそばに、ぽっちゃりした男の人がいる……いや、もっとハッキリ言えば太った人。


「信じらんない」


 それも、かなりの肥満さん。そのぽっちゃりさんは、柱をじっくり眺めたかと思うと、指先でなぞったりする。


「作り物とは思えないや」


 けれど、ぎょっとしたのはぽっちゃりさんのことではなかった。


 ぽっちゃりさんのすぐ後ろにいた『それ』……その格好が、目を惹くものだった。


 それはいわば、宇宙服。いや、豆電球の方が近いかもしれない。


 白を基調とした、つなぎの服……作業着にも似ている。その首の上に、銀のヘルメットが乗っかっていた。


 その銀の輝きが、ヘルメットの中をうかがわせない。材質のせいだろうか、こちらの姿がぼんやりと映るだけだ。それでも、中には確かに人がいる。腕や足が、かすかに動いている。


 結芽はしばらく、じっと見つめた……だって、宇宙服だ。急に宇宙服と出会えば、誰だってきょとんとする。宇宙服にしては、服がスリム過ぎるけど。


 宇宙服もじっと、結芽を見つめていた。


 ああ……!


 結芽はすぐに納得した。


 なぜなら、自分も同じ服を着ているはずだから。


 ちらっと自分を見下ろすと、見た目には普通の服がある。


 ただ、その上に、同じ服を着ているはずなのだ。

(えっと……確か、どっかのボタンを押せば……)


 結芽の耳に、かつてきいた機械の音声が蘇る。



  その服は、非常に高性能にできています。

  多用途かつ、環境の変化に対する身体の保護……その上、極限までの軽量化を果たしています。見かけに反し、みなさまはその服を着ていない時と同じように動くことができるでしょう。着心地もまるで安眠ベッド。

  快適な異世界旅行を保証いたします! ええ、間違いなく!



 ……機械にしては、少々感情がこもり過ぎていたかもしれない。流石は産業革命の傑物、といったところだろうか。



  とはいえ、その見た目を気にする方も当然、いらっしゃることでしょう。何しろ「転生」するわけですから。新しい自分に好みの装いを……と考えるのは自然なことです。

  そんな方のために、襟のボタンを押せば透化するようになっているのです! まあ流石に、排泄の際は透化を中断していただいた方がよろしいかとは思いますが。

  ですが、それ以外の活動に関しては、元の服と同様の勝手でできますのでご安心ください。

  まさに、我々の自慢の防護服!



 確かに、自慢するだけのことはある。そういえば、結芽は転移する前に早々、透化のボタンを押したのだ……宇宙服さんと遭遇する今の今まで、すっかりこの服のことを忘れていた。それだけ、快適な着心地ということだ。


 例の少女もぽっちゃりさんも、結芽同様、透化のボタンを押していたんだろう。服はいたって普通のもの。少女は赤い艶のあるノースリーブ、ぽっちゃりさんは白いシャツを着ている。もちろん、ヘルメットなんか被っていない。



  そのヘルメットは、周りの空気中の成分が「人体に問題無し」と判明した段階で、自動的に開きます。

  しかし、ヘルメットを下ろした状態のままにすることも可能です。そうするには、襟のボタンを長く押してください。



 どうやら、宇宙服さんは起き上がってすぐ、自らヘルメットを下ろしたらしい。


 結芽がそんなことを考え巡らしていると、相変わらずぽっちゃりさんの声がする。


「信じらんない、ここが異世界なんて」


 ぽっちゃりさんはいかにも感心した様子で、まん丸とした指で柱をなでている。そこで結芽は気がついた。


 ぽっちゃりさんと宇宙服だけじゃない、同じ柱のそばに、ほかに何人もいる。


「ホント、やけにリアルだよなー……」


 すると、

「当たり前でしょ!」


 苛立った声が、柱の間に響き渡った。


「3Dゴーグル着けるのとは、わけが違うんだから」


 バットを振り回すような、荒々しい語気。結芽はビクッとして、顔を振り向けた。


 女の子だった。


 見るからに強気な、女の子。別の柱の前であぐらを掻いて座っている。


 どうやら同じ言葉を何度も聞いて、嫌気が差したらしい、彼女はただでさえ怒って見える顔をいっそう不機嫌に歪ませていた。


 いや、その眉のせいだろうか、強気に見えるのは。長い黒髪もサラサラで、ピンと張った眉さえなければ、清楚な印象さえ受ける綺麗な人なのだ。あるいは、かなり整った顔立ちなのが、かえってカミソリの冷徹さを思わせるのかもしれない。


 そのカミソリさんの言葉で、その場の空気が急に張り詰めたものになる。


 強く言われて、ぽっちゃりさんの身体(からだ)が跳ねた。その様がまるで、つつかれたウサギそっくり。


「それともなに? バーチャル世界にでも行くつもりだったわけ?」


 ぽっちゃりさんは、それから文字通り、柱のそばで縮こまっていた。


 その女の子は、ふん、と鼻を鳴らすと、手にしていた何かの機器に視線を落とした。


 よくよく見れば、彼女の仕草のところどころで、どこか幼さも残っている……厳しい印象とは裏腹に、案外、歳はそれほど高くないのかもしれない。例の少女と同じく、高校生か中学生か、それくらい。


 しばらく、口を開く人はいなかった。


(……ふう)

 ピリピリとした空気が、だんだん弛緩していく。結芽も思わず、安堵の息を漏らす。


 ただ、

(リアル、ね……)


 実のところ、ぽっちゃりさんの気持ちも、わからなくはない。


 たとえば、この臭い。清潔感が微妙に混じったような、乾いた臭いだ。


 それから遠くの方で、ざわざわした音がする。よく耳を澄ませば、どこからか、低くうなるような音もずっとしている。


 そして、このヒヤッとする空気……。


 つまり、まったく、感覚のリアルさが変わらないのだ。これまでの、あの世界と。


 カミソリさんの言う通り、当たり前と言えば、当たり前。


 けれど、実際にこうなってみるまで、どんな臭いがするかなんて、確かに想像してみることもなかった。



  これは、異世界へのリアルな旅なのです。



 また、機械の声が蘇る。



  これは、正真正銘、異世界へのリアルな旅なのです……。



 どうやら、結芽自身、いつの間にか『リアルな異世界』という像を、自分の中に作っていたらしい。


 臭いがして、音がして、確かな手触りがあって……それこそが、リアルな世界、リアルな現実のはずだ。そんなこと、片鱗だって頭に上ったことはなかった。


 それに――。

(リアルな現実、か……)


 結芽は、今し方目にしたある姿形を思い出して、もうひとつのリアルな現実に打ちのめされていた。


 宇宙服さんのヘルメットに映った、自分の輪郭。


 ぼんやりとしたものではあったけれど、おそらく、間違いない。その影絵は、自分のもの……それも、今まで同じ時間を共有してきた自分のものだ。

(………………)


 その姿が脳裏に蘇ってきて、結芽は少なからず落胆した。

(あーあ……)


 確かに、結芽たちは異世界へ来たらしい。それも、以前の身体(からだ)をちゃっかり引き連れて。

(せっかく異世界に来たのに。身体(からだ)は、そのまんまなんて……)


 まあそれは、ぽっちゃりさんを見た時に、薄々わかっていたこと……。けれど、この世界へ来る前に受けた説明を思えば、落胆のひとつもしようというものだ。


 結芽がため息をつきそうになる。その時、

「それで、どうするの?」


 その声の高さ、幼さに、結芽は驚いた。


 声のした方を見て、さらに驚いた。


 小学生の高学年か、せいぜい中学生くらいの女の子がふたり――いや、もっと下の学年かもしれない――その年齢の子がふたりもこの世界に来ている、というだけでも驚きなのだけど、その上、ふたつの顔がそっくりだった。


 どうやら、双子ちゃんらしい。その一方が、

「探検、行くんじゃないの?」


 もう一方も、

「さっき話してたでしょ?」


 同一人物かと思うくらいの、そっくりな声。


「どんな世界かわかんないから、探検に行くって」


「ねえ、行こうよ、早く!」 


 その四つの瞳がキラキラ輝いていて、結芽にはちょっと、眩しすぎるくらいだった。



 その場の人数を素早く数えると、結芽と例の少女を合わせて、十三人……ほかにいたのは、ぽっちゃりさんがもうひとりと、それなりに幼く見える男の子。三十くらいの細い男の人、中年の男性、それから例の少女とは赴きの違う綺麗な女の子。金と茶、黒の色が絶妙に混ざった髪を持っていて、空色の瞳の子だ。中学生か高校生くらいに見える。それと……。


「それじゃあ、ふたりもそう言ってることだし――ふーちゃんとなっちゃんだっけね――続きを再開したいんだけど……」


 そう、このいかにもな好青年感を出した男の人。立ち上がって、笑みを浮かべている。


 歳は、二十半ばを過ぎた頃だろうか。ただ、緊張しているのか、頬がちょっとこわばっている。よく見れば、その笑みも無理に作ったものらしい。


「そちらさんの光を見かけて中断していた、話し合いの続きだよ。つまり、これからどうするべきか、っていうことなんだけどね」


 その視線がちらっと自分に、正確には自分の手の中に注がれて、結芽は恥ずかしくなってうつむいた。慌てて、光を消す。光をつけっぱなしにしていたことを忘れていたのだ。


 その言い出しっぺさんに勢いよく応えたのは、初めの方のぽっちゃりさん。

「探検もいいけど……当然、まずはモンスター狩りでしょ!」


 盛大なため息が弾けた。

「だーかーらー、これはリアルなんだって」


 今度は、ぽっちゃりさんも譲らない。

「モンスター狩りがないなんて異世界じゃないよ。それからレベルアップ……探検するにも、まずは強くならないとだし」


 彼は自信たっぷりに言い放つと、ぷっくらした腰に下がった、銀の筒を取り上げる。ちょうど手に収まるくらいのサイズだ。


 そんな小さな筒が、次の瞬間には長い棒になっていた。

「せっかく、こんな武器もあるんだし」


 まばたきする間に、今度は(つるぎ)に変わる。いわゆる、長剣のようなものだ。


 あっという間の変化に、結芽が目を見張る。再び、頭の中で機械の音声が蘇ってきた。



  この装備は、みなさまの意図に沿って、その形状を変化させます。



 確か、結芽たちをこの世界に移転させたのと同様の技術が使われている、という話。

(私たちの意図は、服が汲み取ってるんだったっけかな……?)


 結芽がかつての説明を思い出していると、

「せっかく異世界に来たんだから、この武器、思いっきり振り回さなくちゃ」


 ぽっちゃりさんは今にも、この場で凶器を振り回しかねない勢いだった。


 すると、

「あんた、本当にバカなの?」


 カミソリさんの(ほむら)が爆発した。

「ど・こ・に・レベルの表示があるわけよ」


 眉がさっきよりもいっそう、尖っている。黒い瞳は、冷たく、同時に怒りの熱をたたえて、光っていた。


「もしかして目、ついてないの? それともあんたの視界の隅にだけ、ヘンテコな機能でも付いてんの?」


「でも……身体(からだ)とか、新しいものになる可能性があるって、説明で……」


「そりゃそうでしょ!」カミソリさんは叫んだ。「解体して再構成するんだから。でもあくまで可能性、元の通りに再構成する可能性だってあるに決まってるじゃん。それなのにレベルアップ? ふん! そこの柱殴って、拳でも鍛えてれば?」


 カミソリさんはアゴで、ぽっちゃりさんのすぐそばの柱を示した。

「そしたら、ちょっとくらいはレベルアップするんじゃないの……腕の筋力とか、拳の皮膚がね!」


 またしても、ぽっちゃりさんはしゅんとする。

「……そりゃ、ボクだって……でも、別に、いいでしょ……それが夢だったんだから……せっかく、異世界に来たんだし、もしかしたら……」


「うっさい、黙れ」

 カミソリさんはにべもない。


「ホント、頭お花畑もいい加減にしてよ。どうせそのお花畑で、可愛いミツバチさんがぶんぶん飛んでるんだろうけど。ハチミツでも運んで、ぶんぶんね!」


 そんな調子で、いつまでもカミソリさんが続けそうだったからか、言い出しっぺさんが割り込んだ。

「まあまあ、アーツ君の言ってるレベルアップはともかく……まあ、絶対ないとは、言い切れないしね。なにしろ、この世界の法則は何もわかってない――」


 カミソリさんに睨まれて、言い出しっぺさんはごほん、と咳をした。

「――ともあれ、ひとまず、カッコに置いとくとしよう。ミホ君は気に食わないようだし。じゃあ、どうするかさ」


 それに答えたのは、一見、普通の中年男性さん。

「俺は、カランさん、さっきあんたが出した方向で、悪くはないと思うがね……」


 中年さんは、カミソリさん、もといミホとは別の柱の陰で座ったまま、

「それぞれしたいことはあるだろうが、ひとまずは、俺たちみんなに必要なものを探す――水に食糧、それから、安全に寝泊まりできるところ……ほか諸々だ」


 一見したところの中年さんは、よく見ても、やっぱり普通の人。

「ひとまず生きていけそうなら、そのふたりの子たちが言ったように、この世界の探検なりなんなりすればいい」


 結芽の父親より少し若い……くらいだろうか。短い髪がちょんちょんと尖っている。

「シモムラ君はそう言ってくれてるけど……どうかな?」


 カランはぐるりと一同を見渡して言った。それから、結芽たちの方を向いて、

「新しく来た君たちも、どうだい? 見ての通り、ボクらも、ここに辿り着いてそんなに時間は経ってなくてね。簡単に自己紹介を済ませたくらいなんだ」


 すぐさま、ミホが言葉を挟んだ。

「年齢は、ナシね」


 依然として、ちょっと怒ったような声。まあ、それが素なのかもしれない。

「せっかくあの世界から離れてきたのに、こっちの世界でも上下関係とか、アホらしいから。べつに必要ない情報だし」


「同じ理由で、名前も本名じゃなくていい……ということだそうだ」

 中年さん、改め、シモムラが付け足すと、ミホは突き放したように、


「だって、本名だって、親とかいうのに勝手に付けられたもんじゃん。うち、ミホ」


 ミホは、結芽と例の少女の方を交互に見つめた。


 結芽も名乗ろうと前屈みになる。けれど先を越されてしまった。


「わたし、ジュミ」


 例の少女は、さらりと言った――結芽はちょっと意外に思った。結芽にはあれほど協力的じゃなかったのに、やけにあっさりと名乗ったから。


(ジュミ、か……)


 結芽は我知らず、その名前をなぞっていた。視線が自分に集まっているのに気づくと、その名を喉の奥に呑み込んで、口を開いた。


「私、ユ……」


 思わず、かつての世界での名前を名乗りそうになる。


「……ユ、ネ。私、ユネ」


 口に出してから、思った。


(そう、私は、ユネなんだ……)


 自分の手のひらをちらっと見る。


(だって、この世界に新しく生まれ変わったんだから。名前も、新しくなるべきだよね)


 ユネは、ユネであることがとてもしっくりきて、うなずいた。


「ほら、君も……」


 続いてカランが促した相手の方を、ユネはちらっとだけ見て、すぐに全力で振り向いた。


 みんなから少し離れた、陰になった場所だ……そのせいですぐに顔がわからなくて、カランは声をかけたんだろう。ヘルメットを被っていると思って。けれど、そうではなかったのだ。


 なにしろ、その人は、さっき数えた十三人の中にはいなかった、十四人目。


 いや、それどころか……。


「ひ、ひとじゃない……!」


 アーツが、怯えたような声で叫ぶ。周りから、息を呑む音がする。


 そう……それは、人ではなかった。いや、正確には、人かどうかわからなかった。


 姿形は、人とよく似ていた。


 背丈はユネたちと大差はなく、腕らしきものが二本、足らしきものも二本ある。そして、胴体には頭らしきものが乗っかっている。


 ただ、その全身が、真っ黒で、ところどころが尖っていて、ゴツゴツしていて、そして妙にぼけている。寝起きで目に膜がかかったような状態というか、見え方がそんな風なのだ。


 顔も、そう……目はあるのかないのか、はっきりしない。口はある、らしい。ただ顔全体が固そうで、滑らかな鎧のようなものに覆われていて、細部もよくわからない。


 そして、その片方の腕に垂れ下がっているのは……ノコギリのいちいちを巨大化したような凶器。


 見た目の印象は、怪物と言われてもうなずいてしまえる姿だ。


 その怪物は後ろを振り返ると、


「&%ぴ#%<~~!!」


 ユネには判別不可能な言葉らしきものを発した。


「もしかして、仲間に何かを呼びかけてる?」


 ジュミが緑の瞳を細めて言う。ミホは立ち上がり、カランは腰に差した銀の筒に、手を当てた。


「モンスターだ……!」


 アーツが叫んだ。


「ちょうどいい機会だ! この武器の力、思い知らせてやる!」


「待って!」


 ジュミが叫ぶ。


 しかし、その制止も聞かず、アーツは(つるぎ)を掲げながら怪物に突っ込んでいく。狂気に駆られたように、何事かを叫んでいる。


 怪物は、ドタドタ走ってくるアーツを振り返ると、たじろいだ様子を見せた。それで活気づいたのか、アーツはいっそう声を張り上げた。その掲げた右腕が、ぽとりと落ちた。

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