ひと嫌いの竜の娘と鬼のはなし
あるところに竜の娘がいた。
紫の爪をした娘だ。
娘はたいへんひと嫌いで、ねぐらとしている丘を離れようとはしなかった。
娘がいる丘の麓の浜には鬼が棲んでいる。鬼は浜を掘り、芋を獲っては、竜の娘のもとをたずねてくる。
「竜のお嬢さん。お芋はいりませんか」と、柔らかにわらうのだ。
娘は鬼が厭だったけれど、厭がっても厭がっても諦めないものだから、鬼のおとずれを赦すようになった。
かまわなければいいだけだ。いずれは飽きてしまうだろう、と。
なのに、芋はどんどん贈られて、娘のねぐらを埋め尽くしてしまった。
紫の爪で芋を裂いて、ぱくりと頬ばった。ほんのり甘い芋をあじわう。これがなぜだか癖になり、娘は鬼のおとずれにココロを踊らせるようになった。
竜の娘が絆されたとわかったのだろう。
鬼はあるとき、娘を嫁にしたいとのたまった。娘が頷くとかんがえていたに違いない。
けれども竜の娘ははげしく怒り狂った。たかが鬼如きが、竜とまじわっていいわけがないのだから。
娘ははじめて丘を離れた。紫の爪を突きたて骸にした鬼の頸を浜に埋めるために。
ただ芋を贈るだけならば滅されなかったというのに、嫁にしようなど、愚かなことだ。
竜の娘はひっそり哭いた。