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陽炎のおもかげ

作者: なと


夏の混入した豆腐はサイダー味

氷屋の暖簾が納屋の中で

おおいおおいと呼び

黒電話はジリリと鳴って家主を起し

秋の深い穴へ突き落そうとするし

使わなくなった箒はつむじ風を起こして

より一層辺りを秋を深めてゆく

朝は悪夢に疲れた人のラビリンス

壊れた玩具が笑ってゐる


夏はまだ柱時計の裏に潜んでいる

秘めやかに櫻の花弁を小匣につめて

あの古い呪文を唱えて川に流す

月の旅、夜は寂しい人たちのためにあるから

呪いのように琥珀の入った壜を一飲みにして

いっそ殺してと恐ろしい顔をして月の狂気は

静かな枕の下に好きな人の寫眞を

此の世に居場所のない人だから






雨の匂い空の匂い、冬の匂いは冷たい風

言葉尻に匂うあの日の面影夕暮れの香り思い出す瞳、囁き

古き町をさ迷い歩きあの日の想いあの日の涙

人生とは複雑怪奇なラビリンスの小道

秘宝館に紛れし人生の片隅、想いの欠片、あの日は生きていますか

海辺にて銀河を拾いバケツの中でそっと培養する





旅をする人生ついて考えるその一時のまぼろし

儚きさだめと水槽の中を金魚をくわえ真っ赤な口紅

満ちてゆく満月になるにつれ

砂時計を逆さまに変えても変わらぬ地球の自転

青い季節を想って夏を産むこの穢れし最後の躰は

寂し気な夜想曲は枯野を覆うススキの声を聞いたか

えにしを求めてあの夜行列車は





闇を見て其処には何もいないよと生後間もない甥っ子のまなざし

カーテンコールは雨でした失恋した夜の世迷言

静かに息を引き取って行くように首を絞められる赤い糸で

靴の底に夜が張りついていても私は今宵も夜を歩く

遠い街に旅をして人生とは何かを問いても答えぬ地蔵かな

迷い坂下りも上りも人生か





一呼吸置いて階段を踏むとかげが闇に身を潜め秋

あの人もあの人も今はもういない静かに人生が老けゆく

冬の匂いあの家からも白熱球の灯りがオレンジ色の夕暮れのように

母の居ない家は内緒の旅をしているみたい布団の舟に乘って

音楽室のピアノが独りでに鳴りだしても気にしない昭和のオカルト





秋の風がコトコトと燐寸匣を揺らす頃

夜は遠くの都で旅人を待っている

戯れに祖母の遺品を身にまとい

雨の中踊っている嗤いながら泣きながら

前世は赤い西陣織の中で秘かに人魚になる夢を見る

暗い夜道に燈篭灯る頃

町は風呂の匂いに包まれて秋の凩

庭の骨を掘った処であなたは人魚には成れないと秋風







夏の木漏れ日が秘密という戀に引火して

そっと仏壇で眠る陽炎もあるというもの

えにしとたにし秘かに川床へ眠り

金魚に生まれ変わってゆめうつつ

枕の底に夜眠るひとつの銀河系を抱きし枕よ明日へ向かうか

気が付けば仏壇に位牌を持って泣きぬ白粉の女

過去からやってきたと秋風が硝子戸を揺らし







夏はいますか久遠のとこしへ

小さなわらべ歌の聞こえる部屋に行ったら仏壇あり

入道雲は夕立を連れてきて

夏の終わりにお祭りの夜店で入道雲は売られている

春は夏に恋をして秋は冬に眠る

旅人の浸かるお風呂のお湯には

秘かに番台の婆がタニシやえにしを薪でくべ

えにしは幻か本当か

夜に溶ける







懐かしい街に赤い紐が揺れる赤という呪いに罹り

お祭りの金魚そっと川に返し人魚になって戻ってくるんだよ

布団の中に不幸症は眠り幸せな人の枕をかじる

眠りの國春の頃は家の前の彼岸桜に嫉妬して

こうして燃やして仕舞いました今では仏壇の中

暗い世代は神社で線香花火

やがて美しい鬼になる赤になる






懐かしい街に不幸症というなの大きな穴

押入れの中は昭和の闇ひそみ、遠くの町まで続いている

夕暮れの鏡で合わせ鏡をすると過去へ行けるという

赤に呪われた世代は神社の狛犬の唇に口紅を塗りたり

鳥居の前で赤いドレスを着て雨に濡れて舞います懐かしい子守歌に乗せて

広い海に猛毒を一筋夢という






春の匂いは死臭の香り

彼岸桜の花弁で埋め尽くされた部屋

透明の風ふきぬべし都大分風慕情

夏風は多分そう夢

蓮の葉っぱで帰る土砂降りの日

水槽の中を泳ぐ金魚に恋した人魚は

夕べの夢のなか夏を抱いて眠ってる

赤に呪われた世代は神社の鳥居に蛇を巻きつけ

久しく潮の匂いをかいでいないと裸足のまま







夏いりませんか夏いりませんかと風鈴屋が地獄行脚

夏とは一種の概念、ボンボン時計が

逆さに回るとあの世への道が開かれる

空が青いと入道雲を浮かべたくなる金魚の墓に戒名をつける遊び

宝箱に這入り込んだ家守は銀河の夢を見る午前二時

夜は寂しいので押入れの中で眠ります眼球の入った壜を抱えて








夏至は静かに家の前に打ち水を

半夏生が裏の神社に群生していて

アスファルトの焼ける匂いがする

ここはずっと昭和で

昭和は永遠に私の前から去らない

いわば鉄の鎖で縛られている

南京錠の下がった蔵には

古い骨董品

地獄絵巻がそっと呼びかけてくる

血だまりの記憶が

そっと夢の中から

立ち昇って








炎は燃える赤く赤く

小さな眼差しはそれを

じっと見つめている

眼を離さないように

炎は燃える

小さな眼差しは

恐ろしくもないのか

燃えるような夕陽を

真っ赤な鳥居の間から

空を見上げて

ただ、何かに気が付いたように

ひたと舞い上がる火の粉を

自分の物にして

怖ろしい何かに気が付いたように








散りばめた木漏れ日を拾って宝箱へ

遠くを行くようだ連絡船は

子守は微睡み花が咲く

未来は何時でも過去への道筋

子どもの頃に戻りたいから

永久に大人になりきれない

せめてもの慰みに大人の教科書を

オカルト心霊都市伝説

教育テレビを見ては

不思議な気持ちになって

影法師は何処までも

夕闇に溶け







影の町蔭の國

夕暮れ街道どこまでも

おばけと走ろう裏街道

お空を飛ぶよ誰かの帽子

一夜一夜に人見ごろ

街角曲がれば風が吹く

辻道曲がれば酔っ払い

裏道行けば昭和とぶつかり

あさってゆけば銭湯さ

子どもの教科書魔物棲み

めくれば髑髏さオカルト狂

大人の教科書真似をして

気が付きゃ消えてる神隠し








夏は遠い過去を振り返る季節

後ろ指さされて背中に落書を張り付けられた日

私はノートで作った紙飛行機を教室から飛ばした

影が街道を横切り暗雲立ち込める秋には

少し憂鬱そうな大人が闇を渡り夕闇へと消えて行く

ひとりぼっちの影踏みは大人を二度と戻れない処まで

私の影法師は何処迄ゆくのだろう







指先に蝸牛が這う夜

私は隠していた本音を仏壇に伝えようと

鏡の前で百面相どれが本当の私なんだろう

永遠に自分というものを見つけられないまま失踪して

古町で私のドッペルゲンガーが悪戯を

雨の日に逆立ちをすると柱時計は少し時を戻した

家守の棲む水場には小さな社を置いて

ゆめまぼろし







古い町は呼んでいる深い闇から夏の欠片を

そっと仏壇の残り香を嗅いで

片付け忘れた蚊帳の中のヒロイズム

季節の感傷は薬指の傷跡からそっと夜が入り込んで

舟の玩具が洗面器の中でぐるぐると壊れたままの情緒

夕暮れの後悔があふれ出る夜のお風呂はラビリンス

メランコリックな回転木馬の夢を見て






夏の混入した豆腐はサイダー味

氷屋の暖簾が納屋の中で

おおいおおいと呼び

黒電話はジリリと鳴って家主を起し

秋の深い穴へ突き落そうとするし

使わなくなった箒はつむじ風を起こして

より一層辺りを秋を深めてゆく

朝は悪夢に疲れた人のラビリンス

壊れた玩具が笑ってゐる






横断歩道にはあなたの残した風が吹く

青信号になって通りゃんせが流れると

旅立ちの合図が聞こえて

かすかなその温もりを心に

夕暮れの町を帰る

優しい唄が好きだから

今日もお風呂の中で嬰児になって

背中の傷を知られないよう

そっと服を着てまた素知らぬ顔をして

またあなたの残した風を受けたくて






深夜のラジオは暖かな声がする

静かな夜がさみしさを連れて来た秋を

小指の絆創膏の中に閉じ込めようとする

ふと雪見温泉に行った記憶を思い出して

冬を入れる布団を探す

街の人は恨みや痛みを

すぐに心臓に届けようと

むやみやたらと包丁で切り崩す事件

傷口からは赤い血が

やたらと鮮明なのだ



雨の匂い空の匂い、冬の匂いは冷たい風

言葉尻に匂うあの日の面影夕暮れの香り思い出す瞳、囁き

古き町をさ迷い歩きあの日の想いあの日の涙

人生とは複雑怪奇なラビリンスの小道

秘宝館に紛れし人生の片隅、想いの欠片、あの日は生きていますか

海辺にて銀河を拾いバケツの中でそっと培養する

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