第一章 2
結芽はつい、見入っていた。
少女は少女でも、びっくりするほど可愛くて、綺麗な少女なのだ。結芽のほっぺが、火を灯されたように赤くなる。
ライチの実に桃色を付けると、絶妙になまめかしく見える。
まさにそれだった、少女の唇は。
淡いピンク色。その表面で、うすく艶が光っている……まるで、桃色のニスを塗ったみたい。すっ、と引かれた綺麗な眉。
なにより、そのなめらかな褐色の肌……これほど自然に、鮮やかに見える肌を、結芽は見たことがなかった。緑の混じった彼女の黒髪とも、優雅に融け合っている。その瞳は、髪の色と同じ、緑がかった黒。
そんな少女が、腰を屈めたまま両手を地面について、光に驚いている。妙に呆けた顔。歳は、中学生か、はたまた高校生くらいだろうか。
少女の視線が、結芽を認める。すると少女はハッと気づいた顔をして、周囲に鋭く視線を振り向けた。すぐに、ホッとした表情になる。
短い間にコロコロ表情が変わって、見ていてちょっと面白い……しかも、そのどれもがつい見とれてしまうほど、整ったものなのだ。
顔を上げた少女は怒ったように、髪と同じ色の眉を尖らせていた。
「ちょっと! あなた、なに考えてるのよ!」
それはいわば、激しい、ささやき声だった。
「危ないとか、考えなかったわけ? 光をつけるなんて!」
あくまで無声音。そこに、押し殺した感情が乗っかっていた。
急に怒りを向けられて、結芽はたじろいだ。結芽もつられて、ささやき声になる。
「だって……そのままの方が、危ないでしょ。何かいるとは思ったし」
その『何か』とはどうも、この少女のことだったらしいけど。
「それに、光がないと、わかんないし……危ないかどうかも」
「ねえ、いい? よく考えてみなさいよ」
少女は呆れたようにため息をついた。
「わたしたちは眠っていたのよ? この暗闇で。襲う機会なら、いくらでもあったはずだわ。だったら光をつけたりなんかしたら、逆に襲われるかも、って考えるのが普通でしょ。光に集まってくるものがいるかもしれないし、光に驚いて突っ込んでくるかもしれないんだから!」
言われてみると、なるほど、と思う。
「だから、じっと様子を探ってたのに……もう! ホント、信じられない!」
なるほど、とは思うけれど……、少しむっ、としながら結芽は言った。
「そうかもしれないけど……でも、そこまで言わなくてもいいでしょ。だって、結果的にこうして無事だったんだから」
「まだわからないわ」
少女は素早く答えた。結芽はどきりとした。少女の緑の瞳が、鋭く光って辺りをうかがっていたからだ。
「だってまだ、何かに……誰かに、見られてる感じがするんだもの」